IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回はいつもより長くなりました。
そして、後半に出てくるとある人物は原作とはかなりかけ離れてしまっています。

お気をつけください。

では本編をどうぞ↓


第66話 決着、和解、そして…

ゴォと音を立てて迫る刃を一夏は難なくかわしてみせる。

 

(…この太刀筋は、間違いなく千冬姉の太刀筋…。でも、本物の千冬姉はこんなんじゃない。)

 

意外なほどに冷静に目の前のシュバルツェア・レーゲンだったものの動きを観察する。

 

《一夏!そっちに行くからアリーナの入り口開けなさい!!》

 

シュバルツェア・レーゲンと対峙している折りに、個人間秘匿通信《プライベートチャンネル》から鈴の声が届く。

 

《嫌だ。これはオレとラウラの決闘なんだ。誰かの手を借りる訳にはいかない。》

 

《はぁ?!今はそんなこと言ってる場合じゃ──》

 

言い切る前に一夏が回線を切る。

そして一夏は深く息を吐くと、雪片弐型をきつく握り締めて、シュバルツェア・レーゲンの方を向く。

 

「ふぅ…。紛い物とは言え、千冬姉との勝負か…、いや、紛い物相手だからこそ負けらんないな。」

 

 

 

「鈴、一夏はなんて?」

 

「ラウラとオレとの決闘だから手を出すな、だってさ。」

 

控え室の中で四人は顔を合わせる。

そしてその数秒後、全員がはぁと大きく息を吐き出した。

 

「ほんっとにバカなんだから。バカは死ななきゃ治んないってのはホントみたいね。」

 

「ですが、ああいう所が一夏さんの魅力でもありますわ。」

 

「確かに、ああではない一夏なぞ、一夏ではないな。」

 

「妙に熱血で、優しくて、それでいてちょっと抜けてるのが一夏だからね。」

 

思い思いの言葉を口にすると彼女らは一斉に画面に映る一夏を見て笑いあった。

そして束の間、控え室の中に笑い声が響くと、鈴がどっかとソファに座る。

 

「さて、それじゃあ見せてもらいましょ?大見得切ったバカ一夏の腕前を。」

 

「そうですわね。あの場には南美さん、それに織斑先生もいらっしゃいますし。私たちは観戦と洒落込みましょう。」

 

 

 

「……。」

 

「ふっ!」

 

無言で振るわれる刀を一夏は鋒だけで弾き、シュバルツェア・レーゲンを懐に入れさせない。

 

「形だけ真似して強くなれる?そんなわけねぇよ…。」

 

自身の姉、織斑千冬のかつての専用機“暮桜”を模倣した眼前の敵を見て、一夏は静かに呟いた。

 

「…さっきの言葉…、お前は望んでいないんだろ?その力をよ…。」

 

一夏は頭に、黒いナニカに覆われる直前のラウラの顔を思い浮かべる。

その瞳は、弱く、助けを求めているように一夏には見えた。

 

目の前で助けを求めた相手を放っておくような人間ではない。

そして何よりも、自分の敬愛する姉を、姉の剣を弄ぶかのような事をした相手を斬らない道理はない。

 

一夏はふぅと息を吐き出し、かつて姉に教わったことを思い出す。

 

 

side 一夏

 

 

「“刀は振るうもの。体だけでなく心で振る”だったよな、千冬姉…。」

 

そうだ、今のオレにはある。今までがむしゃらに鍛えてきたこの体と技、そして千冬姉に教わった心が…。

 

オレは知ってる、力じゃない強さを。その強さを背中で教えてもらった。

誰かを守るために強くあり続けた人を、誰よりも長く見て、誰よりも深く知っている。

 

 

だからこそ、だからこそオレも、誰かのために強くありたいと心から望むんだ。

 

 

ギリっと強く右手の雪片弐型を握り締める。

 

(大きな刃は必要ない…。今必要なのは鋭く、速い…、洗練された刀だ…。)

 

そのイメージを浮かべると右手の雪片弐型は粒子のように霧散していった。

そして、何もなかった空間に一振りの刀が現れる。

 

