IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回はちょっと短めです。

それでは本編をどうぞ↓


第31話 決戦前日

5月、入学した新入生達も学園の雰囲気に慣れてきた頃、ここIS学園では大きなイベントが控えていた。

 

「さて、一夏…。来週にはクラス対抗戦が始まるが、大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

箒の質問にもはや定型文と化している決まり文句を返せるくらいには今の一夏には余裕があった。

その理由は1つ、狗飼という新たな師匠を得たこと。そしてもう1つ、南美や、セシリアとの日々の研鑽があったからだ。

 

「自信があるなら別にいいんじゃない? 周りが煽って変に力まれても困るしさ。」

 

「そうですわね、今の一夏さんなら向かうところ敵なしですわ!」

 

「自信がある訳じゃないけど、南美達に相手してもらったりしてたから、その、期待に応える為にもって感じだよ。でも、不思議と負ける気がしないんだ。ありがとうな、3人とも。」

 

一夏は振り替えると真っ直ぐな、それでいて自信に満ちた目で3人を見つめ、頭を下げた。

それを見た南美は他の2人の意見を代弁するように笑顔を作ってサムズアップする。

 

「言葉は不要さ…。私達への感謝は行動で、結果で見せてくれよ。」

 

「あぁ、なら優勝しないとな!」

 

とびきり良い笑顔の南美に倣って一夏も笑い、サムズアップする。

 

 

 

 

クラス対抗戦を明日に控えた日の早朝、木々が生い茂る木陰の中で、一夏は師である狗飼と対峙していた。

 

「でゃあっ!」

 

「踏み込みが、甘い!」

 

一夏が上段から振り下ろした竹刀を、狗飼は右手に握った竹刀で払い除け、そのままがら空きのボディに対して左肩で体当たりして突き飛ばす。

体当たりの衝撃を逃しきれなかった一夏はそのまま地面に叩きつけられ、肺の空気を吐き出す。

 

「…初日にも言いましたが、もっと思いきりよく打ち込んで来なさい。でなければ何本やっても無駄になるだけです。」

 

狗飼は竹刀を担ぎ、尻餅をついている一夏にそう言った。

一夏が狗飼に弟子入りして最初の稽古の時、狗飼は一夏と箒に対して“殺すつもりでかかってきなさい”と言い放っていた。それと同時に“何の為に刀を振るうのかを忘れるな”とも。

曰く“生半可な気持ちでは太刀筋が鈍り、目的のない刃では何物も断ち切ることは出来ない”という彼の持論かららしい。

 

「もう1本、お願いします!」

 

「良いでしょう…、来なさい。」

 

一夏は立ち上がると竹刀を正眼に構え直す。

そして狗飼もまた竹刀を握る手をだらりと下げ、一夏の襲撃に備える。

 

「でぇやぁああああっ!」

 

気合いの乗った声を張り上げながら一夏は素早い足さばきを駆使して突進する。

 

「フッ!」

 

狗飼は下げている竹刀を振り上げ、一夏が両手で握る竹刀を片手で真上に弾き飛ばすと、そのまま竹刀を一夏の左肩へと打ち下ろす。

 

「っつう…、うっ!」

 

そして狗飼は竹刀の一撃で動きの鈍った一夏の腹に前蹴りを入れて蹴り飛ばした。

 

「殺すつもりで剣を振るう事と、闇雲にただ突っ込む事は違います。」

 

狗飼は竹刀を肩に担ぎ、尻餅をついている一夏の方へつかつかと歩み寄る。

 

「君がこれから迎えるのは殺し合いの世界だ。そして殺し合いでは負ける側とは得てして思考を止めた者だ。」

 

一夏の目の前まで来た狗飼が竹刀を突きつける。

 

「偶然にも一刀にて決着をつけられるという君のISの能力は殺し合いに通じるものだ。故に思考し続けろ! 見て、聞いて、感じて、敵から、戦場から得られる全ての情報を基に考え続けなさい! それが勝つ、いえ、生き残る為の条件です。」

