まだ続くぜ全盛期の速度が!!
では本編をどうぞ↓
IS学園個人トーナメント、専用機の部。昨日の2回戦の激闘の興奮冷めやらぬまま3日目の準決勝だ。
第一試合は簪対ラウラ、第二試合は楯無対南美と誰が勝ってもおかしくない。
そんな組み合わせに第4アリーナは熱狂の渦に包まれている。
『さぁさぁさぁ!! やって参りました、ベストフォー!! これから行われる激戦に期待してか会場は人人人の大満員でございます!!』
昨日まではなかった特設実況席のテント、観客席の一角に設けられたその中には報道部の腕章を着けた生徒たちが機材を弄っていた。
『はい! という訳でIS学園の全てが注目しているこのベストフォー、実況は私! 報道部二年の
『よろしく頼む。』
あさりの紹介に千冬は周りに対してお辞儀する。意外とこう言ったことに慣れているのか、案外落ち着いた様子だ。
世界最強が解説ということもあり、観客席の期待はますます膨れ上がる。
『それでは織斑先生、準決勝の見所を解説していただければ!!』
『そうだな……。まずは楯無と北星の格闘戦だろう。モンド・グロッソで磨かれてきた楯無に対して北星がどこまで足掻けるか、魅せられるか……と言った所だな。あの単一能力は厄介だ、どんな種があるのか私にも分からんが、しかしそれだけで崩せる楯無ではないだろう。』
『なるほどー……、ではもう片方の試合はどうでしょうか!』
『こっちもこっちで、だな。ボーデヴィッヒのAICは面倒だがそれを簡単に使わせる簪ではあるまい。となれば試合はクロスレンジでの殴り合いだ。楯無と酷似した体術の簪があのボーデヴィッヒをどう対処するか、ボーデヴィッヒがどう攻めるのか、見物だな。』
『それは楽しみですね!!ではでは……。』
あさりがなにやらボタンを押すとアリーナの明かりが全て消え暗闇に包まれる。そして二カ所、赤と青に塗られた東西のカタパルトをスポットライトが照らした。
その明かりからカタパルトの中を隠すように勢いよく白いスモークが噴出される。
『赤コーナー!! 純白のスモークを突き破り入場するのは鎧を脱ぎ捨て!火砲も捨て去り!身一つで挑むと覚悟した天才!! 彼女は言いました、勝たなくてはならない人物がいると! ならば魅せてみよ、その身、その拳で!! 更識ぃ、簪ぃいい!!』
ハイテンションなあさりの入場アナウンスとともに千種鋼を身に纏った簪がカタパルトから射出されアリーナに姿を現す。
そして対抗するようにもう片方のカタパルトの出口がスモークで覆われた。
『対する青コーナー!! ドイツの科学は世界一ぃいいいいい!!!! 祖国の誇りを胸にいざ出陣! さぁビューグルを鳴らせ!死にたくなければ道を開けろ! 黒い猛獣のお通りだ!! ラウラァ!ボーデヴィッヒィイ!!』
スモークの中から現れたラウラはいつものレールカノンなどを全て取っ払った簡素な見た目になっていた。
その瞳には挑発的な光が灯っており、簪に正面から挑むことを宣言している。
両者がアリーナ中央で睨み合うと、あさりは実況者席にゴングを置くと思いきり叩き鳴らした。カァンという心地よい音が響き渡り二人は動き出す。
『な、なんとなんとぉ!! 決着!?』
『ふむ……見誤っていたか。』
試合が始まってから数分後、あさりが慌ててゴングを鳴らす。
アリーナの中央にはシールドエネルギーをゼロにされて倒れるラウラがいた。ほんの数分で終わった試合の結果に観客席はざわざわと騒がしくなる。
『織斑先生、これは……?』
『あぁ、どうやらまだ簪には隠し玉があったということか。』
面白いものを見たという顔で千冬は呟く。
俄に騒がしくなるアリーナを置いて、準決勝第一試合は終了した。
『さぁ! 第二試合です!!』
『さて、どう転ぶのか……。』
第一試合から30分後、またもアリーナの明かりを落としてスポットライトを起動する。
そして赤く塗られたカタパルトから叫び声が響きだす。
『おぉっと!既にコイツはやる気全開!! 赤コーナー、総合格闘技インターミドル三連覇!! 最強の格闘女王! 父親はあの世界覇者北星義仁、その血筋を受け継いだ格闘ジャンキーがIS世界に殴り込み!! 北星ぃ南美ぃ!!!』
「ヒャッハー!! 準決勝だぁ!!」
あさりのアナウンスに対してノリノリで応えるように叫んだ南美はスモークを突っ切って現れると観客を盛り上げるようにバク転のパフォーマンスを行う。
そうした彼女に魅せられた観客たちによってさらにアリーナは熱狂する。
『そして!そして!! 青コーナー!!生徒会長、それは学園最強を表す言葉! モンド・グロッソに出場し世界を相手に戦い続けて来た、貴様らと私では潜ってきた修羅場の数が違う!
