IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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原作改編が徐々に激しくなってきました。
これも世紀末ってやつの仕業なんだ。

では本編をどうぞ↓


第62話 今日よりも明日

ラウラに殴られた一夏はふらつく足で自室に帰ろうとしていた。

幸いと言うべきか、夕飯の時間は過ぎており他の生徒とは会わなかった。

 

 

 

サァァァァとシャワーの落ちる音が狭い空間に響く。

今、一夏の同居人シャルル・デュノアはシャワーを浴びていた。

 

男と名乗るには華奢な身体、そしてその胸には女性らしさを強調する柔らかな膨らみ。

シャルルは自身のそれに目を向けると大きく溜め息を吐いた。

 

 

side シャルル

 

 

また、大きくなった気がする…。このままじゃ、隠しきれなくなるのも時間の問題かな。

 

…一夏にバレたらどんな顔するから…。

驚く、よね。嫌われたらどうしよう…せっかく仲良くなれたのに…。

一夏は、ボクのこと、男の子だって、思ってくれてるのに。ボクは優しい一夏を騙して…。一夏の、優しさにつけこんで…。

 

こんな自分が情けなくなる…。

 

目の奥が熱い、あぁ、もう…。なんで今さら泣くんだ。決めたじゃないか、母さんが死んだあの日から、もう泣かないって…。

 

 

 

今を生きるためにも、ボクはまだ女だってバレる訳にはいかないんだ。

ごめんよ一夏…。

 

 

お湯を止めてボクはシャワールームをあとにした。

 

 

side out...

 

 

 

side 一夏

 

 

頭が重い、視界がぐらぐらする…。

ラウラに思いきり殴られたからなぁ。

 

こんな顔、見られたらどう言い訳する…?

階段で転んだ?よそ見して木にぶつかった?

いや、どれも不自然な気がする。

 

でも正直に言えば…。

 

ああ、くそっ! こんな時にいい考えが浮かばない自分に腹が立つ!

 

…同室のシャルルにだってなんとか誤魔化さなきゃなんないのに…。

 

多少の苛立ちを隠しながら歩いていると、1025号室、割り当てられた部屋の前に着いた。

 

あぁもう、こうなりゃ自棄だ。あとは野となれ山となれ。

ドアノブに手を掛けて一気に開ける。

するとそこには金髪の女子が裸でいた。

 

…そっとドアを閉める。

 

 

………待て待て待て待て、何だ今の!?誰だ?!

 

シャルルみたいな髪色で、身長はシャルルくらい、ただシャルルとは違って胸にはけっこう大きめな2つの、たわわな果実が…。

って、何を考えてんだよ!

 

落ち着け、あれが誰かは分からない。

 

…ここは1025号室、うん、間違いなくオレとシャルルの部屋だ。

つまり、オレは部屋を間違えて覗いたわけじゃない。うん、セーフ?いや、どっちかって言うとセウトだ。

 

ドアをノックすると、向こうからドアを開けてきた。

 

「い、一夏…。」

 

そこにいたのは紛れもなくオレの同居人、シャルル・デュノアだ。

ただし、いつものシャルルと違って胸元には膨らみがある。

 

「えっと、その、話を、聞いてほしい…。」

 

シャルルの顔色からして、とても深刻な話をすることが見てとれた。

オレはシャルルの誘いに乗って部屋の中に入る。

 

side out...

 

 

 

1025号室、世界で二人しかいないISの男性操縦者同士が同居するこの部屋は、今とても重い空気に包まれている。

ベッドに腰をかけたシャルルの対面に一夏が座る。

 

「…なぁ、シャルル…。」

 

重い沈黙の中で一夏が口を開く。

 

「その、どうして、だ…? どうして男の振りをしてたんだ?」

 

「っ……。」

 

いきなり核心をついた一夏の質問にシャルルはビクッと身体を震わせる。

しかし、1度深く息を吸って気持ちを落ち着かせたシャルルはうつむいたまま話し始めた。

 

「親の、命令だったんだ…。」

 

「親の…?」

 

「うん。ボクの父さんは、フランスのIS企業、デュノア社の社長なんだ。」

 

「で、でもなんで親が自分の子どもを…。」

 

「…ボクはね、愛人の娘なんだ。父さんの顔を知ったのだって、母さんが亡くなった2年前なんだ。」

 

相変わらずシャルルは下を向いている。

声は時おり震え、その小さな身体をより一層小さく見せる。

 

「デュノア社は第3世代のIS開発に遅れてて、国からの援助も切られそうになってるんだ。…もしそうなったらデュノア社はおしまい…。そんな時に一夏が現れたんだよ。」

 

「オレが…?」

 

「そう、世界で唯一の男性IS操縦者。そんな一夏の専用機を解析できればって、父さんはそう考えたんだ。でも、女の姿で近寄っても警戒される。だったら同じ男になればいい。会社の出した答えはそれだった。」

 

アハハとシャルルは乾いた笑い声を響かせる。

一夏にはそれがどうも哀しく見えた。

そしてシャルルは顔を上げて話を続ける。

 

