後半の投稿はやや遅くなります。
では本編をどうぞ↓
第43話 独のロリ軍人と仏のブロンドショタ、ほむ…、続けて 前編
「ちぇりぃぉおおおおっ!!」
「っ!?」
早朝の植え込みの奥で、剣道少女の声が響く。
箒が満身の力を込めて振り下ろした木刀は狗飼の握る木刀で受け止められ、乾いた音を鳴らす。
「ぬぅおぉおおお、ぜぇりゃあっ!!」
木刀を受け止められた箒は後ろに跳んで距離を稼ぎ、再度突撃し、力強く木刀を振るう。
だが、歴戦の経験を持つ狗飼は慌てることなく繰り出される木刀の一撃をいなし続ける。
「つぇらぁあっ! やぁああっ!! ちぇすとぉおおおっ!!!」
乙女というよりも野武士のような叫び声と剣幕で狗飼に斬りかかる箒の姿は人には見せられないだろう。
「…今日はいつもより余計に力が入っていましたね…。いや、師としては教え子が稽古に熱心なのは嬉しいことなのですが…。」
一通りの打ち合いを終えた2人は木陰に入り汗を拭いながら体を休めている。
春も中頃を過ぎ始めた頃であるが、早朝のこの時間はまだ少し冷えるのだ。
「熾烈な攻めは箒さんの長所ですが、一転して受けに回るとそのまま押しきられてしまうことになりかねません。」
「ぐっ…。」
「自覚はあるみたいですね、なら…。」
ぐうの音も出ないといった様子の箒を見て、安心したように息を吐き出した狗飼は木に立て掛けてあったもう一本の木刀を手に取る。
その二本目は最初に使っていたものよりも少し短いものだった。
「次はこれで行きますよ。」
「に、二刀流…ですか?」
箒は面食らった表情で呟いた。
だが、それをスルーして狗飼は続ける。
「さぁ、やりましょうか。構えなさい。」
木陰から出た狗飼は箒の方に振り向いて二刀を構える。
狗飼に促された箒は大きく返事をすると、慌てたように木陰から出て木刀を構える。
3歩前に出れば木刀の一撃が届くほどの距離を置いて2人は向かい合う。
そうして箒が狗飼と稽古(という名の決闘)をしている時、別の中庭では…。
「ショォオオオオッ!!」
「ゥウワァチャアッ!!」
IS学園の1学年が誇る武闘派が鎬を削っていた。
互いが鋭い一撃を放てばそれを紙一重でかわし、カウンターの一撃を放ち、ガードし合う。
素人目から見てもレベルが高いと分かる2人の攻防はまだ始まったばかりであり、まだまだ加速していく。
「アタッ! ファチャッ!! アチャァアッ!!」
「シャオッ! フゥウウウ、ショォオオオオッ!!」
そしてそんな2人の打ち合いを校舎の窓から黙って見守る人物がいる。
その人物は静かに庭の2人を見つめ、暫くすると身を翻し、自分の仕事へと戻っていった。
「あ~、オリムーだ~。」
狗飼の方針で一日おきに稽古を行うため、箒が稽古を受けているため、時間をもて余している一夏は廊下を歩いていると本音に遭遇した。
「布仏さん…? 朝早いんだね。」
寝起きの体を起こすように伸びをしながら一夏は本音に話しかける。
基本的に一夏は生活リズムの整った人物である。
夜は自主練をしてから眠り、朝は稽古を受ける為に早朝に目を覚ます。
何もなくとも勝手に目が覚め行動を開始するという、この年代には珍しいのが一夏である。
「それはオリムーもそうじゃん、いつもこの時間なの~?」
本音はパタパタと袖を振りながら仔犬のように尋ねる。
「まぁな、だいたいこの時間には起きてるよ。」
「すごーい、オリムーは早起きが得意なんだね!」
「得意ってほどじゃないよ、体にしみついた習性みたいなもんだから。」
同年代の異性に誉められることにくすぐったさを感じた一夏は“大したことじゃない”と謙遜しながら食堂に向かう。
