IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回は平均よりも少し長いくらいです。

では本編をどうぞ↓


第30話 一夏の新師匠

「シャオッ!」

 

「ファチャッ!」

 

早朝の中庭で二人の声が響く。

 

その二人とは北星南美と鳳鈴音である。出会った初日に拳を交えた彼女らは親友として、そして拳士として毎朝手合わせしているのだ。

だが今日はもう二人、木刀で切り結ぶ人影がある。

 

「相変わらず鈴と南美は強いな。オレたちも負けてらんないな、なぁ箒!」

 

「あぁそうだなっ!」

 

一夏と箒である。

鈴と南美の早朝トレーニングを知った二人は、部活だけでは発散しきれないストレス等のその他もろもろの解消や、自己鍛練の為に参加することにしたのである。

 

「シャオッ! ショォオッ!」

 

「アタァ! ホワチャ!」

 

中庭には鈴と南美の声と、一夏、箒が木刀を打ち合う澄んだ音が響く。

 

 

 

「いやぁ朝からいい汗かいたわ。」

 

「そうだね。私も腕が鈍る心配しなくてよくなったし。」

 

学生寮までの道のり、四人はタオルで汗を拭いながら歩く。

爽やかな青春の光景と言えるだろう。

だがそんな折に、一夏の視界があるものを捉えた。

それが見えたのはしっかりと手入れされた植え込みの奥、日陰を作るために植えられたであろう木々の中。

それは人影であった。

日が顔を出し始めた早朝はまだ薄暗いが、一夏の目はその人影の情報を捉える。

 

艶のある黒髪で、背は高い黒スーツ姿の男性、年はそこまで高くなく、むしろ若い。

そして何よりも、その手に鞘に納めた日本刀らしき物を握っていた。

 

決定的であった。男性は基本的にいないはずのIS学園の敷地内に凶器を持った男。

 

「なぁ皆、アレ…。」

 

一夏に促され、その方向に顔を向けた3人もその男を捉えた。

その直後、箒と一夏は木刀を手に男のもとへと駆ける。

 

「ちょ、一夏!?」

 

「二人とも、待って!」

 

鈴と南美の制止も空しく、二人は男のいるところに辿り着くとそのまま木刀を構える。

 

 

「おい、そこで何をしてる!」

 

「事と次第によっては…。」

 

一夏と箒に詰め寄られた男は一瞬驚いたような表情を浮かべたが、次の瞬間には小さく溜め息吐いた。

 

「見つかってしまいましたか…。」

 

男は右手を額にあて、やれやれといった様子である。

そんな男の様子に一夏は明確な敵意を持って彼に近寄る。

そんな時、南美の声が響く。

 

「アレ、狗飼さん⁉」

 

「お嬢!」

 

「知っているのか、南美!? って、お嬢…?」

 

後方からの南美の声、前方の男、狗飼瑛護の声に思わず一夏はとぼけた声を出した。

 

「いや、知ってるも何も、私の父さんの部下だもん。」

 

「父さん? 部下…?」

 

「あ、言ってなかったっけ。私の父さんは北星総合警備派遣会社ーKGDOーの社長なんだよ。で、この人は狗飼瑛護さん、KGDOの社員さんね。」

 

南美が今一状況の掴めていない一夏に狗飼の事を紹介すると、狗飼はスッと頭を下げる。

 

「どうも、KGDOから警備員としてIS学園に派遣されてきた狗飼瑛護という者です。皆さんには日頃から内のお嬢がお世話になっております。」

 

「狗飼さん、お嬢って呼ぶの止めてよ。私そういう柄じゃないんだからさ。」

 

「ですがボスの娘さんですし…。」

 

「あー! あの時の警備員さんじゃん。」

 

南美と狗飼の会話を遮るように鈴が声を上げる。

すると狗飼も鈴の存在に気づいたのか、“あぁ”と小さく声を出した。

 

「君はあの時の…。無事に手続きが出来たみたいだね。」

 

「警備員さんのお陰だけどね。」

 

狗飼の言葉に鈴は小さく笑う。

 

その場の空気と、狗飼の礼儀正しさに毒気を抜かれた一夏と箒は構えている木刀を下ろした。

 

「にしても、警備員さんって南美と知り合いだったんだ。世の中狭いね。」

 

「いや、オレとしては南美が社長令嬢だって事のが驚きなんだけど…。」

 

「まぁ私のキャラじゃないしね。」

 

驚きを隠せない一夏に対して南美は“アッハッハ”と笑ってみせた。

そんな南美の様子に狗飼はほっこりしたような顔をする。

 

「それよりもKGDOは確か国内有数規模の警備会社だと認識していたが、そんな大企業の社員とは貴方はよっぽど凄いのだな…。」

 

「そんな大層なものではないですよ。私は実働員ですから。事務方の社員じゃないので学歴は…。」

 

