IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回はちょっと長めです。

では本編をどうぞ↓


第33話 激突

 

「さぁ、始めましょうか。」

 

「あぁ、来いよ鈴!」

 

IS学園第3アリーナで、一夏と鈴は自身のISを展開して睨み合う。

鈴の専用機“甲龍(シェンロン)”は中国が生み出した第3世代型のISであり、燃費の良さとバランスの良い性能が売りである。

そして何より、近距離での殴り合いに特化した機体なのだ。

 

鈴と一夏、互いの領分は至近距離での殴り合い、シンプルだからこそ両者の差が明確になる。

 

「フフフ、めっためたにしてあげるわ。」

 

「そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ!」

 

鈴は2本の青竜刀を繋げ、肩に担ぎ、一夏は雪片弐型を握りしめ、正眼に構える。

 

そして開戦を告げるブザーと同時に両者とも突進する。

 

「ぬぅうぉおおおっ!」

 

「フゥゥアチャアッ!」

 

上段から振り下ろされる一夏の雪片弐型と横薙ぎに振られた鈴の青竜刀が激突し、激しい音を立てる。

鍔迫り合いになり、二人の腕が激しく震える。

 

「負けねぇよ。鈴、今日はお前に勝つ!」

 

「やってみなさいよ、このバカ一夏!」

 

二人は互いに鍔迫り合いの状態から力をずらし、拮抗状態を抜け出す。

 

「アタァ!」

 

「うらぁっ!」

 

得物を相手から遠ざけ、体の回転を生かしてそれぞれ蹴りを放つ。

二人の放った蹴りは互いのわき腹を捉えるが、そんな事お構いなしに二人は攻撃の手を緩めない。

 

「アタァ、ファチャッ! フゥゥアチャアッ!!」

 

「うらぁ、つっ、しゃあらぁあっ!!」

 

繋いだ青竜刀をバトンのように回転させながら体術を挟み、攻勢を緩めない鈴に対して一夏もガードなんか二の次で手を緩めない。

向かってくる青竜刀の刃を雪片弐型で叩き落とし、そのまま勢いを緩めることなく鈴を蹴りつける。

 

お互い肉を切らせて骨を断つかのような捨て身のスタイルで1歩も退かずに切り結ぶ。その様に見ている生徒達は息を呑む。

 

 

 

 

「うわぁ~…。」

 

「ガード度外視、いや、零落白夜があるから鈴は雪片弐型の一撃を避けながら、受けてもいいやつは受けながら殴り合ってる…。」

 

1年1組が集まって座っている場所で、並んで座っている南美と本音は冷静に戦況を観察していた。

 

 

 

「ちょこまかとっ!!」

 

「当たり前じゃない、こっちは当たっただけで落ちるし、当たる訳にはいかないっての!」

 

「のわりには余裕綽々じゃねぇか!」

 

二人は立体的な機動を繰り返しながら刃を交える。アリーナには二人の声と二人の得物同士がぶつかり合う音が響く。

 

「アタァタァアァタタ、フゥゥアチヮアッ!!」

 

「ぐっ…、くそっ!」

 

高速で繰り出される蹴りに押し込まれ、最後に薙ぐように振り回された青竜刀の一撃で一夏は吹っ飛んだ。

加速度的に攻め手の早さを上げる鈴に一夏はジリ貧になり、押され始める。

 

「くそっ、まだだ、まだ終わらねぇ!!」

 

致命的な一撃だけは防ぎつつ、反撃の機を窺っていた一夏は、鈴が大振りの一撃を放とうとした瞬間、ブースターを吹かし、突撃する。

 

だがその時、鈴の機体“甲龍”のショルダーアーマーが開き光る。すると、一夏が後方へと吹き飛んだ、まるで何かに殴り付けられたかのように。

 

(っ!? 今のは…、何だ?)

 

 

 

「何だ今のは?」

 

観客席から観戦していた箒が呟く。それに答えたのは隣に座っているセシリアだった。

 

「あれは確か…“衝撃砲”…。空間に圧力を掛け砲身を形成、余剰分の衝撃を弾丸のように打ち出す兵器ですわ。」

 

“中国の第3世代型兵器”と言葉を続けるが、箒の耳にはセシリアの説明は届いていない。

彼女にはアリーナにて激闘を繰り広げる一夏しか見えていなかった。

 

 

 

「中国も厄介なモノ作るねぇ…。見えない砲身と弾丸とか、面倒くさいことこの上ないよ。」

 

「ミナミナならどうする~?」

 

セシリア達と離れたところに座っている南美はいち早く鈴の使った兵装について看破していた。

 

「見えないなら見なきゃ良いんだよ。今の一夏くんならそれが出来るさ。」

 

本音の方を向いてそう言うと、意味ありげな笑みを浮かべ、またアリーナの方に向き直る。

 

「さぁ、見せてごらんよ、狗飼さんの指導で培った君の力をさぁ…。」

 

 

