IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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今日の5時に投稿しようと思っていたのに、うっかりしていました。

では本編をどうぞ↓


第141話 あの個人トーナメントが近いよ

 

 

セシリアお茶会台無し(なんでやウィレミアそこまで悪くないやろ)事件、別名“英国面の覚醒(一方的な虐殺)事件”からもう数週間が過ぎ去り、ウィレミアの心の傷も癒えてきた頃。

既に季節は6月に差し掛かり、生徒たちの間ではある1つの話題で持ちきりだ。

 

「さて、今年もやって来たわよ、この時が!!」

 

バンッとテーブルを叩き、あるプリントを取り出した鈴音はそれを他の専用機組に見せつける。

そのプリントには学年別個人トーナメントと書かれていた。プリントを見た専用機組の面々は皆一様に口の端をつり上げて笑う。

 

「来たか……!!」

 

「今年もタッグかい?」

 

「いや、今年は完全な個人戦らしい。」

 

南美の言葉に簪が答えると他の面々も目を輝かせる。

去年の個人トーナメントは個人と銘打っておきながもタッグ戦ということで、楽しみはしたがどこか不完全燃焼気味だったこともあり、彼女達は胸をときめかせる。

 

「それは楽しみだね。個人戦の最強は誰か……、すごく気になるよ。」

 

「同じく。手加減はしないわよ?」

 

「勿論だ。」

 

飢えた獣のように瞳をギラつかせながら2年生の専用機組は食堂を後にした。

 

 

 

「……と言うことで、2年生の方々は盛り上がってましたね。」

 

「そうでありますか……。」

 

一方その頃、ウィレミアとヴィートの部屋には1年生の専用機組が集まっていた。

飲み物やお菓子を持ちより、花の女子高生としての生活を満喫している様子である。しかし、春花が持ち帰ってきた話を聞いてウィレミアとセサルの表情が険しくなった。

 

「学年別個人トーナメント……、専用機組は別に分けられるそうであります。ともすれば我々四人はライバル、ということになりますな。」

 

「上等だよ! 掛かってきやがれ。」

 

「まだその時ではないでありましょうに……。血の気を抑えた方が良いのでは?」

 

闘争に逸るウィレミアに隣に座るヴィートが溜め息を吐いた。

そんな二人にまだ朗報がと言わんばかりに春花が掲示板に貼られていたであろうプリントをテーブルに乗せる。

 

「実は実はこのトーナメント、専用機持ちは学年で別れずに1つのトーナメントに括られるのだ!!」

 

「な、なんだってー!(棒)であります。」

 

「下手な棒読みは止めてやれよ。」

 

ヴィートのリアクションに対してウィレミアを突っつくと、ヴィートは小首を傾げて片眉を上げる。

 

「“実は○○だったんだ”と言われたら“なんだってー”と返すのが日本のマナーだと教わったのでありますが。」

 

「誰から聞いたんだよ……。」

 

「上官からであります。」

 

小さく首を横に振ってウィレミアは春花の持ってきたプリントに目を通す。

その紙面に書かれた文字を一文字一文字じっくりと読み、些細なことも見逃すまいとしている。

 

「……しかし、3年に2人、2年に8人、そして私達の4人でトーナメントか……。運が良ければ一夏さんとも勝負できるだろうか。」

 

「……支援機の私に1対1は禁忌でありますよ。」

 

胸を躍らせるセサルとは対照的にヴィートがうつ向いて吐息を漏らす。

1年生専用機組の中で唯一近距離用の武装を持たないヴィートにとっては1対1の勝負は敗けが目の前にぶら下がっているようなものなのだ。

 

「合法的に上級生と手合わせできる機会! これは燃えるね!」

 

「おうよ! 目に物見せてやるぜ!」

 

基本的に戦闘狂(バトルジャンキー)な春花とウィレミア、セサルの3人はかなり乗り気なようだ。

 

 

 

その一方で、3年生の専用機組はと言うと───

 

 

「まさか、下の代とも一緒にトーナメントなんてね。」

 

