IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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ギリギリ連日投稿!

では本編をどうぞ↓


第150話 更識簪

 

 

IS学園個人トーナメント2日目、昨日の激闘の熱も冷めやらぬままに突入する。

2回戦第一仕合、シードになっていた簪とシャルの仕合である。

下級生から“パイルの王子様”、“鉄杭の貴公子”や“とっつキング”などという渾名で絶大な人気を誇るシャルの仕合ともあって観客席は早いペースで埋まっていく。

 

 

「どーなるか……。」

 

「玉鋼の装甲に対してシャル側が決定打として切れるカードはパイルバンカー、か……。」

 

「一方で玉鋼はシャル側に通せる武装が大量にある。」

 

「寄れればシャルか?」

 

「そう簡単な話じゃないでしょう。鈴さん曰く簪さんは体術もかなりのものだとか。」

 

控え室のモニター越しでまだ誰もいないアリーナを見ていた専用機組の面々はそれぞれの意見を述べ合う。

大方の意見は玉鋼を擁する簪有利となっていた。

玉鋼のガチガチに固められた装甲と並大抵のISならば一瞬で葬る火力は大抵のISに有利がつくからだ。

 

そして仕合時間となり、東西のカタパルトから二人が現れる。

シャルが姿を現すと観客席が大きく沸き、簪が姿を見せた瞬間にどよめきが走った。

 

「……っ!?」

 

「あ、あれはっ!」

 

「玉鋼の装甲が、ない……!!」

 

「南美のサザンクロスに似てるような……。」

 

カタパルトから現れた簪の乗る専用機はいつもの玉鋼ではなかった。機動要塞とも形容される分厚い装甲は取り払われ、両手に持つ巨大なロングバレルガンもない。

普通のISよりも二回りも三回りも小さい機体、そして全身を覆う装甲は青白く光を反射している。

すっきりと纏まった印象を与えるシルエットは同じ顔出し全身装甲(ハーフスキン)タイプのサザンクロスと似た雰囲気を持っている。

どよめきが広がるアリーナの空気を感じて簪はニヤニヤと不敵に笑っていた。

 

「ボク相手には玉鋼の装甲もいらないってことかい? 随分舐められたものだね。」

 

「くくく……。そうじゃない、これは挑戦さ。」

 

険しい目付きになり睨みつけてくるシャルに対して簪は小さく笑う。

その瞳には油断の欠片もなく、真っ直ぐにシャルを見つめていた。

 

 

「南美のサザンクロスと同じパワードスーツ型のISってこと?」

 

「そういうパッケージ装備なのか?」

 

「挑戦……? どういう意味だ。」

 

控え室の面々は唸りながら簪の意図を推し量る。しかしいくら考えても彼女の真意が見える訳でもなく、ただ見守るしかなかった。

 

 

「……そう。」

 

「さて折角玉鋼対策をしてもらったところで悪いが、この千種鋼には盾なんぞ意味はない。」

 

パイルバンカーの代わりにサブマシンガンと物理盾を構えたシャルに対して簪は楯無と全く同じ構えを取る。

そして開始のブザーと共に簪は一瞬でシャルの目の前に現れた。

 

「えっ!?」

 

「捉えきれないはずだ。」

 

簪はシャルの両肩を掴むと力強く投げ飛ばした。突然のことで反応が遅れたシャルはそのまま呆けた顔をして宙に浮かぶ。

 

「行くぞ!」

 

投げ飛ばされて宙を舞っているシャルのそばに現れた簪は彼女を蹴り飛ばし壁に向かって叩きつける。

そんなシャルの姿に一部から悲鳴が上がる。

壁際に追い詰められたシャルに対して簪は更に追い込むように立ち回る。どうにかして壁側から脱出しようとして足掻くシャルだったが、簪のほうが一枚上手か、脱出させてもらえない。

巧みに立ち回る簪は壁にシャルを縫い付けて離さない。

 

 

「あの動きは……。」

 

「まるで更識会長……!!」

 

瞬間移動めいてシャルの周囲を飛び回り逃がさない簪のワザマエに、控え室で見ていた専用機組の面々は息を吞む。そしてレンがちらっと楯無のほうに視線を向ければ、そこには微笑みながらティーカップに口をつける彼女の姿がある。

 

(更識流体術、柔の拳をここまで……。ふふ、頑張ったのね簪ちゃん。)

 

紅茶を飲みながら内心妹の成長を感じていた楯無はティーカップをサイドテーブルに置いてモニターへと今一視線を移す。

 

 

 

「行くぞ、捉え切れまい……!!」

 

「くそ……ッ!!」

 

視界の端から端、消えては現れ、現れては消えてを繰り返し続ける簪の変則機動にシャルは舌打ちする。

開始前に簪が言った通り、準備してきた玉鋼対策は何の意味もなしていないのだ。

盾も高速で繰り出される拳はそれをかいくぐり、パイルバンカーではそれを使う余裕さえ与えてくれない。そんな状況で苦し紛れに放ったマシンガンの弾丸すら掠りもしなかった。

 