 

言い終えると突きつけた竹刀を再度肩に担ぎ直すと、一夏の手を引いて立たせた。

 

「一夏くん、初日に私が言ったことを覚えていますか?」

 

「はい、“人を殺めるのではなく、守るために刀を振るえ”ですよね。」

 

「覚えているならば良いです。…殺意を持てと言いながら、殺める為に振るうなと、訳の分からない事を言っていますが、いずれ分かります。それまで君自身でその答えを探してください。」

 

そう言って狗飼は一夏に背を向ける。これはこの日の稽古はこれで終わりである事を意味している。

 

「今日はこれでおしまいです。明日に向けて休養し、しっかりと英気を養うこと。明日、ベストを尽くせるように今日のベストを尽くしなさい。」

 

「はいっ!」

 

「言い返事です。…勝てると良いですね。」

 

はっきりと、優しさのある口調でそう告げた狗飼はそのまま木々の奥へと歩を進め、一夏の前から姿を消していった。

 

 

 

 

──夜

 

初めてのクラス対抗戦の前夜とあって、学生寮1学年棟はどこか浮き足立ったような空気に包まれている。

 

そんな中で、凰鈴音はルームメイトが外出中の自室である人物に電話を掛けていた。

 

──プルルルル プガチャ

 

「あ、もしもしお師さん、あたしです、鈴音です!」

 

「フフフ、言わなくても分かるヨ、私の大事な弟子だものネ。」

 

電話の相手は鈴のジークンドーの師匠である。電話越しの声からは、彼がどれほど鈴を溺愛しているかが窺えた。

 

「それでどうしたネ?」

 

「う、うんとね、お師さん、明日ね、試合があるの…。」

 

「フフフ、もしかして緊張してるアルか?」

 

「う、うん…。やっぱり分かっちゃう?」

 

「勿論ネ、鈴のことなら何でもお見通しヨ。」

 

鈴の弱々しい口調から何かを察したのか、師匠の男はからかうような、それでいてリラックスさせるような調子で語りかける。

 

「自信を持つネ! 鈴はこの私、呂虎龍(ルゥフゥロン)の愛弟子アルよ。それにいつも言ってたアルよ、“玉磨かざれば光なし、石も磨けば玉になる”ってネ。鈴は才能溢れた使い手ヨ、格闘技もISも。それに誰よりも努力家なことだって私は知ってるアルよ。」

 

「うん…。」

 

「だからナ、緊張することなんてないアルよ。もともと光輝く玉の鈴がずっと自分を磨いて来たんだから、今はどんなものよりも光る宝石ヨ! 明日の試合は今まで磨いてきた自分を信じれば良いネ!」

 

「うん、ありがとう。あたしね、お師さんと出会えて良かった。」

 

いつのまにか鈴から不安げな表情は消え失せ、今は笑顔が咲いていた。その事を電話越しに分かったのか、虎龍の声もいっそう嬉しさを増す。

 

「フフ、鈴は笑顔でいるが一番良いネ! いつも笑顔でいればどんな男もイチコロだヨ! 恋も戦いも、今の鈴には敵なしアルよ。」

 

「笑顔ですね! あたし頑張ります、明日はお師さんに勝利の報告をしてみせますから!」

 

「おう、楽しみに待ってるアルよ!」

 

 

 

──こうしてクラス対抗戦前日の夜は各人の思いを包むように更けていくのだった。

 

 

 





はい、鈴の師匠の名前は呂虎龍(ルゥフゥロン)です。
感想の方では色々と元ネタを予想してくださった方がいましたが、虎龍に関しては元ネタという元ネタがいません。

実を言うと鈴の師匠は悩みました。
中国・鈴繋がりで紅美鈴さん、凰繋がりでサウザーかオウガイ辺りを構想していましたが、どちらかを採用するとそれぞれギャグ・シリアスの極端に寄りそうな感じがして止めました。
お師さん呼びはその名残です。

それでは次回、クラス対抗戦です。
お楽しみください。



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