オレの背丈よりもデカい、刀身。それでいて雑さはなく、洗練された美しさのある細く、長い刀…。

 

そうかよ白式…。これがお前のくれたオレへの答えか。

じゃあ、オレもまた、それに応えるとしようじゃねぇか。

 

オレは迷うことなくその刀を手に取った。

あぁ、馴染む…。まるでガキの頃から使ってたみたいにしっくりくる。

 

「待たせたな、ラウラ・ボーデヴィッヒ…。行くぜ?」

 

間合いを詰めると、シュバルツェア・レーゲンが袈裟斬りに刀を振り下ろす。

動きだけなら確かに千冬姉のそれだ。けれど、その動きには千冬姉の“意思”がない。

 

そんなものは所詮──

 

「真似事だ!!」

 

刀を振り上げ、直上に弾き飛ばす。

そして振り上げた刀を両手で握り締め、上段に構える。

 

「ズェァアアアッ!!」

 

そして上段に構えた刀をオレは全力で振り下ろした。

 

 

side out...

 

 

ジジ…と紫電を走らせ、シュバルツェア・レーゲンは動きを止める。

割れた黒い装甲の中からラウラ・ボーデヴィッヒの姿が現れる。

眼帯が外れ、露になった左右の瞳。その瞳の光はいつもの彼女とは違って、弱々しく見えた。

 

「そう、か…。そういうことだったか…。」

 

一夏と目を合わせたラウラは弱々しく呟く。

そして不意にフラッと一夏にもたれ掛かった。

 

 

side ラウラ

 

 

──ああ、やっと分かったような気がした。

“強さとは何か”

その答えを、この男と出会って、戦って理解した。

 

「強さとは、なんだろうな…。」

 

私は自分が見つけた答えを、この男と答え合わせしたくてつい尋ねた。

 

「強さ…、か…。」

 

私を片手で抱き止めながら、空いている手で頭を掻く。

さすがにすぐに返答が返ってくるとは思っていない。

暫く待つと、唸りながら口を開いた。

 

「強さってのは、心の在り方、なんじゃねぇかな?自分自身の拠り所、自分がどう在りたいのかを常に思うことなんじゃないかって、オレは思う。」

 

やはり…か。

予想通りの答えだった。そしてその言葉はなんの抵抗もなく、スッと私の心に染み込んでいく。

 

「だってよ、自分が何をしたいかも分からない奴は、強いとか、弱いとか以前に歩き方だって知らないもんさ。」

 

「歩き、方…?」

 

思わず口に出してしまう。

 

「どこに向かうのか、そしてどうしてそこに向かうのか、さ。」

 

──どうして、そこに向かうのか…か…。

 

「やりたいことはやったもん勝ちってやつさ。変に遠慮とか我慢なんかしてっと損だぜ?」

 

そう言ってニヤリと笑う。

その顔がどことなく教官と重なった。

 

「やりたいことをやんなきゃ、人生じゃねぇよ。」

 

「…なら、お前は…?どうして強くなろうと、強く在ろうとする?なぜ、強い…?」

 

「強くねぇよ、オレは全然強くない。」

 

即答だった。

その答えに私は思わず何も言えなくなった。

あれほどまでに強いのに、強くないと言う…。それがどうにも理解できない。

いや、この答えがこいつの考えている通りなら──

 

「もし、オレが強いって言うなら、それは…。」

 

私は言葉を待つ。

 

「強くなりたいから強いのさ。」

 

そう言ってこいつは私に優しく微笑んでくる。

 

「オレには夢があるからさ。」

 

「夢…?」

 

「ああ、お前には言っただろ?強くなって誰かを守りたい。自分の全てを懸けて、ただ誰かを守るために戦いたい。それがオレの夢なんだ。」

 

そう語るこいつの姿はまるで、教官のようだった。

 

「だからさ、お前のこともオレが守るよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ。」

 

こいつは満面の笑みを私に向ける。そして私は自分の胸が高鳴った事を確かに感じた。

こんなにも強く胸の奥が揺さぶられたのは初めてだ。

『守るよ』そう言われて私は、ときめいてしまったのだ。

 

それを認めると、途端に心臓が早鐘を打ち、私に語りかける。

この男の前では私はただの15歳の女なのだと。

 

その時、昔教官に言われたことを思い出した。

 

“あいつは未熟者のクセになぜか女を刺激するのだ。油断すると惚れてしまうぞ?”

