IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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皆様明けましておめでとうございます。orz
またお待たせしました。


では本編をどうぞ↓


第148話 赤い烏

 

 

「お相手お願いします!」

 

「ああこっちこそ、よろしく頼むよ。」

 

セシリアが魔王として君臨した試合からおよそ30分後、アリーナではセサルと一夏が向かい合っていた。

赤い装甲に、翼にも思える背部パーツを備えた機体。確かにその名前に相応しい外見だと言える。

 

「戦うのは初めてですね。手加減しないでくださいよ!」

 

「当たり前! 誰が手加減するかよ。」

 

巨大な斧をブンブンと振り回して威嚇するヴェニデに対して一夏は笑って雪片を構える。

2回、3回と素振りをしてピタリと目の前で止めたヴェニデはニヤリも笑う。

 

「今日の私は淑女的です。運が良かったですね……。」

 

「そうかよ。」

 

ニヤリとした笑みを浮かべた彼女に相対して雪片を握り締めた時に戦闘開始を告げるブザーが高らかに鳴り響いた。

その瞬間にそれまで淑女然としていたセサルの雰囲気がガラリと変わる。

 

「ぶるぁああああっ!!」

 

「っ!?」

 

急に雄叫びを上げて獣のように一夏に襲いかかるセサル。

手にした大斧を振り上げて肉薄する。ブンと振り下ろされた斧を雪片をで受け止めて鍔競り合いの形になる。

 

「ハッハァッ!!」

 

「ちぃ……!」

 

「その程度で、私を押し込めるものかよぉ!」

 

力業で一夏を突き飛ばして鍔競り合いから抜け出したセサルはそのままブースターを使って追撃を仕掛ける。

大振りの大斧による攻撃はこれがISでの戦闘でなければ死を覚悟するほどだ。

 

「んんん、ぶるぁああああっ!!」

 

「こっの!!」

 

上段から殺すつもりで振り下ろされる斧の一撃から一夏は転がることで難を逃れる。

そして誰に当たることもなく振り下ろされた斧は地面に突き刺さり、大量の粉塵を巻き上げた。

 

(チャンス!)

 

巻き上げられた煙によって姿をその中に眩ませたセサル、しかし一夏は今こそチャンスと音を立てずに距離を詰める。

そして背後まで忍び寄った一夏は雪片を振り上げる。だがその一夏の首をセサルが掴んだ。

 

「私の背後に立つんじゃ───」

 

一夏の首を掴んだセサルは満身の力を込めて彼の体を振り回し、頭から地面に叩きつける。

 

「──ねぇ!!」

 

「がぁ!?」

 

「いつまで寝てんだ!」

 

「ちょ!?」

 

頭から叩きつけられた一夏に対してセサルは足を大きく上げて踏みつけようと打ち下ろす。

それも転がるようにして逃れた一夏は雪片を構え直した。

 

 

 

「強いなぁ、セサル・ヴェニデ。流石はドラゴネッティのスパー相手だ。」

 

「国家代表といつも仕合してれば上達するのも納得ね。」

 

モニターでセサルの戦いぶりを見ていた簪と鈴音が言葉を漏らす。

豪快ともまた少し違う彼女のスタイルに全員が舌を巻いていたのだ。

 

 

 

「男に後退の2文字はねぇ!!」

 

「そうだな!!」

 

バックステップで距離を取ろうとした一夏に対してさらに大きく踏み込むことで追撃するセサルの斧を受け止めて一夏が苦笑いする。

絶対に射程から逃がさないという揺るがない意思を目に灯してセサルは斧を振る。一撃一撃がとても重いそれを捌きながら一夏は間合いをどうにかしてコントロールしようとするが、それを簡単には許さない。

 

「ぶるぁああああっ!!」

 

「ズェア!!」

 

乙女とはかけ離れた雄叫びを響かせながら振るわれる斧を受け止めて一夏はセサルを蹴り飛ばす。

そうして開いた距離を利用して一夏は加速しその勢いのままにセサルに切りかかる。

しかしそのままやられるようなセサルではない。ソフィア・ドラゴネッティのスパーリング相手とはつまり、あのタンデムを経験してきているということでもある。

単純なラッシュなぞ簡単に回避できる。

 

「甘えてんじゃねぇ!!」

 

「こっの!」

 

勢いだけの直線的な動きで振られる雪片をきっちりと捌ききり、状態を5分に戻す。

 

 

 

「あんな叫び声あげといて、なんて冷静なのかしら。」

 

「冷静に狂ってるって感じかな? 言い方は失礼だけど。」

 

「あながち間違いじゃないでしょ。」

 

モニター越しに見るセサルの戦いに同じ学年の3人はおろか上級生たちすらも息を呑む。

身の丈以上もある大きな斧を器用に、それこそ自分の体の一部のように扱いきるセサルの技量とどんな体勢からも5分に引き戻すテクニックはまさに圧巻である。

 

 

 

(思い出せ! ヴェニデの娘として生まれてから、誰に斧を習ってきた! IS乗りになってから誰と組手を重ねて来た!!)

