今回の話は短めです。
では本編をどうぞ↓
──クラス対抗戦当日
この日、IS学園の貨物船用の港にある人物が降り立っていた。
「やぁやぁ瑛護、電話振りだナ。それにしても良い感じに盛り上がってる空気ネ~。フフフ、ここがIS学園、1度来てみたかったのヨ!」
「そのうち飽きますよ、絶対に…。なのでフーさんにも何か手軽な暇潰しの趣味を見つけることをオススメします。」
その人物は鈴の師匠である呂虎龍、その格好は腰まである長い髪を後ろで1本に束ね、服は狗飼と同じく、黒のスーツでピシッと決めている…のだが、成人男性の平均身長を大きく下回るその低い身長と、年齢よりも遥かに幼く見える童顔も相まって、どこか愛らしさが感じられる。
「ま、暇潰しはそのうち見つけるヨ。ただ、今は仕事ネ…。」
スッと虎龍の目付きが鋭くなり、先程までの愛らしい雰囲気は一切なくなる。
そしてちょいちょいと手招きすると、虎龍よりも背が高い狗飼は少しばかり屈んで耳元を虎龍に向ける。
「女権団の過激派が何やら不穏な動きを見せてるらしいネ。それに伴ってIS学園の警備レベルを1段階引き上げるって義仁は言ってるよ。」
「ボスが、ですか…。」
「そうネ。まぁ原因はきっと男がIS学園に入学したからアルよ。」
そう言って虎龍は狗飼から離れ、やれやれといったジェスチャーをする。
「まぁ、なんやかんやと騒ぐだけなら可愛いものヨ。 実際に行動したらただじゃ済まさないけどナ。」
そう言って嗜虐的な笑みを浮かべる虎龍に狗飼は背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
だが、虎龍はまたいつものような愛くるしい雰囲気に戻る。
「義仁からの伝言は伝えたよ。数日したら正式な辞令が届くはずネ。それとナ、警備レベル引き上げの都合で、瑛護にはまだまだここで働いてもらうらしいヨ、まだまだ本土勤務にはならないみたいネ。」
「それは大丈夫です。ここでの暮らしも慣れましたし。」
虎龍の言葉に狗飼は残念そうな、それでいて嬉しそうに頬を緩ませた。
「さて、それじゃあ早速だけど待機所に案内してほしいアルよ。」
「ええ、こっちです。」
スッと虎龍に背を向け、待機所のあるほうへと歩き出した。
「…。」
「なぁに、緊張してんの?」
クラス対抗戦の参加者控え室で無言のままベンチに座る一夏に鈴が話しかける。
それに一夏は顔を上げて“いや、違う”とだけ返して立ち上がる。
「今のオレがどれだけ戦えるのかなって、ちょっと考え込んでただけだ。」
「ふん、心配して損したじゃない。野心で目ん玉ギラギラさせちゃってさ。まったく、アンタってば…。ま、その方がらしいっちゃらしいけどね。」
怖じ気づいた様子のない一夏を見て鈴は笑う。だがそれも後ろの雰囲気に上書きされる。
鈴は少しだけ体を捻って後ろを向くと、僅かながらに顔をしかめた。
「にっしても、辛気臭いわね。もっとこう…、ぐわっとならないのかしらね。」
「無理もないだろ、専用機と量産機とじゃかなりの性能差があるんだ。それで戦意を高めろなんて無理な話だろ? まぁオレも少し拍子抜けだけどな。」
他のクラス代表達の雰囲気に一夏と鈴はややガックリしていた。
二人としてはもっと血沸き、肉踊るような闘争を求めていたのだ。それがいざ蓋を開けてみれば、他のクラス代表の生徒は半ば勝ち抜く事を諦めているかのような雰囲気である。
二人にしてみれば水を注されたような気分だろう。
そんな風に二人が肩を落としていると、控え室のモニターに千冬が映った。
「聞こえているか、1学年クラス代表諸君。今から行われるのは単純な闘いだ。さて、前置きは置いておくとしてだ、本題に移ろう。お前達の組合せだが、たった今鉛筆を転がして決めている。でだ、湿気た面をしている諸君に私から1つ、アドバイスをくれてやろう。“何をしても勝てば良い”だ。いいか、今から君たちが行うのは闘いだ、本来ならルール無用なんだ、つまりルールに抵触しなければ何をしたって許される。卑怯などと言う言葉は所詮考え足らず共の言い訳に過ぎん! 誰が相手であっても最後まで足掻け! 良いな!」
最後に念を押してきた千冬の顔はSっ気に溢れていた。
「そして、専用機を持っていない諸君、君らにはチャンスだ。もし君たちが専用機組みに勝ってみろ、各国の注目は集まり、将来の明るい道は保証されるだろう。さぁ、諸君、自らの手で栄光を掴んで見せろ!!」
千冬から檄が飛ぶとそれまで意気消沈の様相でいた一般生徒組みから俄に活気が出てきた。
そしてそれを見計らったかのようなタイミングで組合せの書かれたトーナメント表が画面の中に現れる。
モニター越しにそれを見ていた一夏と鈴、そしてアリーナでも同様に映されたトーナメント表を見ていた南美達が驚きの顔を浮かべた。
「1回戦第1試合、織斑一夏対凰鈴音…。」
「最初からクライマックスですわね。」
「嘘だろ…。」
「ま、覚悟しなさい一夏。しばき倒してあげるわ。」
「負けねぇよ。」
笑顔で牽制しながら二人は立ち上がり、控え室を出ると互いに背を向けそれぞれ別のピットへと歩いていった。
人には誰しも譲れない物がある。己が己であるために、自分の生を証明するために。
人それを“信念”という。
次回
IS世界に世紀末を持ち込む少女 第33話「激突」
─戦場の少年は何を思うのか