IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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姉妹対決です。

では本編をどうぞ↓


第156話 姉の意地、妹の意地

 

 

この日がやってきた。個人トーナメント4日目、専用機組の決勝戦だ。

姉妹対決でもあるそのカードは高い注目を集め、開始一時間以上も前だというのに観客席はもう満員となっている。

 

「……どちらが勝つんだ、これは?」

 

「ん~、どっちだろうね。」

 

一夏の膝に座るラウラの疑問に南美は頭を捻る。

どちらも同じ系統の技術を擁する二人であるため、はっきりとした差がでるだろう。

今までの戦いを見て純粋な技術だけであれば大した差はないと南美は思っていた。

それはセシリアや鈴音、箒も感じていたことである。

 

 

『らっしゃぁああああああっ!! さぁ決着の時がやって来ました! 専用機組個人トーナメントの決勝戦!! 司会進行実況は昨日と同じく私、姫海棠あさりです! そして解説には織斑千冬先生をお呼びしておりまーす!!!』

 

「いええええええええ!!」

 

「ハラショォオオオオオオッ!!」

 

「YA-HA-!!!」

 

煽るように声を張り上げるあさりの言葉に観客もノリよく応える。

熱狂で一体感を増す会場をさらに煽るために会場の明かりが消え、スポットライトが出口を照らす。

 

『姉より優れた妹などいねぇ!! 私こそが学園最強なんだ。頂点はこの私だ、依然変わりなく!! さぁ妹よ掛かってこい、この私は逃げも隠れもしない!! 3年生、更識ぃ楯無ぃい!!』

 

赤いカタパルトから勢いよく楯無が姿を現した。

それに対抗するように青いカタパルトがスモークで隠される。

 

『妹が姉に劣ると誰が決めた! いいか私は天才なんだ!! 首を洗って待っていろよ! その玉座、殺してでも奪い取る!! 2年生、更識ぃ簪ぃいい!!』

 

「私は天才だぁ!!」

 

力強く宣言して簪はアリーナに着地する。

不敵な笑顔を浮かべた彼女は目の前の楯無を見つめる。

 

「……勝たせてもらう。」

 

そして簪は両腕を身体の前で回すと胸の前で拳と掌を突き合わせる。

それを見た楯無もそれに倣い同じ動作で拳と掌を合わせた。

 

「私が目指したのは我が姉の柔の拳、時は来た! 私は今、貴女を超える!!」

 

「いいでしょう。ならばその言葉を果たしてみなさい。私はそれを正面から受け止めよう……!」

 

二人の間でボルテージがマックスまで高まった瞬間、開幕を告げるゴングが鳴り響く。

二人はまったく同時に動き出した。

 

「「はぁぁっ!!」」

 

同時に突き出された掌底はぶつかり合い、そこを支点にして二人は回し蹴りを放つ。それもまたぶつかり合い、装甲同士が火花を散らした。

しかし二人は動きを止めない。回し蹴りをぶつけた状態からお互い肉薄し両手を使った掌底をぶつけ合う。

お互いがお互いの動きを把握しきっているように、寸分の狂いもなくまったく同じ動きを見せる二人に観客は息を呑んで見守っていた。

そして数分後、一進一退の攻防を終えた二人は1度距離を取る。そこで切れた流れは観客に息をつかせ、熱狂が加速した。

 

『な、なんという攻防でしょうか!! 実況を差し挟む隙間もありませんでしたーッッッッ!!』

 

「す、すげぇ……。」

 

「美しい……ハッ!?」

 

「とても、綺麗な動き……。」

 

あさりもハッとして我に返りマイクを握る。観客たちも二人の動きに呑まれていたのか、あさりの声を聞いてやっと呼吸を思い出す。

舞踊のような、見る者の目を引き込み呼吸さえ忘れさせる美しい二人の組手、見事と言う他にないだろう。

 

 

「流石ね簪ちゃん。」

 

「ひゅぅ……、ひょぉ……。当たり前、姉さんを超えるために積んできたんだから。」

 

楯無に比べ呼吸の荒さが目立つ簪であったが、まだ瞳には余裕が見える。

睨み合いからまた二人ともまったく同じ構えを取った。そして示し合わせたように動き出す。

その動きはもはや常人に捉えきれるものではなく、ほとんどの生徒たちは追いきれていない。

 

「ひゅぅ、ひゅぅ! 行くぞ!!」

 

「いざ、捉えられまい……!」

 

高速でアリーナを飛び回りながら火花を散らす二人の姿をしっかりと捉えているのは専用機持ちとそれに準ずる力の持ち主だけだ。

卓越した技術の応酬、応酬、応酬!

