IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回はいつもよりちょっと長めです。

※注意※
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、事件等と一切関係はなく、また中野TRFやそこに通うプレイヤーの方々を誹謗・中傷する目的は一切ありません。

いつもの前置きが済んだところで本編をどうぞ↓


第7話 ヒャッハー恋バナだぁ

「あ、ほんわ君さ~ん、こっちです!」

 

冬の寒さも緩んできた2月の中頃、南美はTRF‐Rの店員、ほんわ君と待ち合わせをしていた。

と言っても場所はいつものレゾナンスである。

 

今日の南美の服装はいつもと違うショートパンツスタイルであった。なぜ彼女がそんな格好をしているかと言うと、同級生にほんわ君と買い物に行くことが伝わり、デートだと勘違いした(傍から聞けばただのデートだが)同級生達から気遣いを回され、コーディネートされたのである。

 

 

南美、いやノーサを始めとする修羅やモヒカン達の入り浸るTRF‐R(忘れているかもしれないが、TRF‐Rの正式名称は“東京ランキングファイターズレゾナンス店”である)のある駅前大型ショッピングモール“レゾナンス”には様々な店が存在するため、買い物にはうってつけの場所だ。

 

「ノーサさん、お待たせしてすいません。」

 

「大丈夫ですよ、私もついさっき来たところですから。」

 

「そ、そうですか。よかった…。」

 

そんなデートの待ち合わせのようなやり取りをする二人を遠巻きに見る複数の人影がいた。

 

 

 

(こ・ω・)<初々しいねぇ。

 

(モヒ・∀・)<青春ですわ~。

 

(眉゜Д゜)<おい、オレがノーサの事を言うと憲兵呼ぶくせに何でほんわ君はセーフなんだよ。

 

 

その正体はTRF‐Rの誇る世話焼き部隊、通称“ノーサちゃんの青春を見守り隊”である。

この隊はTRF‐Rに通う北斗勢のモヒカンや修羅だけでなく、ノーサがメインに据えてプレイするギルティギア勢やBASARA勢も構成員に含まれている。いや、むしろそれら三勢力に留まらず、TRF‐Rの常連ほぼ全員が構成員と言った方がいいくらい大規模組織だ。

 

彼らは今までノーサに気づかれないようにそれとなく彼女の青春を見守り続けてきた。イエス、ノーサ!ノー、タッチ!の精神である。

 

彼らはノーサと年齢が離れているがゆえに、彼女に手を出した場合お巡りさんを呼ばれる可能性が高い者達ばかりであることが大きな理由だ。

 

そして、ある者は年下の彼女に恋慕を抱き、またある者は娘や妹をに対する家族愛にも似た感情を抱き、彼女を見守る。

 

彼女に対する感情は別々であるが、一つだけ共通する信念がある。それは“ノーサが幸せになること”である。

 

彼女を泣かせることは彼ら全員を敵に回すことと同義である。

 

そして彼らは彼女が幸せになれるならば潔く身を退き、気づかれないようにバックアップする所存である。

 

 

 

「え~と、今日は何を買いに行くんですか?」

 

「店長が今使ってる撮影機材がそろそろ替え時だから、それを買いにね。」

 

「じゃあ4階ですね、さっそく行きましょう!」

 

 

 

(モヒ゜Д゜)<こちらB班、どうやら二人は4階の撮影機材売り場に向かう模様です。

 

(モヒ・ω・)<こちらA班、B班はそのまま尾行、気づかれるなよ。C班は4階に先回りしろ。

 

(モヒ・∀・)<こちらC班、了解した。

 

(*´ω`*)<コイツらガチだ。馬鹿しかいねぇ。

 

(眉゜Д゜)<北斗勢には馬鹿しか居ないがアホはいねぇから大丈夫だろぅよ。

 

(こ・ω・)<名言いただきました。

 

 

 

「運よく安く買えました。」

 

「今日が安売りの日でよかったですね。」

 

「はい。それで、ノーサさんは買う物とかの予定は決めてますか?」

 

「いえ、まだ決めてません。ですから適当にぶらついて見て行こうかなって。」

 

4階の撮影機材売り場にて、ほんわ君の目的を果たした二人は今後の予定について話していた。

 

 

 

(モヒ・ω・)<ノーサちゃん可愛いよ~。

 

(モヒ゜∀゜)<羨ましいぞ、ほんわ君っ!!

