すまない、バレンタイン編がこんなに遅れてしまって本当にすまない…。
色々と重なりましてこのように間が開いて、それも本編ではなく、特別編になってしまい、大変申し訳ありません…。
許してください、なんでも(ry
ではどうぞ↓
「マジでどうなってやがる。」
放課後、夢弦高校の2年A組の教室でジョンスは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべている。
そのジョンスと同じ様な顔をしているのは、彼と同じ、特別課外活動部の男子である。
「カンフー! お前らの獲得量は?!」
「はい! ゼロであります!!」
「同じくゼロです!」
「自分もッス!」
「右に同じくゼロです!」
ジョンスの前に並ぶ胴着姿の四つ子はピシッと背筋を伸ばして答えた。
あまりにも堂々としたその返事に、その場にいたメンバーは変に感心した顔になる。
と言うのも、今日この日、2月14日に彼らが集まったのはある賭けをしていたからだ。
その賭けとは、“バレンタインのチョコを一番貰えなかった男子が罰ゲーム”というものである。
今のところ、ゼロ確定はジョンスだけだ。
なぜなら…
「カンフー、家族の分を入れてみろ。」
「はい! 母親から1個であります!! 兄弟四人とも同じものをいただきました!!」
長男風のカンフーが背筋を伸ばしてそう言うと、ジョンスは目に見えて肩を落とす。
「誰だっけか、家族からもらった分も入れるとか言い出したのはよ…。」
「お前じゃ、ジョンス。」
容赦のない三蔵の返しにジョンスは更に肩を落として下を向く。
「タイムマシンがあったらあん時の俺を全力で殴りてぇ…。」
「まぁ、あれだ。取り合えず罰ゲームはジョンスのものだな。」
「まだだ! まだほんわの記録を確認してねぇ!!」
教室の中にほんわ君の姿がないことを確認したジョンスは死刑宣告に異議申し立てるかのように声を荒らげる。そんな彼に課外活動部の面々はまだ粘るつもりかと、心の内で呟いた。
「そうだ! アイツも結果が悪くて逃げたんだ!」
そう言って教室から出ていこうとしたジョンスであったが、それよりも早く教室の戸を開けてほんわ君が入ってきた。
「あ…?」
「す、すいません、遅れました…。」
申し訳なさそうな顔を浮かべて入ってきたほんわ君であるが、その手には紙袋が握られている。
その紙袋を見た瞬間、ジョンスはおろか、大半の面子の顔が一気に青ざめた。
「あ、あれはまさか!?」
「真にモテる者にしか許されないと言われる…!?」
「紙袋いっぱいのチョコレート…だと…?!」
「そんなバカな!! あれは2次元の中だけのものではなかったのか?!」
ざわざわと動揺の声に包まれる教室で、ほんわ君はその場の空気を読みきれず、呆然とするだけであった。
ただ、根が真面目な彼は遅刻の理由を告げるためにジョンスの元に歩み寄る。
「す、すいません…。あの、色んな人たちに呼び止められてしまって…。」
本当に申し訳なさそうに話すほんわ君に、その小動物のような姿を重ねてしまったジョンスは諦めがついたのか、大きく息を吐いて床に仰向けで倒れ込んだ。
「畜生が…。もう、煮るなり焼くなり好きにしやがれ。」
「安心せい、罰ゲームの内容は決めてある。」
ボソッと呟いたジョンスに三蔵はスッと告げる。そのあまりにもあっさりした宣告に、ジョンスは逆に絶望を抱いたのだった。
「カップルばかりかよ…。」
ジョンスへの罰ゲームが確定した特別課外活動部一行は、それを実行に移すために街中へと繰り出していた。
夢弦の街は2月14日の雰囲気に相応しく、どこもかしこも甘い空気を纏った男女のアベックばかりである。
そんなリア充の巣窟に踏み込んでしまった彼らはジト目で周囲を伺う。
そして粗方周囲を伺った彼らは離れたところに一人でいるジョンスへと視線を向ける。
「うっわぁ~…、ジョンスさん、めちゃめちゃストレス抱えてるよ。」
「外面良いのになんでかモテないからなぁ、あの人…。」
「なぜだろ?」
「鉄山靠だけで教師に勝ったからだろ?」
「コンクリを踏み抜いたからじゃね?」
「人を地面にめり込ませたからだろ?」
舌打ちを交えながら辺りを見渡すジョンスを眺めながら、活動部のメンバーは彼がモテない理由を考察する。
良い意味で人間を辞めている彼の操る八極拳はたった一発で地面を揺らし、コンクリを割り、人間を吹き飛ばすため、彼の印象に良くも悪くも大きな影響を与えている。
からなのか、男子は彼に憧れを抱き、女子は恐怖を抱くことが多いのだ。
「まぁ、あんくらいの方がなんとかなるじゃろ。」
物陰からジョンスを眺めている三蔵──その巨体で全く隠れられていないのだが──はイラつきのあまり怖い顔を浮かべる彼を見て満足そうに頷いた。
今回、ジョンスに言い渡された罰ゲームと言うと──
①イチャイチャしているカップルに絡む。
②しかし撃退される。
③去り際に捨て台詞として「やっぱり二人のラブパワーには敵わんわ」と言い残す。
という、どこの古典的なチンピラだと言わんばかりのものだ。
そしてジョンスはその罰ゲームを実行するために適当なカップルを探して街中をブラついているのである。