動ける体を維持する彼はそれだけ多くの栄養が必要であり、そうでなくとも食べ盛りの少年であるからして、お腹が空くのは必然である。
「だからね──」
「ホントッ⁉」
「あくまで噂だけど…。」
一夏と本音が食堂につくと、そこには大勢の女子が一塊になって何かを話している。
その一団からは時折“キャー!”“ワー!”“ハラショー”といった女子特有の姦しい声が聞こえてくる。
「ホントに?ホントに一夏くんと!?」
「俄然ヤル気が出てきた‼」
「みwなwぎwっwてwきwたwww」
「この機にお近づきになれば織斑くんと、デュフフ…。滾る‼」
女子の一団の会話の中に自身の名前を聞いた一夏は小首を傾げつつもその一団に近づいていく。
「なぁ、さっきオレの名前が聞こえてきた気がするんだけど…。何かあった?」
自身には女子から噂されたり、何か言われるような心当たりのない一夏はやや困った面持ちで尋ねる。
すると一夏が声を掛けた瞬間、密集していた女子の一団は跳ねるように散らばり、各人慌てたように目が泳いでいる。
「あ、いや、なんでもないよ!? うん、なんでもない!」
「そ、そうだよ! 誰も一夏くんのこととか話してないよ!!」
「「っ、バカァ!!」」
うっかり口を滑らせた女子は左右にいた生徒によって鎮圧された。
そしてそれを取り繕うようにまた別の生徒が一夏の前に立つ。
「あ、あのね、そう! 転校生よ! 転校生!!」
「転校生…?」
つい最近転校生が来たばかりということに違和感を覚えた一夏は提示された話題に食いついた。
それを好機と見た女子がここぞとばかりに話を変える。
「そう! また転校生が来るみたいなの、それも2人も! 気になるよね? 私たちも気になってどんな子なのか話してたんだぁ、アハハハハ!」
女子生徒の強引とも言える話題転換に一夏は“確かに気になるな”とこぼして思案顔になる。
完全に話題を逸らせたことを確認した彼女達は一夏に見えないように小さくガッツポーズする。
そうして噂の核心に触れることができなかった一夏は転校生のことを考えながら時間を潰し、朝食を摂る。
その際、本音や本音経由で近くに座ったクラスメイトと楽しく会話をしながら摂り、朝の稽古を終えてきた箒や鈴に少しだけ睨まれたのは内緒である。
そうして賑やかな朝食の時間を過ごした一夏達一行はそのまま教室に向かう。
その時、1学年の生徒から一夏がいつもより多くの視線を浴びていたが、鈍感男の一夏が気づくべきもなく、教室にたどり着いた。
「はーい、ホームルームを始めますよ~。」
朝の喧騒に紛れるように1年1組の副担任である山田真耶が出席簿を抱えて教室に入ってくる。
そしてその後ろには1年1組の担任にして、IS学園最強の織斑千冬が今日も今日とて凛とした雰囲気を纏ってついてきている。
織斑千冬の登場により、訓練されている1年1組の一同は一瞬にして自身の席に着く。
「えーとですね、今日は転校生を紹介します。入ってきてくださ~い。」
真耶の声を聞いて教室の外に待機していた人物が戸を開けて入ってくる。
一人は子供と見間違えるほど小柄で幼い印象を受けるものの、キビキビとした動きをする少女で、真っ白な肌と銀髪、そして左目を覆う眼帯が特徴的だ。
そしてもう一人、別の転校生が教室に入る。
すると1年1組の女子生徒が少しざわつく。
その人物は先程入ってきた銀髪の少女よりもやや背が高く、優しげな顔つきに、さらさらのブロンズヘアで、ズボンスタイルの制服を着用した人物だった。
その正体はどこか庇護欲を煽る少年、IS学園2人目の男子生徒である。
最近の忙しさに忙殺されそう。
鈴ちゃんみたいな従妹か、妹がほしい。