IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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まだオレのターンは終わっちゃいないぜ。

では本編をどうぞ↓


第153話 単一能力のぶつかり合い

 

 

2回戦最終試合、織斑一夏対北星南美の仕合だ。ベストフォー決定戦ということで暇な生徒たちが皆一様に集まっていた。

そして先にベストフォー進出を決めたメンバーからすればこれから自分のライバルになる相手の試合ということで観客席には簪、楯無、ラウラの姿がある。もっともラウラは一夏の応援の方が重要なのだが。

 

 

「一夏くんとガチで()り合うのも久々だね。」

 

「おう、手加減だけはしてくれるなよ。」

 

「もっちろん! そんな手加減(つまんないこと)はしないよ。」

 

アリーナで睨み合う二人、ひりひりと焼けつくような殺気を放ちながら向かい合う。

そして電工掲示板のシグナルが点灯し開始が近いことを告げる。独特な電子音と共に一つ、また一つと灯りの消えていくシグナル。

最後の一個が消えた瞬間に二人が駆け出した。

 

「ズェアアアア!!」

 

「フゥウウウウ!!」

 

二人とも声を響かせながら最初の一合に臨む。

南美は一夏の振る雪片を紙一重でかわしながら蹴りを放ち、一夏は南美のそんな蹴りを受けながらカウンター気味に雪片を振るう。

足をその場に止めながらお互い軽快なステップを踏んで切り合い、殴り合う。

しかし南美は大きく踏み込まない。下手に踏み込みすぎれば一撃必殺の刃が牙を剥くからだ。

だから彼女は何があっても対応できる程度にしか踏み込まない。

しかしそれでは決定打の出ないことも確か。故に彼女は一夏から飛び退いて距離を開ける。

 

「やっぱりその雪片のプレッシャーは半端ないや。」

 

「だろ?」

 

「だから、出し惜しみはしない。」

 

軽い問答を交わした二人。南美は軽く息を吐くとだらりと脱力して一夏を見据える。

そして胸に左手を当て何事かを呟き始めた。

 

 

 

 

I am the bone of my systems.(───体はバグで出来ている)

 

Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は永久で、心は一撃)

 

I have tried over a thousand challenges.(幾たびの調整を越えて不変)

 

Unknown to Death.(ただの一度も修正はなく)

 

Nor known to Life.(ただの一度もアプデされない)

 

Have withstood pain to create many systems.(彼の者は常に独り格ゲーの丘で勝利に酔う)

 

Yet, those systems will never hold anything.(故に、そのシステムに意味はなく)

 

So as I pray,(その身体は) UNLIMITED ARC SYSTEM WORKS.(きっとバグで出来ていた)

 

 

朗々と力強く響いた声が最後の一節を唱え終えると、そこにはもう見慣れたアリーナの姿は無く、ボロボロになった格ゲー筐体の並ぶ薄暗い空間が広がっていた。

突如として起こった謎の現象に一夏はおろか、観客席に座る他の面々も喉を鳴らして驚愕する。

 

「なんだ……これは?!」

 

「空間の転移? いやそんなこと出来る筈がない!!」

 

「どんな仕組みなんだ?」

 

「一介のISが出来ていい芸当ではない……。」

 

ざわざわと一瞬の間に塗り替えられた景色によってその場は騒然となる。

投棄するように並んだ格ゲーの筐体はまだ画面に薄く明かりを灯しており、誰かが来るのを待ち望んでいるかのように見えた。

 

「これが私の単一能力、無限のバグ製(アンリミテッド・アークシステムワークス)だよ。」

 

「そうかよ。それで? アリーナをこんな空間に変えてどうするつもりだよ。」

 

「君に勝つ。」

 

「やれるもんならやってみな!」

 

テンポよく煽るように言葉を交わす二人、そしてそれを実行するように動きだす。

南美は両腕を大きく掲げると地面に思いきり叩きつける。その瞬間、一夏のいた地面が隆起し勢いよく岩が飛び出す。

もちろんそれを喰らう一夏ではなかったが、回避した瞬間に目の前に南美が迫っていた。それも通常の2倍とも思える高速で……。

 

「トベウリャ‼」

 

「が!?」

 

滑るように加速して懐に潜り込んだ南美のアッパーが一夏を捉える。しかしそれだけでは終わらない。

一夏の身体がそのアッパーに縫い付けられたかのように離れないのだ。

 

(……どういうことだ?!)

