IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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連日投稿ならず。

では本編をどうぞ↓


第70話 大会前の休日

「はぁ…。」

 

「どうしたの一夏、元気ないね?」

 

学年別個人トーナメントを目前に控えた日曜日、一夏はシャルロット、鈴、箒、ラウラと共にレゾナンスに来ていた。

しかし一夏は浮かない顔で大きく溜め息を吐いている。

 

「いや、やっぱり練習無しは不安だなって。」

 

「そんなの、ここにいる全員そうなんだけど?」

 

不安を隠しきれない一夏に、隣を歩く鈴が言う。

そしてその鈴の言葉にラウラが同意するように頷いた。

 

「嫁よ、万全の態勢で戦いに挑めることの方が少ないのだ。今更そんな泣き言は通用しないぞ。」

 

「それは分かってるんだけど、つい…な。」

 

「シャキッとしなさいよバカ!今更言っても仕方ないでしょーが!」

 

いつまでも諦めのつかない一夏の尻を鈴は思いっきり蹴り上げた。

 

「いって!!」

 

「まったく、あんたがそんなんじゃ楽しみが半減するでしょうが。」

 

ふんっと鼻を鳴らして鈴はずんずんと前を歩いていく。

その態度から、ある種の激励を感じ取った一夏は小さく息を吐いて、鈴の隣まで歩いていく。

 

「サンキュー鈴。」

 

「礼はいらないわよ?全力のあんたを正面からボコりたいだけだから。」

 

鈴はそれだけ言って目的の場所に駆けていく。

鈴の駆け込んだ場所からは大勢の男の声や、音楽が聞こえてくる。

 

鈴がその敷地に足を踏み入れた瞬間、中から“げぇ!?”という声が漏れてきた。

 

ここは全国の格ゲーマーたちの聖地TRF‐R。

日夜格ゲーマー達が集い、研鑽を積む場所である。

 

 

「ヤッホー!モヒカン諸君、このファリィが遊びに来たよー!」

 

(モヒ・ω・)<モヒカン勢いじめるのはやめてください。死んでしまいます。

 

(モヒ゜Д゜)<げぇ!?ファリィ!?

 

鈴が店内に踏み込んでいつもとは違うテンションで声を発すると、筐体の近くにたむろっていた若い男達が驚愕の表情を浮かべる。

 

「そんなに怖がんないでよ、今日は楽しくゲームしに来ただけなんだからさぁ。」

 

怯える男達を安心させるように鈴はあははと軽く笑って見せる。

その害意のない様子に男達はすっと警戒を解いた。

 

そうして場の空気が緩んだ時、鈴を追っていた一夏ら一行が店内に入る。

 

(農・ω・)<おー、イケメンくんも来てたのか。

 

(罪゜∀゜)<なんか美少女が増えてない?

 

(侍・Д・)<両手に花…。

 

(メル゜Д゜)<あの男の子、可愛いな。

 

(モヒ・ω・)<でもね、一番はファリィだよ。

 

(暁゜Д゜)<いや、ノーサだろjk

 

(蒼・Д・)<いーや、カセンさんだね!

 

一夏の顔を見た若い男達がその隣や近くを歩く箒やラウラ、シャルロットに目を奪われる。

 

一方で、完全に男達の眼中から外れた一夏は店内の奥に進み、ある人物を探す。

その人物とは1分もしないうちに出会うことができた。

 

「やぁ、また来てくれたんだねぇ。」

 

「カセンさん、お久しぶりです。」

 

一夏の探し人はここの店員のカセンであった。

カセンには以前、絡まれたときに助けられた事のある一夏はたまにここ、TRF‐Rを訪れてはカセンと親交を深めていたのである。

 

 

「あんたも暇だねぇ、こんなところに来るなんて、それも女連れてさ。もっと別のところに行けば良いのに…。」

 

店内のベンチに並んで腰掛けると、カセンはタバコから禁煙パイポにシフトする。

 

そしてからかうようなカセンの言葉を聞いた一夏は、横にいるカセンに顔を向ける。

 

