IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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久々の連日投稿!

では本編をどうぞ↓


第149話 北斗と南斗

 

 

「いやー、1回戦からこの組み合わせとか。胸が熱いな。」

 

「うん……。」

 

残された最後の1回戦、北星南美対凰鈴音の仕合である。

2年生肉弾戦最強決定戦とも言えるこの組み合わせに、会場の観客席は一瞬で埋まり、立ち見する生徒も大勢いた。

この仕合だけは生で見ようと出番のない者、シフトの入っていない者たちはこぞって集まっていたのである。

 

「どっちが勝つんだ、これ……。」

 

「分からない。分からないけど、この仕合だけは見逃しちゃダメなんだと思う。」

 

控え室から飛び出てきた専用機組の面々もどうにかして席を確保してこの仕合を見守りに来ていた。

 

 

 

「ヒャッハー! 盛り上がってるねぇ!」

 

「そうね、あんたとの決着は決勝でって思ってたけど、くじ運なら仕方ないか。」

 

アリーナに立ち対面する二人は静かな殺意を向けあっていた。

緩い会話を交わして開戦までの暇を潰しているかのように見えて、その実お互いに腹のうちを探りあっているのだ。

 

 

「は、はわわ……。この仕合はスゴい予感が……。」

 

「体術最強は誰か……、モンド・グロッソの度に必ず上がる話題だ。今まではスペインのソフィアや楯無が筆頭格として挙がっていたが、もしかするとその番付に奴等の名が挙がるかもな。」

 

「ほ、ほえ? 織斑先生……?」

 

疑問に思った真耶が振り返った先にはうずうずとした表情で腕を組む千冬の姿がある。

戦いに生きる戦士の顔で眼下に映る二人を見つめる彼女は真耶から見ても少しだけ怖く見えた。

 

 

「フゥゥゥ!!」

 

「ウゥゥゥ!!」

 

開戦のブザーが鳴り響き二人は同時に走り出す。

体のバネを極限まで使い溜めた一撃を同時に放った。

 

「シャオッ!!」

 

「アァタッ!!」

 

南美の手刀払いに対して繰り出された鈴音の正拳突き、豪快に音を立てて火花が散る。

そしてその場で二人は足を止めて仕掛け合う。フェイントと本命,ガードと回避の高度な応酬はそれだけでも観客から金が取れるほどのレベルだ。

 

(右肘、フェイント! 本命はこの左のロー!)

 

(見切られるのは想定内、その上でこれは──!)

 

右肘鉄のフェイントを仕掛けてから鋭いローキックを放つ鈴音、そしてそのフェイントを見切りきっちりとローキックを受け止めようと右足の脛を差し出した南美。

その南美の頭部に衝撃が襲い、彼女の体が仰け反る。

 

(──見切れるかッ!!)

 

(っ……!? 衝撃砲か!!)

 

南美が吹き飛びながら視界の端に捉えたのは砲口の開いた甲龍のショルダーアーマーだった。

滅多に彼女が使わなかった兵器による不意打ちは回避することもさせずに南美の体勢を崩させたのである。

そして体勢を崩した南美に対して更に鈴音が仕掛ける。

 

「ゥアチャッ!!」

 

「ちっ!?」

 

鋭く跳ねるようにして繰り出された鈴音の飛び蹴り、それを南美は腕をクロスさせてガードする。

そして鈴音はガードした南美の腕を足場に跳ねて、今度は手刀を突き込むように南美の懐に飛び込んだ。

 

「七死騎兵斬!」

 

「そこだっ!」

 

「っ!?」

 

南美は一瞬で軌道を見切ると突き出された鈴音の手を取って突進してくる勢いも利用して逆方向の空中に向かって乱雑に投げ飛ばす。

乱雑に投げられ一瞬だけ上下の感覚を失った鈴音に対して南美が飛び蹴りの追撃を仕掛けてアリーナの壁まで蹴り飛ばした。

 

「南斗獄屠拳!!」

 

「ちッ!!」

 

「そらそらぁ!!」

 

鈴音を壁まで蹴り飛ばした南美はブースターを使用して一気に距離を詰めてさらなる追撃を加える。

 

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「ぐ……っ!?」

 

アリーナの壁に押し込まれた鈴音に対して南美の回し蹴りが鳩尾を捉える。

ブースターの加速、回転、重さ全てを乗せた一撃は甲龍のシールドエネルギーを大幅に削る。

 

「うっわ、強烈……。」

 

「かなり効いただろうね。」

 

観客席から見ても分かる南美の回し蹴り、その威力をもろに受けた鈴音は苦痛に顔を歪ませる。

ISのシールドエネルギーとて万能ではない。衝撃までは殺せないのだ。

そして回し蹴りの衝撃でまたも壁に叩きつけられた鈴音、その彼女に対して南美は手を緩めない。

 

「ショオォオッ!!」

 

「こっのぉ!?」

 

勢いをつけて繰り出された南美のハイキック、それは鈴音の側頭部を捉える。

だが鈴音は崩れず、歯を食いしばって蹴ってきた南美の足を掴んだ。そしてその足を掴んだまま前のめりに踏み出すと右ストレートを打ち出した。

足を捉えられた瞬間に鈴音の一挙手一投足に対して全神経を集中させていた南美は咄嗟に顔面を守る為に両腕をクロスさせてガードの体勢になる。

 

「フゥアチャアッ!!」

 

「いっ───!?」

 

ガードの上から叩き壊すような強さで打ち据えられた鈴音の拳、それには力業で道をこじ開けようとする彼女の意地が見える。

そして足を掴んだまま逃げられないように射程距離に捉え続けて鈴音は右腕でラッシュを仕掛ける。

 

