大変お待たせいたしました!!(焼き土下座)
「ん……、朝かぁ。」
あの激闘の個人トーナメントのあった週の終わり、南美は実家に帰ってきていた。
そのまま妹と触れあい、つかれを癒すように自室のベットでぐっすりと寝た彼女はカーテンの隙間から漏れる朝日で目を覚ます。
時計を見ればもう8時、いつも早起きな彼女からすれば割りと寝坊助な朝だった。
大きく背伸びをして凝った身体を解して一階に降りれば父親の義仁がテレビを見ていた。
テレビではブラジルで開かれているバーリトゥードの大会の様子を中継している。義仁は中継されている試合の内容を事細かに観察するように眺めていた。
しかし娘の南美の姿を視界に捉えると直ぐに朗らかな笑みを向ける。
「おはよう、よく眠れたみたいだな。」
「うん、おはよう父さん。」
二人は挨拶を交わし、また視線をテレビに向け直す。テレビに映るのは今勢いに乗る格闘家、ギース・ハワードの試合、テレビに映る観客も皆、目の前で巻き起こる技と技のぶつかり合いに釘付けのようだった。
「……すごい、試合……。」
「あぁ、そうだな……。」
思わず南美はそう小さくこぼす。その発言に父、義仁は口の端に笑みを浮かべた。
「まるで、父さんの試合みたい……昔に見た、あの試合……。」
「ふふ、南美にはギースの試合がそう見えるのか?」
「うん……、キラキラしてる……。」
ポツリポツリと、普段の彼女とは違う受け答えの仕方に義仁はゆっくりと確認するように尋ねていた。
目の前の、父とは違う男の背中がかつて自らが憧れた父とそっくりに映る……、それは何故なのか、南美は自分の中で考えていた。
体格なのか……いや、違う……似ているけれどそうじゃない……
なら、技量なのか……、そうとも違う……
なぜ、あのときの父さんと重なって見えたのだろう……
「奴は……楽しんでいるな、心の底から、目の前の強者と戦うことを……。」
「楽しんでる……、そっか……。」
すとんと南美の中で納得したように、腑に落ちた。“あぁ、なんだ。簡単なことだったじゃないか”と彼女は自分を笑う。
答えはすぐそこににあったのだから。
楽しむ、その姿勢が父親と重なって見えていたのだ。
楽しむこと。自分自身が戦いを楽しみ、見ている者の心を揺さぶる、それこそが憧れていた父親のファイトだった。
南美は走り出した。自分の中で確たる答えが見つかったから。彼女は走る。義仁はその後ろ姿を目を細めて見送る。
息切らして、額に汗を浮かべ。それでも彼女は駆ける。目指したのは夢弦市で一番高い山の頂点。
高い所から夢弦の、生まれ育った街を見下ろして、そこで彼女はやっと息をつく。
額を伝う汗を拭い、薄い空気をめいっぱい肺に吸い込んで呼吸を整える。
そうして息を整えた彼女はまた肺いっぱいに空気を吸い込む。すぅと小さな音を立てて空気を吸い込んだ南美は意を決したように口を開いた。
「やってやる!やってやるぞ!!」
彼女の叫びが夢弦の街に響く。
次回は最終回になります。その後エピローグなどをして第一部完とさせていただきます。