「どうしてこうなっちゃったのかなぁ…。母さんが亡くなって、名前しか知らない父親に引き取られて…。義理の母親にはひっぱたかれて、流されるままにテストパイロットとして実験台にされて…。最後には、男装までさせられて、これだよ…。」

 

天井を眺めるシャルル。

そんな彼女の顔を涙が伝う。

 

「あはは、バレちゃったからなぁ。ボクはこの後は牢屋の中、かなぁ…。」

 

諦めたように呟いた。

その小さく呟かれた言葉は一夏に火をつけるのには充分だった。

 

「ふざけんなよ、シャル!!」

 

一夏は立ち上がるとシャルルの胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。

 

「何をそんな、納得した振りして諦めてんだよ!」

 

 

一夏は今、本気でキレていた。

まだ15歳の少女がこうして人生を諦めなくてはならないことに我慢ならなかった。

そして、そうさせてしまったシャルルの父親にも。その父親にも対して足掻こうとしないシャルル自身にも怒っていた。

 

「親から道具みたいに扱われて、目茶苦茶なこと命令されて、挙げ句の果てにバレたから牢屋行きだ?そんなバカみてぇな話があってたまるかよ!!シャルは納得出来んのかよ!?」

 

「…納得できるかどうかじゃないんだ…。ボクには、選ぶ権利なんて、ないんだ…。仕方な──」

 

「ふざけんな!!」

 

シャルルの言葉を遮るように一夏が叫ぶ。

一夏の怒りは既に臨界を迎えていた。

 

「仕方ないだと? そんなこと言うな、だってお前は何もしてねぇんだ!嫌だったんだろ?親の言いなりになって犯罪者紛いの真似をすんのが!!だったらなんで抗おうとしねぇんだよ!!流されて受け入れてんのに仕方がないなんて言うな!」

 

感情に任せて怒声を浴びせる。

そして言うだけ言い終わると一夏はシャルルをベッドの上に突き飛ばした。

 

「だって、ボクにはどうしようも…。」

 

「どうしようもなかったってか?本当にそうなのかよ、何もしないで逃げたんじゃないのか?!」

 

ベッドの上で震えながら一夏を見上げるシャルルに一夏は容赦なく辛辣な言葉を吐き続ける。

その流れは止まらなかった。

 

「できないのと、やらないのは全然違うんだよ!力の有無だとか、相手が何だとか、関係ねぇ!!やる前から逃げてんのはお前が、お前の心が弱いからだろうが!」

 

シャルルは一夏から目を切って下を向いた。

一夏に責められたのがよほど堪えたのか、それとも苦しいのか、恐いのか。

一夏と目を合わせようとしなかった。

 

「シャル、お前はハナっから逃げてんだよ!なんで明日の自由を求めねぇんだ!抗えよ、足掻けよ、悪足掻きでも何でもいい。無様だって笑われようがどうにかしようとしてみせろよ!今よりも明日を生きたいって思わねぇのかよ!!今ある仮初めの自由でお前は満足なのかよ!?」

 

ベッドの上で倒れているシャルルの上に馬乗りになると胸ぐらを掴んで怒鳴り付けた。

 

すると、それまで震えていたシャルルの震えの質が変わった。

怯えから、また別の何かへと。

 

「どうしろって言うのさ!!」

 

怒りを孕んだ声で言うと、シャルルは一夏の胸ぐらを掴んだ。

 

「相手は落ちぶれたって言っても有名な大企業なんだよ!ボクみたいな小娘一人に何が出来るって言うのさ、何も知らない癖に、勝手なこと言うな!!」

 

張り裂けんばかりの大声で怒鳴り散らしたシャルルはそのまま一夏の顔面を殴り付ける。

今度は逆に一夏をベッドの上から突き飛ばして床の上で一夏に馬乗りになった。

 

そして一夏の胸ぐらを掴んで顔を引き寄せる。

 

「ボクが何もしなかったって?あぁそうだよ!ボクは最初っから逃げて、諦めたんだよ!不自由になるのが怖かったから、小さな自由でよかったから、ボクは嫌な命令にも従った!逆らわなかった!戦って負けたらもっと酷い目に遭うって分かってたから、だからボクは逃げる事を選んだんだ!ボクは、一夏みたいに強くないから!」

 

大声で怒鳴り終えてシャルルは肩で息をする。

額には小さく汗が浮かんでいる。

 

だが、次の瞬間には顔を一夏の胸に押し付けた。

 

「ボクだって、ボクだって、今よりも明日を生きたいよ…。でも、どうしたら良いのさ…。」

 

そう言った声は震えていた。

 

「だったらよ、誰かに助けを求めりゃいいんだ。」

 

一夏は震えるシャルルの頭に手を置いた。

 

「弱いから戦えない、一人だから何もできないって言うならさ、誰かを頼ればいいんだよ。昔の偉い人はこんな言葉を遺してる、“言葉は人類最大の発明”ってさ。」

 

“なっ!”と言って一夏はシャルルに微笑みかける。そんな一夏の態度に安堵したのか、先程までのシャルルにあった力みが取れた。

 

「言葉ってのは万能じゃない。けど言葉にすれば伝わることもいっぱいある。だから一人じゃどうしようもない時は誰かに“助けて”って言えばいいんだよ。」

 

