またまたこのタイプの話が始まります。
では本編をどうぞ↓
「この日が来たな。」
「えぇ、そうね。」
6月中旬、専用機組の面々が待ちに望んだ時がやって来た。
学年別個人トーナメント、去年はなぜか個人と銘打っておきながらもタッグ戦という謎仕様であったが、今年は完全な個人戦。
1週間の期間を設けて行われる、IS学園でも特に大きな行事だ。そして今年もまた一味違い、専用機組は専用機組だけで括られ、学年関係ない一つのやぐらに入れられて競うのである。
「“学園最強”の肩書き、興味がありますわ。」
「……あぁ、そうだな。」
セシリアが嬉々として語る言葉に簪は神妙な面持ちで返す。
そんな簪の様子に南美や一夏が疑問を抱いたものの、彼女ならば心配することもないだろうと、声を掛けなかった。
それよりもこの場の雰囲気である。
その場にいる生徒たちの緊張と高揚感が混じり合い、闘争の空気が充満している。
そんな時、アリーナのディスプレイに千冬の姿が写し出された。
「あー、おはよう諸君。学年別個人トーナメント運営代表の織斑千冬だ。」
千冬の挨拶にディスプレイを見ていた生徒たちは一斉に挨拶を返す。
そして一拍置いてからまた千冬が口を開いた。
「今年もこの時がやって来た。そうだ、闘争の時間だ。諸君、闘う気持ちは整っているか? 目の前の相手を打ち倒さんとする意志は持っているか?」
淡々と紡がれ、告げられる言葉。千冬の口から放たれる一言一句全てを、その場の生徒たちは聞き逃すまいと耳を傾けている。
「勿論、諸君らの中には本格的な実戦はコレが初めての者もいるだろう。しかしそんな事は粗末な要素に過ぎない。闘いの場に“絶対”などというモノはないのだからな。」
「「「…………。」」」
沈黙。千冬の紡ぐ言葉に聞き入っているのか、それとも気迫に気圧されてしまっているのかは定かではないが、しかし黙って言葉を聞いている。
そな生徒たちの反応を画面越しに見ていた千冬は小さく咳払いをして更に言葉を続けた。
「知恵を搾り出せ、策を張り巡らせろ! どんな物でも使え、戦場全てを自らの引き出しと心得ろ! 勝て! 勝ちに拘れ! それでこそ得られる物があるのだからな。良いか!!」
「「「…っ、はいッ!!」」」
千冬の念押しに話に聞き入っていた生徒たちがワンテンポ遅れて返事を返す。
そんな彼女達の返事を聞いた千冬は小さく頷くと口の端を僅かに吊り上げた。
「そうだ、それで良い。その意気だ。では諸君らの健闘を祈る。それではこれからの細かい説明に移る。山田くん、頼む。」
「はいはーい、それでは代わりまして説明を担当します山田真耶です。今回の学年別個人トーナメントのレギュレーションを説明していきますね!」
千冬に代わった真耶が細かなルールを解説していく。
恐らく事前に予想されていたであろう生徒からの質問も織り込み済みと言った具合ですらすらと答えていった。
そうして開会式が終わり、生徒たちがアリーナから出ていくと、校舎の中は俄に騒がしくなる。
「いよいよ始まる……か。」
「Fooooo!! みwなwぎwっwてwきwたwwwww」
「落ち着けよ南美……。」
「そうよ。」
専用機組14名が揃う控え室でテンションが上がりすぎて挙動不審になりかけている南美を一夏と鈴音が宥める。
さすがに二人に宥められた南美はテンションの逃げ場を外部ではなく内部へと向けたのか、不審な挙動は鳴りを潜めた。
そんな二年生組の様子をそばで見ていたレンはクスリと笑う。
「フフ、相変わらず面白い子たちだね。」
「退屈しないでしょ。」
「あぁ、本当に。」
控え室のソファに腰掛けたまま紅茶をたしなんでいた楯無とレンはお互い小さく笑っている。
その一方で1年生4人組は今にも噛みつきに行きそうなウィレミアを他の3人が必死に押さえていた。
「うが、離せ!」
「はいはい、どーどー。宣戦布告はしなくてもいいから。落ち着きなさい。」
「そうであります。あまり噛み付いても良いことはないでありますよ。」
「そーそ、取り敢えず頭に昇った血を下げなって。勝てる勝負も勝てなくなるよ?」
息も荒々しく今にも暴れだしそうな様子のウィレミアだったが3人に説得されようやく全身の力を抜いた。
それに安心した3人はウィレミアに対しての拘束を解き、リラックスする。
各学年毎にそれぞれの時間を過ごしていると控え室のモニターが映像を映し出す。
そこには壁に貼り出されたトーナメント表が映っている。
「さて、ようやくサイコロと鉛筆を転がし終わった所だ。そして組み合わせが決まったぞ。今職員が校舎内にこのトーナメント表を貼り出しに向かっている。詳細はそれで確認してくれ。今から1時間後に1回戦を開始する。」
千冬の開始宣言にその控え室はおろか、格納庫や他の校舎中にいる生徒たちの空気がピリッと引き締まった。
1回戦の組み合わせが貼り出され、タイムテーブルがそれと同時に公開される。その表と時間を照らし合わせ、バタバタと生徒たちが忙しなく廊下を駆けていく。
───IS学園第4アリーナ
IS学園にはアリーナが幾つかあるが、この第4アリーナは今日専用機組のトーナメント専用として使われている。
そして2つある第4アリーナのカタパルトにはそれぞれシャルとヴィートが専用機を身に纏って待機していた。
観客席にはシャルの写真や派手な文字で装飾された法被や団扇にハチマキを身に付けた1年生達が一角を占拠している。
「うっわ……アレ全部シャルのファンクラブか?」
「みたいだね~。」
観客席で向かい側からシャルロットファンクラブの一角を眺めている専用機組達はその規模の大きさに目を点にした。
「アイドルの追っ掛けみたいね……。」
「“みたい”ではなくてそのものでしょう……、あそこまでいくと。」
「シャルは凄いな。」
「…………。」
そんな事を話しているとアリーナのディスプレイにシャルとヴィートの顔が映る。
それと同時にファンクラブ達のいる一角から大きな嬌声がアリーナ中に響き渡った。
「「「シャル先パーイッ!!!」」」
「「「カッコいいーッ!!」」」
アリーナに響き渡る黄色い声援、まるでその声に応えるかのようにシャルがカタパルトから姿を現す。
そしてシャルから一拍遅れる形でヴィートの白い専用機がカタパルトから射出されてきた。
「よろしくヴィートさん。」
「えぇ、お手柔らかにお願いするであります。」
小さく微笑みながら左腕のパイルバンカーを構えるシャルに対して、顔面蒼白状態のヴィートはスナイパーキャノンを構えてシャルに敬礼した。
次回、シャルvs.ヴィート、開幕であります。
ではまた次回でお会いしましょうノシ