この前から外伝的な話を「IS世界に世紀末を持ち込む少女 外伝集」として投稿しています。
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では本編をどうぞ↓
千冬の一喝から数秒、生徒達は均一になるように出席番号順に並び班を編成し終える。
その様子に千冬は“最初からそうしろ、バカ共が…。”とだけ呟いた。
そうこうしてあっという間に班編成が終わり、遂に実習開始となった。
学園の生徒はIS実習が嫌いな生徒と好きな生徒、そして大好きな生徒の3種類に大きく分けられる。
嫌いになる理由は複数あるが、その一つがISの事前準備だろう。
専用機でない普通のISは専用機のように小型に出来ない。
そのため、実習で使うISを準備するのはとても大変なのだ。
人よりもだいぶ大きい機械の塊を台車に乗せてごろごろ引き摺る作業は男でも骨が折れるだろう。
そこで違いが出てくるのは一夏とシャルルの班である。
一夏の班は女子に重い物を運ばせられないという古き良き男の意地を持つ一夏が一人でISを運び、逆にシャルルの班は“シャルルくんにそんなことさせられない!”と体育会系の女子達が強烈な連携でもって運んだ。
同じ男子で、どうしてこうも差がついたのか。
それはさておき、各班に分かれるとそれぞれできゃぴきゃぴとした会話が始まる。
「出席番号一番、相川清香! ハンドボール部所属! 趣味はスポーツ観戦とジョギングっす!!」
「お、おう? どうして自己紹介を?」
一夏の班では班員が気合の入った自己紹介を始め…
「セシリアさん、よろしくね。」
「えぇ、先程は失態をお見せしてしまいましたが…。挽回させていただきますわ!!」
班員の言葉に先程まで落ち込んでいたセシリアがキラキラとなり…
「鈴音さん、後で一夏くんのお話とか教えてちょうだい!」
「あ”ぁ”ん!?」
一夏に近づこうとする生徒に対して鈴が牙を剥いたり…
「シャルルくん、分からないことがあったらなんでも言ってね! ちなみに私は今フリーだよ!」
シャルルの班では班員が親切さをアピールしながらも自身の事を売り込んでいったりしているが…
「………。」
「「「…………。」」」
その中で異彩を放つのがラウラの班である。
一切の無駄話もせず沈黙を保ち続けるラウラに班員は皆萎縮してしまっている。
他者を拒絶する絶対に口をききません的オーラに班員の生徒達はたじたじである。
「さて、それじゃあ出席番号順でやっていこうか。」
各班での世間話が終わるとそこから本格的に授業開始となる。
一夏の班では班長の一夏が支給された打鉄の横に立ってペチペチと打鉄の装甲に触る。
一夏の指示に従って、出席番号一番相川清香が前に出る。
「皆とりあえずはISに乗ったことがあると思うけど、装着から起動までをやろう。」
「は、はい!」
真面目な雰囲気になり、一人目の相川清香の番、装着・起動、そして歩行までが無事終わり二人目に無事移れると思った矢先のこと…。
ISに乗っていた相川と次に乗る番の生徒がアイコンタクトを交わす。その次の瞬間に
「あぁ、ついうっかり(棒)」
相川が立った姿勢のままISを着脱する。
もちろんそこにはISスーツ姿の相川と立ったままの姿勢を維持し続けるISがいる。
ISは人よりも大きいため、立ったままのISに乗るには飛び移って乗り込む必要がある。専用機と違って量産機が不便だと言われる理由の一つである。
「ぅえ…? どうしよう…。」
その光景に一夏は呆然と立ち尽くしてしまっている。
なぜなら完全に予想の範囲から外れたことが起こったからだ。
「どうしましたか?」
そんな一夏に救いの手が差しのべられた。
1年1組副担任の山田真耶である。
「山田先生…、実はかくかくしかじかで…。」
「まるまるうまうま…という訳ですか。」
一夏から事情を聞いた真耶はふぅむと腕を組んで思案顔になる。
その時、腕を組んだ事によって真耶の豊満な胸部がより強調されることとなり、一夏は思わず真耶から目線を逸らした。
「う~ん、仕方ありませんね。織斑くんが皆さんを抱っこして運んで運んでください。ISなら飛べるので安全です。」
真耶の提案に一夏の背後にいる女子らは皆計算通りといった顔を浮かべ、小さくガッツポーズした。
side 一夏
嘘だろ…。いや、うっかりやってしまった相川さんを責められないし仕方ないか…。
でもまさか同い年の女子を抱えることになるとは…。
ラッキー・アンラッキーで言えば間違いなくラッキーな部類に入ることだけど今はシチュエーションが悪い。ここにはオレしか男がいない。つまりはヘマしてもフォローしてくれる味方がいないのだ。
ヘタを踏めばオレは変態の烙印を押されかねない…。
それだけは絶対に避けねばならない。心を無にしろ、無の境地に至ればこんな状況なぞどうとでもなる!
