今回は平均的な長さです。
では本編をどうぞ↓
前回のあらすじ…
ノーサちゃん進級
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土曜大会新年度スペシャルだぁ、ヒャッハー
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予定より早く大会が終わるという奇跡
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店長「ノーサちゃん、ほんわ君のお見舞いに行ってくれない?」
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ノーサ「分かりました。」
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ボロアパートのほんわ君の部屋前←今ここ
side ノーサ(北星南美)
頼まれたまま遂に来ちゃったけど、い、良いんだよね?
あぁ、もっとお洒落な服着てくればよかった…。土曜大会だからって気を抜きすぎた、私のバカ!バカバカバカ!!
うぅ…、髪形とか変じゃないかな? 匂いとか大丈夫かな…、汗臭くない…よね?
やっぱりタオルとか家に取りに行った時に着替えれば良かった…。
だらしない女の子って思われたらどうしよう…。
よ、よし大丈夫。身だしなみはある程度整えた。
インターフォンを押して…と。
─ピンポーン
…アレ、反応がない、いや物音一つしないぞ…。
も、もも、もしかしてインターフォンに気づけないくらい重症なんじゃ。ダメだ、そう思ったら嫌なビジョンが浮かんできた…。
「ほんわ君さん、ほんわ君さん!」
私は頭を過る嫌なビジョンを振り払うように頭を横に振り、ほんわ君さんの部屋のドアを叩く。
何度目かのノックのあと、ガチャッとカギの開く音が聞こえた。
玄関のドアを開けたのはほんわ君さん、当然と言えば当然のこと。でも私はその事に凄い安堵を覚えた。
side out...
side ほんわ君
体が重い、怠い…。
まさかこんな時に熱を出すとは思ってなかったなぁ。
心当たりはある。ここ最近眠れてなかったからだろう。
それにしても、熱用の薬も冷えピタもこういう時に限って手元にない。
─ピピピ ピピピ
体温計のアラーム…、熱は38.9度か。今朝より0.2は下がったけど、依然として高いままか。
…お腹減ったなぁ、そういえばもうお昼はとっくに過ぎてたか。
でも、今の体調じゃあ碌に料理もできないし、どうしよう…。
─ピンポーン
ん? 誰だろう、大家さんかな? でも家賃とか払うものはとっくに月の頭に払い終えてるし。
じゃあ店長かカセンさん…もないな。今はまだ店はやってるし、僕が休んだ分、二人の仕事も増えてるんだし来れるはずがない…。
…もしかして、ノーサさん?
いやいやいや、これはもっとない。今日はTRF‐Rの土曜大会があるんだし、そもそも彼女はここを知らないんだ。
来るはずがないよ。
─ドンドンドン
「ほんわ君さん、ほんわ君さん!」
強めのノックと同時に聞こえてきたよく通る明るい声、そして僕を“ほんわ君さん”とさん付けで呼ぶのは彼女しかいない。
どうして来てくれたのかは分からないけど、間違いない、彼女だ。
僕の幻聴じゃないことを信じたい。
重い体に喝を入れて玄関に向かう。
こうしている間にも僕を呼ぶ声が聞こえる。
もうすぐで玄関だ…。
─ガチャ
ドアノブに手を掛けて開ける。
そこには僕が心の底から慕う女の子、ノーサさんがいる。
「ノーサさん…。」
気づいた時にはそう言っていた。
僕の姿を見たノーサさんは凄く安心しているように見えたって言うのはちょっと自意識過剰かな?
「ほんわ君さん、大丈夫ですか?」
ノーサさんの表情はとても心配しているみたいに見える。
心配かけないように振る舞った方がいいよね?
「大丈夫ですよ、それより立ち話もなんですから入ってください。」
あれ、足に力が…。まずい、倒れる…。
僕は次に来るだろう衝撃を想像して目を閉じる。
「ほんわ君さん?!」
聞こえてきたノーサさんの声。体は床に当たったような固い衝撃は感じなかった。代わりに柔らかい物に支えられた。
ノーサさんの体だ。どうやら倒れる前に支えてくれたらしい。
「えっと、すいません、ノーサさん…。」
「大丈夫ですよ、私なら。それより早く横になった方がいいですね、ちょっと失礼しますよ。」
そう言ってノーサさんは僕を抱える。いわゆるお姫さま抱っこというヤツだ。
やられると案外恥ずかしい。
「そうですか、店長に頼まれて…。わざわざありがとうございます。」
ノーサさんに運ばれ、ベッドで横になった僕は彼女がここに来た理由を聞いた。
自主的じゃなくてお願いされて来たのが少しだけ残念に思うけど、来てくれたことは素直に嬉しい。
ふぅと一息つくと今度は腹の虫が騒ぐ。
盛大にお腹の音を聞かれてしまった。
僕のお腹の音を聞いたノーサさんは小さく笑って立ち上がる。
「今からお粥作るので、キッチン借りますね。」
笑顔を浮かべ、慣れた手付きでエプロンを身につけた彼女はとても可愛く見えた。
─トントントントン
キッチンから聞こえて来るのは小気味良い包丁の音。最近久しく聞いていなかった音だ。
「お待たせしました、ノーサ特製の卵粥です。」
ノーサさんがお盆に乗せて持ってきたお椀の中身はなんの変哲もない普通の美味しそうなお粥。
ノーサさんはお椀を持ってベッドの横に置いてある椅子に腰掛けた。
僕もお粥を食べるために上体を起こす。
「はい、あーんしてください。」
ノーサさんはお粥をレンゲで掬うと息を吹き掛けて冷ましてからこっちに向けてきた。
「だ、大丈夫ですよ、自分で食べられますから!」
けれどさすがに恥ずかしいので反対する。
いくらなんでもそれは恥ずかしすぎる。そう思ってノーサさんの手からお椀を取ろうとしたけど、熱で弱った僕に遅れを取るようなノーサさんじゃない。
僕の抵抗は軽くいなされて終わった。
「ダメです。熱で体が弱ってて、握力も落ちてるんですから。お椀は渡せません。はい、いいからあーんしてください。」
そう言ってノーサさんは再度僕にお粥を掬ったレンゲを向けてくる。
仕方ない、のかな?
