今回は少し短めです。
まさか1日に3話も出せるとは…。
「シャオッ!」
鋭い蹴りが少女のこめかみを捉える。
蹴られた少女はその場に倒れこみ、立ち上がらない。
近くにいる男のカウントダウンの声がよく響き、10カウント目を迎えるとゴングの音が鳴り響いた。
「またもや1ラウンドでノックアウト! 3連覇を目指す女王 北星南美、1回戦から準決勝までのすべてを1ラウンド目で勝ち上がっている!」
夏真っ盛りの今日は南美にとって特別な日だ。
全国中学生総合格闘技大会、南美にとって最後の中学生大会。
ノックアウトした相手を1度だけ見ると、リングと相手、そして審判に一礼をして南美はリングを立ち去った。
──TRF‐R事務室
(眉゜Д゜)<強すぎんだろアイツ…。
(*´ω`*)<他との格が違いすぎる…。
修羅勢が集まってテレビ放送されている南美の試合を見ていた。
もちろん事務室の住人であるモミー店長公認の行為である。
「お姉ちゃん、お疲れさま~。」
「ん、ありがとうあーちゃん。でもまだあと1試合残ってるわ。」
試合を終えた南美はタオルで汗を拭きながらギャラリーに上がる。すると天慧が走り寄って来る。
それを南美は片膝をついて優しく抱き止めた。
「やっぱり君は凄いね。」
「あ、鷲頭さん。いらっしゃったんですね。」
「勿論だよ! 私は君のファンだからね、試合があれば見に来るさ。」
スーツ姿で渋さを漂わせる鷲頭が笑う。
まさか、1企業の社長がここにいるとは誰も思うまい。
「さて、決勝戦だが勝算はあるのかい?」
鷲頭の問いに南美は不敵に笑う
その顔は格闘家北星南美として、自信に満ち溢れた表情だった。
「もちろんですよ、私が同年代で負けるとすれば、…あの人しかいない。けど、あの人はもうこの大会にはいません。よって私は負けない。」
南美の脳裏に彼女の姿が思い浮かぶ。
誰よりも美しく、そして強かった青髪の少女。
南美が父親以外に目指した唯一の存在。
鷲頭の問いに答えた直後、決勝戦の開始が近いことを告げるアナウンスが放送される。
それを聞いて南美は立ち上がった。
「それじゃあ行ってくるね、あーちゃん。」
「うん、お姉ちゃん頑張って!」
「あ、あの…。」
「ほんわ君さん!?」
控え室への途中、南美は思いがけない人物に呼び止められた。
「ど、どうしてここに…?」
「そ、その、ノーサさんの大会が今日だって聞いて。応援に来ちゃいました…。」
予想していなかった人物の登場に南美は一気に乙女モードになった。
想い人が応援に来てくれた嬉しさから、南美の心拍数はぐんぐんと上がっていく。
「あ、えと、その、ありがとう…ございます。」
「は、はいその頑張ってください。」
「~‼ あ、あのほんわ君さん…。」
茹でタコのように顔を真っ赤にした南美が切り出す。
「あ、あのですね…、私頑張りますから、もし優勝出来たらご褒美、くれませんか?」
「え…、あっ、はい! もちろんです。」
南美の言葉にほんわ君は力強く頷く。
ほんわ君の言葉を聞いた南美は小さく微笑み、右手の小指を立て、ほんわ君の方に差し出した。
「じゃあ約束ですよ?」
「は、はい。」
二人は指切りを交わして、そのまま南美は控え室に、ほんわ君はギャラリーの中でも特に見えやすい場所へと移動した。
「全国中学生総合格闘技大会決勝戦を始めます、第1コーナーは北星南美選手、第2コーナーは──」
審判の進行によって南美と対戦相手がリングの上に上がる。
南美の顔つきは先程までの乙女の面影は一つも残っておらず、格闘家北星南美の顔に戻っていた。
─カァン
試合開始を告げるゴングが鳴る。
小刻みなステップを踏みながらお互いに間合いをはかる。
「シャオッ!」
最初に仕掛けたのは南美だった。
鋭い踏み込みから一気に相手の懐に潜り込み、鋭い正拳突きを鳩尾に放つ。
「く、ふぅ?!」
反応の遅れた相手はもろにその一撃を喰らい、口から空気を吐き出す。