「フゥゥウアタタタタタタタッ!! ゥアチャアッ!!」

 

「ぐ、このぉ!?」

 

片足でバランスを保ちながら両腕で鈴音のラッシュをガードしていた南美であったが、加速していくそのラッシュに抉じ開けられ、遂に直撃を受ける。

それからはさらに加速していく鈴音のラッシュによってシールドエネルギーを削られ、最後の一撃とも言える大振りのストレートによって南美は大きく吹き飛んだ。

殴り飛ばされた南美は瞬時に体勢を整えて着地するが、そこには既に鈴音が襲い掛かっていた。

 

「ファチャ! ウアタァ!! フゥゥゥアチャアッ!!」

 

「ち、この、まだまだぁ!!」

 

勢いに乗って攻め立てる鈴音の攻撃を南美は四肢を巧みに使い捌いていく。

徐々にリズムを掴み始めた南美は鈴音のラッシュを完全に捌き五分に戻す。

再度足を止めて仕掛け合いの応酬へと戻った二人、上級生はその中に織り込まれている彼女たちのテクニックを見て盗もうと視線を集中させ、下級生たちは感動さえ覚えていた。

 

 

 

「半端ないってレベルじゃないな。」

 

「世界レベルだよ。」

 

「単純な殴り合いならもう勝てないかもな。」

 

「間違いなく二学年の格闘戦最強決定戦ですわね。」

 

二学年の専用機組でさえ驚愕と感嘆の目を向けていた。ただ一人、簪を除いては。

 

 

そうして仕掛け合いの応酬から数分、二人は同時に後ろに跳ねて距離を開けた。

 

「ハァ、フゥ……。」

 

「ハッハッハァ……。」

 

距離を開けた二人は睨み合いながら呼吸を整える。

疲労度合いも同等、シールドエネルギーの残量もほぼ五分と言った状況。両者の残りシールドエネルギーはあと1割と少しといったところだ。

恐らく次の一撃、次の一合いで決まる。そう観客席の生徒たち、そして教員たちは思った。そしてそれが事実だと語るかのように二人は距離を保ったままじりじりと睨み合う。

タイミングを図るように、獲物の状態を見極めるハンターのように、鋭い視線がお互いに突き刺さる。

 

「これは……。」

 

「一瞬の差し合い……!」

 

二人の間に張りつめる緊張感は伝播しアリーナ中の観客全てが静かな空気に包まれる。

まるで真剣での果たし合いを見ているような、そんな気分が生徒たちの間に流れていた。

 

「……っ!」

 

「動いた!!」

 

二人は同時に、何かの合図が有った訳でもなく本能的に同時に動いていた。

紫色のエネルギーが南美の両手を覆い、青いオーラが鈴音の脚と腕を覆う。

 

「南斗虎破龍っ!!」

 

「北斗龍撃虎ッ!!」

 

南美は大きく踏み込んでエネルギーを纏った多段突き放ち、それに対抗するように鈴音はそれらを腕で受けつつ満身の力を込めたハイキックを南美の頭目掛けて放った。

 

「ぐぅ……?!」

 

「この──!?」

 

捌き切れなかった突きは鈴音の身体を捉え、防ぐ気のなかった鈴音のハイキックは南美の頭を打つ。

その瞬間にブザーが鳴り響き、全員が視線をアリーナの電工掲示板に向ける。

そこには両者ともシールドエネルギーの残量がないことを示すゼロの数字が二つ。そしてDKOの文字が浮かんでいた。

 

「……DKO……?」

 

「相討ち……だと……?!」

 

「これって、結果はどうなるの?」

 

「再試合、とか?」

 

IS学園の、いや国際大会などを見ても前例がない初めてのことに観客席にはどよめきが広まる。

ざわざわと騒がしくなるアリーナに千冬の凛とした声が響く。

 

『静粛に! 現在本部でビデオとシールドエネルギー表示機器の記録による判定を行っている。結果はまもなく分かるだろう。』

 

千冬のアナウンスによってざわつきも大人しくなり、アリーナでは今は静かな緊張感が漂っている。

前代未聞のダブルKOという結果に目を丸くする者や、珍しいものが見れたと満足げに笑う者など、その反応は様々だ。

そうして数分後、またマイク越しに千冬の声がアリーナに響く。

 

『表示機器の記録とビデオによる厳粛な判定の結果、コンマ数秒の差ではあるものの一方のシールドエネルギーが先に尽きていた。よって勝者は───』

 

勝者は決まった。観客席はそれを、勝者の名を聞き逃すまいとしんと静まり返る。

一瞬の間、今はそれが何分間にも感じただろう。

 

 

『北星南美!』

 

そして告げられる名前、水が乾いた土に染み込むようにその声はアリーナの中を駆け巡った。

反響が収まり訪れた一瞬の静寂、そして風船が割れたように観客席は沸き立つ。

 

「「うわああああああっ!!」」

 

「「二人ともスゴい!!」」

 

「南美センパーイ!」

 

「鈴ちゃーん!!」

 

「私二人のファンになりましたー!!!」

 

「かっこよかったですー!!」

 

「ナイスゲーム!!」

 

「ハラショォオオオッ!!」

 

歓声は惜しみ無い賛辞の言葉として二人に降り注ぐ。

シールドエネルギーがゼロとなり、専用機を待機状態に戻した二人は疲労の色を見せながらも気丈に振る舞い、歓声に笑顔で応える。

ガッツポーズや手を振り返しながら二人は並んでアリーナを去っていく。それでも歓声は収まらない。

二人の姿が見えなくなっても数分間は声が鳴り響き続けるのだった。

 

 

こうしてIS学園個人トーナメントの一日目は幕を閉じた。

 

 

 





書いてて楽しかったなぁって。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



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