早めに投稿することが出来ました。
では本編をどうぞ↓
「──ここは…?」
「ようやく起きたか…。」
目を覚ましたラウラの視界に入ったのは見慣れない天井。
そして聞こえて来たのは敬愛する織斑千冬の声だった。
「きょ、教官、私は…。」
「全身に負荷がかかったことで全身に筋肉疲労と打撲が少々、と言ったところだ。なに、明日には治る程度のものさ。」
それとなく話をはぐらかそうとした千冬であったが、そこは元教え子のラウラ。
簡単には騙されなかった。
「何があったんです?」
重く感じる体を起こした時、全身を激痛が駆け抜け、ラウラは顔を歪めるが、瞳だけは真っ直ぐに傍らに座る千冬を見つめている。
そんなラウラの態度を見た千冬は大きく息を吐き出すと、その鋭い目をラウラに向ける。
「一応は、重要案件且つ機密事項なんだがな。」
それとなくここだけの話であることを告げた千冬はゆっくりと口を開き、言葉を続ける。
「VTシステム、知っているな?」
「はい、正式名はヴァルキリー・トレース・システム…。過去のモンド・グロッソにおいて優秀な成績を残した部門受賞者《ヴァルキリー》の動きをトレースするシステムのことですよね…。ですがそのシステムは…。」
「あぁ、IS条約でもって現在ではあらゆる国家、組織、企業、機関においても研究、開発、そして使用、ありとあらゆる全てが禁止されている。…それがお前のISに積まれていた。」
千冬の宣告を受けて、ラウラはうつむいて口を閉ざす。
それでも千冬は言葉を続けた。
「システムは巧妙に隠されていた。機体に溜まったダメージやらなにやら、それに何より、操縦者の意思、願望が切欠になって発動するようになっていたらしい。現在学園でドイツに問合せている。近い内に国際IS委員会による強制捜査があるだろう。」
千冬の言葉を聞いたラウラはシーツをきつく、自身の爪が肌に食い込むことも厭わず握り締める。
噛み締めた唇からは一筋の赤い道が伝っている。
そんなラウラを見た千冬は椅子から立ち上がり、ラウラを見下ろす。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!!」
「は、はい!?」
いきなり名前を呼ばれ、驚いてラウラは顔を上げて千冬と目を合わせる。
「お前は誰だ?」
「私は、私は…。」
言葉の続きが出てこない。
今の自分が何者なのか、それを言葉にできなかった。言えなかった。
「誰でもない、か。ふん、丁度良いな。お前はこれからラウラ・ボーデヴィッヒになれ。時間は山のようにあるんだ、これから3年間、この学園にいてもらうんだからな。」
満足したような表情で言いきった千冬はラウラを見下ろす。
それでも突然のことにまだ頭の整理が追い付いていないラウラを見て、千冬は彼女の頭を強引に強く撫でた。
「時間はまだまだたっぷりとあるんだ。精々悩み抜けよ、小娘。」
「あ……。」
笑った顔でそう言った千冬にラウラは何も言えなかった。まさか自分を励ましてくれるなどとは思ってもいなかったのだ。
何を言うべきか分からないまま、ラウラはポカンとして千冬を見つめていた。
そして千冬は自分の言うべき事を言って満足したのか、ベッドから離れて行き、出入り口のドアに手を掛ける。
そのときに何かを思い出したのか、立ち止まって、振り向くことなく声を掛ける。
「お前はお前にしかなれんのだ。背伸びをするなよ、じゃあな。」
それだけを言い残して千冬は部屋を去っていった。
「ふふふ、ははっ!」
千冬がいなくなってから数分後、ラウラは誰もいなくなった部屋の中で静かに笑っていた。
「ホントに、くく…、なんてズルい姉弟なんだ…。ふはは、二人揃って言いたいことだけ言って逃げた。」
どこか嬉しそうに呟くラウラ、笑いをこぼす度に、全身にひきつるような痛みが走るが、それさえも嬉しいと感じていた。
(自分で考えて、自分で行動しろ…か。そうだな、まずは…。)
決闘の結果は完敗、それも完膚なきまでに。
しかし、それが今はたまらなく心地よかった。
なぜならラウラ・ボーデヴィッヒという少女の生は、これから始まろうとしているのだから。
side 一夏
「おはよー織斑くん。」
「おう、おはよう。」
ラウラと決闘の翌日、1年1組の教室はいつもと大して変わらない。
でも、クラスのみんなが思い思いの会話をしているが、その中にラウラの姿はない。
そこまで酷い傷だとは聞いていないが、もしかしたら他の理由で来てないのかもしれない。
そう思ってオレは自分の席に向かう。
すると、ガラッと教室の戸を開ける音が聞こえた。
入り口の方を見るとそこには普段と変わらなそうな様子のラウラがいた。
「よう、ラウラ。体はもう大丈夫なのか?」
「あ、ああ、平気だ。」
そう返してくるラウラの顔は赤い。そしてなぜか体をモジモジさせている。
風邪でもひいたのだろうか?
「ラウラ、大丈ぶ──むぐっ!?」
声を掛けようとした瞬間だった。
ラウラに胸ぐらを引き寄せられ、唇を奪われた。
「っ!?!?!?」
「ん─ちゅ、む…。」
唇に伝わるのはラウラの柔らかな唇の感触、そしてオレの口の中を動くラウラの舌…って、舌ぁ!?
