IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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真耶ちゃんに“めっ”て怒られてみたい。

では本編をどうぞ↓


第47話 先生だってやれば出来る子

「さてと、これから授業を始める。」

 

アリーナに整列した1年1組、2組の前にジャージ姿の千冬が立ち、今日の内容を大雑把に伝えていく。

 

 

「今日はいつもより遅かったですね。」

 

1組の列の端、一夏と隣同士になったセシリアが少しトゲのある言い方で一夏に尋ねる。

 

「いつもより道が混んでたんだよ。」

 

「なるほど、あの転校生絡みですか…。」

ハハと乾いた笑いをする一夏を見て瞬時に何があったのかを察したセシリアは気の毒そうに一夏を見る。

 

「たっく、お人好しというか、バカというか…。」

 

鈴もまた何があったのか察したのか、同情のような感情で目の前の一夏に声を掛ける。

それから1組の列に並んでいるシャルルの方へと目をやった。

 

「アレが転校生ね。ホントに男なの? めちゃめちゃ線が細いけど…。」

 

訝しげな視線をシャルルに向けている鈴は視線の向きを変えずに目の前で立っている一夏に問う。

 

「いや、細いのは否定しないけど、その言い方はないだろ? シャルルだって気にしてるだろうし…。」

 

「でしたら一夏さんがシャルルさんに稽古をつけて差し上げたらいかがですか? そうすればシャルルさんは体力をつけられますし、一夏さんは転校生と友好的な関係を結べる。両者Win-Winではありませんか? 一夏さんにとっても悪い話ではないと思いますが?」

「そこまで一夏がしてやる義理はあるの? 男同士ってだけじゃない。」

 

「でも、ここじゃ2人しかいない男同士だ。できるだけ仲良くしたいさ。」

 

「そんなもんなのかねぇ…。」

 

「良いではないですか、男同士…。」

 

などと会話をしている3人に音もなく忍び寄る影があった。

その影は3人の死角に潜り込むと手にしている板のようなものを振り下ろす。

 

スパパパーンッ!

 

乾いた音が響くと3人は激痛に頭を抱える。

 

「話を聞いていたか?」

 

3人に忍び寄る影の正体は織斑千冬であった。彼女は彼らの頭をはたいた凶器である出席簿を肩に担ぎながら仁王立ちしている。

 

 

 

「さて、バカの粛清が終わったところでそろそろ授業内容に移ろう。内容は先程言った通り、格闘と射撃の実戦的な教練だ。」

 

涙目になりながら頭を押さえるバカ3人を横目に、集団の正面に移動した千冬はそう告げる。

すると、1組2組の生徒達にざわざわとした空気が広がるが、それを千冬は咳払い一つぜ静める。

 

「さて、それでは手本を見せてやろう。ちょうど、活力を余らせたバカもいることだしな。オルコット、凰、前に出ろ。」

 

千冬の指示に2人は最初驚いたような顔になるが、それもすぐあとにはヤル気満々の表情に変わる。

 

「ふん、ボコボコにしてやるわ。」

 

「あら、それはこちらのセリフですわ。」

 

2人は列から外れるとバチバチと視線を交差させながら煽りあい、列の前まで歩く。

女としてか、はたまた代表候補生としてのプライドか、2人はお互いに潰し合うことを考えていた。

 

「ハァ、何を勘違いしている。誰がお前ら同士で戦えと言った。お前らの相手は──」

 

─ドヒャアドヒャア

 

千冬の声を遮るように、荒々しいブースターの音を響かせながらある人物が列の中に飛んでいく。

 

「ふなぁあ、避けてくださーい!!」

 

そのISに搭乗している人物は、1年1組の副担任である山田真耶だった。

だがブースターを吹かせ過ぎたのだろうか、彼女の操るISはコントロールが効いていないような動きで一夏のいる付近へと急速にダイブする。

 

「えっ、ちょ、まっ!?」

 

「ふぇええん!!」

 

─チュドーン

 

ギャグ漫画のお約束のような音を鳴らして真耶の操るISは墜落した。

周囲には相当量の土煙が舞い上がり、視界を塞ぐ。

 

 

 

side 一夏

 

やっぱり千冬姉の鉄拳(出席簿)制裁は痛い。頭の表面だけじゃなくて、脳髄に響くようなこの痛みは狗飼さんの竹刀以上に頭に響く。

 

けど、セシリアと鈴が模擬戦か、オレもやりたいけど皆の手本になれる戦いができるともまだ思えないし…。

 

なんてことを考えているとオレの耳に“ドヒャアドヒャア”という、日常生活ではまず耳にする事のないような音が届いた。

その音がする方へ目をやればそこにいたのは量産機のラファール・リヴァイヴに身を包み、こっちに高速で飛んでくる山田先生。

ピッチリとしたISスーツのお陰で普段から存在感のある胸部がさらに強調されて目のやり場に困る。

 

いや、そんなバカなことを考えている場合じゃねぇ。

早く、一刻も早くこの状況をなんとかしないとオレはミンチィだ。

速…避け…無理‼ 受け止める…無事で!?出来る⁉ 否、死!!

