IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

173 / 182

まだオレのターン(連日投稿)!

では本編をどうぞ↓


第152話 更識楯無

 

 

“IS学園生徒会長”とは、今期のIS学園において最強を意味する言葉である。

ロシア国家代表としてモンド・グロッソに2度も出場を果たし、世界を相手に戦ってきたことからもその実力の高さが伺えるだろう。

更識楯無、物静かであり氷のような美人であると評判の彼女は第4アリーナで対戦相手の登場を待っていた。

観客席は彼女の戦いを生で見ようと、今までとは比較にならないほどの生徒が押し掛けている。中にはシフトすら放棄している者すらいた。

そうして楯無が待つこと数分、真っ赤な機体を輝かせてセシリアが舞い降りる。

 

「お待たせしたようで、申し訳ありませんわ。楯無さん。」

 

「いいえ、そこまで待ってないわ。だから気にしないでセシリアちゃん。」

 

遅れたことを詫びるセシリアに対して楯無は優しく微笑んでそれを許す。

その物腰の柔らかさとは裏腹に、纏う空気は鋭い。

 

 

 

「いざ!」

 

セシリアが銃を構え、ブザーが鳴ると楯無が先に動いた。

一瞬で十数メートルの距離をゼロにした楯無はセシリアを突き飛ばす。しかしそこまでは想定内とセシリアが猟犬を呼び出した。

赤黒い流動体の身体をした猟犬は吠えるように大口を開けて楯無を威嚇する。さすがにそれに怯んだわけではないだろうが、楯無は足を止めてセシリアに追撃を加えることはなかった。

 

(わたくし)とティンダロスのデュオ、存分にお楽しみくださいまし。」

 

「ふふ……。」

 

二丁拳銃を構えて猟犬と共に迫るセシリアを見て楯無は笑う。

心底楽しそうに笑う彼女、言うなれば“はしゃいでいる”という表現がもっとも適切だろう。そんな彼女の表情を初めて見る生徒たちも多いのか、少しばかり観客席の一角がざわついた。

 

 

「面白いですわ! 血がこうも滾るのは久しぶりというもの!!」

 

「ふふ、そうね。私も楽しいわ。」

 

興奮しているのはセシリアも一緒だった。目は力強く見開かれ口角がつり上がっている。

興奮のためか頬もやや紅潮しておりどこか色っぽい。

しかし注目するのはそこではない。セシリアの戦い方だ。

楯無の戦型はモンド・グロッソを見ても分かる通り、近接格闘型。言うなれば近寄らなければ意味がない。そのためのあの瞬間移動のような機動手段なのだろうが、セシリアはそれで近寄られる前提で動いているのだ。

並大抵の者であるならば近寄らせないように弾幕を張って逃げようとするものだろうが、彼女は違った。近寄られた上でそれを凌ごうとしている。

 

それを可能にするのが愛銃“ジャッカル”とあの猟犬だ。

取り回しの簡単な拳銃であれば寄られても対応が容易であり、さらには寄った瞬間に猟犬が襲いかかることで狭い範囲での2対1を楯無に強制させる。そうすることによって楯無にペースを掴ませないのだ。

 

 

「すげぇ! セシリア、あの楯無さん相手に1歩も引いてない!!」

 

「なんて度胸……! あの楯無さん相手に近寄らせないじゃなくて“近寄られても構わない”戦い方を選ぶなんて!」

 

観客席の最前列で二人の戦いを見ていた専用機組の面々が目を皿にして観戦し舌を巻く。

1年前は近寄られれば何も出来なかったあのセシリアが、格闘術でモンド・グロッソのヴァルキリーに選ばれた楯無を相手に寄られても互角の戦いをしているのだからそれも当然と言えるかもしれない。

 

「面白いわ! 射撃主体でそんな戦い方を選んだのは貴女が初めてよ。」

 

「ふふ、貴女の初めてになれるなんて。恐悦至極の限りですわ!」

 

ジャッカルの銃弾を楯無に放ちながらセシリアは猟犬を盾に踊る。

舞うようにアリーナを飛ぶ彼女の姿は見るものの目を惹き付けて止まないものに思える。

そして弾丸の軌道から外れるように動いて楯無がセシリアを捕まえようとあの移動方を用いて距離を詰めていく。

 

「ふぅ……はぁっ!」

 

「ティンダロス!」

 

楯無が放った掌底をセシリアは猟犬を盾にして事なきを得るとその至近距離から拳銃の引き鉄を引く。

しかしそんな状態であっても楯無はその弾丸を回避してみせた。

人間の反応速度の限界に挑戦するその所業に、観客は皆目を点にする。

 

「はぁあんっ!」

 

「ぐ……、ですが……!!」

 

そして弾丸をかわした楯無の放つ蹴りを腕で受け止めたセシリアはなんとかしてその場に踏み留まり、もう片方の銃で楯無を攻撃する。

しかし引き鉄を引く時には既に楯無はセシリアから距離を取っていた。

 

(撤退も早い……、想定の1.2倍と言ったところでしょうか……。ギアを上げますか。)

 

セシリアは銃弾を楯無の足元に撃ち込みながらティンダロスを自分のもとに呼び寄せる。

常に数の優位を保とうという思惑である。

 

「ふぅ……!」

 

「っ! まだ速くなるのですね。」

 

放たれる銃弾をかわしながら楯無のは縦横無尽にアリーナを駆ける。

瞬間移動にしか見えないその機動力に多くの生徒はその姿を見失いながら観戦していた。

 

「捉えられまい……!」

 

「く、ティンダ───」

 

「遅いわ。」

 

背後に回った楯無はセシリアにティンダロスでカバーリングさせることも許さず投げ飛ばす。

そして自慢の機動力で投げ飛ばしたセシリアに追い付くと追撃を開始した。

ティンダロスからのカットが飛んで来るならばそれすらもいなしてセシリアへの追撃を続行する。

 

「はぁぁん……天翔百烈! ふぅ……はぁ、覚悟!」

 

アリーナの壁際で地面と数メートル上空とを上下に移動しながら楯無は舞でも踊るかのように優雅に、セシリアを追い詰める。

その姿はシャルを封じ込めた簪のそれと酷似していた。いや、楯無の方が洗練されているという印象を受けるが、それでもやはり似ている。

 

そして何発目であっただろうか、楯無の繰り出した振り下ろす手刀によってセシリアの身体は地面に叩きつけられる。

しかし楯無は手を緩めない。セシリアの身体と地面の間に足を入れ、上空へと足を使って投げた。

すると楯無は両手を胸の前で合わせたかと思うとセシリアとすれ違うように走る。

 

「……有情断迅拳……!」

 

「……っ、あ……!!」

 

「……これまでです。」

 

簪の放ったものと同じそれを食らったセシリアは身体を震わせて倒れる。

直後にシールドエネルギーが底をついたことを知らせるブザーがなり仕合が終了した。そして意識を失って倒れるセシリアを楯無は一瞥すると専用機を待機状態に戻して彼女を抱える。

そうしてセシリアを抱えたまま楯無はアリーナから出ていくのだった。

 

 

 

 





楯無さんはつおい

ではまた次回でお会いしましょうノシ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。