でもよく考えてみればノーサさんに食べさせてもらえる貴重な機会なんだ。
少しの恥ずかしさをなんとか自分の中で誤魔化しつつ、差し出されたお粥を食べる。
「おいしいですか?」
「おいしいです、とても…。」
お世辞抜きで本当においしい。
お米の控えめな甘さと程よい塩加減、卵の優しい味にネギの香り…。
ノーサさんって話には聞いてたけど、本当に料理が上手なんだな。
「お口に合って良かったです。どうですか? お椀によそってきた分は食べられそうですか?」
「はい、これならぺろりと行けそうです。」
「そうですか。じゃあ、はい、あーん。」
…やっぱりこうなるのか。
「それじゃあ、ほんわ君さん、脱いでください。」
あっという間にノーサさんが作ってくれたお粥を平らげた僕に彼女はそう言った。
「ぬ、脱ぐって…。」
「寝汗かいたままだと体が冷えちゃいますから。横になる前に1度拭いちゃいましょう。」
そう言うことか…。少しだけ期待してしまったのは胸の内にしまっておくことにしよう。
寝汗をかいて少し嫌な感じがしていたのも確かだし、ここは素直に従うのがいいだろう。
「じゃあ体を拭いていきますね。」
ノーサさんは水で濡らして固く絞ったタオルを僕の体に当てる。
その冷たさが気持ちいい。
「あの、上半身は終わったんですけど、その…、下は自分でできますか…?」
ノーサさんの顔が赤い…、下? あ、そっか、そうだよね。うっかりしてた…。
タオルを受けとるとノーサさんは急いでこっちに背を向ける。
「もう、大丈夫ですよ…。」
体を拭き終え、服を着てからノーサさんに呼び掛ける。
僕の呼び掛けに応じて彼女がこっちを向く。
「それじゃあ、お薬も飲みましたし、後は横になっててください。お洗濯とか私がやりますから…。」
そこまで任せて良いのだろうか…?
確かに今動けないからやってくれるのは凄い助かる。幸い見られて困るものはないし。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ。」
「はい、任せてくださいね。」
そう言ってノーサさんは洗濯をしに部屋を出ていった。
横になると、眠気が急に強くなってきて、ノーサさんがいることを噛み締めたい気持ちがある一方で僕は意識を手放した。
side out...
side ノーサ
掃除と洗濯を終えた私は1度ほんわ君さんの様子を見に部屋へ入る。
ベッドの上にはすやすやと規則正しい寝息を立てて眠るほんわ君さんの姿があった。
無防備な寝顔がとても愛くるしくて、思わず抱き締めたくなる。
けれど、それをぐっと堪えてベッドの横にある椅子に座る。
近くで見るとよりはっきり分かるその愛らしさ。
でも1度ゲームを始めるとこんな愛らしさからは想像できないくらい格好いい。
私はほんわ君さんのそんなギャップも好きだ。そしてこの愛らしい表情も。
だから今日、ここに来れて良かったと思う。モミー店長には感謝してもしきれないよ。
でも、そろそろ帰らないと時間的にまずい…。
名残惜しい気持ちが私の足を鈍らせる。
ただ、黙って帰るのも悪い気がして私はメモ用紙にペンを走らせ、それをベッド横の椅子の上に置く。
ごめんなさい、ほんわ君さん。今日はもう帰りますね。
寝ているほんわ君さんを起こさないように私は静かに部屋を出ていった。
side out...
side ほんわ君
ん…? もう朝…か。体もすっかり軽いし、熱もほとんど下がったっぽい。ノーサさんには感謝しないと…。
あれ?なんだろう、メモ用紙だよね。ノーサさんの筆跡だ。
え~と、「お熱はもう下がりましたか? これからはお体を大事になさってくださいね。ノーサより。 追記 また体調を崩されたらこのアドレスか電話番号まで連絡してください、看病に行きますね。」って、ノーサさんの連絡先が書いてある…。ホントに優しい人だなぁ。
なんか期せずしてノーサさんの連絡先を入手できちゃったよ…。
今回熱を出して良かったかも…。それに、ノーサさんを送ってくれた店長にも感謝しなきゃ。
後でノーサさんにはちゃんとお礼しないと。
side out...
ノーサは可愛い。