IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回はやや長めです(具体的には5000字くらい)

では本編をどうぞ↓


第34話 オレに良い考えがある

「どうする鈴?」

 

「さあね、取り敢えず様子見…かな?」

 

アリーナに突如として乱入してきた全身装甲のISを前に二人はフワフワと浮きながら個人間秘匿通信《プライベート・チャンネル》で話し合っていた。

 

「それにしても乱入してくるとはとんでもない奴だな。」

 

「そうね、遮断シールドをぶち破るってことは喰らえば即死ね。運が良くても…あまり想像したくないわね。」

 

「織斑くん、凰さん、今すぐ避難してください! そのISは教員部隊が対処します!」

 

対応策を考えている二人に真耶が開放回線《オープンチャンネル》で話しかける。その口調は大変慌てていた。

 

「いや、それは出来ないよ先生…。」

 

「え、ど、どうしてですか!?」

 

「先生も見たろ? あのエネルギー砲は遮断シールドすら貫通するんだ。オレ達が避難したらそれが観客席に向かわないとも限らない。だからせめて皆の避難が済むまでここを退く訳にはいかないんだ。」

 

「で、ですが…!!」

 

「言っても無駄だ、山田くん。」

 

慌てて反論しようとする真耶の言葉を千冬が遮る。

 

「織斑、凰、あと数分で教員部隊が到着するはずだ。それまで時間を稼げ、但し死ぬことは許さん。危ないと思ったらすぐに逃げろ、良いな?」

 

千冬の言葉に鈴が小さく鼻で笑う。

 

「時間を稼げ、ねぇ…。別に倒しちゃっても構わないんでしょ?」

 

「ふん、減らず口を…。だがまぁ、良いだろう。やれるものならやってみせろ。」

 

それだけ言い残して千冬は開放回線を切った。

 

 

 

「さて、避難が完了するまで持てばいいが…。」

 

腕組みしながらアリーナの様子を見ている千冬はポツリと呟いた。

平然を装っているものの指先は小さく震えており、不安であることが窺える。

そんな時に、無線から声が流れる。

 

「千冬先生! 隔壁が開かないよ! このままじゃ生徒の救援に向かえない!」

 

声の主は千冬の同僚であり、教員部隊の一員としてISを一機任されている教師だった。

その彼女の言葉に千冬と真耶は思わず“えっ!?”と声を漏らした。

 

「どういうことだ!」

 

「それが、降りた隔壁を上げようとしても、システムが何の反応も示さないの!お陰で教員部隊は格納庫に閉じ込められてるわ。」

 

「…ハッキングか! 山田くん、今すぐ3学年の腕利きを集めろ! 隔壁の操作を取り戻すぞ!」

 

千冬の号令に真耶は大きく返事をして管制室から飛び出して行く。

 

 

 

「出入り口が開かない、だって?!」

 

観客席にいる南美は非常口に近い生徒から聞こえてきた情報に頭を抱えてた。

アリーナの観客席に設置されている非常口、通常出口の全てが封鎖されたまま開かなくなっていたのである。

 

「ど、どうするのミナミナ~?」

 

「もちろん、開かないなら抉じ開けるしかない…、良いですよね、織斑先生!」

 

南美は専用機の開放回線を使って千冬に連絡を取る。それに対して千冬は“人命優先だ、やれ!”と二言返事で返す。

そして許可をもらった南美は専用機を装備し生徒の上を飛びながら一番近い出口に向かう。

それに倣ってセシリアもブルー・ティアーズを身に纏い、追従する。

 

「はいはいはい、出口のところ少し空けてね。今開けるから!」

 

南美の声を聞いて、出口に殺到していた生徒は少し落ち着いたのか少しずつ詰めてスペースを空ける。

 

「じゃあ行くよー、フゥゥ、シャオッ!ショオォッ!」

 

南美はエネルギーを纏った手刀で出入り口の扉をずんばらりんと切り裂き、端の切れなかった部分を蹴り飛ばし、強引に抉じ開けた。

 

「これでよし、皆、落ち着いて避難して!」

 

南美の声掛けに生徒はゆっくりと落ち着いて避難を開始する。

 

「セシリアちゃん、貴方は左回りで、私は右回りで、それぞれ出入り口を抉じ開けるよ!」

 

「了解ですわ!」

 

二人はそのまま左右に別れて、出入り口を抉じ開ける作業に移った。

 

 

 

「鈴、どうするよ。」

 

「とにかく片方が引き付けて回避、もう片方がその隙に攻撃って感じね、向こうの攻撃は絶対に喰らえないから踏み込み過ぎないでね。」

 

「オーケー、じゃあ行くか!」

 

一夏と鈴は肩から余計な力を抜き、非常にリラックスした状態で、乱入してきたISへと向かう。

 

「一夏、あたしが引き付けるからあんたがしばきなさい。」

 