 

(モヒ・Д・)<目標が行動を開始、恐らく服を買いに行くと思われます。

 

(モヒ・∀・)<尾行開始します。

 

 

 

 

「ん~?」

 

「どうしました、ノーサさん。」

 

キョロキョロと不思議そうに周囲を見回すノーサを見てほんわ君が彼女を見上げながら尋ねる。

 

「いや、その…、さっきから誰かに見られてる気がして…。」

 

「ノーサさんが可愛いからみんな見てるだけですよ、きっと。」

 

「か、可愛い…ですかね?」

 

ほんわ君の放った何気ない一言にノーサの顔が瞬く間に紅潮する。

 

「はい、とっても。北斗をしてる時の凛としたノーサさんも素敵だと思いますが、やっぱり普通にしてるノーサさんも可愛いと思います。」

 

面と向かって言ったあと、自分の言ったことをようやく理解したほんわ君が隣にいるノーサと同じくらい顔を真っ赤に染め上げた。

 

「あ、ああ、そ、その今のは、ですね…。」

 

「え~と、その、悪い気はしませんでした。だから誤魔化さなくて大丈夫です…。」

 

「そ、そうですか。はは。」

 

お互い赤くなった顔を見られないように真っ直ぐ前を向く。

 

「あ、ここです。」

 

ノーサがある店の前で足を止める。そこは女性向けの洋服店だった。

 

「すこし春物の服が見たいので、付き合ってもらってもいいですか?」

「は、はい、構いませんよ。」

 

 

 

 

(モヒ・∀・)<あのノーサちゃんが、洋服を買う…だと⁉ それも季節を先取りして…。

 

(モヒ・Д・)<何てことだ。そんなこと、この海のリハクをもってしても見抜けなんだ…。

 

(モヒ・ω・)<しかもそれを間近で見れるとは、羨ましすぎるぞ、ほんわ君っ!!

 

(モヒ゜Д゜)<だ、誰かカメラの準備を! ノーサちゃんの貴重な姿が見れるぞ!!

 

 

 

 

「えと、どうでしょうか?」

 

試着室のカーテンを開けて姿を現したのは、普段のジャージやジーパンにTシャツという残念美少女なノーサではなく、どこか深窓の令嬢を思わせるような上品さを漂わせるしっかりと女の子らしい姿を魅せるノーサであった。

 

 

 

(モヒ・ω・)<か、可愛い…ハッ⁉

 

(モヒ・Д・)<女神がいる…。

 

 

 

「と、とても似合ってますよ。」

 

「そう、ですか、ありがとうございます。」

 

「いつもと違うノーサさんって感じで凄く可愛いと思いますよ。」

 

 

 

 

 

(モヒ゜Д゜)<「いつもと違うノーサさんって感じで凄く可愛いと思いますよ。」「そ、そんなこと言われ慣れてないからなんだか照れちゃいますよ…。」という感じの会話をしています。

 

(眉゜Д゜)<読唇術でそこまで分かるのな。モヒカンのスペック嘗めてたわ。てか、うちのモヒカン連中のスペックがおかしいぞ。

 

(こ・ω・)<いやー、青春してますね~。

 

(*´ω`*)<オレのコーヒーに砂糖をぶちこんだヤツ誰だよ。

 

(眉゜Д゜)<このテーブルに砂糖はない。

 

(*´ω`*)<なんっ…だと!?

 

 

 

「じゃあお会計しましょう。その服をください。」

 

「いや、そんな悪いですよ。私の買い物なんですし、自分で払いますよ。」

 

「いいんですよ、買い物に付き合ってもらったお礼です。」

 

ノーサの手からから先程来ていた服一式をいれたかごを取り、ほんわ君はレジに向かう。

だが、そんなことを簡単に許すノーサではなく、ほんわ君の肩を掴み、その挙動を抑える。

 

「元々今日は私が約束を果たせなかった埋め合わせじゃないですか。そこでほんわ君さんに甘えるのはなんかダメな気がします!」

 

「じゃ、じゃあ半分出します。それ以上は譲れません。」

 

「う、う~、分かりました。そこまで言うなら、申し訳ないですがお願いします。」

 

引き下がらないほんわ君の態度にノーサが折れ、肩を掴む手の力を緩める。

 

 

 

「なんだかほんわ君さんに負けた気分です。」

 

レジで会計を済ませた二人はちょうど昼時ということもあり、休憩も兼ねてフードコートエリアにて腰を落ち着けていた。

 

「さっきだってさりげなく私のご飯代も払ってくれてますし…。」

 

う~と頬を膨らませるノーサにほんわ君はあははと苦笑いを浮かべる。

 

「ノーサさんはもう少し周りに頼っても良いと思うよ?TRF‐Rじゃ最年少なんだしさ。チクリンさんだってあの動画の中で頼ってほしいって言ってたじゃん。」

 

