IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回は少し長めです。

では本編をどうぞ↓


第21話 決着、そして終わりに…

「ヒューッ! 近くで見ると余計格好よく見えるねぇ。それがキミの専用機のホントの姿って訳か…。」

 

続く第3試合、準備を終えた二人はほぼ同時にアリーナに到着し、向かい合っていた。

 

「こいつの能力はもう分かってんだろ? 当たればタダじゃ済まないぜ?」

 

「残念だけど、当たれば即死なんて、こっちにとっちゃ日常茶飯事さ(北斗的な意味で)、ちゃんと立ち回りも心得てるよ。残念だったね。」

 

「そいつは残念だ。でも、策がない訳じゃない。南美、勝たせてもらうぜ。」

 

「上等じゃんか、やれるもんならやってみなよ。」

 

向かい合う二人は互いに笑う。

それは戦いを前にした戦士の笑みであった。

 

アリーナのディスプレイに数字が表示され、試合開始までの残り時間を告げる。

 

 

──残り3秒

 

一夏は闘志を燃やす目を更に鋭くし、雪片弐型を強く握りしめ、南美は息を吐き、全身の力を抜く。

 

 

──残り2秒

 

南美は脱力した体にほどよく力を入れ、一夏を観察し、一夏は雪片弐型を正眼に構える。

 

 

──残り1秒

 

一夏は零落白夜を起動し、いつでも斬りかかれる体勢を確保、南美は構えを取り、指先に力を込める。

 

 

──残り0秒

 

 

カウントが0を刻み、開始を告げるブザーが鳴り響く。その瞬間、両者とも動いた。

 

 

「うぉぉおっ!!」

 

「沈めっ!!」

 

正眼の構えのまま突進する一夏の足下を掠めるように南美が低い体勢からスライディングで潜り込む。

 

「シャオッ!」

 

スライディングで足下を高速で通りすぎた南美は直ぐ様起き上がり、背後からの一撃で一夏を遮断シールドまで軽々と吹き飛ばした。

 

「どうしたの? 策があるんでしょ?!」

 

「今のはほんの小手調べってやつさ…。見せてやるさ、オレの“策”ってやつをさ。」

 

遮断シールドに叩きつけられた一夏は苦い笑みを浮かべながら立ち上がる。

スッと雪片弐型を構え直すが、正眼の構えではなく、上段に大きく振りかぶったままの上段の構えだった。

 

「行くぞ南美…。さっき言ったけど零落白夜はシールドエネルギーを無視する。当たれば…。」

 

「あぁ知ってるよ。だけど当たらなきゃただのなまくら刀さ。人の心配するなら人に当てられるようになってからするんだね。」

 

絶大な威力を持つ雪片弐型の零落白夜を前にしても南美の態度は変わらない。

だがその目には一切の油断もない。

それも当然だ、今彼女が対峙しているのは当たればそれこそ一撃必殺の刀なのだから。

 

「フゥゥゥ…。」

 

南美は極限まで集中力を高め一夏を見る。一方の一夏は零落白夜により徐々に自身のシールドエネルギーが蝕まれていく中、じっくりと攻めいる機を窺っていた。

 

─睨み合い、一時の静寂がアリーナを包む。

 

 

 

「ショォオオッ!!」

 

緊張を破ったのは南美だった。

 

セシリア戦で見せた瞬間移動とも言える高速機動で一夏の前に一瞬で踏み込む。

だが一夏も反応できていた。南美が自身の間合いに入った直後、予め上段に構えていた雪片弐型を振り下ろす。

 

それがいけなかった。

南美には反応されることすら予想の範疇だったのだ。

雪片弐型が振り下ろされた事を感じた南美は上段に蹴りを振り上げ、雪片弐型を握る一夏の腕を横にいなした。

そして横から力を加えられ、横にずれた雪片弐型の側面を蹴り飛ばす。

 

だがそこは一夏、初撃で何が起こったのかを把握し雪片弐型を固く握りしめ、次の一撃で飛ばされることはなかった。

 

「フゥゥゥ、シャオッ!」

 

しかしそこで手を止める南美ではない。蹴りを放つと、上体を起こしながら、強烈な裏拳を一夏の胸に打ち込む。

 

南美の一撃を受けた一夏の体が揺らぐ、だが次の瞬間に一夏の左腕が南美の腕を掴んでいた。

 

「捕まえたぜ、南美…。こうなりゃ動きの差なんかねぇよな?」

 

一夏は裏拳の痛みを堪えながら笑っていた。

 