個人間秘匿通信で意志疎通を行いながら二人は乱入者の周りをぐるぐる回る。

 

「アァァア、ファチャアッ!」

 

乱入者の視線が一夏に向いた瞬間、鈴はブースターを吹かし、乱入者の懐に潜り込むと青竜刀を横凪ぎに振り払う。

 

「手応えなしっ! でもここまでは予想通り!」

 

鈴の青竜刀を腕部で受け止めた乱入者はその長大な腕を畳み、掌につけられたエネルギー砲を鈴に向ける。

しかし、防がれることは二人にとって予定通りであり、鈴はそのまま青竜刀を振り回し乱入者の腕を真上にかち上げる。

 

「やれ、バカ一夏!」

 

「任せろ!」

 

正面切って乱入者と殴り合い、注意を引いた鈴は乱入者の視界に入らないように動いていた一夏に指示を飛ばす。そしてその指示を受けた一夏が雪片弐型を握り締め、斬りかかる。

 

だが、乱入者は後方の一夏が見えているかのように腰を回し、背後から迫る一夏に裏拳を当てて吹き飛ばした。

そしてそのまま回転を続け鈴も吹き飛ばす。

 

「こうなるかよ…。」

 

「ホントに面倒ね、どうしてやろうかしら?」

 

「任せろ、オレにいい考えがある。」

 

「フラグにしか聞こえないんだけどそれ…。」

 

一夏の言葉にげんなりしたような顔をする鈴に一夏は軽く笑いかける。

その間、乱入者は1歩も動かないでいた。

 

「それにしても不気味ねぇ…。動きが精密すぎるわ…。」

 

「確かにな。機械を相手にしてるみたいだ…、機械? なぁ鈴、もしかしてアイツ、AIでも積んでるんじゃないか?」

 

「はぁ? アレが無人機だって言いたいの? そんな事ありえないわよ、ISは人が乗らなきゃ動かないわ。それと、仮に無人機だとしてどうだって言うのよ。」

 

「オレの作戦が更に有効になる。パイロットがいないなら手加減しなくて済むからな。」

 

鈴の問いにドヤァという表情で一夏が応える。その表情に呆れたように溜め息を吐く鈴であったが、そこはもう幼馴染みとして慣れっこなのか悪態を突かずに乱入者へと向き直る。

 

そして二人は照準を合わせられないように複雑に動きながら合流する。

 

「うし、やるぞ鈴。合わせてくれ。」

 

「分かってるわよ、ヘマしないでよ?」

 

「任せろ、1発で決めてやるさ。」

 

二人は特に気負いすぎることなどなく、とてもリラックスしていた。

そして乱入者がその掌に内蔵されているエネルギー砲の砲口を一夏に向けると同時に彼はブースターを吹かして突撃する。

それに合わせて鈴は甲龍のショルダーアーマーを開き、一夏に向けて照準を合わせ、その見えない弾丸を打ち出した。

 

「うぅおぉおおおおっ!!」

 

圧縮され打ち出された空気の弾丸が一夏の背中を捉え、その速度を更に上げる。

それにより、一時的に速度の限界を超えた一夏は一瞬で乱入者の懐へと到達し、エネルギー砲を撃たせる暇さえ与えずに最大出力の零落白夜で一刀の下に切り捨てる。

 

一夏によって袈裟懸けにバッサリと切られた乱入者は切り口から幾筋かの電流を数秒ほど走らせると機能を停止したのか膝から崩れ落ちた。

 

「終わったわね。ま、私のアシストのお陰かな?」

 

乱入者の機能が停止したことを確認した鈴はゆっくりと一夏の背後に移る。

軽口を叩く鈴の一方で一夏は雪片弐型を右手できつく握り締め、自身が切り伏せた乱入者へと視線を落としている。

 

「…、良かった、ホントに無人機だった…。」

 

背後にいる鈴に気づいた彼はくるっと振り向いてその白い歯を見せて笑った。

その笑顔はまだ年相応の未熟さと快活さを見せている。

 

「なぁに、相手の心配してたの? ま、あんたらしいけどさ。」

 

一夏のこぼした言葉を聞いて、“甘いなぁ”と感じた鈴はフゥと息を吐き出して言うが、それ以上は何も言わない。

強さを求めて尚、誰かを気遣う優しさが一夏の魅力であり、美徳であることを知っているからだ。

 

「さてと、千冬ね、じゃないや織斑先生、終わりましたよ。」

 

乱入者に背を向けたまま一夏は開放回線で千冬に連絡を取る。鈴も鈴でそんな彼の横顔をまじまじと見つめている。

 

まだ彼らの足下に横たわる乱入者が完全に機能を停止していないとも知らずに。

 

「その所属不明機に関してはIS学園で調べる。作業は教員部隊が行う、お前らは早く帰ってこい。それとこの1件は他言無用だ、良いな?」

 

「分かりました。」

 

「了解です。」

 

