IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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まだオレのターン(連日投稿)

では本編をどうぞ↓


第151話 ドイツの科学は世界一ぃいい

 

 

簪の勝利から30分後の第四アリーナ、そこには自信に満ちあふれた笑顔で佇むラウラと神妙な面持ちでそれと対峙するレンがいた。

両者ともに一回戦を圧倒して勝ち上がってきた同士なだけに、会場の期待は高まっている。

そして2人が睨み合うとともにブザーが鳴った。

 

「スラッシュリッパー!!」

 

「ほう、そう来るか。ならば!!」

 

レンが先手を打って展開したスラッシュリッパーを見るや否や、拡張領域(パススロット)から重機関銃を取り出した。

その圧倒的なごつい見た目にレンは危険を感じて距離を取る。

 

「ふふふ、恐かろう! そうともこれは我らがドイツ軍の誇る最強の大佐が愛用した兵器と同等のスペックを持つのだからな!! 一分間に600発の徹甲弾を発射可能!30ミリの鉄板すら貫通可能な重機関銃なのだ!! ファイエル!!」

 

早口でしゃべり笑うラウラは大口を開け笑い声を響かせながら機関銃をレンに向けて掃射する。これでもかという轟音を響かせ、その銃弾の嵐は土を巻き上げる。

その煙は濃く、レンの体を覆い隠す。

 

数分間、重機関銃の弾丸が降り注ぎ、これではもうシールドエネルギーは残っていまいと、掃射をやめたラウラ。土煙の先ではレンが動く気配もなく、勝利を確信した彼女は重機関銃を拡張領域にしまい腕を組んで笑い声を張り上げる。

 

「フハハハハ!! 我らがドイツの科学は世界一ぃいい……アレ?」

 

高笑いしていたラウラであったが、いつまで経っても終了を告げるブザーが鳴らないことに疑問を抱いて首を傾げる。

そして次第に薄れていく土煙の中に動くものの気配を感じだラウラは即座に顔を引き締め、ナイフとプラズマブレードを構えた。

そして煙の中からレンのスラッシュリッパーが三基飛び出し、ラウラに襲いかかる。

 

「ムダァ!!」

 

不規則な軌道を描くスラッシュリッパーを巧みに迎撃したラウラはレンが居るであろう方角にナイフを投擲する。

しかし金属音が響き、お返しのようにビームライフルの攻撃が帰って来る。勿論それを喰らう彼女ではない。

一瞬で様々なやりとりが行われ、煙が晴れるとほぼ無傷のレンが姿を現した。

 

「……!! あの弾丸を無傷で切り抜けたとでも言うのか!?」

 

「まだまだ甘いわね。」

 

そう言って不敵に笑うレンの足元にはボロボロになったスラッシュリッパーの残骸が大量に落ちていた。

 

(回転するブレードを使って銃弾を叩き落としていたのか……。)

 

「さぁ行くわよ!」

 

考察の最中であるラウラに対してレンが仕掛ける。

ゲシュペンストの加速力を最大限に活かした突撃、しかしそのような突撃はラウラに通用しない。

 

「無駄無駄ァ!」

 

ラウラが腕を前に突き出すとまるで何かに掴まれたかのようにレンの動きがその場で止まる。

そうAICだ。だがラウラはレンから離れるように飛び退いた。

彼女が今までいた場所に襲い掛かるように六基のスラッシュリッパーが飛びかかってきたのだ。

飛び退くことでそれら全てを視界に入れたラウラは飛んで来るスラッシュリッパーを順々に破壊していく。

そうしているうちにレンに対する拘束は解け、援護射撃のようにビームライフルの攻撃が飛ぶ。

 

「くっ!」

 

「さぁどんどん行くよ!」

 

ラウラがスラッシュリッパーとビームライフルの対処に追われているうちにレンは更にリッパーを追加する。

決して攻撃の手を緩めず、ラウラを後手後手に回させること、それがレンの導き出したラウラ対策である。

 

(そのAIC、かなり集中するんでしょ? なら脳のリソースを削らせてもらうわ。)

 

(まぁ、そう来るだろうな。だからこそ……。)

 

飽和的に攻めるレン、しかしラウラは一気に加速して距離を詰めにかかる。

黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)は遠近万能機、だからこそ一撃離脱も視野に入れたチューンがなされている。それによって引き出される加速力は白式や紅椿のような特化タイプには劣る、しかし通常の万能機に比べれば速すぎるほどだ。

 

(だからこそ私はAICに拘らずとも勝てるように積んできた!!)

 

(突破力……!)