side out...
「さて、じゃあ行くよ。」
ISを展開した一夏は軽く一言告げて次の順番の生徒を後ろから抱える。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
「お、おお!?」
抱えられた生徒は驚いたような恥ずかしいような微妙な顔をしながら先程まで自身が立っていた周りを見渡す。
「じゃあ下ろすよ。背中からゆっくりとね。」
クラスメイトを上まで運んだ一夏はゆっくりと彼女を下ろし打鉄を起動させる。
周りの班から羨望の眼差しが一夏の班員達に注がれる中で、強烈な殺意を纏った視線が一夏に突き刺さる。
その殺意に背中から震えるような感覚を抱いた一夏は急いで周囲を見渡すが、もうその気配は感じられなくなっていた。
side 箒
ぐぬぬぬぬ…。なんなのだ、なぜ抱える必要がある。
遠巻きに一夏の班を眺めている私の目にクラスメイトを抱える一夏が見えた。
あの顔は絶対に碌でもない事を考えているに違いない。ええい、何をデレデレしているのだ。
おのれ一夏、かくなる上は…。
「箒さん、お顔が怖いですわ。それと、貴女の番です。」
む? そうか、もう私の順番か仕方ない。
私は一夏に向けていた視線を外し、訓練用の打鉄に向かって歩く。
side out...
「さて、良い感じだね。じゃあ次の人に変わろうか。今度はしゃがんで──」
「おいしょー。」
“しゃがんで解除して” 一夏がそう言い終わる前に2番目の生徒の北里は立ったまま打鉄を解除した。
「まただよ(笑)」
天丼である。
北里は一夏にごめんねという視線を向けつつもやりきった顔で班員の列に加わる。
もちろん打鉄は立ったままなのでコックピットは上方で固定されている。
「はぁ仕方ない。またオレが運ぶよ。次は誰?」
観念した一夏はそう言って次の番の人も抱えて運んだ。
この後班員全員が連携し常に立ったまま打鉄は解除され、一夏は全員をお姫様抱っこで抱えて運んだのである。
「さて、各班終わったようなので午前の実技はこれで終わりとする。午後は各班で今日使用したISの整備を行う。授業開始前に格納庫で班ごとに集合しろ。専用機持ちは訓練機と専用機の両方を見ること。では解散!」
時間ギリギリではあったものの各班が歩行訓練までを終え、格納庫に自分達が使った訓練機を運び終えアリーナに再度集合した事を確認すると千冬は午後の分の連絡をして真耶と一緒に引き上げていった。
これで午前の実技授業は終了した。
外伝の宣伝
現在外伝集に投稿しているのは鳳鈴音・呂虎龍師弟の過去を書いた「中国師弟」編と南美の両親、北星義仁と七海の馴れ初め話を描いた「義仁×七海」編の2つとなっています。
そのうち、川内弥子や、狗飼瑛護、ルガールといったKGDO社員にもスポットを当てて行きたいと思います。