千冬のドスの効いた声による念押しに二人は直ぐ様了承する。

そして二人が帰還するためにISを解除してハッチの方へ身体を向けた時、それは起こった。

乱入者は切られていなかった右腕を上げ、その掌を二人に向ける。

ギチギチと不規則な駆動音を上げての行動は直ぐ様気付き、ISを展開するが、それ以上の行動は起こさず、そして乱入者もそのエネルギー砲を放つ事はなかった。

何故なら──

 

「南斗獄屠拳っ!!」

 

専用機“ラスト”を纏った南美が自慢の飛び蹴りで乱入者を蹴り飛ばしたからである。

乱入者を蹴り飛ばした南美はそのままブースターを吹かして追撃する。

 

「フゥゥゥ、ショオォッ!!」

 

エネルギーを纏った右手の手刀を乱入者の胸部に突き刺しその機能を完全に停止させた。

 

「ふぅ…、間に合って良かったよ。大丈夫かい、二人とも。」

 

「あぁ、南美のお陰でな。助かったよ。」

 

「さすがの動きね。」

 

乱入者にトドメを刺しきった南美は笑顔で二人の方を向く。

二人に目立った外傷がないことを確認した南美はホッと一息ついた。

 

 

そうして難を乗り越えた3人はもう一度ISを解除し、ピットに帰った。

そしてピットに戻った一夏を待っていたのは──

 

「一夏っ!」

 

「え、ちょ千冬姉!?」

 

姉、織斑千冬からの熱い抱擁であった。

 

「心配させやがって、バカ野郎が…。」

 

辛辣な言葉使いとは裏腹に、千冬の言葉からは本気で心配していたであろうことが窺え、うっすらと目元に涙を湛えていることが確認できた。

 

がしかし、一夏を除く鈴と南美はそんな千冬の1面など見たことはなく、困惑の色を浮かべている。

それを察した一夏が千冬の耳元で小さくその事を教えると千冬は急いで一夏から離れ、軽く咳払いする。

 

「んん、えーと、凰、織斑、北星、ご苦労だったな。労いたいのはやまやまだが、お前達にはこの書類にサインしてもらう。」

 

そう言うと千冬は3人に1枚ずつある書類を渡した。

 

「あの、これは…?」

 

「誓約書だ。今回の事件に関して箝口令を敷くことになった。それに先立って実際に戦闘を行ったお前達には誓約書を通してもらう。手間だろうが頼む。」

 

そう言われて3人は素直に誓約書にサインした。

サインが終わると彼らは何事もなかったような態度の千冬によって寮に帰るように通達され、素直に自室へと帰る。

 

 

 

その日の夜、千冬はある場所を訪れていた。

そこはIS学園の下層、人工島の地下に作られた施設であり、特別な権限を持つ1部の人間のみ入る事を許された、いわゆる隠された場所である。

 

あのあと機能を停止した乱入者は直ぐ様この場所へと運び込まれ解析が行われた。

そしてその横にあるモニターで千冬は戦闘の映像を何度も何度も眺めている。

 

モニターに照らされている千冬はとても冷たい表情でその映像を見下ろしている。

 

現在この部屋には狗飼と虎龍、そして二人と同じスーツを着た男が二人と、山田真耶、織斑千冬がいる。

 

「千冬さん、このISの解析が完了しました。」

 

ディスプレイの前でキーボードを叩いていたスーツの男が声を掛ける。その呼び掛けに千冬はワンテンポ遅れて反応を示した。

 

「それで、どうだった?」

 

「徹底的に調べた結果、アレは完全にISです。それも無人で動く…。ラジコンのように誰かが外部から操作していたのか、それとも自律して戦闘していたのかはよく分かりませんでしたが…。」

 

「やはり…か、箝口令を敷いて正解だったな。」

 

男からの報告を受け、千冬は大きく溜め息をついて頭に手を当てた。

 

ISの遠隔操作や独立稼働は世界中で研究・開発されているISの中でもまだ完成されていない未知の領域で、それが今回乱入してきたISに使われていた事は世界を揺るがしかねない事実である。

 

「ただ、織斑一夏くんとおじょ、いえ北星南美さんの攻撃によって中枢部分が完全にイカれているので修復は不可能です。」

 

「それで、コアの方はどうだった?」

 

「登録外のコアでした。」

 

「…そうか、分かった。」

 

やはりな、と続けた千冬はどこか確信めいた表情で天井を見上げる。

そして暫く天井を見つめていた千冬はスッと目線を戦闘の映像を流し続けるディスプレイへと移す。

その目は教師ではなく、一人の戦士のものだった。

ブリュンヒルデ、嘗て世界の頂点に立ちそう呼ばれた彼女の眼光は衰えておらず、鋭いままである。

 

 

 

 





忘れた頃にやってくる優しい千冬さん。

そして影の薄かった狗飼さん達でした。


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