 

スラッシュリッパーとレン本人の妨害に負けることなくしっかりと触れられる距離まで詰めきった。

レールカノンなどの兵装はあるものの、それでも離れての戦闘ではレンに分があると判断してのことだ。これでもあのクラリッサ達と訓練に勤しみ、世界最強の織斑千冬の指導を直に受けてきたラウラ、格闘戦にも覚えがある。

 

「いわゆる一つの軍隊格闘術!!」

 

「かかって来なさい!!」

 

銃を使わない距離での戦いを臨むラウラに対してレンもそれに応える。

大型のブレードを手にしてプラズマブレードを展開するラウラを迎え撃つ。その懐に飛び込むようにしてラウラは極限まで姿勢を低く保って駆ける。

その姿は獲物を狩る肉食獣、冷静に獰猛に獲物に食らいつくそれである。

 

 

「ふふふ、恐いか?」

 

「かもしれないわね。」

 

低い姿勢でレンの周囲を駆け抜け続けるラウラは上目遣いでレンの顔色を窺う。

しかしレンの顔色や雰囲気に変わりはなく、依然歴戦の戦士としての空気を纏っている。会場の観客達はどちらから仕掛けていくのか、それを固唾を吞んで見守っていた。

 

 

 

「ふむ……あのスタイルをようやくモノにしたか。」

 

「織斑先生はご存じなんですか?」

 

「あぁ。私がドイツにいた時にな。」

 

大会運営本部に置かれたモニターでラウラの姿を見た千冬が懐かしそうに声をぽつりと漏らす。その瞳はどこか遠い場所を見つめているような風であり、昔を思い出しているようだ。

 

「と言っても、私がしたのは助言だけ。あのスタイルはラウラ天性のものだ。」

 

しばらくの回想から帰ってきたのか、千冬の目は戦士の色をしていた。それは彼女がまだ現役だった頃に真耶がよく目にしていたものと遜色ないものだった。

その当時のことを思い出したのか真耶は小さく体を震わせてしまったが、すぐに何もなかったかのように振る舞う。

 

「柔軟でしなやか、強靱な筋肉のバネを最大限に利用し引き出すラウラのファイトスタイル。あいつの本能がそうさせた獣のような戦い方、今でも覚えているよ……。」

 

「獣……ですか……?」

 

「あぁ。初めてラウラのあのスタイルと戦ったことは今でも鮮明に思い出せるよ。相手のどこを狙えば、相手を崩せるのか……。本能でそれを察知して攻めてくる。恥ずかしいが、あの時私は奴に恐怖を感じたんだ。」

 

過去を、その時のことを思い出した千冬は小刻みに震える右腕を左手で押さえると真っ直ぐな目で画面に映るラウラを見つめる。

 

「奴はAICを使わなくとも強い。それだけはたしかだ。そして今、それが開花した。」

 

千冬はそう断言するとくるりとモニターに背を向ける。

モニターから目を切ってもまだ目には闘志が灯っており表情は小さく笑っている。その表情、長年連れ添ってきた真耶には分かる。その顔になるときは彼女が戦いたくて仕方ない時である……と。

 

 

 

「hyuuuuuuu!!」

 

(キレがどんどん増している?)

 

甲高い奇声を上げながら跳ね回るラウラ、時が経つごとにその動きは加速し翳りを見せない。

その圧倒的な動きにレンはスラッシュリッパーを使って動きを封じにかかるも、それすら即座に粉砕してラウラは跳ねる。

そして跳ねながらすれ違いざまに的確にレンに打撃を加え、じわりじわりと彼女のシールドエネルギーを削っていく。

 

「syu-!! huuuuuuu!!」

 

「く……!」

 

カウンターを決めようにも気付けばブレードの届く範囲よりも遠くへと逃げているラウラのヒットアンドアウェイに翻弄され、レンは自分のリズムを崩してしまっていた。

 

「hyuoooooooooo!!」

 

「ち、ブレードが……!!」

 

自分のリズムを崩した選手が十全に力を発揮できるかと言われれば、答えは否である。

相手に翻弄され、相手にくずされてしまえば自分の力を全て発揮し、引き出すことなど出来はしない。

そうなってしまえば結果は見える。

 

仕合終了、レンのゲシュペンストのシールドエネルギーが底を尽きたことを示すブザーが鳴り、ラウラが動きを止める。

 

「負けたか……。」

 

「仕合、ありがとうございました。レン先輩さん。」

 

ラウラはピシッとした敬礼をレンに送るとざっと背を向けてアリーナから去っていった。

その姿は先程までの猛獣とはまったく違う、軍人のものだった。

 

 

 





獣でもあり、誇り高い軍人なラウラさん。
次回は皆さんお待ちかね?の楯無さん回です。

ではまた次回でお会いしましょうノシ


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