IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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少しばかりペースが落ちます。

では本編をどうぞ↓


第145話 紅椿対黒雨

 

 

シャルとヴィートによる激闘で温まった会場の空気、それを更に熱くするように次の仕合がアナウンスされる。

 

『次の組み合わせ、ラウラ・ボーデヴィッヒさんと篠ノ之箒さんの仕合は30分後に行います。』

 

2年生専用機組同士の組み合わせに、自分の番がまだまだ来ない生徒たちは第4アリーナの観客席に詰め掛け、そうでない者も近くのモニターで観戦をしようとする。

購買でコーラとポップコーンを購入して席に着く者さえいた。

 

 

「それじゃあ行ってくるよ。」

 

「ああ、頑張れよラウラ。」

 

第4アリーナの第1カタパルト前でラウラは一夏と拳を突き合わせた。

彼女の表情には一切の緊張もなく、ただヤル気に満ち溢れている。戦い前の兵士のそれとも違う、満ち足りた顔だ。

ラウラはカタパルトに乗ると一気に射出され、アリーナに飛び立った。

 

 

 

「さて……と、斬るか。」

 

アリーナには既に箒が待機しており、二振りの刀を構えていた。

目は飢えた獣のようにギラついており、普段のような落ち着いた様子はどこにもない。

 

「待っていたぞラウラ。」

 

「待たせて悪いな、早速仕合おうか。」

 

「そうだな。」

 

お互いがにらみ合い、武器を構える。

それは闘いの場において当然の行為であり、アリーナの緊張をピンと張り積めさせた。

緊張感により、観客も固唾を飲んで見守るなか、開戦のブザーが鳴る。

 

「でぇえりゃぁあっ!!」

 

ブザーと同時に箒は駆けた。赤い装甲を身に纏い、旋風となってラウラに迫る。

両手に構えるのは空裂と雨月、紅椿用に作られた名刀だ。殺意の籠った瞳をラウラに向けながら箒は射程に捉え、斬りかかる。

 

「フッ!アーイッ!」

 

「ちっ!」

 

振り下ろされる刀をナイフで受け止めると足払いをして箒の体を崩す。

そして追撃しようと落とされた踵を箒は転がって逃れると立ち上がってラウラの首筋を狙いにいく。

 

「その首を置いていけ!」

 

「おお、怖い怖い。」

 

自身の首に向かって迷いなく振られる刀を身を翻してラウラはかわす。

ひらりひらりと舞うようにして迫る刃をかわしながらナイフを投擲して箒を牽制し続ける。

 

「ちょこまかと……!!」

 

「無駄無駄ァ!」

 

「このっ!?」

 

横凪ぎに払われる刀の軌道から逃れてばら蒔くようにナイフを投げ付けるラウラに箒は怒気を含んだ声を上げる。

しかしラウラはそんな箒の怒気などどこ吹く風かと受け流し、攻勢の手を緩めない。

 

「そらそらそらそらぁ!!」

 

拡張領域(パススロット)の中から大量に取り出したIS用ナイフを雨のように投擲しながらラウラは箒との間合いを図る。

機動力と瞬間火力のみを追求した期待である紅椿はその分装甲が薄い。故にただのナイフであってもじわじわとシールドエネルギーが削れていくのだ。

 

「見切れるかっ!」

 

「く、このっ!?」

 

ナイフの投擲だけではなく、ワイヤーを使った変則機動から繰り出される飛び蹴りなど、上下左右に揺さぶるように飛び回るラウラを箒はどうにか刀で受け流しながら凌ごうとする。

しかし───

 

「ガードなど無駄だ!」

 

「っ!? 腕が───」

 

「無ゥ駄無駄無駄無駄無駄無駄ァ!」

 

左から跳んできたラウラの蹴りを左手に握る刀で防ごうとした箒であったが、その左腕が動かなかった。

まるで腕が中空に縫い付けられたかのようにピクリとも動こうとしなかったのである。そしてガードも出来ず飛び蹴りを食らい、連続で殴り付けられ吹き飛んだ。

 

「っ……、AICか。忘れていたぞ。」

 

「コレがある限りタイマンの勝負では私がまだ有利だな。」

 

「この野郎……。」

 

ニヤリと笑うラウラを見て箒は額に青筋を立てた。

 

 

 

 

「無駄ァ!」

 

距離を置きながらまたナイフの投擲を行い、じわじわと紅椿のシールドエネルギーを削るラウラを箒はイライラの募った顔で睨み付ける。

投げられるナイフを刀で弾こうとすればAICでその動きを止められ、避けようとすれば体のどこかを止められて当てられる。距離を詰めようにもラウラの高度な機動術に流されるようにいなされてしまっているのだ。

 

「この……!!」

 

「ハッハッハッ! 箒の動きは既に見切った!」

 

距離を取りながら高笑いするラウラに対して箒はギリッと歯噛みする。

機動力で間合いを強引に詰めようにもAICを使ったラウラのトリックに翻弄され、満足に踏み込むことすら儘ならない状況は箒にとって一番厄介な展開だ。

しかしそれでも打開策はある。AICはエネルギー兵器に対しては効果が薄いのだ。

 