 

この言葉と、それを嬉しそうに語る教官の笑顔がとても印象的だった。

 

そして今なら分かる。

 

織斑一夏…。確かに、これは、惚れてしまう──。

 

 

眼前の織斑一夏の顔を眺めながら、私の意識は遠退いていく。

そして、完全に意識を手放す前に抱き止められたような温もりを肌に感じた。

 

 

side out...

 

 

 

「ふぅ…。」

 

気を失ったラウラを抱き抱える一夏は小さく息を吐くと、そのままアリーナから出て行った。

その様子を観客席から眺めていた南美は隣に座っている千冬を見る。

 

 

「ね?一夏くんは大丈夫ですよ。」

 

「あぁ、そうだな…。」

 

千冬は一夏の後ろ姿を見送ると、両手を顔に当てて俯いた。

 

「…一夏の奴め…。」

 

隣にいた南美の耳にも届かないほど小さな声で千冬は言葉を漏らす。

その顔はどこか嬉しそうで、それでいて寂しそうでもあった。

 

 

「帰ってきたわね~。」

 

「おう、ただいま。」

 

ラウラを連れたまま一夏は控え室に戻ってきた。

そんな一夏を一番に出迎えたのが鈴である。

 

「どうだったよ、オレの戦い振りは?もうそう簡単には負けねぇぞ。」

 

出迎えられた一夏は開口一番にそう言った。

そんな一夏の発言を鈴は鼻で笑って受け流す。

 

「やっと私達と同じラインってところね。」

 

「でも、まだまだですわ。うかうかしているとそのまま置き去りですわよ?」

 

胸を張る鈴の隣に進んだセシリアが言い放つ。それを聞いた一夏はニィと口角を上げる。

 

「あぁ、そうこなくっちゃな。そっちだって、いつまでも前を走っているなんて思わないことだな。」

 

そう言って一夏は挑戦的な笑みをセシリアと鈴に向ける。その仕草に二人も同じような笑みを浮かべる。

 

「やれるものならやってみなさい。」

 

「やってやるさ。まずは個人トーナメントだ。」

 

「望むところですわ!!」

 

そんな火花散る3人のやり取りをシャルロットと箒は静かに見守っていた。

 

 

 

 

──某所

 

 

「…いっくんは、そっちの道を選んだのかぁ…。アハ、ハハハ…、…はぁ…。」

 

薄暗い部屋の中で唯一の光源である複数のモニターから、たった1つの画面を眺めている女性がひきつったような笑い声の後に深く溜め息を吐いた。

 

その風体はよれたジャージに黒縁の眼鏡、そして長く伸びた髪は纏めることもせずに後ろに下げているというものである。

だが、それでも出るところは出ており、引っ込むところは引っ込んでいるという、女性らしい丸みを帯び、均整の取れたしなやかな曲線を描く体つきであり、よれたジャージの上からでも、その胸部はいかに大きいかを主張している。

そして顔立ちは非常に整っており、目の下のクマがあってもその美貌は充分過ぎるほどである。

 

疲れているのか、どこか虚ろな瞳のこの女性は、何を隠そうISの開発者、篠ノ之束であり、ここは彼女の研究所である。

そして、束は今、どこにでもあるような安っぽい椅子に座ってモニターを眺めている。

その画面には白式を装着しながらアリーナの中を飛び回る一夏の姿が映っている。

 

「でもでも、いっくんはやっぱり格好いいなぁ、ふふふ…。」

 

画面の中を縦横無尽に駆ける一夏の姿を見ている束は頬を弛ませ、恍惚の笑みを浮かべる。

 

アオニソマルマデー

 

