IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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前回書かれていなかった一夏達サイドのお話です。

では本編をどうぞ↓


第52話 昼食で起きた惨劇

「うっぷ…。」

 

「どしたのシャルルくんや。顔色が悪いよ?」

 

授業の開始前、余裕を持って集合場所に現れたシャルルの顔色は明らかに悪かった。

 

「ああ、うん。実はね…。」

 

 

─それは時間を少し遡ってお昼休みのこと。

 

 

「ほら一夏。」

 

「はい、一夏。」

 

「さぁ、召し上がれ。」

 

屋上で昼食を摂ることにした一夏は今、3人の美少女からお弁当を差し出されている。

 

美少女から、お弁当を差し出される。

それも3人も。

 

世の男がこれを知ったならば恨まれても仕方がないと言った状況を、一夏は困惑の表情を浮かべて対峙している。

 

一つは箒の作った彩りも豊かなお弁当、一つはタッパーに鈴特製の酢豚だけが詰められたお弁当と言って良いのか分からない代物。そして3つ目、見た目こそキレイに作られているが何故か恐ろしい予感を抱かせるセシリアお手製のサンドウィッチ。

 

眼前に並べられたそれらを見て、一夏は息を飲んだ。

 

 

 

side 一夏

 

 

どうしたら良いんだ?

3人が作ってきてくれた弁当はどれもこれもオレに合わせてかそれなりのボリュームがある。

 

全部食べると、恐らく次の授業に支障が出るだろう。かといって残すことも食べ物に失礼だ。

けれど、どれかを完食して、どれかに手をつけなかったら角が立つ…。

 

…そうだ、ティンときた。

 

「シャルル、少し食べてくれないか?」

 

そう同じ男子のシャルルを巻き込めばいいんだ。

それもオレの手伝いという名目で。

そうすれば全部に手をつけられるし、残してしまう心配もない。

うん、我ながらよくできた作戦だ。

 

「え、良いのかい? それは皆が一夏の為に作って来たんじゃないの?」

 

うん、この返しも予想済みだ。

とても優しいシャルルならそう答えるだろうと思っていたぜ。

 

「みんなもいいよな? さすがにこの量はオレだけだと食べきれないし残しちゃったらもったいないからさ。」

 

うん、もっともな事を言った。

その証拠に3人とも“まぁ確かに…。”という顔をしている。

よし、上手くいったぞ。

 

…紳士的で心の底から優しいシャルルを利用するようなマネをするのは凄い心苦しいものがあるが、オレがこの先生きのこる為なんだ。

 

「じゃ、じゃあ…。セシリアさん、このサンドウィッチ、一つ貰うね?」

 

シャルルは遠慮がちに断りを入れてからセシリアの作ってきたサンドウィッチに手を伸ばす。

何やら鈴が悪代官を見るような目でオレの方を見てきているが無視だ。意識してしまったら罪悪感に潰されそうになるに違いない。

 

オレは自分のしでかした事を意識しないように、鈴の作ってきてくれた酢豚に口に運ぶ。

何故だろうか、あの美味しかった酢豚が今は何の味も感じない。

 

 

side out...

 

 

「いただきます。」

 

シャルルはサンドウィッチを小さい口に運ぶ。

柔らかいパンと間に挟まれた具材をしっかりと噛み、口に含んだ。その直後、とてつもない衝撃がシャルルを襲う。

 

「うっ…?!」

 

サンドウィッチを口にしたシャルルは途端に苦しむような短い声をあげ、まだ食べていない部分をお皿の上に置く。

 

原因は口にしたサンドウィッチだと頭では分かっているものの、シャルルは育ちの良さが邪魔をしたのか、吐き出すようなことはせず、涙を浮かべながらサンドウィッチを飲み込んだ。

その瞬間、シャルルの顔色はみるみるうちに悪くなり、シャルルは力なく椅子から倒れ落ちた。

 

「お、おい、シャルル!?」

 

