今回はやや長めです。そしてある人物に多少原作と違う部分が見られます。
それでは本編をどうぞ↓
side 一夏
「おはよう、一夏くん、ねぇねぇ転校生の噂聞いた?」
教室につくなりクラスの一人にそう聞かれた。
転校生? このIS学園に、それもこの半端な時期に。確実に何かありそうな気がするのはオレだけか?
IS学園の転入はかなり厳しい条件付きだ。試験は勿論のこと、転入には国家からの推薦が前提になっているからだ。
ということは…。
「なんでも中国の国家代表候補生らしいよ!」
やっぱり代表候補生か…。
…にしても中国かぁ、元気にしてるかな、アイツは。いや、元気ない姿が想像出来ないからたぶん大丈夫だろう。
「国家代表候補生ねぇ。」
などとそんな事を呟いているとオレの両肩に誰かの手が置かれた。その感覚から具体的には右肩に左手が、左肩に右手が置かれてることが分かる。
常識的に考えてオレの肩に手を置いている人物は二人いる。
「今のお前に他の女子を気にする余裕があるのか?」
「そうですわ。一夏さんにはクラス対抗戦でよい成績を残してもらわねばならないのですから。」
箒とセシリアか…。いや、予想はできていたんだ。ただ、その予想がオレの勘違いであって欲しかった。
「それはわかってるけどさ、アリーナの使用許可が降りないんだから仕方ないだろ?」
「問答無用!」
「アリーナでなくても出来ることはありますわ!」
ギチギチとオレの肩を締めてくる。この二人ほんとに仲が良いな。
「だ、大丈夫だよ! うちの学年は一夏くん以外に専用機持ちは4組にしかいないし、その人もまだ完成しきってないみたいだから。」
そうなのか? ってことは今のところクラス代表で専用機持ちはオレだけなのか…。
にしても、クラスメイトからのフォローがありがたいよ。
「その情報、古いよ。」
そんな事を考えていると突然声がした。
その方向に目を向けるとそこには腕を組み、入り口の壁に背中を預ける顔馴染みがいた。
「鈴? 鈴じゃないか! 久しぶりだな、元気にしてたか?」
立ち上がって声を掛けると、そこにいる幼馴染みである凰鈴音がニッと歯を見せた。
「元気だったわよ、あんたも元気そう、ねっ!!」
懐かしさから鈴に近寄るとその瞬間に手刀突きが飛んできた、角度的にまず間違いなくオレの眼球を狙ってる。
これはヤバい、えっと、こういう時は体を捻りながらバックステップ!
「…。」
危なかった、反応があと少しでも遅かったらオレの眼球は無事じゃなかっただろう。南美との組み手が役に立ったな。
鈴の奴もさすがのオレの動きに呆然としてるみたいだ。
「へぇ、昔よりも良い動きするようになったわね。IS学園に来てたるんでるんじゃないかと思ったけど、そんな事なくて安心したわ。けど…、この記事はどういうことじゃい!!」
いきなり鈴が新聞を投げつけてきた。
それを見て、セシリアや箒、他のクラスメイトもその新聞を覗きこむ。
「IS学園日報…。昨日の新聞部のヤツか…? えっと、っ!? おい、なんだよこの記事は!」
「質問に質問で返すな!!」
オレが鈴に食って掛かる後ろでクラスメイトがキャーキャーと姦しい声を上げている。
オレが持っていた新聞は一瞬で引ったくられた。
「え~と、『話題の男子生徒、織斑一夏に迫る! 暴かれた彼の性癖』…。」
「『彼は日夜クラスメイトに組み敷かれ、いつもイカされている』…。」
「織斑くん総受けかぁ…、アリね!」
…彼女達は何の話をしているんだ?
いや、それよりも今は鈴の誤解を解かないと。
「鈴、誤解だ、あの記事はデタラメなんだよ!」
「あ”ぁ”ん!? どういうことよ!」
「だから、カクカクシカジカで…。」
「マルマルウマウマって訳ね。はぁ、何で先に言わないのよ。」
オレの説明を聞いて鈴は大きく息を漏らした。いや、先に言う前にそっちが仕掛けて来たんだが…。
「じゃあ、あたしはもう行くわ。」
「は? どこに?」
オレが尋ねると鈴は物凄い良い笑顔になった。
「新聞部!」
それだけ言い残して幼馴染みは風のように走り去って行った。
side out...