青く塗られたカタパルトから静かに、しかし確かな存在感を放って楯無が姿を現す。
真っ直ぐにアリーナにいる南美を見詰めた彼女はゆっくりと構えを取った。
「ISで貴女と戦うのは初めてね。」
「えぇ、最初から全力で行かせてもらいますよ!!」
楯無に対抗するように南美が構えを取るとそれに合わせてアリーナの光景が徐々に塗り替えられていく。
『で、出ました! 南美選手の単一能力、“無限のバグ製”です!』
『なるほど最初から使えるのか。』
アリーナの光景が完全に変わりきり、あさりがゴングを鳴らす。
先に仕掛けるのはやはり南美だ。
「フゥウウウウ!!」
「いざ!!」
いつもの声を響かせて迫る南美を楯無は冷静に迎え撃つ。
しかし南美は直前でブレーキを掛けて地面を叩き鳴らし、岩を隆起させる。
それから逃げるために楯無が横に跳ねて逃げればそれを追撃するのは倍速で動く南美だ。
「シャオッ! ショオオッ!!」
「そこ……!!」
しかしその状態から繰り出された南美のローキックを楯無は的確に受け止めると、南美の身体を回転させ上下を反転させる。
そしてその状態の南美の腹に楯無は両手の掌底を叩き込んで突き飛ばす。
そしていつものようにあの歩法を使って追撃を重ねようとしたのだか……。
「シャオッ!」
「……!?」
『南美選手! 突き飛ばされながらも体勢を立て直して反撃! 楯無選手の追撃を許さない!』
『いい空間把握だ。』
楯無の反撃を防いだ南美はその場で楯無と向き合い攻防を開始する。
それはかつて南美が夢見ていた、楯無とのガチ勝負だ。
「フゥゥゥゥ、ショオオッ!!」
「はぁぁんっ!!」
南美の蹴りに合わせて楯無の手刀が噛み合いお互いの衝撃を打ち消す。
しかしそのままで終わらない。南美は身体を回して回転の力を使って更なる蹴りを繰り出し続ける。
「フゥゥゥゥ!!」
「ふぅ……はぁぁん!!」
『ギアを上げたように攻撃のピッチを上げる南美選手!しかしそれを苦にもせず楯無選手は捌く!!』
『……見切っているのか、それとも無意識に効率的に捌いているのか……。』
(この速度でもダメ? なら───)
回転を駆使して速い連撃を繰り出す南美、そして次の瞬間には楯無の身体がふらついていた。
その隙を見逃す南美ではなく、更に苛烈に攻め立てる。
『な、何が起こった? 急に楯無選手が揺らいだ! 南美選手何をしたんだーッ?!』
(……一夏との試合で見せた謎のトリックか。興味深いな。)
『1度揺らいで後手に回ってしまった楯無選手、ここからの巻き返しはなるのかぁ!!』
一瞬の隙があれば南美は確実に致命傷を打てる。
楯無が突かれたのは一瞬どころではない時間の隙間。南美にしか認識できない時間の狭間を使われたのだ。
その時間によって放たれた致命的な一撃に楯無の身体は確かな存在感悲鳴をあげている。だがそれだけで簡単に崩れるほど楯無は弱くなかった。
『お、お、おぉ!? 徐々に!徐々に巻き返している楯無選手! あの状態から巻き返してきた!!』
数分は続いた長い攻防の最中で楯無は僅かずつではあるが自分のペースを取り戻して戦況を傾けていく。
最初は南美に向かって傾いていた流れを自身の実力で以てきっちりと五分にまで持ち直していた。
「こっの……!!」
「いざ……!」
「っ! しまっ───!?」
「はぁぁ、覚悟!!」
南美の放った拳を掴んで捻り投げた楯無、やられた南美はしまったという顔を浮かべる。
次に南美の身体を襲ったのはあまりにも重い衝撃、ダンプカーにでもはねられたのではないかと錯覚するほどに強烈な一撃を受けた南美はそのまま吹き飛ばされてアリーナの壁に激突した。
そして楯無はその場に座る。
「更識流奥義、有情破顔拳……!!」
更識は座禅を組むように座ったまま掲げた両手を振り下ろす。
その瞬間にサザンクロスのシールドエネルギーは底を尽き南美は敗北した。
『決着ぅ!!』
ブザー代わりに鳴らされるゴングの音、そしてそれを叩くあさりの声が響き渡る。
『楯無選手、南美選手の一瞬の隙を突いて反撃、強烈な一撃から見事な逆転劇ですッッッッ!!』
『ふむ……面白い。いや、実に興味深いな。』
『織斑先生、最後のあの楯無選手のあぐらは……?』
『分からん。何らかの意味が楯無にはあるんだろうが、今はそれを知る由もない。』
『そ、そうですか。では! 準決勝第二試合終了!! これで決勝戦の組み合わせが確定しまし!!更識簪選手対更識楯無選手です!!!』
あさりのアナウンスと姉妹対決という事実も相まって熱狂がIS学園を包み込み、3日目が終わる。
実況解説(協賛:IS学園報道部&技術部)
ではまた次回でお会いしましょうノシ