久々に5000字を超えました。
では本編をどうぞ↓
「残り1ドットが果てしなく遠い!! 落としてしまったのが運の尽きだったのか魔法戦士よ! トドメの獄屠拳が決まって、勝ったのはノーサシン!! 残り体力1ドットからの見事な逆転、これぞしなやす、コレが世紀末だぁああっ!!」
「優勝だぁあああっ!!」
「「「「ураааааааа!!」」」」
勝ちを掴み取った南美は大声を張り上げて立ち上がる。
それに呼応するようにモヒカン達が一斉に大声を上げる。
そして、歓喜に打ち震えるモヒカン達と対照的に勝利を逃したQMJは座りながら静かに天上を見上げている。
「…。」
「ねぇねぇQM=サン、JKに負けてどんな気持ち? ねぇどんな気持ち?」
感傷に浸っているQMJを見て、覇者のKaiがすかさず煽りに行く。
だがそれはQMJ、世紀末幼稚園修羅組とも言われるTRF‐R所属の修羅の中でも人格者で通っている彼はそんな煽りなどどこ吹く風と受け流す。
「煽んないでよ、Kai。これでも負けてへこんでるんだからさ。…にしても、本当に強くなったなぁ、ノーサは。1年ちょっとくらい前なら大魔法使う余裕がまだあったのに…。」
QMJが体を横にずらすと、その視線の先には勝利にはしゃぐ南美の姿がある。
そんな彼女の姿を見てQMJは思わず目を細めた。
「ねぇKai、あの子が初めてTRF‐Rに来たときを覚えてるかい?」
「…もちろんデス。ノーサ=サンはとても強かった、それこそえぐれ=サンやこあら=サン、DEEP=サン辺りと初めから互角以上でした。びっくりデス。」
「そう、互角だった。でも今じゃその彼らを圧倒してる…。はぁ、時間が経つのは早いなぁ、なんて、考えてしまうのはおっさんだからかな?」
「…QM=サン達はノーサ=サンよりも歳上ですし、QM=サンはその中でも上の年代デスから。」
Kaiの返しにQMJは“そうだよねぇ”とだけ呟いた。
「フゥゥウウウウウウッ!! 優勝したぜぇ!!」
(モヒ・∀・)<おめでとうございます、クイーン!!
(モヒ・Д・)<урааааааа!
「やったぜ! 天敵のQMさんに勝ったぞ!」
(モヒ・ω・)<ハラショォオオオオ!!
相性最悪、天敵のQMJに勝って優勝を納めた南美は店内でモヒカン相手にはしゃぎ回っている。
彼女が叫ぶ度に、モヒカン達は合いの手をいれるように何かを叫ぶ。
そんな興奮状態の南美に近づく命知らずな者がいた。
が、南美はその人物を視界に捉えると何をするでもなく真っ先に抱きついた。
「ほんわ君さん!」
「はい、ほんわ君です。ノーサさん、大会お疲れさまでした。それと、優勝おめでとうございます。」
南美が飛び付いた人物はTRF‐R店員で彼女の恋人のほんわ君である。
その店員ネームに違わないほんわかとした表情で抱きついてきた南美を抱き締めている。
「えへへ、頑張りました!」
「うん、頑張ってるところちゃんと見てたよ。」
ほんわ君の笑顔を向けられている南美は先程までの闘志溢れる勇ましい姿はなく、デレッデレの恋する乙女そのものである。
「あ、あの殿方は誰ですの!?」
「南美でも、あんな顔をするのだな…。」
箒とセシリアは見たことのない南美の一面を知って、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をしている。本音は何回か南美と来ているので、この光景を見るのは慣れている。
もちろん一夏と鈴は彼女らと離れた場所でリアルファイトを繰り広げているので南美のそんな姿は見えていない。
「おーい、箒ちゃん、セシリアちゃん。」
唖然としている2人に気付いた南美はほんわ君にくっついたまま大きく手を振る。
2人ともそれを目にすると、特に近くに寄らない理由もないため、促されるまま南美のそばに寄る。
「あ、あの南美さん、そちらの殿方はどなたなのですか?」
セシリアの直球な質問に南美とほんわ君の2人は互いの顔を見合せて笑い合うと、またすぐセシリアと箒の方に向き直る。
「この人はね、ほんわ君さんって言って、TRF‐Rの店員さんで私の恋人なんだ!」
言って南美は隣で微笑むほんわ君の腕に抱き付く。ほんわ君もほんわ君で嬉し恥ずかしといった様子である。
「えっと、ほんわ君と言います。店長の指示で本名はお客さんに言えなくて、ごめんなさい。」
見ているだけでも癒されそうな笑顔を浮かべたままほんわ君は頭を下げた。
それにつられて2人も名前を名乗ってから頭を下げる。
「あはは、丁寧にどうも」
ほんわ君はそう言うと、セシリアと箒の顔を交互に見て安心した表情を浮かべる。
「2人とも凄い良い人みたいだね。ノーサさんが親友だって言うのも頷けるよ。」
「そ、そんな親友だなんて…。光栄ですわ…。」
「そう…か、なんだ、その、悪くないな。」
ほんわ君の放った一言に2人は照れ隠しのように長髪の毛先をいじる。
「アタッ! ファチャッ!! ゥウワァチャアッ!!!」
「うおっ!? ちょ、まっ!?!」
店内の中央では鈴と一夏によるケンカ(という名の一方的な攻勢)が繰り広げられ、圧巻とも言えるその光景を見ようとした野次馬達による円形のフィールドが作られていた。
(モヒ・ω・)<あ、あのツインテちゃん、パネー! なんだあの動きは!?
