開幕戦です。
では本編をどうぞ↓
個人トーナメント専用機組の部、1回戦第1仕合の組み合わせは1学年ヴィート・ハユハと2学年シャルロット・デュノアだ。
観客席にはシャルロットファンクラブの面々が押し掛けており、その一角で異様な空気を生み出している。
「さて、始めていこうか。」
「はい。お願いするであります。」
お互いが武器を構えるとディスプレイに表示されるマーカーに光が灯る。そしてブザーが鳴るとともに一つずつ点灯していたマーカーが消えていき、最後の1つが消えると一際大きな音が響き、二人は動き出す。
「やらせてもらいます!」
「……?」
ヴィートは
するとその箱に取り付けられた銃口が自動でシャルを追尾し始める。
(セントリーガン!!)
「こいつで……、どうにか!」
ヴィートが設置したセントリーガンにシャルが気を取られているうちに彼女はシャルから距離を置き、スナイパーキャノンを構える。右手の人差し指を引き金に掛け、長い銃身の中程を左膝の上に置くように構え照準を合わせた。
幼い頃からケワタガモを相手に銃口を向けていた彼女にとって、ISはただの大きな的だ。
(ショットッ!!)
ヴィートの放った弾丸は瞬時にシャルの頭部に直撃し大きくそのシールドエネルギーを減らす。
そしてそれを見た観客席から悲鳴が上がる。
しかしそんな周囲の反応とは裏腹にシャルは至って冷静だった。
ヘッドショットを受けた直後からシャルは高速で左右に飛び始め的を絞らせない。セントリーガンからの銃撃、砲撃による妨害もしっかりと視野の端に納めて冷静に回避する。
どんなに濃い弾幕も当たらなければ意味が無いのである。
「シャル先輩! カッコいい!!」
「またまた惚れちゃいます~!!」
そんなシャルの飛行にファンクラブの女の子達は黄色い声援を送る。
(……、あと2発……。どうやってその隙を作る?)
「逃がさないよ! 決めさせてもらう!!」
サブマシンガンで銃弾をばらまきながらシャルとの距離を離そうと画策するヴィートの対してシャルはパイルバンカーを見せびらかすように構える。
あまりにも露骨にそのバンカーを見せつける彼女にヴィートは不信感を覚えた。
(……流石に露骨でありますな、あのバンカー。もしやただのパイルではない? ……セントリーガンの残弾はまだ十分にある。このまま弾幕を張りながら判定勝ち狙いもあり……。いや、逃げ腰すぎてそれではスミカさんに叱られてしまうであります。)
マシンガンを引き撃ちしながら観察していたヴィートはフィンランドにいた頃のスミカとの訓練を思い出し、弱気になりかけていた自分に渇をいれる。
右手に持ったスナイパーキャノンを格納ハンガーにしまい、もう一丁のサブマシンガンを構えた。
「狙撃以外は苦手でありますがッ!!」
近距離に飛び込んだヴィートはそのまま両手のマシンガンの引き金を引き、弾丸をばら蒔く。
見境なく全方位に対して飛んでいく弾丸の嵐にシャルは物理シールドを展開して凌ごうとする。しかしそれはシールドの死角から襲い掛かるセントリーガンの弾が、砲弾が許さない。
「ちぃ……ッ!?」
「押し込ませてもらうでありますよッ!」
前方から撃ち込まれ続けるマシンガンの弾丸を盾で防ぎ、盾では防ぎきれない横や背後からの攻撃を避けるようにしてシャルは次第にアリーナの端へ端へと追いやられていく。
そんな彼女の姿にファンクラブの中からも悲鳴が上がり、中には目を覆う者もいた。
(このまま封じ込めて動きを封じ、狙撃の1発を叩き込めば……勝負が──)
「あまり……調子に乗るなッ!」
勝負を決めに行ったヴィートが右手のマシンガンをスナイパーキャノンに持ち替えた瞬間にシャルは反撃に打って出た。