「…コレがキミの言う“策”かい?」

 

「あぁそうだ、我ながらバカな作戦だと思ったよ。でも効果的だろ?ここまで接近すればオレと南美の動きの差も意味を為さないからな。」

 

一夏は左腕のパワーアシストを全開にし、南美の腕を握りしめる。四肢を踏ん張らせ、蹴りを受けようとも揺るがないように体を固めた。

 

「南美がオルコットさんとの試合で見せた最後のアレ、オレの零落白夜と同じくらいリスクがあるんだろ? じゃなきゃ一発目にアレをかまして即終わらせただろうし。」

 

「勘が良いね…。」

 

彼女は憎々しげに呟いた。

策に嵌まり、容易に組つかれたからなどではない、ただ、彼があることを失念していることに苛立っていた。

 

「オレはまだまだ素人だからな。勝つためならなんだってするさ。」

 

「良い心構えだ、感心する…。けど、勝ちに執着するなら罠に嵌めた時点でトドメを刺せ。さもなくば負けるぞ。」

 

「なんだって?」

 

南美は一夏の左腕に飛び掛かり体重を込めて下に引きずり落とす。

そして下に叩きつけられた衝撃で左腕の力が緩んだ瞬間に南美は拘束から抜け出した。

 

「キミは私が何者なのか、忘れてしまったのか? 私は総合格闘家だ、あの程度のホールドなどいくらでも抜け出す方法がある。」

 

一夏の拘束から抜け出した南美はひらりと身を翻して離れた場所へと着地する。

 

「一夏くん、キミと私の間には決定的な違いがある…。それは欲望、執念だ。今のキミにはまだまだ執念が足りない、そんなことでは一生私に勝つことは出来ない!!」

 

「なんだとっ!」

 

「現にキミは私を拘束して直ぐに雪片弐型を振り下ろさなかった…。本当に勝ちに拘るなら直ぐ様仕留めるべきだった。」

 

南美の指摘に一夏は歯を食い縛る。

だが目だけは南美をしっかりと捉えていた。

 

「キミはまだ甘い…。その甘さが命取りだ!」

 

「なっ?!」

 

南美はあの高速移動を繰り返し、一夏の視界から完全に外れ、死角をついて一夏に肉薄する。

 

「ショオッ!」

 

「がはっぁ?!」

 

死角から放たれた強烈な手刀突きを脇腹に喰らい、一夏は肺の中の空気を一気に吐き出した。

 

「トベッ!」

 

苦しさからから前のめりになった一夏の顎を思い切り蹴りあげ、体を浮かせる。

 

「シャオッ! ショォオオッ!! ウリャッ!」

 

浮いた体を地面に着けさせてもらえないまま空中での連撃を決められ、白式のシールドエネルギーは零落白夜によるスリップダメージも手伝って、みるみるうちに削られていく。

 

「やられっぱなしじゃねぇぞっ!」

 

南美の攻撃と攻撃の合間にあったほんの僅かな隙に一夏は空中で体勢を立て直し、雪片弐型で斬りかかる。

だが南美は一夏の反撃を見てから回避した。

 

この時、既に白式のシールドエネルギーは3割を切っている。

 

「ハァ…、ハァ、くそっ…。まだだ! まだやれる!」

 

疲労困憊の様子を窺わせる一夏であったが、その目は未だ諦めておらず、手は雪片弐型をきつく握りしめ、正眼に構えていた。

 

「オレは、オレは…。」

 

「こんな劣勢になっても諦めない…か、さすがだね。その不屈の闘志に敬意を表して、…せめて奥義で葬ろう…。」

 

スッと手を合わせる南美、そして次の瞬間には一夏の目の前にいた。

 

「南斗孤鷲拳奥義、南斗翔鷲屠脚!」

 

腹への膝蹴りから顎を蹴りあげ、一筋の雷光が駆ける。

その瞬間試合終了のブザーが鳴り、アナウンスが南美の勝利を告げた。

 

 

 

 

──控え室

 

 

試合終了後、一足先に控え室に戻っていた南美はISスーツから着替え終わり、荷物を纏めるとスッと帰って行った。

そして、彼女と入れ替わるように一夏が控え室に入る。

 

「一夏…。」

 

控え室にはたった一人、織斑千冬が彼を待っていた。

ベンチに座っていた彼女は一夏が控え室に帰って来た事を確認すると立ち上がって彼を出迎える。

一夏は控え室に千冬と自分以外誰もいないことが分かると彼女に近づいた。

 