 

「フゥウウウウ!! シャオッ!」

 

そのアッパーが決まってから数秒後、南美は一夏を蹴り飛ばして距離を開ける。

そう、距離を開けたはずなのだ。しかし直後に一夏の身体が横っ飛びに吹っ飛んだ。

 

「がっ……!?」

 

吹っ飛んだ一夏の顔が苦悶に歪んでいることから何らかの攻撃を受けたのだろうということは分かる。

しかしあの状態からどうやって南美が一夏に攻撃出来たのだろうか、見ていた者たちはその謎しかない南美の戦いを見て息を呑む。

 

「どんどん行くよー!!」

 

「な!?」

 

吹っ飛んだ一夏の身体を持ち上げた南美は力強く地面に叩きつける。その瞬間、まるでボールのように彼の身体が大きく跳ねた。

跳ねた一夏に対して南美は情けも容赦もなく攻撃を加える。

 

(確かに一夏くんの零落白夜は驚異的だよ。でも使わせなければ何でもないのさ!!)

 

悪い笑顔を浮かべながら南美はアリーナの中を縦横無尽に一夏を攻撃しながら移動する。

その様はまるでボールをドリブルしているようにも見えた。

 

(そして相手に何もさせずに完封するのは色々と慣れっこなのさ!!)

 

(くっそ、受け身が取れない!?)

 

「フゥウウウウ! シャオッ!!」

 

完全にリズムを掴み一夏に何もさせない南美は一夏を壁際まで蹴り飛ばすと大きく跳躍した。

跳躍して両腕を広げる姿は空を飛ぶ鳥であり、見るものを釘付けにする。だが一夏だけが動きを止めなかった。

 

「そいつはもう……見てる!! 2度目はないぜ!」

 

一夏は弓を引くように真っ直ぐ雪片を引き絞る。いわゆる牙突の構えだ。その構えから突きを放って南美の攻撃が届く前に一撃をあててしまおうという魂胆である。

しかしそれすらも南美は分かっていたように笑顔を浮かべる。そしてあのときのように手刀で斬りかかろうと急降下する。一夏はそれを見て渾身の力で雪片を突き出した。

 

「知ってたよ……。」

 

「なっ!?」

 

南美は急降下していく軌道を逸らして雪片の突きを躱して一夏の懐に潜り込んだ。

さして右足を大きく引いて、全身のバネを解放し強力な蹴りを放つ。

 

「南斗孤鷲拳奥義!! 南斗翔蹴屠脚!!」

 

振り上げた足が一夏を捉え、一筋の紫電が走る。その衝撃で一夏の体は宙を舞った。

南美は足を振り上げた勢いで一回転して着地すると倒れた一夏に歩み寄る。

 

「またまた私の勝ちだね!」

 

「あー、くそ……。また負けちまったか……。」

 

「最後の最後で詰めが甘いねぇ! ねぇどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?」

 

「うーるーせー!」

 

和気藹々と会話を交わしながら二人はアリーナを後にする。

これで今期の四強が出揃った。

 

見紛うことなく最強格の更識楯無、2度のモンド・グロッソ出場とヴァルキリー選出という確かな実力。まだ謎の多い彼女の戦い方に、その技量に追い付ける者はいるのだろうか。

 

あの織斑千冬に恐怖を抱かせたラウラ・ボーデヴィッヒ、冷静に大局を見据える戦術眼と遠近万能の装備、そして強力無比なAICによる戦闘。戦闘経験の豊富さでも楯無には負けていない。

 

そして楯無の妹更識簪。2回戦では自慢の装甲も武器も捨て更識流体術のみであのシャルロットを撃破した。千種鋼と名付けたそのパッケージでラウラ相手にどう立ち回るのか、注目が集まっている。

 

そして最後、2学年1の問題児と呼び声高い北星南美。

第二次移行も終えた専用機サザンクロスを引っ提げて、身体一つで戦い続ける彼女を迎え撃つのは学園最強の更識楯無、この試合がどう転ぶのか俄然関心を引き付ける。

 

 

こうして四強が出揃い、期待が高まりながら2日目が終了したのだった。

 

 

 

 





ここでサザンクロスの単一能力「無限のバグ製」の簡単な説明を。

能力は単純で、ありとあらゆる格ゲーのバグを1度につきそれぞれ三秒間だけ再現できるというもの。
1度再現したバグはある程度時間が経過しないと再使用できないですが。
この話で使われたのはハート様倍速化バグ、バグ昇龍、時止めバグですね。


ではまた次回でお会いしましょうノシ


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