IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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どうも皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
季節ネタ特別編はほんわ君の夢高時代のお話をお送りしております。

では本編をどうぞ↓


新入生特別編

 

 

 

季節は四月、春である。

それは新しい出会いの季節。ここ夢弦高校でも例外ではなく、入学式から早一週間が過ぎた今でも初々しい出で立ちの一年生達が緊張した面持ちで校舎や敷地を歩いている。

そんな一年生達を上級生は微笑ましいものを見るように眺めるのもまた恒例行事である。中には自身が一年生であった時のことを思い出し、過去に思いを馳せる者もいる。

 

 

そんな時・・・

 

 

「「「仕合いだぁあああっ!!!」」」

 

朝の中庭に複数の生徒達の大声が響き渡る。

声の中心地では大勢の生徒達がある二人の生徒を中心に囲むように押しかけていた。

人だかりの中央、ぽっかりと開いた場所では二人の男子生徒が睨み合っている。

 

「対戦カードは?!」

 

「課外活動部のジョンスと料理部の草薙だよ!」

 

「さぁどっちに賭ける?」

 

「「ジョンス!!」」「「草薙!!」」

 

「張った張った!! もうすぐ締め切るぜ!」

 

やいのやいのと周りの生徒達は騒ぎ立て、胴元の男子が次々と集計していく。

そんな周りの喧騒もなんのその、ジョンスと草薙はお互い構えを取る。校内でも屈指の実力者の対決に全員のボルテージはぐんぐんと高まっていく。

 

 

 

「敷地内で賭けとは…。」

 

「仕方なかろうよ。ここはそういう場所だ。」

 

ガヤガヤと響く中庭からの喧騒に、職員室にいた新任の教員が溜め息を漏らすと、偶然近くに座っていた化学担当のズェピアがコーヒーカップを差し出し、その教師を宥める。

敷地内での私闘も、それを対象にした生徒間の軽い賭け事も、新任教師のそういった戸惑いも、全て夢弦高校の風物詩なのである。

 

 

 

「あ~、草薙…。そっちから言ってきたんだ、加減はしねぇぞ。」

 

「当たり前だ。手加減したらそれこそ吹っ飛ばすぞ。」

 

「オーケー、じゃあ殺ろうぜ。」

 

一定の間合いを取りながら二人は会話を交わす。

しかしそんな会話の最中であっても二人の気迫は確かなものであり、気の弱い者ならば直ぐ様逃げ出したくなるだろう。

それほどまでの殺気を二人は放っている。

 

そして、数秒の睨み合いが続いていくとある時を境にぴたりと喧噪が止む。

 

「ハァッ!!」

 

「オラァ!!」

 

喧噪が止んだその一瞬後、同時に二人は動いた。

草薙は右腕を大きく振りかぶって振り下ろし、ジョンスは大きく踏み込んで拳を突き出した。草薙の拳はジョンスの顔面を捉え、ジョンスの拳は草薙の腹を捉えた。

それぞれの拳は止まることなく目の前の敵を打ち付ける。お互いの衝撃にジョンスは右下に体を振られ、草薙の体は後方に軽く後ずさる。

 

「ふぅ、はぁ・・・。」

 

「ハァ、この・・・。」

 

二人は離れたまま睨み合い、荒くなった呼吸を整える。そうして均衡状態になった数秒後、草薙の体が糸の切れた人形のように倒れた。

 

「勝ったのは課外活動部、ジョンス・リー!!」

 

「「「うぉおおおおおおおっ!?」」」

 

草薙に駆け寄り、気絶を確認した胴元の一人がそう高々と宣言する。すると周囲を囲っていた生徒達から様々な声が辺りに響く。中には頭を抱える者、手にしていた紙をちぎって投げ捨てる者もいる。

 

 

そして仕合いに勝ったジョンスは人混みを掻き分けて静かにその場を後にする。そんなジョンスを物陰から見つめる一人の少女がいた。

 

「あぁ…ジョンス様、やっと見つけましたわ…。」

 

恍惚とした表情を浮かべた少女はそのまま始業のベルが鳴るまでその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

 

「あ~、やっと終わった…。」

 

「ういうい、部活だ部活だ。」

 

その日の放課後、退屈な授業から解放された生徒達はそれぞれの部活へと足を運ぶ。

夢弦高校、いや、夢弦大学附属の学校ではスポーツ系・文化系問わず部活動が盛んなのである。特に夢弦高校の野球部とバスケ部はその為だけに県外から来る者もいるくらいだ。過去には野球部に高野レンという選手が在籍し、高校野球の数々の記録を塗り替え、鳴り物入りでプロ入りしたことまである。

 