「それならこれでも喰らうといい!」

 

高笑いしながら空を飛ぶラウラに向けて箒は右手に持った空裂を大きく振る。

するとエネルギーの刃がラウラに向かって飛んでいった。AICがエネルギーに対して効果が薄いことを理解しているラウラはその射線上からずれて逃げる。が、そのすぐ目の前をレーザーのように一筋の光線が貫いていった。

 

「ちっ……、外したか。」

 

「なるほど、中距離にも対応出来ると言うことか。」

 

いきなりの奇襲に対してもラウラは動じることなくその性能について考察を行う。

思考にリソースを割きながらも、飛んでくる攻撃への対処は怠らない、そして何があっても狼狽えない。それがドイツで彼女が叩き込まれたことである。

 

「ちぃとばかし驚いたが、それだけだ!」

 

「そうか。それがどうした。」

 

奥の手とも言える攻め手にも動じないラウラであったが、箒は至極冷静だった。

 

「どうであろうと首を取るだけだ。」

 

「なら取ってみろ!」

 

二本の刀を交差させて構える箒に対してラウラは自身の首を掻き斬るジェスチャーをして箒を挑発する。

そんな二人のやり取りも、2年生の専用機組にとっては見慣れたじゃれあいである。

 

「行くぞ……。その首置いてけぇえええっ!!」

 

「無駄無駄ァ!」

 

暴力的な加速で距離を詰めて斬りかかる箒にラウラはAICを使用して迎え撃つ。

中距離にも対応出来るとは言え、紅椿と搭乗者の箒の本領は近距離での斬り合いである。それさえどうにかしてしまえば箒に勝つことは難しくはない。それがラウラの考えだ。

ナイフによる弾幕でシールドエネルギーをじわじわと削られてきた紅椿は、既に残量2割と言った段階に突入し、危険域に達している。装甲の薄い紅椿にとってその量はもはや一撃で倒れかねないものだ。

 

「さぁて、そろそろ終わらせてやる。」

 

ラウラはニヤリと笑うと右手を大きく掲げ、指を鳴らした。

パチンという乾いた音が響くと、その瞬間に周りの動きが一斉に止まる。いや、止まったように動かなくなった。

 

「これで終わりだ。」

 

完全に誰も動かなくなった空間でただ一人ラウラだけは動けていた。

大量に取り出して投げ付けられたナイフは空中でその動きを停止させ、無数の刃が箒に、紅椿に突き付けられる。

ナイフをばら蒔くように投げ付けたラウラは完全に停止した箒の背後に回ると普段なら絶対にしないであろう大振りの拳を1発だけ叩き込む。そしてくるりと箒に背を向けて腕を組んだ。

 

「そして世界は動き出す……。」

 

ラウラの言葉が空気の中に溶けるようにして消えていくと、止まっていたナイフが一斉に動きだし、箒に牙を剥いた。

 

「な……っ!? うぁあっ!?」

 

襲い掛かるナイフの嵐によって紅椿のシールドエネルギーは底を尽き、ブザーが鳴った。

しかし観客達は一様に何が起こったのか分からないような、理解出来ていないような顔を浮かべている。

そうして頭上に疑問符を浮かべている彼女らを横にラウラはスタスタとその場から離れていった。

 

 

 

「お疲れラウラ。」

 

「あぁ、少し疲れたよ……。」

 

「AICの乱発とかするからだろ? 最後のフィニッシュだって……。」

 

ISスーツだけの姿になってふらつくラウラを抱き止めながら一夏はベンチに腰掛けた。

一夏に抱えられて膝の上に座るラウラは重そうな瞼を必死に開きながらうとうととしている。

 

「そんなに疲れたなら部屋に戻って眠ってて良いぞ?」

 

「い、や……。一夏の応援、する……。」

 

そう言いながらもラウラはこっくりこっくり船を漕いでおり、眠気に負けそうなのは明らかだ。

一夏はそんな彼女の頭を優しく撫でると彼女が寝付くまで柔らかく抱き締めるのだった。幸い、彼の出番はまだまだ先であり、時間に余裕はある。

 

 

 

 

「はーい、どもども。新聞部の黛でーす。」

 

「……手短に頼みたい……。」

 

箒の控え室にはカメラとボイスレコーダーを手にした黛薫子が入ってきた。負けた直後で気が滅入っている箒はそんな侵入者にポツリと告げる。

その意を汲み取り、小さく息を吐いた薫子は一歩だけ箒に歩み寄るとボイスレコーダーを向けた。

 

「では一言。ラウラさんと戦っての感想は?」

 

「…………、タイマンでAICはズルくないか?」

 

箒はそれだけ言うと拗ねたように頬を膨らませて薫子に背を向ける。その態度にこれ以上は聞き出せないと判断した彼女は控え室を出ていくのだった。

 

 

 

 





やべー、ラウラさんが強キャラになってる。

ではまた次回でお会いしましょうノシ


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