 

こうなったら賭けだ。

 

オレは手首のガントレットを強く握る。

 

─チュドーン

 

次の瞬間、オレは山田先生のラファールに轢かれた。

 

 

…どうやら賭けには勝ったみたいだ。あの一瞬で白式を展開できたオレはなんとか生き残れた。

叩きつけられたトマト状態にならなくてホントに良かった。あぁ、生きてるって素晴らしい事なんだな。

 

ただ、一つ気になるのは、今オレはうつ伏せで倒れている。そのオレの右手は今、とても柔らかいものを握っているのだ。

 

それが何なのか気になって何度かむにむにとそれを揉んでみる。

そして、それは確かめている最中、山田先生の声で「やっ…、ん…。」といったとても艶っぽい声が聞こえてくる。

やめてください山田先生、オレだって健全な高校生の男子なんです。

そんな声を聞かされたら、ちょっとヤバいんです。

 

思考を巡らせているとある一つの結論に行きついた。もし本当にそうだとしたら今すぐに動かないとマズイ…。

 

が、時既に時間切れ…。オレの姿を隠してくれていた土煙は晴れてしまっていた。

そして目の前にはオレの予想通りの現実が広がっている。

格好だけを言うなら、オレは山田先生を組み敷いて、右手は先生の胸部にたわわに実り圧倒的存在感を放つその胸を鷲掴んでいた。

 

「お、織斑くん…。ダメですよ、私は教師で織斑くんは生徒なんですよ?」

 

形的には押し倒されている姿の山田先生はとても色っぽい顔でそう言ってきた。

正直に言うとオレの理性はほぼほぼ限界値を迎えてしまっている。

山田先生は確かに歳上だけど、その見た目はオレたちと同年代くらいに若く見える。

それでいて思春期の男子には毒なほどの抜群なスタイル。

そんな山田先生に艶っぽい声で、顔でそんな事を言われて揺らがないほどオレは枯れてない…。

 

あともう少しで理性が崩壊しようとしている、そんな時にオレに助け舟が渡された。

 

 

 

side out...

 

 

「い~ち~か~?!」

 

「い、ち、か、さん♪」

 

一夏の背後に佇むのはいつのまにかISを展開し、獲物を構えた鈴とセシリアの2人である。

鈴は自らの憤りを隠すことなく、表情に分かりやすく表している。一方で、セシリアはと言うと、いつもの高貴な笑みではあるものの瞳は笑っていない。直情的に怒りを露にされるよりもこちらの方がよっぽど怖いように思える。

 

恐怖と身の危険を感じた一夏は即座にその場から飛び退く。

その直後、セシリアのライフル、スターライトマークIIから放たれたレーザーが一夏の心臓があったであろう場所を通過する。

 

「セ、セシリアさん? 一体何を…?」

 

「あら、日本男児は恥を晒したら潔く自決なさるのでしょう? そのお手伝いを、と思いまして。」

 

「そういうことよ。という訳でとっとと首置いてけ!」

 

セシリアはその長大なライフルの銃口を再度一夏に向け、鈴は2本の青竜刀の柄を繋げ振りかぶる。

 

「「死にさらせぇ!」」

 

2人は叫び、一夏に引導を渡そうとする。

だがセシリアが引き鉄を引く直前、銃弾の音とともに何かがライフルの銃身を捉え銃口を上向きに押し上げる。その結果、スターライトマークIIから放たれたレーザーは上方へと向かい、アリーナの遮断シールドに相殺された。

 

そして鈴の投げた青竜刀は新体操のバトンのように回転しながら高速で一夏に迫る。

だがそれも次の瞬間には2発の銃弾の音とともに直進するエネルギーを失い地面に落ちる。

 

2人は驚いて銃弾の発射点であろう場所に目を向ける。

そこには仰向けのまま銃口から煙の立ち上るライフルを構えた山田真耶の姿がある。

 

「間に合いましたね。」

 

そう口にした彼女の表情はいつもの様におどおどしてはおらず、凛々しく引き締まっている。

 

 

 






前回投稿した話を読んだ友人がこう言ってきました。
「MUGENストーリーじゃないんだよね?」

そうなりつつあることは否定できないと思います…。


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