そんなときに不意にデスクの上に置いてあった携帯電話がバイブ音と一緒に着メロを鳴らす。

突然のそれに驚いた束はビクリと体を震わせ、ディスプレイに表示される名前を確認する。

 

そしてその名前を確認した束は恐る恐るといった風に電話に出る。

 

「も、もしもし、ちーちゃん?」

 

「あぁ、私だ。」

 

電話の相手は織斑千冬であった。

世紀の大天才、篠ノ之束の唯一と言える親友である。

 

「ど、どうしたの?こんな夜更けに…。」

 

「どうしても聞きたいことがあった。」

 

「聞きたい、こと…?」

 

電話口の鋭い千冬の威圧感に束はしどろもどろになりながら言葉を返す。

 

「お前のことだ、どうせ見ていたんだろう?」

 

「え、えっと、それは、その…、うん…。」

 

顔が見えていなくとも、その表情を予想するに難くないその語調に、束の目は反復横跳びを開始する。

 

「あの刀はなんだ?白式には雪片弐型以外の武装はなかったはずだ。」

 

「え、えっとね、あ、あのね、も、もともと白式には雪片弐型ともう1つだけ武器を積んでたの…。それがあの刀なんだけど…。いっくんがある程度白式と仲良くならないと開放できなくなっちゃってたみたいで…。」

 

「できなくなっていた、だと?」

 

「ひうっ!?」

 

電話越しに聞こえてくる千冬の威圧的な声に束は思わず竦み上がる。

そんな小動物のような反応を聞いた千冬が小さな声で“やってしまった…。”と呟いた。

 

「お、怒らないでよちーちゃん…。ISの自己進化システムのお陰で私にも分からない所があったりするんだもん…。」

 

涙目になりながら言葉を返す束に千冬は溜め息を吐き、納得したように“あぁ、そうか…。”とだけ言った。

 

「分かった。あと、それと関連してだが、シュバルツェア・レーゲンに搭載されていたあの装置の件、お前は無関係なんだよな?」

 

「う、うん…。あの子のコアにあの装置がついてたのだって今回の件で初めて分かったことだし…。」

 

長い付き合いの親友の言葉に嘘がないと確信した千冬は“分かった”とだけ簡潔に言い、それまでとは打って変わって優しいトーンで話を切り出し始めた。

 

「今回はまぁそれだけを確かめたかったんだ。こんな時間に電話をして悪かったな。」

 

「う、うん、別にいいよ?その、久々にちーちゃんとお話できてよかったし…。でも、ちゃんと休みは取ってね?」

 

「ああ、分かっているよ。お前こそちゃんと食事は摂っているのか?」

 

「うん、も、もちろんだよ。だ、だって、いっくんとの約束、なんだし…。」

 

そう言った束の頬はほんのりと赤くなっていた。その見た目は本人の美貌もあって、とても絵になる。

 

「…束、前も言ったがな、お前のような引きこもりに私の大事な弟はやらんぞ?」

 

「ひ、引きこもりじゃないもん…。そ、そんな、人を社会不適合者みたいに言わないでよ…。ちょ、ちょっと知らない人と話したり、人混みが苦手なだけだもん…。」

 

「どうだかな…。さて、私も明日の仕事がある、そろそろ切るぞ。」

 

「う、うん。お休みちーちゃん。また、ね?」

 

“お休み、束”と千冬は返して電話を切った。

すると、束のいる部屋の外からバタバタと駆けてくる足音が響く。

 

「た、束様!!大変です!開発中の無人機が動作実験中にまたフリーズしましたぁ!!」

 

「ま、また、なのぉ…。」

 

部屋に駆け込んできた少女の報告に、束は胃がキリキリと痛む感覚に襲われ、デスクの上に置いてある胃薬の瓶に手を伸ばした。

 

その胃痛の感覚に、まだ今日は眠れなさそうだと束は確信するのであった。

 

 





残念美人になってしまった束さんでした。
原作と比べて、天才加減は押さえ目で、常識がある仕上がりになりました。

それと、VTシステムの作動はもう終わったので、個人トーナメントは最後までやります。


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