「驚きだ……。でも、君は予想していたんだろう?」

 

「あら、さすがの私にも予想できないことはあるわ。」

 

「どうだか……。」

 

楯無の部屋のバルコニーで楯無と、もう一人の専用機持ち、“レン・イェーガー・フェイズィ・蓮改(はすかい)”は今回の決定について話していた。

3年で2人しかいない専用機持ちとあって、普段から交流のある彼女らは時おりこうしてお茶を楽しむのである。

 

「あの子たちの様子はいつも見てたけど、楯無が気にかけるのも分かるよ。」

 

「別に、そこまで気にしていなかったと思うけど。」

 

「端から見てれば分かるよ。特に妹さんのこと、結構目で追ってるの知ってるよ。」

 

「……。」

 

レンの指摘に楯無は視線を逸らしてだんまりを決め込む。

しかしそれは肯定と同義だとレンは更に追及する。

 

「素直に言いなさいな、妹の事が気になりますって。」

 

「……そうね。私は確かに妹の事を見てるわ、気にかけてるわ。……これで満足?」

 

「えぇ、確かな満足。」

 

不貞腐れたように顔を背ける楯無に対してレンはイタズラっぽく笑う。

その後も二人はほのぼのとしながらティータイムを楽しむのだった。

 

 

 

 

「良かったんですか? 専用機組を纏めてしまって……?」

 

「良いんだよ、さすがに二桁も人数がいればこうせざるを得まい。それに、管理が楽だしな。」

 

「そっちが本音ですか……。」

 

職員室では複数の教師が集まって迫る学年別個人トーナメントに関する業務に取りかかっていた。

 

「愛乃先生、この生徒は整備科2組です。普通科2組ではありません。」

 

「あ!? ごめんなさい! この子はそのまま普通科に行くと思い込んでたみたいで、ファイリングを間違えてました……。」

 

「次は気を付けてください。」

 

千冬と真耶、愛乃の3人は普通科・整備科の生徒達のファイルに目を通して改めて参加者名簿の一覧を作成している。

ザッザッとファイルのページに目で追いカタカタとパソコンのキーボードを叩いて打ち込んでいく。

その姿は正に仕事の出来る大人と言うべきものだろう。

 

 

「整備科のタイムスケジュールをどこまで緩く出来るかよね~。」

 

「最低でも作業インターバルは充分に取らせないと……。」

 

「充分な休息をとっても大会進行に支障が出ない範囲ってのが肝なのよね~。」

 

「整備科の疲労を考慮する、進行にも気を使う。両方やらなくちゃならないのが運営の辛いところだな。」

 

「覚悟は出来てますか? 私は出来てます。」

 

整備科を担当する教師たちは去年も参加していた整備科生徒と今年から整備科になる2年生たちの名簿に目を通し適材適所に班を割り振っていく。

 

 

「当日の巡回やら何やら……、雑用が多いわね~やっぱり。」

 

「やり甲斐はありますけどね。」

 

「あ~エネドリが切れてきたわ。」

 

「やっぱり私はスタドリ派!」

 

 

 

運営に関して万全を期すために教師が裏で幾つもの作業をこなしていることを生徒たちの殆どは知らないのだろう。

しかし彼女らはそれでいいと語る。個人トーナメントの主役は生徒たち、脇役の自分達にスポットは要らない、そう背中で示していた。

 

 

 

 





レン・イェーガー・フェイズィ・蓮改
…日本代表候補生の一人で楯無の親友。ハーフであることまでは公言しているが、日本とどこの国かまでは秘密にしている。
浪漫を理解しており、それを搭載している専用機の戦闘力は高い。

ゲシュペンストMk=Ⅱ
…レンの専用機であり、次世代量産機候補の試作機の改良型にあたる。
レンの専用機にするにあたって数々の改造が施され、かなりの性能に仕上がっている。

蓮改(はすかい)
…夢弦に古くから存在する名家の一つ。なぜかこの家の血を引く女性は似た顔つきになるらしい。



ではまた次回でお会いしましょうノシ



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