IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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そろそろ番外編の一本や二本でも投稿したい。

では本編をどうぞ↓


第46話 一夏とシャルルの逃避行

「そんな権利、オレにはないから…。」

 

「っ…!? くそっ!」

 

一夏の言葉を聞き、真っ直ぐな瞳で見つめられたラウラは荒々しく舌打ちをして乱暴に一夏の胸ぐらを離すと、そのままずんずんと自分の席に向かった。

そして乱暴に胸ぐらを離された一夏は終始無言のままで、静かに席に座る。

 

 

 

 

「だーいじょぶかい?」

 

そのあとは何事もなくホームルームが終わり、一夏の隣の南美が頬の容体を尋ねる。

すると一夏は南美の方を見ずに“平気さ”とだけ言って席を立つ。

一夏が向かった先は勝手が分からずにおどおどしているシャルルの席であった。

 

IS学園で初めてできた男子のクラスメイト、仲良くしておきたいのはお互いにそうだろう。

 

クラスメイト達はシャルルと一夏の会話をしながらそれでいて静かに聞き耳を立てるという器用な真似をしている。

 

「えっと、シャルルだっけ? 同じ男同士、よろしくな。」

 

「織斑一夏くん、だよね。ニュースで見たよ。ボクの方こそよろしくね。」

 

一夏が手を差し出すと、シャルルは花の咲いたような笑顔を浮かべその手を握る。

2人ともジャンルが違うものの容姿は整っており、握手しているだけでもその姿はとても画になった。

 

「あ、握手してるよ!」

 

「うわ~、画になるなぁ…。」

 

「お母さん、産んでくれてありがとう…。」

 

一夏とシャルルの絡みを見ていたクラスメイト達は当人に聞こえないようにボソボソと思い思いの言葉を口にする。

それが一夏達の耳に届くことはなかった。

 

「さて、それじゃあ行くぞ。」

 

「え、どこに?」

 

一通りの挨拶を終えた一夏は握っている手を引っ張って立たせる。

当のシャルルは一夏の行動と言葉が分からずポカンと呆けている。

 

「更衣室だよ。次の授業はISの実習だから男子はアリーナの更衣室で着替えなきゃなんないんだ。」

 

「そ、そうなんだ。じゃあ急がないと。」

 

一夏の説明に納得したシャルルは必要なものを持って一夏と一緒に教室を出る。

それが迂闊な判断であったことをこの瞬間の2人に知る由はない。

 

「ヒャッハー! 転校生だぁ!!」

 

「一夏くんも一緒にいるよー!!」

 

2人が廊下に出ると、目敏い他クラスの女子が必見し、それを教室内のクラスメイトに知らせる。すると、タイムラグは1秒にも満たず廊下は女子達で埋め尽くされた。

 

「な、なにこれ!!」

 

突然廊下が女子によって埋め尽くされるという、非現実的な光景にあわあわと狼狽えるシャルルを横目に一夏は落ち着いた様子で足首を回している。

 

「落ち着けシャルル、対処法はある。」

 

「え? どうすればいいの?」

 

シャルルの質問に答える前に一夏は足にぐっと力を込める。そしてゆっくり口を開いて一言──

 

「逃ぃげるんだよォォォーーー!!」

 

「ふぇえええ?!」

 

足に入れた力を余すことなく床に伝え、全速力で走り出す。

シャルルも、さすがはISパイロットとでも言うべきか、突然の一夏の行動にワンテンポだけ反応が遅れたものの、次の瞬間には一夏の後を追って走り出した。

だか、女子達にとってその行動は予想の範疇だったのか、直ぐ様後を追う。

 

「ね、ねぇ!あれはなんなの!?どうしてなの?!」

 

「オレだって知らねぇよ!たぶんオレたちが男だからじゃねぇの!? 良いから走れ、捕まれば確実に次の授業に遅刻する!」

 

「う、嘘でしょぉお!?」

 

一夏の言葉にシャルルは信じられないと言ったような声を上げるか、それを口にした一夏の表情は真剣そのものであったため、シャルルは必死に走り続ける。

 

だが、一夏と比べて、いや同年代の男子と比べても線が細く華奢なシャルルは徐々に走る足が鈍くなり、あと数メートルほどで追いかけてくる女子達の集団とエンゲージする距離まで詰まる。

 

「ま、待って…。」

 

息を切らし肩を喘がせながらシャルルは一夏に助けを求める。

 

それを見た一夏は一瞬で切り返し、シャルルを肩に担いで再度アリーナに向かって走り出す。

 

「ご、ごめん…。」

 

「構わねぇって、軽いしな。」

 

シャルルを担ぎながらも一夏は速度を緩める事なく廊下を走る。

 

そして角に差し掛かった時、曲がり角の陰から出てきた青髪の少女とぶつかり、その少女に尻餅をつかせてしまった。

もともと体格の良い一夏が全速力で、それも人を1人担いだ状態で走っていたのだ、ただ歩いていただけの少女が当たり負けるのは当然だろう。

 

「きゃっ!?」

 

「ご、ごめん!!」

 

エネルギー量の違いもあり、一夏は倒れる事はなかったため、その青髪の少女に走りながら一言謝ってその場を後にした。だが、

 

「織斑…一夏ぁ…。」

 

尻餅をついた青髪の少女は絞り出すかのようにそう言うと、奥歯を強く噛み締めながら走り去っていく一夏の背中を怨恨の念が籠った瞳で睨み続けていた。

 

 

「うし、そろそろ良いだろ、ショートカットするぞ。」

 

後ろを確認し、女子集団と距離が離れていることを確認した一夏は一番近くにあった窓の鍵を開け、全開にするとシャルルを強く抱き締める。

 

「yes! Ican flyaway!!」

 

何故か良い発音でそう力強く叫んだ一夏はシャルルを抱えたまま校舎3階の窓から飛び降りる。

 

それなりの高所から飛び降りたにも関わらず、一夏は何事も無いかの如く着地し、アリーナへとまた走り始める。

 

 

「うぉっしゃ、到着!!」

 

ぷしゅっという空気の抜ける音と同時に更衣室にゴールした一夏の額には大粒の汗が浮かんでいる。

 

「す、凄いね…。ボクを担ぎながらあんなに速く走れるなんて…。」

 

「伊達に鍛えてないからよ…。」

 

ぜぇぜぇと息を切らせている一夏は大きく一息いれると、タオルで汗を拭ってからロッカーを開ける。

するとおもむろに制服を脱ぎ始め、その鍛えた肉体を露にしていく。

 

「ちょ、一夏!? なんで脱ぎ始めるのさ!」

 

「いや、なんでって、ISスーツに着替えないとダメだろ?」

 

一夏の体を見た瞬間、シャルルは顔を茹で上がったように赤く染め上げる。

そんな反応に首を傾げながらも一夏はISスーツへの着替えを続行する。

 

「ほら、シャルルも早く着替えろよ。遅刻するぞ。」

 

慣れた手つきで着替え終えた一夏はそう言い残して更衣室から出ていった。

それから一拍おいて、一夏が戻ってこないことを確認したシャルルは更衣室の端でいそいそと着替え始めた。

 

 

 

 






鍛え上げた肉体は伊達ではないらしい。


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