久しぶりに投稿した気がします。
ちなみに、これとはまた別の作品を投稿しました。
よろしければぜひ。
では本編をどうぞ↓
一部の者達にとってIS学園の朝は早い。
まだ完全に日が昇る前、東の空がうっすらと白くなり始める頃に彼女らは活動を開始する。
南美を始め一夏やセシリア、鈴にシャルルと言った専用機組に箒。そして熱心に自分を高めようとする彼女達に憧れて自分たちもそうなろうとする極一部の一般生徒達である。
「アタァッ!ファチャッ!! ゥゥアタァッ!!」
「ぜぇりゃぁあ!」
「シェアッ!!シャオッ! ショォオッ!!」
「どぅりゃあああっ!!」
その場にいる者達の声が響き、汗が流れ落ちていく。
そしてそんな青春の1ページを演じている中庭の風景をじっと見つめる、もっと言えばその中の一人、織斑一夏の事を物陰からじっと見つめる銀髪の少女がいた。
転校生のラウラ=ボーデヴィッヒである。
ラウラは物陰からじっと一夏を見つめて、もとい睨み付けている。
ギリギリと奥歯を噛み締め、憎悪の籠った目でその様子を見ていた。
「──ぜだ…。なぜ教官は、あんな男の事を…。あんな連中の為に…。」
憤怒と怨恨の念が籠った声を絞り出して呟いたラウラは誰にも気づかれないようにその場を後にした。
「ふぅ…。疲れたな、もう汗だくだ…。」
「あはは、仕方ないよ。あれだけ動いたんだもの。早く汗を流そう。」
朝からのハードワークを終えた一夏とシャルルは汗を流すために一緒に自室に向かう。
そして部屋の前に来て鍵を差し込んだとき、一夏はある違和感に気づいた。
ドアの鍵が開いているのである。
その事に気づいた一夏は動きを止めて今朝の事を思い返す。
朝、と言っても朝日が顔を覗かせるよりも前のことだが部屋を出るとき確かにドアには鍵を掛けたはず。
それは一夏だけでなくシャルルも確認していた。
ではなぜ鍵が開いているのだろうか…。
「どうしたんだい一夏?」
動きを止めた一夏を見て不思議に思ったシャルルが下から顔を覗かせる。
そのシャルルの問いに一夏は小さく頷くと、シャルルの耳元で小さくいた。
「(ボソッ)鍵が開いてる…。」
「っ!? (ボソ)鍵は確かに閉めてたよね? どうして…。」
「(ボソ)わからない…。けど、部屋の鍵を開けるには千冬ね、織斑先生が管理してるマスターキーかオレとシャルルの持ってる鍵を使うしかない。けど鍵はオレたちが持ってる…。」
そう言って一夏は今鍵穴に差し込んでいる自身の鍵とシャルルが握っている鍵に目を移す。
「(ボソ)もし、マスターキーを使って忍び込んだなら、それは織斑先生を無力化できる実力の持ち主ってことになる。」
一夏の言葉にシャルルは息を呑む。
“あの”織斑千冬を無力化できるほどの人物とは…。
一夏も同じ事を考えていたようでシャルルと顔を合わせるとひきつった笑みを浮かべる。
しかし一夏はそんな反応とは裏腹にゆっくりと鍵穴から鍵を引き抜き、静かにドアノブに手をかける。
そしてドアを勢いよく開け、何かあっても即座に対応できるように身を固める。
しかし部屋の中ではIS学園の制服を着た青髪の少女、更識楯無が静かに佇んでいるだけだった。
「だ、誰だ…?」
勢いよくドアを開けた一夏は部屋の中で静かに佇んでいる楯無に問う。
その問いを受けて楯無は小さな微笑みを一夏に向ける。
「私はIS学園の生徒会長を務める2年の更識楯無よ。織斑一夏くん。」
「ど、どうして生徒会長さんがボクと一夏の部屋にいるんですか?」
一夏に続いて部屋に入ったシャルルが質問する。
事前に一夏とシャルルが同室であることを知っていた楯無はシャルルの姿を確認すると意味ありげな顔になるが、またすぐにいつもの落ち着いた顔に戻る。
「えぇ、学園に二人しかいない男子生徒がどんな人柄なのか…、実際に会って話したかったの。」
そう言った楯無は一夏に視線を移し、じっと彼の事を見つめる。そして暫く観察が終わるとフフっと小さな笑い声をこぼし、二人の横を抜けて部屋の入り口に向かう。
「噂通りの子みたいね、ちょっと安心したわ。」
そう言って楯無は振り向いて自身を見る一夏の頬を撫でる。突然異性からのボディタッチを受けた一夏はぎょっとして飛び退く。
そんな一夏の反応にも面白そうだと言わんばかりの笑みを浮かべた楯無はそのまま部屋を出ていった。
「なんだったんだ…?」
「さ、さぁ…?」
嵐のように去っていった楯無に二人は首を傾げるしかなかった。
一夏の目にはそれにしてもシャルルは必要以上にドギマギしているように写った。
「シャルル…?」
楯無の来訪にもシャルルの態度にも疑問を抱いた一夏はそっと尋ねた。
しかしシャルルは“なんでもないよ”といつも通りの笑顔で返す。
「そ、それよりさ、早くシャワー浴びなよ。ボクは後でいいからさ。ほら、早く。」
「お、おう…?」
シャルルは一夏のベッドの上に置かれていた着替えとバスタオルを押し付けるとそのままシャワールームへと押し込んだ。
一夏もシャルルのやや強引な対応を不思議に思ったものの、シャワーを浴びたかったのは事実であり、されるがままにシャワールームに入っていく。
「会長…。」
「どうしたの、虚?」
生徒会メンバーしか入れない生徒会室の中で会長の席に座る楯無は紅茶を飲みながら副会長である布仏虚と会話する。
「どうして彼らのところに行ったの?」
「言ったじゃない、彼の人となりを見たかったのよ。」
欲しかった答えはそれじゃないとばかりに虚はむぅと眉間に皺を寄せる。
虚の表情で察した楯無はフゥと小さく息を吐き出して立ち上がる。
「…一夏くんの人柄はよく分かったわ。けど、私が気になったのはシャルルくんの方よ。虚、貴女も気にならなかった?」
「気になる…? 確かに資料を見たときは細身だとは思いましたし、顔つきもなんだか、その、愛らしいとは思いましたが…。」
「そこまで来たらもう答えは出てるわ。」
資料を見たときの事を思い出しながらその感想を述べる虚に楯無は背中を向け、窓の外に目を向ける。
そして右手の人差し指をピンと立てる。
「彼…、シャルルくんは女の子よ。」
静かにしかしはっきりと楯無は言った。
久しぶりに登場した楯無さん。