──昼休み
「さぁ一夏さん、あの方との関係を教えていただきますわよ!」
「あぁそうだ! 知ってることは残さず話せ!!」
昼になって食堂へと移動する道中、一夏は両脇のセシリア・箒ペアからの尋問を受けていた。
その3人の後ろにはいまいち状況の掴めていない南美と本音のペアが歩いている。
「ねぇねぇ本音~。」
「なになにミナミナ~。」
「今の3人の状況を3行でよろ。」
「ん~、ムリだね~。」
朝の時間、ホームルームギリギリに教室へと駆け込むことになった二人は今朝起こった珍事を知らないでいたのである。
「遅かったわね、待ってたわ!」
一行が食堂の入り口に差し掛かると、ラーメンどんぶりを乗せたトレイを片手に持った鈴が待ち構えていた。
「一夏、場所は取ってあるからさっさと来なさいよ。」
それだけ言って鈴は立ち去る。今朝の一件から身構えていた一夏は拍子抜けしたような顔を浮かべている。
「こっちこっち!」
食堂で無事に昼食を手にいれた一行は鈴を探して歩いていると向こうから声を掛けられ、彼女が取っていた席に座ることになった。
一夏の正面に鈴、一夏の左右を挟むようにセシリアと箒が座る。
「ほんとに久しぶりだな、1年ぶりくらいか。懐かしいな。」
「ホントね。てか、何であんたがIS動かしてんのよ、ニュースで見た時、思わずラーメン吹き出したじゃない。」
「お前ってばほんとにラーメン好きだな。」
「別に良いじゃない。」
などと二人が和気あいあいと会話をしていると一夏の両隣を陣取るセシリア・箒ペアがわざとらしく咳払いをする。
「そろそろ説明してくれないか? コイツは一体何者だ?」
「そうですわ。納得できる説明を希望します。」
普段よりもはるかに圧倒的な圧力を纏い、二人が一夏に詰め寄る。周りのクラスメイト達も一夏からの返答を待ち、聞き耳を立てていた。
「何者って言われてもな、ただの幼馴染みだとしか説明できないよ。」
「た、だだの…。」
一夏の説明に鈴は分かりやすいくらいに肩を落とすが、そんな事が分かる一夏ではない。
そして落ち込んでいる鈴とは対極的に周りはほっと安堵した。
そんな中で南美と本音の二人はマイペースに食事を摂っていた。
本音はフレンチトーストにサラダを、南美はラーメン炒飯セット定食の大盛りを味わっている。
「そうだ、一夏。話は変わるけどさ、あんた、誰に体術を教わったのよ? それも私の不意打ちに対処できるレベルで。あたしが日本にいた時は剣道の足さばきしか出来なかったよね?」
気を取り直した鈴が顔を上げて一夏に尋ねる。すると一夏は無言で自分の後ろの席を指差した。
そこには無心で大盛りのラーメンと炒飯を食べ進める南美がいる。
「今オレの後ろで飯食ってるヤツから教わった。自衛の為にも素手である程度は出来るようにした方が良いからってな。」
「へぇ、そんな酔狂な人もいるもんなんだね。あたしが言えた立場じゃないけどさ。」
鈴の声は興味を持ったようなトーンだった。そしてスッと立ち上がり、一夏越しにその後ろにいる南美を視認する。
南美の後ろ姿から何かを感じたのか、鈴はテーブルを回り込み、南美のすぐ横へと移動した。
「ねぇあんた、一夏に体術を教えたってのはホントなの?」
鈴の質問に南美は食事の手を止め、向き直ってから口を開く。
「まぁ一応はそうなるね。言っても護身術の範囲を出ないけどさ。」
「ふーん…。あんた、かなりやるね。…ちょっと手合わせしない?」
鈴は南美の全身をくまなく観察し、そう提案した。
すると南美もニッと笑う。
「オーケー、面白そうじゃん。」
「フフフ、じゃあ中庭で。」
二人はお互い笑い合うと、鈴は自分のラーメンのスープを飲み干し、南美は定食の残りを全て胃の中に収納してから中庭へと歩いて行った。
──中庭
IS学園の広大な敷地の中に複数存在するなかでも、学生寮1学年棟にもっとも近いここでは今、二人の戦士が向かい合っている。
「おい、二人とも本気か?」
「勿論よ。」
「あたしの好奇心が疼くのよ。」
向かい合う二人の間には急いで昼食を済ませた一夏が立っている。
そして丁度よく審判を頼まれたのである。
「じゃあ行くぞ? 始めっ!」
声掛けと共に一夏は1歩分飛び退く。そして一夏の声と同時に鈴と南美の二人が前に出る。
「ショォオッ!」
「ウゥアチャアッ!」
南美は勢いを活かした右のミドルキックを放ち、鈴は見てからそれに反応して左腕でそれを防ぎつつ、右の正拳突きを南美の鳩尾目掛けて打つ。
その一瞬で判断したのか南美は右足を地につけ、左のショートアッパーで迎撃した。
「ぐぬ…。」
「ちぃ…!」
一瞬の攻防を終えた二人は同時に飛び退き、呼吸を整える。
一足先に呼吸を整えた鈴は構え直すと小さくステップを踏み始めた。
そしてそのまま高速で南美の懐に突撃する。
「アタァ! アチャッ! ファチャアっ!」
小さなモーションからの前蹴りで南美の膝を崩し、素早く無駄のない動きで今度は喉を突くも、南美は難なくいなす。しかしそれも計算の内にあったのか、次の瞬間にはもう鳩尾にもう片方の腕で肘鉄を放っていた。
だがその肘鉄は勢いよく上げられた南美の膝によって防がれた。
「ちょ、これも防ぐの? ちょっと一夏、コイツ何者なの?!」
「総合格闘技の全中3連覇覇者だよ。」
「おぉふ…。思ったよりも化け物だったわ…。」
驚いた様相の鈴の一方で、南美は何やら考え込むような様子でいた。が、直後に考えが纏まったのか口を開いた。
「ジークンドーベースの喧嘩殺法って感じかな?」
「え! そんな事まで分かるの?」
「ジークンドーなら少しだけかじったことがあるからね。」
そう言って南美はニカッと笑う。
「いやぁ参ったわ。まさか同年代でここまで強い人がいるなんてね。」
「それは私のセリフだよ。えっと、凰鈴音さんだっけ? すごい強いね!」
「あたしのコンボを捌いといてよく言うわね。あと、鈴でいいわ、そっちのが呼びやすいでしょ?」
「ふふ、じゃあよろしくね鈴ちゃん。私は北星南美だよ。」
そう言って南美は笑顔で手を伸ばす。鈴は躊躇いもせずにその手を握る。
「こっちこそよろしくね、南美。」
女同士、そして強敵《とも》としての友情が芽生えた瞬間である。
はい、凰鈴音さんが武術サイドに目覚めております。
原作の鈴ちゃんファンの方、ごめんなさい。