「ショオォ、シャオッ!」
体勢の崩れた相手を見て南美はさらに追撃する。
垂直に跳び、相手の顎をかち上げ、無防備になったこめかみに伝家の宝刀とも称される一撃必殺のハイキックを叩き込んだ。
相手はそのまま倒れ込む。
呆然としていた審判もそれを見てやっと我に返り、カウントを開始する。
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ─」
リングの上で空しくカウントの声が響く。
南美は倒れている対戦相手をただじっと見つめているだけだった。
「エイト、ナイン、テン!」
─カァンカァンカァン
試合終了を告げるゴングが3度鳴る。
その瞬間、審判が南美の右手を掴み高々と掲げさせる。
南美の表情はとても誇らしそうな顔をしていた。
こうして南美は全国大会3連覇という偉業を成し遂げたのである。
その頃、剣道競技の会場では
─スパァン
南美が全国優勝の偉業を成し遂げた頃と時を同じくして、剣道競技の男女優勝者が決定していた。
「おめでとうお姉ちゃん!!」
「ふふ、ありがとうあーちゃん。」
南美の控え室で南美は妹から祝われていた。
妹だけでなく、日頃から友人として付き合ってきたクラスメイトが数名いる。
「スッゴいじゃんミナミン、優勝だよ?」
「まーた女子中学生らしからぬ伝説が増えるのか…。」
「おめでとう~‼」
「えへへ、ありがとう~。」
手放しに誉めてくる友人たちの言葉に南美は頬をだらしなく緩めていた。
その膝には妹の天慧を抱えたままで。
すると、控え室の入り口からほんわ君が中の様子を伺っていた。
「あ、ほんわ君さん!!」
「や、やあ…。おめでとう、ノーサさん。」
南美は天慧を下ろし、笑顔でほんわ君を出迎える。
「ほおほお、あれが噂の…。」
「話には聞いてたけど、ホントに年上に見えないね~。」
「合法ショタと女子中学生…、アリだね。これは冬の聖戦で売る本のネタに…!」
「えっと…さ、そのご褒美をあげるって話だったけど、具体的にはどうしたら良いかな?」
ほんわ君の言葉に南美はん~と少し考える素振りを見せる。
そして何かを思い付いた表情を浮かべると、小さく、ほんわ君の耳元で囁いた。
「今年のクリスマス、予定を空けておいてください。」
「え…?」
顔を赤くして戸惑うほんわ君をよそに、南美は悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「クリスマスに私とデートしてください。」
「ふぇ、え、ええっ?!」
南美のお願いに赤くなった顔をますます赤くして戸惑うほんわ君、そんな姿を見て、表には出さないが南美はその可愛さに悶えていた。
「約束…ですからね。」
「は、はい…。」
ほんわ君とクリスマスの約束を取り付けた南美は友達に当日のコーディネートを頼み終わると、ある人物に電話を掛けた。
「─プルルル どうしたんだいノーサ…、あぁそれと、優勝おめでとう、テレビで見てたよ。」
「はい、ありがとうございますカセンさん。それで…なんですけど、その、アドバイスをもらいたくた…。」
「アドバイス? 何のだい?」
カセンからの質問に南美は顔を赤くして体をもじもじさせる。
「そ、その…ですね、ほんわ君さんとクリスマスデートの約束を取り付けたんです。だから、あの、どうすれば良いのか、アドバイスをください!」
「ふ~ん、あんたがやっとあのバカとデートを…。成長したねぇ。アタシは嬉しいよ。おっと、話がずれたね、それじゃあ──」
南美はカセンからのアドバイスを一字一句漏らさぬようにメモするのであった。
クリスマスまで残り4ヶ月のことである。
カセンさんは頼りになります。
南美ちゃんは強いです、世界クラスのお父さんとのスパーリングは伊達じゃない。
さあて中学三年の夏までやりました。残りは冬の一大イベントを消化して、入試をやれば原作だぁ!!
やったね。