それまで身を守っていたシールドをヴィートに投げ付け、それと同時に距離を詰める。
もう一丁のサブマシンガンから放たれる弾丸など気に留めることもせずに、殺意めいた気迫を込めてシャルはヴィートとゼロ距離まで肉薄した。
スナイパーキャノンと言う長大な兵器を握っていたことも災いし、ヴィートにはその肉薄を邪魔する手立てなどなく、簡単に懐を許してしまったのだ。
「この6連リボルバー式パイルの破壊力、味わってみろ!!」
シャルが持ち出したのはリボルバーの取り付けられたパイルバンカー。
間違いなく1発1発が抜群の破壊力を秘めているであろうことが想像に難くないその外見はヴィートの思考に逃走という選択肢をデカデカと突き付ける。
「逃がさない!! 絶対に、だ!」
後ろに跳んで逃げようとしたヴィートをシャルは左手でスナイパーキャノンを掴むことで一瞬だけ踏み留まらせた。
そう、一瞬だけで十分だったのだ。
「火薬の力を思い知れっ!!」
装甲に押し付けられたパイルバンカーの先端、その杭がズドンという火薬の爆発音と同時に射出され
そしてそれから一拍も置かずに五連発、火薬の音と杭が装甲を貫く音がアリーナに響き渡る。
「かッ……ハァッ!?」
その衝撃は絶対防御の上からでもヴィートの体を揺さぶり、呼吸を乱すには充分過ぎるほどのものだ。
押し込まれた杭に肺は内包していた空気を口から逃し、息を整えようと、酸素を取り込もうとした瞬間にまた肺から空気を逃がさなくてはならない。ほんの一瞬の事とは言え、強い痛みを伴いながら呼吸を止められたヴィートの体はISがなければその場で止まっていただろう。
「装甲が分厚いけど、でもこれで最後だ……!」
「……。」
リボルバーに装填されていた火薬を全て使ったシャルはそのパイルバンカーをパージしまた新しい物を装備する。
そしてバンカーに穴とヒビにだらけになった装甲を纏うヴィートを蹴飛ばし距離を開けた。シャルはその距離をもう一度ゼロに戻すためにブースターに火を入れ加速する。
「……ここ、だ……。」
「……ッ!?」
蹴り飛ばされて開いた距離、それはスナイパーキャノンの銃口をシャルに向けるのには十分な距離だった。
細かい照準は必要ないと、ヴィートは銃口を向けた直後に引き金を引く。銃口から射出された弾丸は何物にも阻まれることなく直進し、シャルの額を射抜いた。
しかし───
「チェックメイトだ。」
「……!」
再度のヘッドショットの衝撃に耐えたシャルは細長く射程の長いパイルバンカーをヴィートに向けて打ち出した。
先程のリボルバー式とは違い、機械駆動による射出は威力こそ低いものの、ヴィートの残り少ないシールドエネルギーを奪い去るには充分だ。
打ち出された杭の先端がトゥオネラの白鳥の装甲を穿つと仕合の終わりを告げるブザーが鳴り響いた。
「……負けたであります。」
パイルバンカーを食らって後ろに吹き飛ばされたヴィートはトゥオネランの白鳥を待機状態に戻して空を見上げる。
そんなヴィートにISを待機状態に戻したシャルが歩み寄り手を差し出した。
「ナイスファイト。最後の1発はしてやられたよ。」
「……先輩こそ、流石であります。アレで崩せると思ったでありますが……。」
差し伸ばされた手を掴んで起き上がったヴィートは悔しそうな、それでいて満足そうな顔をしていた。
そして観客席からは勝利したシャルを讃える声や、敗けはしたものの上級生相手に健闘したヴィートへの称賛の声が上がる。
そんな歓声を受けてすこし面映ゆいような気持ちになりながら二人はそれに応えるように手を振りながらアリーナを後にするのだった。
Aブロック1回戦組み合わせ
簪(シード)
シャルvs.ヴィート
箒vs.ラウラ
レンvs.春花
ではまた次回でお会いしましょうノシ