IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今回から投稿時間を朝5時からもう少し遅い時間にずらします。

では本編をどうぞ↓


第142話 シャルとヴィートとファンクラブ

 

 

「「「シャルロット先輩!!」」」

 

「っ!! ゴメン!!」

 

お昼休み、鐘が鳴ると同時に2年1組の入り口に姿を現した1年生の集団を見てシャルは直ぐ様窓から飛び降りて逃走を始めた。

 

「B班、予想通り下に跳んだわ!」

 

シャルの対応を見て教室入り口の一人がトランシーバーを取り出して誰かに連絡する。

そしてそれと同時に窓の下から聞こえてきたシャルの悲鳴。

もはや日常の一部とも言えるこの光景に2年1組の面々はやれやれと首を振るのだった。

 

 

 

「くッ……まさか逃げた先にも居るなんて……!!」

 

教室の窓から飛び降りた先にも下級生の追っ掛け集団が待ち構えていたシャルはどうにかして包囲網を脱出し、今は中庭を駆け抜けていた。

その逃げている先に複数の人影を発見するとシャルは急いで走る方向を変えて校舎の方に逃げ込んだ。

 

「もう、なんだってこんな事に……。」

 

「何やら、お困りのようでありますな。」

 

校舎の一室に転がり込んだシャルに声を掛けたのは作業着姿のヴィートだった。

ヴィートは額にうっすらと汗を浮かべて駆け込んできたシャルを見ると、手に持っていたスパナを置いて歩み寄る。

シャルが駆け込んだ場所は小さな格納庫兼作業場のようで、床には錆の浮いた鉄板などが転がっている。

そのまま呑気にやり取りをしようとした時。バタバタという数人の足音が聞こえ、シャルはヴィートの両手を掴む。

 

「あ、ヴィートさん……!! お願い、少しの間でいいから匿って!!」

 

「了解であります。」

 

すがるように頼み込んだシャルの言葉にヴィートはノータイムで頷くとシャルの体を持ち上げ、近くにある大きな箱の中に放り投げる。

そしてその直後に部屋の入り口に数人の生徒が駆けてきた。

 

「あ、ヴィートちゃん! ここにシャルロット先輩か来なかった?」

 

「いいえ、見なかったであります。」

 

同級生達の質問にヴィートはなに食わぬ顔で嘘を吐き、その返答を聞いた1年生達はその場を去っていった。

そして同級生たちがその場から遠くに離れていったことを確認したヴィートはスパナを拾うとシャルの入った箱の側面を叩く。

 

「もう大丈夫でありますよー。」

 

「わ、分かったから、箱を叩くの止めて!」

 

ゴワンゴワンと言う鉄板独特の音が響きシャルは慌てて箱から脱出する。

自分の胸程までの高さのある箱を飛び越える事に多少苦戦はしたものの、さっと抜け出たシャルはキョロキョロとガレージ周辺を見渡す。

 

「心配しなくとももういないであります。」

 

「……みたいだね……。助かったよ、ヴィートさん。」

 

ヴィートの言葉通り、周囲に一年生たちがいないことを確信したシャルはほっとしたように息を漏らす。

 

「それにしてもなぜ逃げるのでありますか? そこまで必死に逃げる理由が見当たらないのでありますが。」

 

「いや、ボクとしても女の子は嫌いじゃないけど、あそこまで大人数に囲まれるのは、ね。」

 

アハハと笑い声を漏らすシャルにヴィートは小さく首を傾げる。暫くしてからポンと手を叩いて口を開いた。

 

「一人を選べないならハーレムルートを突き進めば──」

 

「違う! そういう事じゃない!」

 

分かったように見当違いな事を話し出そうとしたヴィートをシャルは止める。

ラウラとはまた一味違うタイプのボケ役にシャルはハァと溜め息を吐いた。

 

「慕われるのは嬉しいけど、皆ボクの分もお弁当を作ってくれてるんだ。さすがにあれだけの量は食べきれないし、誰かを選んで食べれば角が立つし……。今はコレが一番だと思ってさ。」

 

「なるほどなー。」

 