感心したような箒の言葉に狗飼は“アハハ…。”と苦笑いを浮かべた。

 

「IS学園に派遣されてたから最近家に来なかったんだ。お母さんが言ってたよ? “最近は瑛ちゃん達がご飯食べに来なくて寂しいわ。”って。」

 

「ハハハ、それはすいません。まぁここ長らくはIS学園勤務でして、今年で3年目になりますよ。そろそろ女将さんの手料理が恋しいです。女将さんにそう言ってもらえるのは嬉しい事なんですが…。まぁ暇が出来たらそのうちに、とお伝えください。今の私には為すべきことがありますから。それと皆さん、私達KGDOの派遣員については他言無用でお願いしますね。」

 

そう言って狗飼は右手の人差し指を立てて唇に当てた。

 

「あぁ、隠密警備の契約なんですね。」

 

「はい、その通りです。」

 

南美の指摘に狗飼は深々と頭を下げた。どうにも頭が上がらないようである。

 

「あの…、狗飼さん、貴方はかなり強いですよね。」

 

「…さぁ、分かりません。」

 

「狗飼さんはかなり強いよ、剣術なら父さんの部下の中でもトップクラスだからね!」

 

はぐらかす狗飼の代わりに南美はない胸を張って“えっへん”というようなジェスチャーをする。

だがそれに対して一夏はリアクションを取るでもなく、その場に土下座した。

 

「狗飼さん、オレに剣術を教えてください!」

 

「ちょ、一夏!?」

 

「何を?!」

 

一夏の突然の行動に隣にいた鈴は目を点にしたが、逆隣にいる箒は同じように土下座する。

 

「わ、私も頼む!」

 

「…理由を伺っても、よろしいですか?」

 

狗飼の問いに一夏と箒は顔を上げる。

 

「オレは強くなりたいんです。千冬姉に守られるばかりはもう嫌なんです。ISに乗れるようになった今、オレは姉さんを越える! その為にも、道場剣術じゃなくて実践に特化した剣術が必要なんです!」

 

「私も、篠ノ之束の妹ではなく、篠ノ之箒個人として見てもらう為に‼」

 

必死に訴える二人の目を見るために狗飼は膝を着いて二人の目を見つめる。

交互に二人の目を見比べた狗飼はハァと小さく息を吐いた。

 

「分かりました、私の出来る限りの事は教えましょう。ハァ、この年でもう弟子を持つことになるとは…。朝の5時、この場所でよければ…。それではまた。」

 

やれやれといった様子で狗飼は木々の奥へと帰っていく。

 

「「ありがとうございます!」」

 

去っていく狗飼の背中に向けて二人は再度頭を下げた。

 

 

 

「あれ、狗飼センパイ…。なんか良いことあったんすか?」

 

「そうですね、良いことがあったのかも知れないですね。」

 

KGDO派遣員待機所に戻った狗飼はそこでくつろいでいる後輩にそう答えるとスマートフォンを手に取りある番号に電話を掛けた。

 

──プルルルル プルルルル ガチャ

 

「はいネ、瑛護。何か用アルか?」

 

「はい、フーさん。ちょっと相談が…。実は弟子が出来まして、フーさんにコツを教えてもらいたくて。」

 

電話の相手は狗飼の先輩、通称フーさんだった。

 

「オオ! 瑛護にも弟子が出来たカ、それは重畳、重畳…、私は嬉しいネ! 実はナ、私の弟子もIS学園に入学したのヨ。さすがは私の弟子ネ。」

 

「は、はぁ、それで、その、弟子を育てるコツなんかは…。恥ずかしながら、自分今まで誰かに指導をしたことなどなくて、ですね。」

 

「ん~? 育てるなんて思う必要はないネ~。こっからは私の持論だけどナ、弟子っていうのは自分の磨き方を教えれば勝手に育つものだヨ。大事なのはその磨き方をちゃ~んと教えて上げることヨ! ま、それが大変なんだけどネ~。」

 

それから電話の向こうでフーはけたけたと笑いながら自身の論を展開する。それを狗飼は真摯に一言一言受け止める。

 

「ありがとうございました、フーさん。このお礼はいつか…。」

 

「お礼なんていらないネ! 瑛護の弟子の成長について教えてくれれば良いヨ!」

 

「分かりました、ではそうしましょう。助かりました。それではフーさん、また今度…。」

 

「おう、次はIS学園でナ。」

 

そう言ってフーは電話を切る。

自由奔放な彼の行動には慣れっこだという感じで狗飼はスマートフォンをそっと胸ポケットへとしまった。

 

「さて、明日の準備だ…。」

 

狗飼は意気揚々と待機所の自室に戻り、竹刀の手入れを始めたのだった。

 

 

 

 

 

 





えー、意味が分からねぇぞ!という方、広げた風呂敷は必ず回収するのでしばしお待ち下さい。


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