そんな夢弦高校であるが、その部活群のなかでも一際異彩を放つ部活がある。

それが特別課外活動部、通称“S.E.E.S“だ。彼らの活動は学内外を問わず、夢弦大学附属校の生徒達が関わった事件の解決などである。その為、課外活動部の面々は夢弦高校の中でもそれなりに腕の立つメンバーであり、学内でも信頼されている。

 

そんな彼らS.E.E.Sの部室は生徒会室の隣に位置している。

事件がない限り基本的に暇な彼らはやるべきこともないとこの部室を溜まり場にして暇を潰すのだ。

 

「やることが無ぇ…。」

 

「平和で良いじゃないですか。」

 

将棋盤に駒を並べながら、暇を嘆くように呟くジョンスにほんわ君は言う。基本的に頭脳労働担当のほんわ君はバイトがなければこの部室で本を読むことも多い。

そんなほんわ君にジョンスは駒を並べ終えた将棋盤を向ける。

 

「勝てる訳無いので将棋部に行って下さい。」

 

「別にいいだろ? 腕とか賭けてるわけでもなし。」

 

「いや、ジョンスさんプロ棋士じゃないですか…。」

 

ほんわ君は逃げるように本を閉じジョンスに言った。

部室には現在ジョンスとほんわ君のみであり、このまま行けばジョンスの暇つぶしに付き合わされるのは目に見えている。故にほんわ君は思考をフルに回転させ、どうにか逃れる術を画策する。

普段であればいつも部室にいるはずのカンフー四兄弟に話を振って場をわちゃわちゃさせてどさくさに紛れて逃げるのであるが、今は二人きりのためそれも出来ない。

せめてシオンが居ればと思うほんわ君であるが、もはやそれも望めない以上、どうしようもない。

 

徐々に逃げ道を無くしていくほんわ君の顔色はどんどん青くなっていく。

そんな時、まさに天の助けとでも言うように部室の戸が小さな音を立てて開けられた。

 

「あの…、特別課外活動部の部室はこちらで合ってましたか?」

 

戸を開けた着物姿の少女はおずおずと部室の中を窺う。

そんな少女の姿を見たジョンスが“あ…”と声を上げると、その少女は嬉しそうに部室の中に足を踏み入れた。

 

「ジョンス様! お会いしとうございました!!」

 

喜色満面の笑みを浮かべた少女、清姫はジョンスの前に足を進めると両頬を手で押さえる。

そんな清姫を見てジョンスは驚いたようにぎょっとした表情になる。

 

「き、清姫…? どうしてここに?」

 

「あぁ…、本当に、本当にジョンス様なのですね。私、あの時からずっとこうしてお会いできる日を心待ちにしておりました…。」

 

潤んだ目でジョンスを見上げる清姫を見たほんわ君は隣で戸惑いながら立ち尽くすジョンスをジト目で睨む。

そんなほんわ君の視線を感じ取ったジョンスはブンブンと弁解するように首を横に振った。そして今にも泣き出しそうな清姫を宥め、事の経緯をほんわ君に説明する。

 

 

 

 

「───っつう訳だ。」

 

「……あの罰ゲームの裏でそんな事があったんですか?」

 

事の顛末を聞いたほんわ君は呆れれば良いのか驚けば良いのか分からなくなり、もうどんな顔をすればいいのやらという状況に陥った。

ほんわ君の向かいに座るジョンスは乾いた笑みを、対してその隣に座る清姫はやんやんと頬に手を当てたまま身を捩っている。

 

「そ、それで清姫?…さんはどうして部室に?」

 

「あ、そうでした。大事なことを忘れておりました。」

 

ほんわ君の質問に我に帰った清姫は一枚の紙を取り出して二人に見せた。

 

「私、この特別課外活動部に入部します。既に顧問の先生から許可ももらっていますの。」

 

清姫が取り出したのは入部届であった。記入欄には清姫の名と特別課外活動部の文字、そして顧問であるブリュンスタッド女史のサインも書かれている。

 

「マジだ…。」

 

「行動力の塊みたいな娘ですね。」

 

顧問のサインを確認した二人は余りにも早い清姫の行動に絶句した。

そして二人は顔を見合わせてうんと頷く。

 

「ま、あのアーパー顧問が許可出したなら文句もねぇ。歓迎するぜ、清姫。」

 

「はい、不束者ですがよろしくお願いいたします。」

 

そう言って清姫はジョンスに微笑んだ。

こうしてまた特別課外活動部、S.E.E.Sに新たな仲間が加わるのであった。

 

 

 

 

 

 





はい、こちらの特別編では時間が進みました。

さぁジョンスの未来はどっちだ!?


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