疲れたように近くのパイプ椅子に座り込んだシャルはヒラヒラと手を動かしながらヴィートに語る。そんなシャルの言葉を聞いてヴィートが顎に手を当てて暫く考え込む。

すると彼女が何か思い付いたように右手の人差し指を立てた。

 

「当番制にするであります。」

 

「は……?」

 

「大勢が一斉に詰め寄せてそれぞれがお弁当を持参するから駄目なのでありますよね? だったら当番制にして1日の相手は一人とか二人までにしてしまえばよいのであります。」

 

ヴィートはそう言ってグッとサムズアップした。

そんな彼女の発言にシャルは首を傾げ、唸りながら思考を回す。

そして数分間の思考の後、バッと顔を上げた。

 

「それしかない……!」

 

「Yes! シャルロット先輩、それしか助かる道はないであります。では私の方からも1年生達にそうするように言っておくであります。」

 

「助かるよ、ヴィートさん。」

 

ヴィートはもう一度サムズアップして格納庫から出ていき、シャルはそんな彼女の後ろ姿を感謝しながら見送った。

その日の夜、シャルロット・デュノアファンクラブの面々がヴィートによって食堂に集められ、食堂の一角に何十人という数の生徒たちが揃った。

 

「───という訳であります。なので公平にくじ引きで順番を決定していくのでありますよ。」

 

集まったファンクラブメンバーの前に出て事情を説明したヴィートが大量の竹串を詰めた筒を取り出した。

どうやら昼のあれからこれまでの間に空き時間を利用して人数分のくじを作っていたらしい。

 

「こう言うものが簡単に作れるのは、楽でいいであります。」

 

しみじみとそう言ったヴィートを他所に、ファンクラブのメンバーは会員番号順にくじを引き始めた。

その結果に喜ぶ者、順番が遅く落胆する者など、反応は様々であったが、おおよそ反抗的な態度の者はいない。

全員が引き終わり、結果が確定するとシフト表にそれを書き込み、その場は解散となった。

 

「ではこれからはこのシフトを守って、迷惑にならないようにするであります。」

 

「「「「はーい!」」」」

 

そうして平和に終わったその場を締めて各々わくわくを胸にしながら部屋に帰って行った。

 

 

 

「シャルロット先輩、結果が出たでありますよ。」

 

「本当? どうだった?」

 

「皆納得してくれたであります。これで昼休みや放課後に追い回されることもないと思われます。」

 

シャルロットファンクラブとの会合が終わったヴィートはその結果とも言えるシフト表を持ってシャルロットと箒の部屋を訪れていた。

箒は今席を外しており、部屋には二人だけだ。

 

「そっかぁ……もう窓から飛び降りたりしなくても良いんだ……良かったぁ。」

 

「……高校生の言葉とは思えない単語が出ていますな。しかし、まぁ人気者の辛いところでしょう。」

 

これからの取り戻された平穏を思い浮かべ、それを噛み締めているシャルのセリフにヴィートが小さく首を傾げる。

しかしそんな事はお構い無くシャルは虚空を見つめている。

 

 

さて、その一方でシャルロットファンクラブ達はと言うと──

 

「フフ、デュフフ……。シャルロット先輩と二人っきりのご飯。これは萌える、燃えてきた!」

 

「二人っきりの放課後……、個室に入って何も起きないはずがなく───」

 

「あわよくばあんなことやこんなことを……。」

 

「いつかと思って買っておいたこの薬をご飯に混ぜて……フヒ、フヒヒヒ。」

 

 

二人っきりというシチュエーションに萌えを見出だしたり、よからぬ妄想に興じる者や邪な計画を建てる者など、大勢に押し掛けられていた時よりも余程危ない状況に陥る可能性が高いことを、この時のシャルはまだ知らないでいた。

まぁ、この世の中には知らない方が良いことなんていっぱいあるのだが。

 

そうしてまた貞操の危機を感じたシャルが再度ヴィートの事を頼ることになるのだが、それはもう少し先の話である。

 

 

 

 





シャルロットは不憫可愛い。


ではまた次回でお会いしましょうノシ


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