「千冬姉、ごめん…、負けて…。」

 

「…お前はまだ未熟者だからな、次はどうすれば良いのか分かるだろう?」

 

千冬の言葉に一夏は俯いたまま黙って首を縦に振る。

けれども彼は拳を握りしめ、唇を噛み締めていた。

 

そんな状態の彼を見て、千冬は思わず彼をその胸元に抱き寄せる。

 

「何を焦っているんだ、一夏…。お前はよくやったよ、それは誰の目にも明らかだ。イギリス国家代表候補生と企業テストパイロット二人が相手だったんだからな。」

 

胸元に彼を抱き寄せ、慰めている彼女の声は鬼教官と呼ばれる普段の彼女とはかけ離れた、包み込むような優しさに溢れた声だった。

 

「ごめん、ごめんよ、千冬姉…。」

 

「どうして謝る…?」

 

「だって、だってオレ、千冬姉と同じ刀を使ったのに負けて…。千冬姉の顔にまた泥塗っちゃった…から…。」

 

「そんなことか…。気にするな。」

 

千冬の胸に抱かれながら幼子のように泣く一夏を彼女は優しく撫でる。

 

「さっきも言ったろう? お前は初心者なんだ。経験者に負けるのは仕方ないことだ。だからな、これから頑張れば良い。そして次に戦う時に勝てるようになれば良い。」

 

「うん…、オレ強くなるから、千冬姉に守ってもらってばかりじゃなくて…。オレも、今度はオレが千冬姉を守るから、守れるくらい強くなるから…。」

 

「あぁ、今のお前なら出来るようになるさ。だから今は存分に学べ、吸収しろ、貪欲に…。分かったら泣くのは終わりだ。今日の経験を次に活かせ、良いな?」

 

千冬の言葉にコクコクと頷く。それを確認した千冬は一夏を離す。

 

「分かったならよし。私は仕事があるから先に行くぞ、じゃあな織斑。」

 

直ぐ様仕事モードのスイッチを入れた千冬はそのまま控え室を後にした。

 

 

 

 

──セシリア側ピット シャワールーム

 

 

シャワールームの個室からサァァと水の流れる音が響く。

 

個室にはセシリア・オルコットがおり、今日の汗を流していた。

水滴が陶磁器を思わせる白く、キメの細かな肌に当たっては弾けていく。

 

 

side セシリア・オルコット

 

(今日の試合…。)

 

試合の興奮から離れようとシャワーを浴びたものの、思い起こされるのは今日の試合のことばかり。

 

南美さんの一戦は私に久しく忘れていたものを思い出させてくれました。

織斑さんとの試合…。

もし南美さんと先に戦っていなければ私は負けていたでしょう。あの時、プライドをかなぐり捨ててインターセプターを出したから私は勝利を掴めたのですから…。

 

そして織斑一夏さん…。

 

彼の事を思う度に、逆連想のように出てくる私の父の姿…。

 

常にお母様の顔色を窺う弱い人だった。名家に婿養子として入った引け目から常に家の者にも弱々しい態度をとっていた父は、ISが出来てから益々その態度が弱々しくなった。お母様もそんな父の事を鬱陶しく思っていたのでしょう…。

 

お母様は強い人だった。幾つもの企業を経営し、1代で大きな成功を納めたお母様は私の憧れだった。

そう、“だった”…。

 

もう私の両親はいない、列車事故に巻き込まれて、3年前に私と莫大な遺産を残して…。

 

オルコット家の名を、両親が残した物を守るためにISパイロットになり、国家代表候補生に選ばれた。

そして国からの命令で来たこの日本で出会ってしまった、織斑一夏、私の理想、強い信念を持った殿方に…。

 

「織斑…、一夏さん…。」

 

彼の名前を口に出してみると、不思議と胸が締め付けられたように切なく、熱くなったのが自分でも分かる。

 

甘く、切ない気持ち…。

 

自分はこの気持ちがなんなのか、本能的に分かった。

私、セシリア・オルコットは彼に恋をしている。

出会って数日で恋に落ちるとは、三流小説のヒロインみたいですわね。

けれども、それで良いのかもしれませんわ。

この気持ちは紛れもない事実なのですから…。

 

 

side out...

 

 

こうして1年1組のクラス代表を決める決闘は一人の少年が次への想いを固め、一人の少女が自らの想いを知って幕を閉じた。

 

 

 

 





千冬さんが優しい…。
仕事モードとプライベートモードのギャップが激しいからですが、こんな千冬さんもアリ…ですよね?


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