(農゜Д゜)<あのイケメンヤローも負けてねぇ、どんな体捌きしてやがる?!
(モヒ・Д・)<どっちが勝つと思うよ?
(農・∀・)<女ぁ!!
「そろそろ終わりにしましょう、かっ!!」
「いでぇ?!」
大勢のギャラリーを迎え、大いに盛り上がった対決も遂に終わりを迎えた。
動く度に鋭さを増していく鈴の動きは次第に一夏の体を捉え始め、開始から30分後、鈴の放った蹴りが一夏の右膝完璧に捉える。
その鋭く重い一撃を受けた一夏は体勢を崩し右膝をついてしまう。
鈴はその隙を見逃すほど、甘えた指導を受けてはいなかった。
すぐさま距離を詰め自慢の拳を一夏の体に打ち付ける。
「アァァタタタタタタタタタタタタ、フゥアチャア!」
「ひでぶぅ!?」
鋭く力強い拳を何発もその身に受けた一夏は力なく後ろに崩れ落ちる。
(モヒ・ω・)<しゅ、修羅や、修羅がおる…。
(農゜Д゜)<でもあの子になら殴られたいかも…。
(モヒ・Д・)<(美少女から殴られるのは)我々の業界ではご褒美です!!
「その、なんというか、ラブラブでしたわね…。見ているこちらが恥ずかしくなりましたわ。」
「そう…だな、うん。っ…、口の中がまだ甘い感じがする…。」
「私はもう慣れたよ~。」
鈴による一夏の公開処刑が行われている一方で、セシリアと箒は大量の砂糖を口の中に放りこまれた気分で佇んでいる。そんな2人を横目に本音は平常運行である。
詳しい内容は南美の名誉の為に言わないが、少なくともセシリアと箒は目の前で発生した甘ったるい空間に参っていた。
ほんわ君と南美は既に奥のベンチに行ってしまったが、もう少し長く目の前で繰り広げられていたなら2人は口から砂糖を吐き出していただろう。
「セシリア…、渋い茶でも飲まないか?」
「そうですわね、賛成ですわ。」
「あ~、私も行く~。」
そうして3人は隣の喫茶へと入っていった。
店の奥にある外からは死角になる場所に置かれたベンチに、2人は隣同士で座っている。
「ほんわ君さん!」
「はい、なんでしょう?」
「なんでもないです、えへへ。」
そう言って南美は屈託のない笑顔をほんわ君に向ける。
その花が咲いたような笑顔にほんわ君は思わず胸を高鳴らせる。
「あの、ノ、いや、南美…。」
「はい…。」
ほんわ君の呼び掛けに、何が言いたいのか察した南美は黙って顔を向けたまま目を閉じる。
そしてほんわ君はそのまま南美へと顔を近づけていく。
2人の顔が重なる直前、
──オーモーイーガーシュンヲ
南美のスマートフォンから大音量で音楽が鳴り、突然の音に驚いた2人は互いにバッと顔を離す。
「え、もうこんな時間っ!?」
スマートフォンを手に取った南美は驚きの声を上げる。
あらかじめ、IS学園のある人工島に帰る為の定期船を逃さないようにタイマー設定していた南美は慌ててカバンの中を確認する。
その様子にほんわ君は若干寂しそうな顔を浮かべながら見守っている。
「ごめんなさい、ほんわ君さん。もう帰らないと…。」
「うん、気をつけてね?」
「ふふ、はーい。それと…」
笑顔で返事をした南美はそのままほんわ君の頬にキスをしてイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「また来ますね、浮気したらダメなんですよ?」
「う、うん、もちろんだよ!」
ほんわ君の返事を聞いて満足したのか、南美はイタズラっぽい笑みを浮かべたまま、ベンチのある場所を後にする。
「鈴、一夏くん、そろそろレゾナンスを出ないと最後の定期船に間に合わないよ!」
「うっそ、もうそんな時間?!」
一夏の首根っこを掴んで引きずっていた鈴は南美の一言に腕時計を確認して驚愕する。
「ほら一夏、起きろ!!」
気を失っている一夏の両頬に何発かビンタを打ち込んで無理矢理起こした鈴は時間がないことを伝えて、セシリア・箒・本音に連絡する。
鈴からの連絡を受けた3人は待ち合わせ場所を伝え、鈴経由で一夏と南美にも伝えてもらう。
テキパキとやるべきことを済ませた鈴によって、手間取ることなく合流し、定期船の出る港近くの駅行きの電車に乗れた。
デキる女鈴である。
そうして直ぐに目的の駅に着いた一行はそのままバスに乗り、港へと到着する。
それからは焦ることなくIS学園行きの定期船に学生証を提示して乗り込み、割り当てられた小部屋で一息ついた。