「今回の話は頼る頼らないじゃありませんよ。お金で借りを作る・作られるのって私は苦手なんです。」

 

ノーサはむぅーと頬を膨らませて横を向く。

その姿にほんわ君は思わず頬を緩めてしまった。

 

「なんですか? 人の顔見てニヤニヤして…。」

 

「不機嫌になってるノーサさんの顔も可愛いな、と思いまして…。」

 

「きゅ、急にそんな話はしないでください!…ん?」

 

ガタッと立ち上がってほんわ君に詰め寄ると何か見覚えのあるものがほんわ君の肩越しから見えた。

 

するとノーサは大きく息を吐き出し、荷物を手に取った。

 

「もういいです。次の場所に行きましょう。」

 

「? う、うん。」

 

事態が飲み込めていないながらもほんわ君は置いていかれないように席を立ってノーサを追う。

 

「ノーサさん? どうしたの?」

 

「いえ、ちょっと早足になります。置いてかれないようにしてください。」

 

そう言ってノーサはほんわ君の手を握り、歩く速度を上げ、スッと曲がり角を曲がる。

 

(モヒ・ω・)<対象が角を曲がりました。

 

(モヒ・Д・)<見失う前にすぐに追います。

 

二人のモヒカンがノーサ達の後を追い、角を曲がるとそこにいたのは腕を組んで仁王立ちするノーサとその横で困惑した表情を浮かべるほんわ君だった。

 

「あんたらはこんなところで何をしているのかなぁ?」

 

(モヒ・Д・)<そ、それはその…。

 

(モヒ・ω・)<休日のショッピングですよ、はい。

 

「へぇ、あんた達はインカムマイクや双眼鏡を装備しながら買い物するんだぁ、ふ~ん、そうなんだぁ。」

 

膝の震えているモヒカンの前でノーサは笑顔を浮かべる。

 

「見たのよね? 買い物途中の風景を…。」

 

(モヒ・ω・)<は、はい、それはもうばっちりと。見てるこっちが恥ずかしくなりました。

 

(モヒ・Д・)<お、おい、バカ!

 

「どうせ他のメンツもいるんでしょ? さっさと全員集めなさい!!」

 

(モヒ・ω・)<は、はいいぃぃいいい! 今すぐに‼

 

 

 

 

──TRF‐R店内──

 

「それで? 何か申し開きはあるのかしら?」

 

ノーサは集められたモヒカン達(プラスアルファ修羅数名)をTRF‐Rの床に正座させ、その前で仁王立ちしていた。

 

(モヒ・Д・)<そ、その、すいません。

 

(モヒ・∀・)<許してください、ほんの出来心だったんです(大嘘)

 

反省した様子(上辺だけ)のモヒカン達を見てノーサはふ~んと呟き右手を前に差し出し中指と人差し指、親指を立てる。

 

「今日の私は紳士的よ、運が良かったわね。よって、ネズミのようにここから逃げおおせるか、リアルファイトで私のサンドバッグになるか、ノーサ道場に通うか…。どれか選びなさい!」

 

(モヒ゜Д゜)<ひ、ひぃ! オレは逃げるぞ、まだ死にたくねぇんだ!!

 

「南斗獄屠拳!!」

 

(モヒ゜Д゜)<ひでぶぅっ!!

 

「おめおめと逃げ帰れると思うなよ。貴様らに朝日は拝ませねぇ!!」

 

(モヒ・ω・)<オレ、実は故郷に婚約者がいるんだ。今年の夏に結婚式をあげる予定なんだ。

 

(モヒ・∀・)<弟の病気がやっと治るみたいなんだ。だからそろそろ顔を見せにいかねぇとな。

 

(こ・ω・)<待てやモヒカンども、何で死亡フラグおったててやがるんだよぉお!イヤだぁ、やめろぉ死にたくなーい、まだ死にたくなぁい!!

 

「南斗旋脚葬っ!! 南斗千手斬っ!! 地獄に突き落としてやる!!」

 

(モヒ・ω・)<あべしっ!!

 

(モヒ・∀・)<ちにゃっ!?