(……イチャついてて、それなりに腕の立つ奴、それなりに腕の立つ奴…。)
長年の経験から来る直感で腕の立つ男を探して周囲を見渡しているジョンスであるが、一般人からすれば睨み付けているとも取れる眼力の強さに街行く人々はジョンスを直視しないように目を逸らしていた。
「…目ぇ血走ってないッスか?」
「人殺してそうな目付きになってません?」
「あれは懲役食らってる顔ですわ。」
「もしかしたら俺らに危害が来ません、これ?」
「………かもしんないね。」
遠巻きにジョンスの様子を観察している面々は通話アプリ上の特別課外活動部のグループで実況を行っているのだが、あまりにも酷いジョンスの様子に距離を気持ち少し離した。
「…………。」
そんなことが巻き起こっている夢弦市の街中のとある一角に、とある少女が一人で佇んでいた。
その少女は着物姿で首もとに淡い色のマフラーと、まだ寒さの残る2月の夢弦市としてはやや薄着な格好をしている。そして彼女の右手には丁寧にラッピングされた小包が握られていた。
この日にラッピングされた小包と来れば、その中身も少女の目的も分かるというものであるが、少女の表情はどこか浮かないものであった。
「……はぁ…。これ、どうしましょう…。」
彼女は手に握られた小包を見下ろして大きな溜め息を吐く。
落胆の色を孕んだそれは、少女の心情をはっきりと表しているようだった。
そんな落ち込んでいることがはっきりと分かる少女は、男たちにとっては狙い目な獲物に映る。
「ねぇ、君。一人かい?」
「え、あ、その…?」
案の定、見るからにチャラそうな男が一人、少女に話しかける。少女はそんな状況に慣れていないのか、戸惑った様子であり、男からの問い掛けにどもる。
戸惑いを隠せていない少女はきゅっと小包を握りしめる。男はそんな少女の態度を見て、押せば行けると思ったのか、少女の腕を掴んで強引に引っ張って行こうとする。
そんな男に声が掛けられた。
「おーおー兄ちゃん。可愛い女の子連れとるのぉ(棒)。お、うまそうな物もあるやんけ。なぁ嬢ちゃん、ワシにもそのチョコくれよ(棒)」
ジョンスである。
はっきり言ってこれは酷いとしか言えないほど棒読みではあるが、その大きな体格と迫力しかない表情から男は思わず少女から手を離した。
「な、なんだよお前は!? じゃ、邪魔するなよ!」
男は声を荒らげ、ジョンスに向かって構えを取る。
その男の態度にジョンスはニィと口の端を吊り上げる。
「そう来なくっちゃ。」
ジョンスの顔は今日一番の笑顔である。
「…ジョンスさん、目的忘れてねぇッス?」
「もう暴れられれば誰でもいいみたいだな。」
「バーサーカーや、バーサーカーがおる。」
「止めた方がよくないですか?」
「止めれる奴おるん?」
「「「「「………。」」」」」
その後彼らはジョンスに気付かれないようにそそくさと密かに解散した。
「ふんっ!!」
「げぼぉ?!!?」
ジョンスが放った鉄山靠の一撃は見事に男の体を捉え、その衝撃は男を吹き飛ばすには充分だった。
吹き飛ばされた男はそのまま壁に激突する。
ミシリと、壁にヒビが入り、男は力なく路地にへたり込むも、次の瞬間には恐れをなしたのか、その場から脱兎の如く走り去っていった。
「……あ、やば…。勝っちまった…。」
「あ、あの…。」
勝負が終わり、我に返ったジョンスは罰ゲームのことを思い浮かべて青ざめる。
そんなジョンスに少女が声を掛けた。
背中から掛けられた少女の声にジョンスはゆっくりとその少女の方に振り向く。
「な、なんだ?」
「これ、どうぞ…。」
おずおずと少女がジョンスに差し出したのは先程まで大事そうに握っていた包みだった。
そんな彼女の行動に、ジョンスは目を点にして少女を見下ろす。
そして包みと少女とを交互に何度も見ると、「オレに…?」といつもの彼からは想像できない声で尋ねた。
「は、はい…。その、渡す相手もおりませんし、助けて頂いたお礼です。」
「お、おう…サンキュー…。」
ジョンスはそれを受け取ると、その包みを懐にしまう。
そして何かを思い立ったように少女を指差す。
「誰だか知らんけど、この夢弦でボケッとしてると危ねぇぞ。ここは闘いの街だからな。」
「そ、そうなんですか?」
「あぁ。だから気ぃ付けろよ? それだけだ。じゃあな。」
それだけ言ってジョンスは少女に背を向けてその場を立ち去ろうとする。
少女はそんなジョンスの袖を軽く掴んで引き留めた。
「ん? どうした?」
「あ、その…お名前を聞きたくて…。私は清姫と申します、貴方のお名前は…?」
「オレか? ……ジョンス・リー、夢弦高校特別課外活動部2年のジョンス・リーだ。 それじゃあな、もう変なのに絡まれんなよ。」
名前を名乗ったジョンスは清姫に背を向けて今度こそその場を後にした。
「ジョンス・リー…様…。」
清姫は遠ざかっていくジョンスの背中を見えなくなるまで眺め続けていた。
その翌日、罰ゲームの事について追及されたジョンスであったが、その尽くをのらりくらりとかわし続けたのであった。
この特別編は時系列的にはほんわ君が夢弦高校一年の冬の時ですね。