見るからにマズい倒れ方をしたシャルルを見て一夏は急いで駆け寄った。

 

 

side シャルル

 

 

「いただきます。」

 

ボクが知った日本語の中でも特に気に入っている言葉の一つがこの“いただきます”だ。

ボク達が口にする食べ物、それらの命を頂いて生を繋ぐ。とても素晴らしい言葉だと思う。

だからボクは何かを食べる時は必ずこの言葉を言うようにしている。

 

セシリアさんから貰ったサンドウィッチはとても美味しそうで、このままレシピ本の写真にも使えそうなくらいだ。

瑞々しいレタスや香ばしそうなベーコン、きっとおいしいはずだ。

 

ボクは思い浮かぶ美味しさに期待しながらセシリアさんのサンドウィッチを口にした。

 

ふんわり柔らかなパン、そして挟まれた具材…アレ…?

 

なんだろうこれ…。

違和感を抱いた瞬間それは襲ってきた。

 

「う…?!」

 

小さく呻く事しかできなかった。

 

苦い…、甘い…、酸っぱい…、辛い…。

 

口の中にありとあらゆる味が広がる、ボクの語彙じゃあどうやっても形容しきれない味だ。それはサンドウィッチが本来持ち得るはずではないハーモニーの形。

食事という、命をいただくことに対するあまりにも冒涜的なその味にボクは自然と意識を手放しそうになり、倒れてしまった。

 

 

side out...

 

 

 

side 一夏

 

 

やっぱりこうなったか…。

何を隠そう、イギリス国家代表候補生のセシリア・オルコットは料理がとても下手なんだ。

 

以前に手料理を振る舞われたことのあるオレは知っている。でも言えなかった。

あの時、セシリアの指にはキレイなきめ細かい肌、そして白く細い指に不釣り合いな飾り気のない絆創膏が張られていたし、何よりもキラキラした目で感想を求めてきたセシリアに面と向かって不味いとは言えなかったんだ。

けど、こうして誰かが倒れればセシリアだって少しは上達しようと努力するに違いない。

 

そう、シャルルは犠牲になったのだ。…セシリア・オルコットの料理向上の犠牲にな。

 

「い、一夏ぁ…。」

 

気を失ったように倒れたシャルルはオレが駆け寄ると虚ろな目でオレを見上げてきた。

やめてくれ! そんな目でオレを見ないでくれ…!

 

今更ながらに罪悪感がオレの心を蝕んでくる。

違うんだ、こんなことになるなんて、オレは思ってなかったんだ…。

セシリアの料理がそこまで強い毒性を持ち始めたなんて、知らなかったんだ…。

 

ごめん、ごめんよシャルル…。

 

 

side out...

 

 

「ちょっ、セシリア、あんたサンドウィッチに何を入れたのよ!!」

 

「わ、私は普通にレシピ本通りに作って、それで…。個性を出そうと色々な調味料を加えただけですわ。」

 

「よし、ギルティ!」

 

セシリアの返答を聞いて鈴がばっさりと切り捨てた。

その判決に納得いかないといった表情のセシリアに更に続ける。

 

「何で味見をしないのよ、このバカ!!」

 

「ですが、見た目はちゃんとレシピ本の写真通りに出来ましたし…。」

 

「味も一緒にしなきゃダメでしょうが!!」

 

鈴は飛び上がってスパーンとセシリアの頭をはたく。

 

「料理舐めんなよ、このバカ!!」

 

鬼気迫る迫力でそう凄んだ鈴に気圧されたセシリアはしゅんと落ち込んだように返事をする。

 

この時からメンバーの間には暗黙の了解としてセシリアを一人で料理させないことが決まった。

 

 

 

「──ということがあってね…。」

 

「あはは、そりゃ災難だったね。」

 

青ざめた顔で語ったシャルルを労うように南美は彼の背中を軽く擦ってやった。

 

 

 





シャルルは不憫。


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