細かく分けて早いペースと、長く纏めて遅いペースのどちらがいいんでしょうか?
では本編をどうぞ↓
「たった一人の、それもだいぶ年下の男の子を大人数で囲んで何する気だい、あんた達…。」
長髪の女性はギロリと男達を睨む。すると男達はその鋭い眼光にたじろぎ、後ずさる。
「け、けどよカセンさん…。」
そう、窮地に陥っていた一夏を助けたのはTRF‐R店員の紅一点、謎多きユダ使いのカセンである。
「あんたらは何をしにここに来たんだい? 私怨を晴らすためじゃないだろうさ。分かったらとっとと散りな。」
反論しようとした男に一睨み効かせ、そう強く言い放つと男達はそのまま渋々といった様子で散り散りに散らばって行った。
そしてカセンはやっと解放された一夏に近寄る。
「うちの客がすまなかったねぇ…。今日は大会の日で、ちょいと熱くなってたのさ、悪い連中じゃないから許してやっておくれよ。」
「あ、や、その…、何か実害があった訳じゃないですし、大丈夫ですよ。」
謝るカセンを見て一夏はしどろもどろになりながら言葉を返す。
それに対してカセンは“本当かい?”と尋ねながらさらに距離を詰め、一夏の顔を覗き込む。
「や、ホントに大丈夫なんで。」
「それならいいんだけどねぇ。…そういや自己紹介がまだだったねぇ、アタシはこのゲーセンで働いてるカセンってもんさ。本名は言えないけども、まぁよろしく頼むよ。」
カセンは一夏から顔を離し、いつもの顔に戻る。
その顔に一瞬だけ見とれていた一夏であったが、すぐさま我に返ると頭を下げる。
「えと、織斑一夏です。ありがとうございます、その…、助かりました。」
「礼なんかいらないよ、アタシは自分の仕事をしただけさ。」
まっすぐな一夏の礼にカセンはスッと横を向き、何でもないと軽くいなした。
だが、それでは気が済まなかったのか一夏はカセンに1歩近づく。
「でも助けてもらったのは事実ですし、その…。」
「なら、またこの店に来ておくれよ。ここの常連になってくれればいいさ。」
それだけ言ってカセンはくるっと向きを変え、店の奥へと歩いていく。
呼び止めようとした一夏にヒラヒラと後ろ手に手を振って振り替える意思のないことを伝えると彼女はそのまま奥へと姿を消した。
一夏はそんなカセンの背中を見送り、呆然と立ち尽くすのみである。
「……。」
「戻ってこい、このバカ一夏!」
「うがっ?!」
ぼーっとしてカセンの背中が見えなくなっても立ち尽くしていた一夏に業を煮やしてか、鈴が飛び上がりその脳天に強烈な回し蹴りをお見舞いする。
“ゴッ”という、日常生活で人体から聞くには珍しすぎる鈍い音が一夏の頭から響く。
当然、一夏はその痛みからその場にしゃがみこみ、頭を押さえる。
「まったく、美人と見たらすぐに見とれちゃってさ…。」
「み、見とれてなんか、ねぇよ…。」
鈴の言葉に一夏は目を逸らしながら答える。
痛みに耐えているからか、一夏からの返答はどことなく歯切れが悪い。鈴は歯切れの悪さを感じさせる一夏の返答に追及しようとするが、頭を押さえ、必死に痛みに耐える彼の姿にそんな気を失った。
彼の抱いていた感情は、彼にしか分からないままである。
カセンさんのヒロイン入りが決まってしまいました。
いや、ヒロインなのでしょうか…?
でもまぁ、一夏くんは歳上好きだから仕方ないね。