「間に合ってよかったぁ~。」
「ホントよね…。」
全員で同じ小部屋をあてられた一行は座席に座って話し始める。
内容はTRF‐Rに時間を取られ、セシリアと箒はほとんど目的を達成出来ていないことや、南美のTRF‐R内での立ち位置、店員のカセンのことなどであった。
その会話の最中、一夏の脇腹が何度かどつかれたり、つねられたりしたことは言わないでおこう。
そうして時間を潰していた一行はもうじきIS学園の港に着くことを確認すると、気分転換に甲板へと出た。
もう外は日が落ちきり、真っ暗な夜空には星と月が輝いている。
「ん~、もう真っ暗だな。」
狭い小部屋から解放された一夏はぐ~と背中を逸らせて伸びをする。
その後ろからぞろぞろと続くように南美達が甲板に現れる。
「確かに…、それにこの時季はさすがに冷えるね。」
「そうですわね、まだ肌寒いですわ…。」
「ま、この時季は仕方ねぇよ。」
そう言い聞かせると一夏は夜空を見上げる。
天体にそこまで詳しくない彼は、あれが何座で~などということは分からず、メジャーな星座を見つけては頭の中で“あれが何座だ”と自己完結していた。
その時、一夏は北の空である星を見つけた。
7つの星が柄杓型に繋がる星座、北斗七星。そしてその脇で、まるで北斗七星に寄り添うように弱々しい光を放つ小さな星を。
「ん? 北斗七星の横にあんな小さな星ってあったっけ?」
思わず一夏はそう口にした。一夏本人は何気なく放ったであろうその言葉に反応を示したのは3人だった。
「ど、どれよ!?」
最初に動いたのは鈴だった。いや、南美と本音も鈴とほぼ同時に反応していた。だが、2人は互いの顔を見合せて、あの星があるであろう場所へと目を向ける。
「ほら、見えないか? 柄杓の持ち手側の先から2番目の星の横にある小さなヤツ…。」
一夏の証言を聞いて3人は確信する。そして鈴と南美、本音いや、その場にいる一夏以外の全員には一夏の言う小さな星は見えていなかった。
だが、敢えて3人は見えている素振りをし、一夏に話を合わせた。
その後、3人は一夏から離れると周りに聞こえないように小声で話し始める。
「…一夏の見た星って…。」
「間違いなくアレ…よね?」
「オリムーこのままじゃ大変だよ~。」
いつもはのほほんとしている本音も、今は焦った表情を浮かべ、余った袖をパタパタさせている。
焦った表情なのは他の2人も同様である。
「まさか、現実世界で死兆星を見た人間を拝むとは…。」
「予測可能回避困難な特大級のデスノボリをおっ立てるとはね…。」
「ど、どうするの~?」
「どうするも何も…。」
「一夏くんが死ぬ原因を取り除くしか無いよねぇ…。」
甲板の隅で3人はハァと溜め息を吐く。
その原因は明らかである。だが、こればかりは誰が悪いと言い切れないので、そこの追求は諦めた。
そのまま3人であーでもないこーでもないと今後の対策を立てているうちに、定期船はIS学園の港へと到着する。
「さて…と。」
帰寮報告を済ませた一行は寮監督室を後にし、それぞれの部屋に散っていった。
今、一夏は1025号室つまりは自室に戻ってきている。
もちろん箒も一緒である。
「なぁ一夏…。」
「なんだ?」
箒の呼び掛けに応え、そちらを振り向いた一夏は頬を軽く紅潮させた箒を視界に捉える。
薄く赤みを帯びた顔はどこか色気があり、年齢よりも艶っぽく見える。
「その、だな、もうすぐ学年別個人トーナメントがあるな…。」
「あぁ、楽しみだよな。」
箒の内心を知らずに一夏は満面の笑みである。
それこそ、自分より経験も実力も上の者と戦うことが今から楽しみで仕方ないといった様子だ。
「それでだな、もし、もしだぞ? 私がトーナメントで優勝したら付き合ってくれないか?」
はっきりと聞こえるように言い放つ。箒の姿はいつもの凛とした剣士のそれではなく、年相応の少女であった。
一人の少年が運命を見て、一人の少女が想いを告げた。
彼女達のこの先を知る者は誰一人としていない。
だが運命は待ってはくれない、更なる波瀾が巻き起こる。
次回、新章“IS学園編 2nd season”
IS世界に世紀末を持ち込む少女第43話
「独のロリ軍人と仏のブロンドショタ、ほむ…、続けて」
に続く!