それは達人同士の切り合い、気を抜けばすぐに死ぬ、そんな緊張感の漂う試合。その二人の空気に会場は熱気に包まれながら静かに、熱狂は収束し静寂が包み込む。

 

 

「……鈴、南美、二人はアレを全部見切れるか?」

 

静かさの中で一夏が喉を鳴らして唾を飲み下すと隣に座る二人に訪ねた。

その表情は真剣そのものであり、二人は試合から目を離さずにそれに答える。

 

「……どちらか一方の攻撃に対して回避に専念するなら見切れると思う。」

 

「こうして俯瞰で見てても両方同時は流石に無理ね。」

 

「それほど二人の技術は高度……!」

 

「二人でも無理なのか……。」

 

目を離さない二人の視線の先には勢い衰えることなく攻防を続ける簪と楯無、しかしそれら全てのやり取りが見えている訳ではない。

だがそれでも違和感を、不自然な感覚を感じとることは出来る。

 

「軋み、いや歪みかな……。」

 

「簪から違和感がある。」

 

「怪我?」

 

二人が感じた不自然な感覚、それは簪からのものだった。徐々に荒くなり乱れていく呼吸、痛みを堪えるような必死の形相、脂汗の浮く額。それだけあれば十分だ。

しかし三人、いや四人以外にそれに気付いた者はいない。

なぜならその変化を簪は悟られないように必死に隠しているから。だからこそ普通の人間には分からない。

長い間武の道にいた南美と鈴音、そして軍人だったラウラだけが観客席でそれを感じ取れたのだ。

そしてもう一人は現在進行形で簪と対峙する楯無だ。

 

「ひゅぅ……! ひゅぅ……!」

 

「はぁぁ!!」

 

高速で移動しながら呼吸を整える簪に対して楯無が強烈な一打を放つ。それを簪は受け流して距離を離した。

距離を置くことで一拍の間を入れた簪はすぐまた楯無と距離を詰めて仕掛ける。

 

(っ……ぁあ!? 筋肉が、骨が……!!)

 

常に全力を引き出し続けてきた簪の体が負荷限界間近になり悲鳴をあげる。

全身の筋肉が裂け、骨が軋むような感覚に襲われ簪は顔を歪める。しかしそれでも彼女は動きを見せる止めない。絶対に目の前の姉に勝ってみせるという意地だけが彼女の身体を突き動かしていた。

 

(柔の動きはもう限界……だが! それでも足掻く!!)

 

「……!?」

 

簪は至近距離からほぼノーモーションで跳躍し強烈な飛び蹴りを楯無にぶつける。

楯無はギリギリのタイミングではあったが腕を盾にすることに成功し直撃を免れる。だがその強烈な一撃に楯無の体は大きく壁際まで飛ばされた。

 

「あれは……獄屠拳!?」

 

「いつのまに?!」

 

簪の放った蹴りは南美の使う獄屠拳そのもの。

それを完璧に使って見せた簪に南美は目を見開いた。しかしそれだけでは終わらない。

簪は軽く跳躍すると空中で急加速して壁際に押し込まれた楯無に手刀を突き出して肉薄する。そう、鈴音の使う七死騎兵斬である。

 

「く……!」

 

「まだまだ! じょいやぁあっ!!」

 

奇襲のように放った七死はガードされるものの、それも簪の戦略のうちだった。腕で防がれたことを一瞬で認識した簪は軽く腕を弾いて離れる。

しかしその瞬間に右足を伸ばして楯無を自分側に引き寄せた。そして引き寄せる動きを利用して真っ直ぐに突き出した正拳突きを彼女にぶち当てる。

力強く見るものの心を雄々しく揺さぶるそれはまさしく更識の剛の拳だった。

 