「お、オレは、その…、カセンさんに、会いに来たから…。カセンさん、と、話したかったから…。」

 

「……、ぷ、あはははは!」

 

真剣な顔つきで見つめてくる一夏と、その言葉に最初は黙っていたカセンだが、遂には吹き出してしまった。

 

「冗談もほどほどにするんだねぇ、年上をからかうもんじゃないよ?あんたよりもだいぶ年上の女に何を言ってるのさ。」

 

「じょ、冗談じゃありません!」

 

熱くなって言葉を返そうとする一夏の唇にカセンの人差し指が当てられる。

 

「あんた位の年頃はねぇ、年上の女が現実よりもキレイに見えちまうもんなのさ。あんたのその恋心も、たぶんまやかしみたいなもんだろうねぇ。」

 

禁煙パイポを中指と人差し指で挟んだカセンはふぅとタバコの煙を吐く真似をする。

そんなカセンの手を一夏はキツく握り締めた。

 

「ち、違います!オレは本気で──」

 

「そこまでに、しなよ。」

 

“本気で好きなんです!”その言葉を一夏が言い切る前にカセンは言葉を挟む。

 

「あんたは…、バカみたいに真っ直ぐだねぇ。」

 

そう言ってカセンは一夏の手をゆるりと振りほどくと、エプロンのポケットからメモ帳を取りだし、それにボールペンで何かをさらさらと書き込んでいく。

 

「まぁ、それでも嬉しかったよ。真っ直ぐに好意を向けられるのも、悪くないねぇ。」

 

カセンはメモ帳の書き込んだページをビリっと破り、一夏に渡す。

 

「ここがそんなに忙しくない時間帯さ。たまにだったら話し相手くらいにはなってやるよ。」

 

禁煙パイポをくわえ直したカセンはそれだけ言って店の奥へと歩いていく。

その後ろ姿を一夏はじっと、背中が見えなくなるまで見送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、IS学園に残ったセシリアはと言うと──

 

 

「チェルシー、コレが例の物ですのね?」

 

「はい、お嬢様。」

 

人気のない格納庫の中で幼馴染み兼専属メイドのチェルシーと会っていた。

セシリアの眼前には大きなアタッシュケースが置かれており、彼女の目はそれに釘付けになっている。

 

チェルシーはケースを開け、中に入っているものをセシリアに見せる。

 

「こちらになります。」

 

「…。」

 

セシリアは差し出されたそれを手に取る。そして食い入るように様々な角度から眺め、観察する。

その間、セシリアは細かくその物について質問し、チェルシーはそれに即座に答えていく。

 

「…パーフェクトですわ、チェルシー!」

 

「感謝の極み。」

 

暫くの観察と応答を終えたセシリアが笑顔でそう言うと、チェルシーは深々と頭を下げた。

 

「ですが、お褒めの言葉は執事長にもお掛けください。お嬢様のオーダーに応えるために最も貢献して頂きましたので。」

 

「そうでしたか…。これはもう執事長には頭が上がりませんわね。」

 

チェルシーの言葉にセシリアはふふふと小さく笑って、実家の屋敷を切り盛りしている執事長の老紳士のことを思い浮かべる。

 

「ならばチェルシー、執事長にお伝えください。“貴方のお蔭で優勝することが出来そうだ”…と。」

 

「かしこまりました、お嬢様。」

 

セシリアの言葉にチェルシーは頭を下げ、その場を後にした。

そしてセシリアは一人っきりの格納庫の中で、渡されたそれをきつく握りしめるのであった。

 

 

 





顔文字の説明を↓
(農・ω・)…BASARAプレイヤー
(罪・ω・)…GUILTY GEARプレイヤー
(侍・ω・)…サムスピプレイヤー
(蒼・ω・)…BLAZBLUEプレイヤー
(暁・ω・)…アカツキ電光戦記プレイヤー
(メル・ω・)…メルブラプレイヤー
(モヒ・ω・)…北斗プレイヤー

となっております。

え?南美はどこにいるのかって?
IS学園で簪ちゃんと悪巧みの真っ最中ですよ。


アンケートはこちらから↓
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=160780&uid=171292



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