 

顔を真っ赤にしながらノーサは鬼神の如き強さを発揮する。

その顔が赤い理由はショッピング風景を見られた羞恥からか、それとも見られたことに対する怒りなのかはノーサ本人にしか預かり知らぬところである。

 

 

 

 

「おーおー、また一段と派手だねぇ。」

 

「あ、カセンさん。」

 

TRF‐Rの店内で繰り広げられる惨劇を遠巻きに眺めていたほんわ君に同僚のカセンが話し掛けた。

 

「頑張ったみたいだねぇ、あんたにしてはさ。」

 

「は、はい。らしくないことばかり言ってて緊張して、凄い疲れましたよ…。」

 

「はっはっは、それだけあんたがノーサに惚れてるってことさ。自分らしくないことでも、あの子に喜んでほしくて、笑ってほしくて頑張った。それだけでも一歩前進さぁ。」

 

カセンはそう言ってほんわ君に笑いかけると、くわえていたタバコに火を着けた。

スッと白い煙が立ち上ぼり、すぐに消えていく。

 

「カセンさんには感謝します。今日のために色々とアドバイスしてもらって。」

 

「いいんだよ、礼なんざ。私の趣味半分だしねぇ。」

 

ほんわ君の真っ直ぐなお礼にカセンは照れたように目を逸らして、髪を手櫛ですく。

 

そんなやり取りをしていると、もはやゾンビのように、と言うとやや大袈裟だが、ボロボロになった眉毛とこあらがほんわ君とカセンに歩み寄ってきた。

 

(眉゜Д゜)<よぉ色男…。

 

(こ・ω・)<マジな話でホントにノーサに惚れてんの?

 

「は、はい。それはその通りです。」

 

(眉゜Д゜)<お前いくつよ?

 

「21です、今年の秋で22歳になります。」

 

(こ・ω・)<合法ショタの実年齢聞くとほぇーってなるよね。

 

(眉゜Д゜)<ほんわが今年で22で、ノーサが今年の春でなんになるか分かるか?

 

「中学三年生です。」

 

眉毛の口調に小さい体をほんわ君はさらに小さくする。

 

(こ・ω・)<眉毛さん、言い方怖いって。別にほんわ君は中学生に対してなんかそう言う劣情を催すって訳じゃないんでしょ?個人としてノーサが好きなんでしょ?

 

「はい、そうです。」

 

(こ・ω・)<ほらね? だから眉毛さんが心配することないですって。このままだとオレら完璧悪役っすよ?ジャギっすよ?ジャッカルっすよ?モヒカンっすよ?

 

(眉゜Д゜)<分かってるっての。確認したかっただけだ。ほんわのヤツがいいヤツだってことくらい分かるわ。

 

(こ・ω・)<ごめんねほんわ君。じゃ、また。ほら、行きますよ、眉毛さん。

 

(眉゜Д゜)<わぁってるよ。

 

 

 

 

「まだ生きていたのか、烈脚空舞!」

 

(こ・ω・)<うわらばっ!?

 

(眉゜Д゜)<ひぎぃい~っ!!

 

「せめて痛みを知らず安らかに眠るがいい。」

 

 

 

FATAL K.O ウィーン シン パーフェクト

 

「ほら、早くコインを入れろ。」

 

(モヒ゜Д゜)<も、もうイヤだぁ⁉

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、すっきりした。」

 

モヒカン、修羅を粛清したノーサはTRF‐Rを後にし、一人で駅前のカフェに来ていた。

 

「…、結局渡せなかったなぁ。はぁ…。」

 

ノーサは鞄の中からあるものを取りだし、溜め息をついた。

それはキレイにラッピングされた小さな箱。丁寧に巻かれたリボンには「Happy Valentine」という刺繍があしらわれている。

そして、リボンと共に「ほんわ君さんへ」と可愛いらしい文字が書かれた二つ折りの紙が添えられていた。

 

「ほんわ君さん、どうすれば私の事を好きになってくれますか…。もっと素直になれば変わるのかな?」

 

渡せなかったチョコレートの箱を見つめる彼女の顔は恋する乙女のそれであったと、遠くから見ていたカセンは語った。

 

 

 

 

 

 

本日の被害者

修羅3名(えぐれシジミ、眉毛、こあらさん)

 

モヒカン23名

 

被害内訳

 

逃亡成功者 0名

 

重傷者(精神的) 8名(えぐれシジミ:ノーサ道場にて、圧倒的舐めプされても1勝すらさせてもらえず、心の肋骨が複雑骨折。他7名も同様。)

 

軽傷者(精神的) 16名(全員が軽いトラウマを負った。精神科医曰く、すぐに克服できるものらしい。)

軽傷者(肉体的) 26名(軽い打撲や切り傷、擦り傷など。医者曰く、ツバつけとけば治るらしい。)

 

 

 

 





恋する乙女は強くて可愛い。

ノーサがほんわ君に渡そうとしていたのは手作りのチョコレートです。
どのレベルから手作りかは皆さんのご想像にお任せします。

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