季節特別編ですね、いつもの。
今回も例に漏れず、ほんわ君の夢弦高校時代を描いていきます。
では本編をどうぞ↓
「ふぁ~。」
「おはよ。」
「あ、おはよう姉さん。」
寝ぼけ眼をこすりながら、あくびを噛み殺してリビングに降りてきたほんわ君を出迎えたのはマグカップ片手にソファに座る姉だった。
ほんわ君は姉に挨拶をしてから洗面所に向かい歯を磨いて顔を洗うと、またリビングに戻ってきて朝食を摂る。
「今日も出掛けるの?」
「うん、部活でまた集まりがあるから。」
そう言ってほんわ君はトーストをかじり、テレビのニュース番組に目を向けた。
『では次のニュースです。昨夜未明、NPO法人、鉄華団の代表であるオルガ・イツカ氏が何者かの襲撃を受け意識不明の重体で病院に緊急搬送されました。この事件を受け、夢弦警察署では犯人を特定すると共に事件の背後関係も洗うとのことです。続いてのニュースです、由江動物園からヤッテヤルデスのあずにゃんちゃんが脱走しました。担当の飼育員は現在も行方を捜索中とのことです。もし見かけましたら───』
「最近物騒よね…。」
「うん。…ご馳走さま!」
「気を付けるのよー!」
「分かってるって。」
朝食を終え、身支度を整えたほんわ君は急ぎ目で家を出ていった。
「お、来たな。」
「もしかして僕が最後ですか?」
「まぁ、そうだが…。気にするな。皆同じくらいに来てる。」
夢弦高校の集合場所に滑り込み、肩で息をするほんわ君を出迎えたのは無頼だった。
無頼は集合場所に集まっている他のメンバーをちらりと見ると、安心させるようにそう言う。
奥には大きな竹を担いだジョンスと金剛丸がおり、女子班は大量の折り紙と格闘している。
「さ、準備をしようか!」
「はい!」
今日は七夕であり、夜に備えて特別課外活動部はこうして準備を行っているのだ。
「3時までには仕上げるぞ!」
「「「「ういッス!!」」」」
金剛丸の号令にカンフー四兄弟が気合いの入った声を挙げて大竹のいらない枝を落としていく。
そして整えられた竹に女子班が次々と七夕飾りを飾り付けて完成させる。その後、完成させた七夕用の竹は金剛丸やジョンス、無頼によって次々と夢弦市内に運ばれて飾られる。
「……この竹、ずいぶん根元がささくれだってるというか、雑にへし折れてるというか…。」
「あぁ、それか? 調達係がジョンスと三蔵だったからな。」
「まさか…、切らずにへし折ってきたとか?」
「じゃないか? おっと、もう次か。じゃあ行ってくる。」
作業の合間に雑談を重ねていたほんわ君と無頼であるが、無頼が完成した竹を見てまた作業に戻る。ほんわ君もまた話し相手がいなくなったことで、竹の根元を整える仕事に戻るのだった。
「これで…ラストォ!!」
そして昼過ぎ、最後の1本が夢弦高校グラウンドの中央に立てられた。
一際大きな竹を使って作られたそれは高々と天に向かって真っ直ぐに伸びている。
「完成っ!」
「いよっし!」
「短冊じゃあ短冊じゃあ!!」
準備が完了した途端、それまで疲れ果てていたカンフー四兄弟たちは祭りのように騒ぎ立てる。
実際に祭りの様相であり、夢弦大学附属小学校や中学校の生徒たちは既に短冊を片手に駆けつけていた。
「おーし、良いぞ皆! 短冊を飾ってくれぃ!」
三蔵の言葉に駆けつけていた生徒たちは一斉にその手に持った短冊を飾ろうと竹の側まで近寄って、短冊を飾り付けていく。
「おーおー、今年も盛況だねぇ。」
「子どもの笑顔は良いもんだ。」
「だな。」
特別課外活動部3年の紅一点小野塚小町と、金剛丸三蔵、山本無頼の3人は遠巻きに短冊を飾ってはしゃぐ子ども達の姿を見て嬉しそうに談笑していた。
「それにしても…うちの代表は…。」
「『俺はロリコンじゃねぇ、惚れた女がたまたまロリだった』…か。」
「どんな言い訳だって話だ。」
ハッハッハッと3人は笑って前代表であるジョンスのいる方に目をやる。
そこには清姫と一緒に短冊を飾る彼の姿があった。
そうして子ども達や夢高生達が七夕用の竹に短冊を飾り付け、七夕祭りを満喫していき時間は流れていく。
夕日はどんどんと傾いていき、日が沈んで夜になると七夕用の竹は綺麗にライトアップされる。
「清姫、今日はお疲れさん。」
「あ、ジョンス様…。ありがとうございます。」
1日の作業が終わり、一息ついて座っていた清姫の隣に腰を下ろしたジョンスが缶ジュースを手渡した。
それを受け取った清姫は嬉しそうに頬を緩ませて小さく頭を下げる。
「清姫は…、何を短冊に書いたんだ?」
「え、あ、その…。」
ジョンスの質問に清姫は顔を真っ赤にして言い淀み、俯いてしまった。
そんな清姫の様子にジョンスは困ったように頭を掻いて“言いたくないなら言わなくていい”と言う。
しかしジョンスのそんな言葉を聞いた清姫はジョンスの服の袖を掴んで顔を上げる。
「あ、あの…、笑わないで聞いてくださいね…?」
「おう、笑わねぇよ。」
ジョンスの言葉を聞いて安心したのか、清姫は大きく息を吐いて一拍置いてから切り出した。
「ジョンス様と、もっとずっといられますように…と。」
清姫の願い事を聞いたジョンスは何かを言うでもなく、ぎゅっと清姫を抱き締めていた。
突然の抱擁に清姫は目を点にし、ジョンスの力強い腕に抱かれていると気付いた時にはテンパってアワアワと挙動不審になってしまった。
「ジョ、ジョンス様っ!? あ、あの、えと、その…?!」
「当たり前だろ、もう一生一緒だからな。」
「……はい!」
ジョンスの一生一緒宣言に清姫は満面の笑みを浮かべて抱き締め返した。
そんな二人の様子を遠くから見ていた3年の3人はハァと溜め息を吐いている。
「お暑いね~。」
「ばかっぷる…と言うのかのう?」
「…どうなんだろうな、実際に…。」
3人は今年度に入ってから早三ヶ月、二人が付き合うようになってからの1ヶ月でとうに見慣れてしまった光景に最早諦めや悟りに似た境地に達してしまっていた。
「ジョンスは、お清ちゃんのどこを好きになったのやら…。」
「さぁのう…。」
「健気なところとか…?」
「「「…う~ん…、分からん。」」」
3人揃って疑問に思っていることを話し合うが、一向に答えが出ることはなく、そこでお開きとなった。
結論は“当人同士が幸せならそれでいい”である。
「清姫…。」
「はい…。」
ジョンスは清姫を抱き締めたまま小さく彼女の耳元で囁いた。それに清姫は同じように小さく返事をする。
「好きだ。俺はお前の事が世界で一番好きだ。将棋のタイトルよりも、何よりも、清姫の事が大事なんだ。」
「…嬉しいです。…私もジョンス様の事が大好きです。世界で一番愛しています。」
ぎゅっと抱き締め合う二人はそう小声でお互いに囁き合う。
その周囲一帯が二人の世界と化した状態では誰も近づくことをせず、二人はその後長い時間を過ごした。
お清ちゃん可愛いよ。
ではまた次回でお会いしましょうノシ