(考えろ、どうする、どうする…⁉ 近接はどっこい、一撃の重さならこっち、手数は鈴。さっき食らった攻撃がある分、離れればそれだけあっちが有利…。)

 

一夏は先ほどの鈴の一撃を“見えない弾丸を打ち出すもの”と当たりをつけ、狙い撃ちされないように高速で飛び回っていた。

それを鈴はその場で旋回しながら視界に捉え続ける。

 

「どうしたの? 近付いて来なさいよ、それとも怖じ気付いたかしら?」

 

鈴の挑発に一夏はグッとこらえ、距離を保ち続ける。

その間も鈴は一夏に向かって牽制として衝撃砲を打ち続ける。

 

(見えた‼ 狗飼さんの教えはそう言うことだったのか…。銃弾が見えないならそれを撃つ側の殺気を感じれば良い…。 これなら…いける!)

 

鈴の衝撃砲を見切り始めた一夏は逃げ回るだけだった機動から、懐に潜り込む為の機動へとシフトする。

 

「うぉぉおおおおっ!!」

 

爆発的推進力を得る瞬時加速《イグニッション・ブースト》による突撃は一瞬で鈴との間合いを詰める。

 

ガギィィン

 

一夏の振り下ろした雪片弐型の一撃は、寸での所で鈴の青竜刀によって防がれた。

二人の得物はギチギチと音を立てている。

鍔迫り合いになった瞬間、甲龍のショルダーアーマーが開く。

 

「吹き飛べっ!」

 

「見切った!」

 

ショルダーアーマーが開いた瞬間、一夏は上に飛び鈴の後ろに回り込み、雪片弐型を振りかぶる。

 

「うらぁああっ!!」

 

「ぐく…。」

 

振り下ろされた雪片弐型を迎え撃つように鈴は青竜刀を横凪ぎに振り払う。

重厚な金属音が響き、二人は互いに吹き飛ぶ。

 

「まさか、こんな早く見切られるとわね…。」

 

「はは、これでやっとこさ5:5か…?」

 

離れたまま睨み合う二人は互いに警戒しながら雑談し始める。

もう互いのシールドエネルギーは半分を下回っており、一夏の火力、鈴の手数を考えれば次の一合で決着がつくであろう事は想像に難くない。

 

「ふぅ…。さぁ、ケリをつけるか…。」

 

「結末は私の勝利だけどね。」

 

軽口を叩きながら二人は得物を構える。

 

「ぬぅうぉおおおおおっ!!」

 

「ウゥ、アァチャァアアアアッ!!」

 

大声を張り上げながら二人は互いの間合いに入ろうと前進する。

 

─その時それは現れた。

 

二人の間に閃光を迸らせ、上空の穴からアリーナへと降り立ったそれは、異形な姿のISだった。

 

 

 

side 南美

 

それは突然だった。

一夏くんと鈴の間にレーザーが撃たれたと思ったら、アリーナに張られているはずの頑強な遮断シールドに開いた穴から侵入してきたIS。

 

その姿を一言で表すなら“異形”だろう。

全身装甲の外見、爪先に届くくらい長い腕部、頭部に並んだ剥き出しのセンサーレンズ、それだけでそれが普通ではないことが分かる。

 

だが、何よりも不味いのは“異形”が持つあのレーザーだろう。ISに搭載されているエネルギーシールドよりも遥かに頑強なはずの遮断シールドを軽々と破壊したあの一撃は、喰らえば絶対防御が発動する暇もなく搭乗者の身体を焼くだろう。

そして今、アリーナにいる二人に向いているそれが無防備な生徒達のいる観客席に向かえばどうなるか、想像した瞬間、私の背筋に寒気が走った。

 

“異形”の乱入から数秒、やっと事態を飲み込めた生徒達の一角から悲鳴が上がった。

そして堰切ったように観客席から出口に向かって生徒の皆が走り始める。

 

 

side out...

 

 

 

「な、何アルか? 今の音は⁉」

 

「わ、分かりません、方角的に第3アリーナの方向だとは…。あ、千冬さんですか? 今何が起こってるのか分かりますか?」

 

無線機を手に取った狗飼は急いで千冬に連絡を取る。すると、多少ノイズ混じりであるが、千冬からの返答が帰って来た。

 

「何者かは分からんが乱入者が現れた。乱入者はISに搭乗、アリーナの遮断シールドを軽々と破るエネルギー砲を所持している。現在教員部隊が準備中だ。」

 

「分かりました。プランBに移行します。」

 

そう言って通話を終えた狗飼は別の無線機に手を掛ける。

 

「狗飼から各員へ、狗飼から各員へ。緊急事態だ、ISの侵入者だ。各々自分の持ち場を徹底的に見回れ、騒動を起こして侵入を試みる者がいないとも限らない。」

 

連絡を終えた狗飼は壁に立て掛けている日本刀を取り、虎龍と共に待機所を出ていった。

 

 

 





プランB、いわゆるISの侵入者ですね。


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