初めての感じに戸惑うオレ、けれども本能で理解した。
これをこのまま続けたらヤバいことになると。
「ひゃ、ひゃうは?(ラ、ラウラ?)」
「ん…ぷはっ。どうしたのだ?」
オレが何か言いたいのを察したのか、ラウラはオレの唇から離れて顔を見上げてきた。
頬は赤くなっていて、目は若干潤んでいる。そして、ラウラの口元は、光を反射していた。
そんなラウラの姿にオレは思わずドキッとしてしまう。
だが、そうもしていられない。
周りのみんなはあまりのことに呆然としている。
いや、目の前でクラスメイトが舌を絡ませるようなアダルティなキスをしたら誰だってそうなる。オレだってそうなる。
「ら、ラウラ…さん?急にどうしたん、ですか?」
「お前を私の嫁にする。これは決定事項だ。誰の異論も認めんぞ。」
「よ、嫁…?婿じゃなくてか?」
あまりにも突拍子もないラウラの発言に思わずそう冷静に返してしまう。
そしてそんな謎発言をしたラウラはオレの前でどや顔を披露している真っ最中だ。
「日本では気に入った相手を“嫁”と呼ぶのが一般的なのだろう?」
誰だよ、そんなデタラメを教えた奴は…!!
「「「あ、あ、あ…。」」」
ラウラの発言から遅れること数秒、クラスの中に変な間ができる。
そして、その直後──
「「「ああああああっ!!織斑くんがキスしたぁあああ!!?」」」
クラス総出の大絶叫だ。
これ、絶対他のクラスにも聞こえてるよね?
教室の中はもう黄色い絶叫で一杯だ。みんな口々に言いたいことを言ってやがる…。
「お説教の時間だオラァ!!」
そんな時に、教室の戸をぶち破って見知った顔が乱入してきた。
そう、鈴だ…。
両手にISを部分展開、手には青竜刀を握っていらっしゃる。もちろん表情は般若の如し…。
「ま、待ってくれ鈴!オレは何もしちゃいない、オレは悪くねぇ!」
「あんたが悪いに決まってんでしょうが!!」
既に青竜刀を掲げ、殺る気スイッチの入っている鈴、これはヤバい…。
「待て鈴、話せば分かる!!」
「やかましい!今死ね!すぐ死ね!骨まで砕けろ!!」
鬼の形相で青竜刀を振り下ろす鈴。
嗚呼、終わった、オレの人生はここまでか…。
諦めて目を閉じる。その瞬間に金属音が鳴り響いた。
そして覚悟していた痛みはいつまでも来ない。
恐る恐る目を開けてみると、そこにはスターライトMk.Ⅱで青竜刀を受け止めるセシリアの姿があった。
「落ち着いてくださいな、鈴さん。」
いつもの上品な言葉遣いで鈴を宥めるセシリア。助かった、これで──
「話せば分かるのですよね、一夏さん?ならご説明願います、私達の前でラウラさんとキスした理由を…。」
え?せ、セシリアさん?
そのお目目に光がありませんよ…。顔は笑ってるのに、目が全然笑ってない…。
これは、マズイことになった…。
早く脱出しないと命が危うい…。
オレはセシリアと鈴から逃げるように後ろに下がる。
そんなオレの視界の端に鋭く光る物が映り混んだ。
「おい、一夏…。逃げるとは男らしくないぞ?」
声の主は箒…。ということは視界に映っているのは、やっぱり日本刀だ。
「箒、さん。その物騒な代物をしまってくれませんか?」
「安心しろ、これは我が篠ノ之家に伝わる名刀の内の一本だ。首を落とすに不足はない。」
どう考えても話が通じる訳はない。
これは本格的にヤバいな、オレはまだ死にたくないんだ…。
どうにか起死回生の一手を模索するオレの目にシャルが映った。
「やぁ一夏。」
「よぉ、シャル。」
天使の笑顔を浮かべるシャル、女神はここにいたんだな。
地獄に仏とはまさにこのことだろう。
「一夏ってさぁ…、他の女の子の前でキスしちゃうような人なんだね。ボク、ビックリだなぁ。」
「あの、だな、シャル…。オレはキスされたんであって、キスしたんではないのよ。そんでさ、なんでISを起動してるんです?」
「なんでだろうねぇ…。」
いつの間にやら、シャルの手には巨大な銃が握られている。そして鈴も、セシリアも完全にISを身に纏っている。
はは、あはは、はははははははは…。
人間ってホントにヤバくなると笑うしかないってのはどうやら本当のことらしい。
ズダァァアアアアアアン!!
今朝の教室は轟音と爆音に衝撃で揺れ、硝煙の匂いが充満した。
side out...
もちろんこの1件が千冬に伝わらないはずがなく、ISの無断使用を行った凰鈴音、セシリア・オルコット、シャルロット・デュノア、並びに騒動に荷担した織斑一夏、篠ノ之箒、ラウラ・ボーデヴィッヒの6名は来週に控える学年別個人トーナメントまでの間、ISの使用を一切合切禁じられたのであった。
完全に空気だった主人公の南美さん…。
じ、次回からはちゃんと出番あるし。
むしろ学年別個人トーナメントのために出番を取っといてるだけだし。