「でも、ボクの言葉を聞いてくれる人なんて…。」

 

「いるだろ?少なくとも目の前によ。」

 

弱気になったシャルルの頬を掴んで無理矢理目を合わさせる。

ニヤリと笑う一夏は頼りに思えた。

 

「ホント、に…?」

 

不安げに尋ねるシャルル。その問いに一夏は力強く頷いた。

 

「ああ、もちろん。オレは頭がよくないから全部を理解できないかもしれないけどよ。」

 

「一夏…。」

 

「だから、言ってみろって。お前は、シャルはどうしたいんだよ。」

 

一夏の問いに二人っきりの室内は一瞬の沈黙を迎える。

そして数秒、シャルルは口を開いた。

 

「……嫌だ、嫌だよ…、諦めたくない…!ボクだってまだやりたいことだって、叶えたい夢だっていっぱいあるんだ…。こんなところで終わりなんて絶対にやだ! 明日の自由がほしいんだよ…。」

 

シャルルは縋るように言葉を紡いでいく。

 

「助けてよ。一夏…。」

 

「あぁ…。絶対に助けてやるよ。」

 

「うん、うん…。」

 

シャルルは一夏の首に腕を回して泣き始める。

一夏は自分の胸でなくその少女をそっと優しく抱き締めた。

 

「よく言ったよ、シャル。誰かに助けを呼ぶのも、立派な足掻きなんだ。」

 

「うん…。ありがとう、一夏…。」

 

 

そうして一夏はシャルルの涙が止まるまで、優しく抱き締め続けた。

 

 

 

「さて、実際問題どうするか…。」

 

シャルルが泣き止むと二人は向き合って座り、今後についてを話し出した。

しかし、一介の学生に過ぎない彼らにしてはあまりに大きな問題なのもまた事実である。

 

「ボクらはまだ子ども、だからね。」

 

「どうするよ?」

 

などと彼らが頭を抱えていると、ガチャリと1025号室のドアが開けられた。

 

「話は聞かせてもらったわ。」

 

1025号室に入ってきたのは楯無だった。

楯無は扇子で口元を隠しながら二人の顔をうかがっている。

 

そしてシャルルに目を向けると、そのままシャルルに向かって近寄っていく。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、楯無さん!」

 

つかつかとシャルルに近づく楯無を遮るように一夏が間に割って入った。

すると楯無は扇子を畳み、クスリと笑う。。

 

「安心して一夏くん。私は貴方達の味方よ。」

 

「え…?」

 

「私も一人の人間として、今回のデュノア社のやり方は気に入らなくてね。だから貴方達の力になりたいのよ。」

 

そう言った楯無はシャルル達にそっと微笑みかける。

 

「で、でも、学生のオレらに何が…。」

 

「ふふ、それじゃあ一夏くん、問題よ。IS学園規則、特記事項第21の内容は?」

 

楯無の出した問題に一夏は顎に手を当てて考え始める。 そして数秒後、答えが出たのか、はっと顔を上げて楯無の顔を見る。

 

「そういうこと。特記事項第21項、“本学園における生徒はその在学中においてあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。”」

 

「つまり、ここにいる間は学園が、ボクの立場を保護してくれるってこと、ですか…?」

 

「ええ、この特記事項があるうちは本国への強制送還もないわ。安心して。だから、貴方が卒業するまでの3年間でどうにか方策を考えましょう。」

 

「は、はい…!」

 

シャルルは嬉し涙を湛えながら返事をした。

その様子に楯無は小さく頷く。

 

「それじゃあ私はこれで…。あぁそれと、シャルルちゃ、いや、シャルロットちゃん。何か困ったことがあったらいつでも相談に来てね。力になるわ。」

 

部屋を出ようとした楯無は顔だけをシャルルに向けてそう言うと、静かに部屋を出ていった。

 

 

「あはは、生徒会長には、何でもお見通し、かぁ…。」

 

楯無が部屋を出ていくと、シャルルは力なくベッドに座る。

 

「どういうことだ? それにシャルロットって…。」

 

「うん、ボクの本名なんだ。シャルロット、母さんからもらった大事な名前だよ。」

 

隣に立つ一夏に微笑みかけながらシャルル、いや、シャルロットは答える。

その柔らかな笑みに一夏の胸が少しだけ高鳴ったことは一夏本人だけの秘密である。

 

 

「3年、か。うん、なんとかなるよね?」

 

「あぁ、それだけあれば良い考えも浮かぶだろ!」

 

確認するように尋ねたシャルロットに一夏は笑顔で返す。

その笑顔に頼もしさを感じたシャルロットは後ろに倒れ、一夏を見上げる。

 

「ありがとう、一夏。」

 

シャルロットは短く、はっきりと言った。

その言葉に一夏は黙って右手の親指を立てることで答えたのだった。

 

 





楯無さんの“話は聞かせてもらったわ”のあとに“地球は滅亡する!”って自然に打ち込みそうになった自分はかなり毒されていると思う。

それと、ラウラに引き続き、シャルロットにも殴られる原作主人公。
体張りすぎだね。


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