「ひゅぅ! ひゅう!!」

 

「なんなんだよ、その呼吸はさ!!」

 

「そこだ!!」

 

苛立ちをごまかすように大声をあげて銃弾をばらまくシャル、それは簪にとって絶好の隙でしかない。

マシンガンを握るシャルの手を掴むと関節を極めるようにして捻る。パワーアシストでは完全に簪の玉鋼の方が上であり、シャルは逆らわないように身体を捻って投げられる。

 

「秘技……更識有情断迅拳!!」

 

宙に浮いたシャルとすれ違うように簪は低い態勢で駆け抜ける。その数秒後にシャルの身体は弾けたように震え地面に落ちた。

どさりと音を立ててその場に倒れ伏すシャル、ボロボロになったラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡと彼女の姿にファンクラブの少女たちが絹を裂くような悲鳴をあげる。

その悲鳴に釣られてざわざわと俄に騒がしくなるアリーナ、中には泣き出す者さえいた。

 

「秘孔を突ききってはいない、立てるだろう? なぁシャルロット・デュノア。」

 

「もちろん……だ。」

 

息も絶え絶えに立ち上がったシャルは闘志の籠った瞳で簪を見つめる。

まだ彼女は諦めていなかった。物理盾を背中に背負うと右手にパイルバンカー、左手にサブマシンガンを装備する。

 

(身体が重い……、でもまだヤれる! ()るッ!!)

 

ギラギラとした目付きでパイルバンカーを構えたシャルは重く軋む身体に鞭を打って大きく息を吐いた。

そんな闘志剥き出しの彼女に簪は嬉しそうに笑う。

 

「そうこなくっちゃ。では、行くぞ!」

 

「っ……!!」

 

また消えて目の前に現れた簪に対してシャルはパイルバンカーを横薙ぎに払う。

だがそれは当たらない。実体のない影を掴もうと手を伸ばしたかのようにそれは空を切った。

そして

 

「はぁんッ!!」

 

「くっ!」

 

背後から見舞われる簪の掌底、背中に背負った盾のお陰でダメージこそないものの大きく吹き飛ばされる。

 

「ひゅう! 覚悟!!」

 

独特な呼吸音を響かせて簪はシャルに迫る。

一瞬で距離を詰めた簪は高々と足を掲げるように振り上げてシャルの身体を宙に蹴り飛ばすと追従するように自身も跳ねる。

 

「はぁ……天翔百烈!」

 

次々と繰り出される強力な正拳突き、そして大振りに突き出された拳がシャルの身体を捉えた。

力なく宙を舞うシャルに簪は更に追撃を重ねる。

 

「ジョイヤー!」

 

踵落としのようにシャルの足に自分の足を引っ掻けた簪はそのまま同時に着地し肘鉄から強烈なボディブローでシャルを突き飛ばす。

そして壁に激突したシャルに止めを刺すかのように簪はブースターを勢いよく吹かして距離を詰めると右腕を大きく振り絞る。

 

「塵と砕けよ!!」

 

「これを……待ってたんだ!!」

 

勢いよく突進して拳を振り絞る簪に対してシャルは不敵に笑ってパイルバンカーを構える。

捉えきれないなら捉えられるまで待てばいい。幸いシャルの持つパイルバンカーは玉鋼本来の分厚い装甲すら貫けるように威力をこれでもかと高めたものだ。

普通のISと同等にも見える今の状態ならば当てれば倒せると踏んでの捨て身カウンター狙いである。

 

「更識の剛拳、受けてみよ!!」

 

「その顔吹っ飛ばしてやる!」

 

ごうと音を立てて突き出される簪の拳、そしてそれと同時に射出された鉄杭。

ぐわきんという凄まじい音がアリーナ中に響き渡り、衝撃から大量の砂ぼこりが舞い上がる。

だがしかし電工掲示板には視界が通り、観客が声をあげた。

 

「あ、あぁシャル先輩……!!」

 

「嘘、よ。そんなの!!」

 

電工掲示板を見たシャルファンクラブの面々が悲鳴にも近い声を響かせる。

掲示板にははっきりとシャルのシールドエネルギーがゼロであると示されている。対して簪のエネルギーはまだ余力があった。

 

「私の勝ちだな。」

 

「……、かすっただけ、か。」

 

敗北したシャルは静かに目を瞑るとハァと息を吐いた。

あの一瞬、簪は当たる瞬間に首を最小限にずらすことで逸らしたのだ。

下手をすれば直撃もあり得たであろう攻撃をかすらせることで身体のブレを減らし、シャルを確実に仕留めたのである。それもこれも自らが開発した機体に対する絶対の信頼があってこそだ。

 

「この“千種鋼(ちぐさがね)”に半端な攻撃は通用しない。」

 

「そっか……、あーあ! 良いところないなぁ。」

 

愚痴を溢すようにして声を漏らしたシャルに対してフゥと息を吐き出した簪は手をとって立ち上がらせるとそのまま並んでアリーナを出ていった。

 

 

 

 





ではまた次回でお会いしましょうノシ


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