『ここで一転! 簪選手の動きが変わる!! そして捉えた! あの楯無選手を完璧に捉えました!!』

 

「この剛拳、いつまで受けられるか!!」

 

「つぅ……!」

 

楯無のガードの上から力業で強引にダメージを遠そうと簪が拳を振るう。

そんな暴風のような簪の攻勢に楯無は防御に専念し始めた。

 

「すげぇ、あの楯無さんが防戦一方に追いやられた……。」

 

「単純に攻めの密度があがってる。あの1発1発の重さに加えて回転の早さ、さすがの楯無さんも受け流して攻めに回れない?」

 

「まさか、このまま会長が負ける?」

 

攻勢に出てからの簪は凄まじいの一言だった。

これこそが剛よく柔を断つという言葉を端的に表しているように見える。

 

(っ……、本当に強くなったわね簪ちゃん。柔軟に、貪欲に吸収して。私にはない姿勢。でも……!)

 

楯無が簪の苛烈な攻めを捌いていると、ざわざわと観客席がざわつく。

それはつい去年に行われたモンド・グロッソでも見られた光景だった。そしてついに全員が今起きている現象を完全に認識した。

そう、攻めているはずの簪のシールドエネルギーが楯無のそれを下回りはじめたのだ。

 

「な、あれは?!」

 

「アンジェさんとの試合でも見た……!」

 

攻めている側がどんどんと減っていくというその現象に観客席の生徒たち、いや教員でさえも疑問を口々に漏らす。

しかしそれでも何故それが起こっているとか完全に理解できる者はいない。そう、楯無を除いては。

 

(ふふ、霧纏いの淑女の力よ。驚いたかしら簪ちゃん。貴女がどれだけ仕掛けて来ても私は自分を崩さないわ。それが“楯無の武”だもの。)

 

(何が起こっている?! センサーには何も反応がない、それなのに……!! 早く決めなくては!)

 

徐々に減っていくシールドエネルギーを見て簪に焦りが生まれる。しかしそれがいけなかった。

焦りで生まれた時間の隙をついて、それまで守勢に回っていた楯無が動いた。

一瞬、そうほんの一瞬だけ簪のラッシュが緩んだ隙をついてのこと。

あの歩方を使って楯無は簪の横を取った。

 

「揺らいだ者に勝利はない。」

 

「な……っ!?」

 

素早い掌底の一撃を受けて簪の体は吹き飛ぶ。そしてその体はアリーナの壁にぶつかってバウンドする。

それを見た楯無は確信を持ってその場に座禅を組んで座った。

 

(ナノマシン活性率は規定値を超えた……。今なら打てる……!)

 

座禅を組んで座った楯無は両手を静かに掲げる。その姿勢は準決勝で南美に見せたアレと同じだ。

 

「有情破顔拳……! はぁぁん!!」

 

勢いよく振り下ろされる楯無の両手、そしてゼロになる簪のシールドエネルギー。

瞬く間の出来事にブザーが鳴ったあとも観客席は呆然としていた。

そしてコホンという千冬の小さな咳払いで我に返ったあさりがマイクを握る。

 

『け、決着ぅううううっ!! 学園最強はやはりこの人だった!更識楯無ぃいい!!』

 

スピーカーを通して爆音で響き渡るあさりの声でようやく観客席も試合の終わりを認識し、二人の健闘を称えようと言葉を投げ掛ける。

王座を死守した楯無への称賛、最強に対して肉薄し途中まで圧倒した簪への温かい言葉。

それら全てが一体となってアリーナの二人に降り注ぐ。

 

14人全員が死力を尽くして挑んだトーナメントはこれで終わりを告げた。

そしてこのトーナメントは、これからのIS産業に大きく影響を与えることとなるのだが、当人たちはまだそれを知らない。

 

 

 

 





楯無さんのアレのトリックですか?
そのうち説明するかもですししないかもです。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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