 

戦いの最中、セサルが思い浮かべるのは自身に斧を教えた青髪の男の存在とISに乗り始めてからコーチのように戦い続けたソフィアの存在だった。

その二人の存在がどんな状況に陥ってもセサルを奮い立たせる。

 

(油断はするな、絶対に! 一夏さんの雪片は、零落白夜はどんな状況からでも逆転する!!)

 

(当てる! 2発、最低でもそれだけ当てれば充分に勝てる!!)

 

お互い得物が近距離用である為に競り合いは激化する。

どこまで優位を保っても一撃でそれをひっくり返す一夏の雪片にセサルは意識を集中する。

それは一夏も分かっているようで雪片以外の手段でセサルの意識の不意を突き、意識を散らす。

 

「ズェア!!」

 

「ぶらぁッ!!」

 

ガギンと音を立てて火花を散らす二人、視線は交差し相手を倒すという意思が混じり合う。

純粋なパワーであれば一夏と白式の方がセサルと“赤い烏(パハロ=ロッホ)”よりも上だ。それをセサルは培ってきた経験とテクニックで5分に戻している。

知的な戦闘狂(レディー・バーサーカー)、それは彼女がISに乗る前まで国内で呼ばれていた二つ名である。どんな状況でも強気に、それでいて恐ろしいまでに知性的に冷静な彼女は武門の名家、ヴェニデ家の中でも稀に見る才能の持ち主だった。

決して驕らず、家の名に恥じぬ彼女の振るまいとその才能は家の者を唸らせ、初代ヴェニデ家当主の名前を名乗れるほどに。

 

 

「ぬぅッ! ぶるぁああああっ!!」

 

「ちィ……!!」

 

上空から勢いよく降下しその勢いも乗せた斧の一撃を受け止めた一夏の体勢が大きく下がる。

パワーが足りないならば別の何かで補えば良かろうと言わんばかりの形相に観客席の生徒たちは気圧される。

 

「負けるかよ!」

 

「それはこちらの台詞です!」

 

鍔競り合いの状態を当て身と足技で崩そうとする一夏、それに対抗するようにセサルも体術を駆使する。

得物同士の打ち合いだけではない、高度な近距離戦闘を全員が固唾を飲んで見守っていた。

 

「零落──白夜!」

 

前蹴りで距離を開けた瞬間に一夏は勝負を決めようと切り札を切る。

それを見たセサルは反撃の為に踏み込み直そうとした足を一瞬だけ止める。

 

「掛かって来いよ! セサル・ヴェニデェッ!!」

 

「……ッ!」

 

挑む、全てを懸けてこの戦いに臨むという意志を持って叫ぶ一夏にセサルは怯えていた気持ちを払拭して踏み込む。

戦いに全霊で挑む者には最大の敬意を以て全力を尽くす。それがヴェニデ家に伝わる家訓であったからだ。

 

「うぅおおおおッ!!」

 

「ズェエエアァ!!」

 

大斧を両手で握り締め、振りかぶるセサル。それに対して雪片を水平に構えて突き進む一夏。

お互いの射程にお互いを捉えて激突する。水平に構えた一夏に対してセサルは大振りで斧を振り下ろした。

 

「ズェアァアッ!!」

 

「───ッ!?」

 

横凪ぎの黒い一閃がセサルを捉えた。それに続いて幾重もの黒い剣閃がセサルを、赤い烏を捉え続ける。

そしてその黒い閃光は幕のようにその場に残り続け、二人の姿を周りから隠す。

 

「ハクメン式奥義、悪滅っ!!」

 

「……、そん、な……ッ!!」

 

黒い幕が晴れ、二人の姿が視認できるようになったとき、ブザーが仕合終了を告げる。

勝ったのは一夏、逆転の一撃を決めて勝利を納めたのだ。その事実は他の専用機組たちに大きな衝撃を与える。

どんなに有利を保っていても、たった一撃で倒されかねないというプレッシャー。それはどんな兵器よりも恐ろしい。

 

「……、負けましたか……。」

 

「まぁ、白式の能力ありきの戦い方だけどさ。」

 

「それでも負けは負けです。」

 

そう言って小さく彼女は息を吐くと、すっと手を差し出した。

一夏も彼女の真意を察してさっとその手を優しく握る。

 

「また勝負しましょう。一夏さん。」

 

「ああ、望むところだ。」

 

手をほどいた二人はコツンと拳をぶつけ合い、それぞれアリーナを去っていった。

 

 

 





ヴェニデ家の娘、セサルちゃんは斧を握って戦いに挑むと性格が変わるタイプの美少女。


ではまた次回でお会いしましょうノシ


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