タイトル通りの更識回です。
では本編をどうぞ↓
「さて、進級おめでとう諸君。今日から君たち2年1組の担任を務める織斑千冬だ。1年間よろしく頼む。」
入学式から一夜開けて次の日。2年1組の教室では教壇に立った千冬が教室の中を見渡している。
このIS学園は2年生から科が分かれる、1年生の時と同じようにIS乗りとしてISの知識を培いながら、パイロットとしての技術を磨いていく“普通科”とISの整備員としての知識と技術を磨く“整備科”の2つである。
1年を通して自分はパイロットに向いていないと判断したり、戦闘が無理だと分かったり、サポートに回りたいと思った生徒たちが整備科に行き、クラス替えが行われるのだ。
そしてこの2年1組には2学年の専用機組8人全員が集まっている。多くは1年1組の面々だが、整備科になった者の人数分、他のクラスの者が増えている。
その増えた面々は他のクラスでも癖の強さを発揮し周囲からやや浮いていたりしていた者たちばかりだ。
信頼の出来る教師のクラスに集めたと言えば聞こえは良いが、本音を言えば二学年の癖の強い面々を織斑千冬に放り投げたと言えるだろう。
「まぁ諸君らに言うことは少ない。よく学び、実践し、体得しろ。それだけだ、励めよ。」
千冬はそれだけ言うと伝家の宝刀である出席簿を片手に教室を出ていった。
「南美、昨日言った話だが。」
「あぁ、アリーナの予約は取ってあるよ。」
「ナイスだ。」
千冬が教室から出ていくとそれぞれが仲のいい同士で他愛もない雑談を始める。
元々が気安い気質の1年1組の面々は他のクラスで交流が薄かった相手であろうとも直ぐに打ち解けた。
「箒、今日は狗飼さんの所に行くか?」
「勿論だ!」
「鈴さん、放課後に……。」
「オーケー、任せなさい。」
「ラウラ!」
「分かっている、こちらからもお願いしたい。」
専用機組の面々はいつものように放課後の予定を立てている。
そして時間はあっという間に過ぎていき、放課後。普段と同じようにアリーナに向かう南美達の耳にある騒ぎが入った。
その騒ぎとは“生徒会長に勝負を吹っ掛けた新入生がいる”というものだ。その話を聞いた彼女達はウィレミアの顔を思い浮かべ、アリーナに足を運ぶ。
「ごっほ……、クソッ!!」
「命は投げ捨てるものではない……。」
アリーナに出た南美達が目にしたのはボロボロになってアリーナの地面に横たわるウィレミアとその側で涼しげな顔で扇子を扇ぐISスーツ姿の楯無の二人だ。
事は今から数分前に遡る。
アリーナで専用機“
「アンタが更識楯無、だな? モンド・グロッソのロシア代表の!」
「えぇ、そうよ。そう言う貴女は……新入生のウィレミアさんね。」
楯無は型の動きを止めると真っ直ぐにウィレミアの方に向き直る。
「知ってんなら話が早ぇ。オレと勝負しろ!」
ウィレミアはフィードバックの武器腕を楯無に向けて突きつけた。
何を言っても引く気の気のないウィレミアに楯無は溜め息を吐き数歩下がって構えを取る。
「仕方がない、掛かってくるといいわ。」
「そう来なくちゃ!」
構えを取った楯無にウィレミアは目を爛々と輝かせ突っ込んだ。
ジョインジョインタテナシィ デデデデザタイムオブレトビューション バトーワン デッサイダデステニー
ナギッペシペシナギッペシペシハァーンナギッハァーンテンショーヒャクレツナギッカクゴォナギッナギッナギッフゥハァナギッゲキリュウニゲキリュウニミヲマカセドウカナギッカクゴーハァーテンショウヒャクレツケンナギッハアアアアキィーンサラシキウジョウダンジンケンK.O. イノチハナゲステルモノ
バトートゥーデッサイダデステニー セッカッコーハアアアアキィーン テーレッテーサラシキウジョーハガンケンハァーン
FATAL K.O. セメテイタミヲシラズニヤスラカニシヌガヨイ ウィーンタテナシィ パーフェクト
「あ~、うん……そうなるよね。」
「IS学園の生徒会長は“学園最強”の肩書きを持ってるって知らなかったのかしら。」
「いや、知ってて勝負を挑んだのだろう。しかし我が姉ながら容赦ないな。」
入り口から二人の姿を見た南美達は口々に言葉を漏らす。
そんな彼女達に気が付いたのか楯無はウィレミアを抱えると真っ直ぐに彼女達がいる入り口へと向かった。
「皆もISの訓練? 怪我のないように気をつけてね?」
ウィレミアを抱えたまま楯無は小さく微笑みアリーナから出ていった。
その楯無の後ろ姿を見送った彼らは気を取り直していつものように訓練に励む。
「フゥゥゥ──シャオッ!」
「なんのぉ!! どぉおりゃあっ!!」
南美が放った鋭いバックブローを簪は前に踏み込むことで勢いを止め、カウンター気味に右のストレートを打ち込む。
ISのパワーアシストを存分に受けた重い一撃は南美の体を揺らすには十分すぎた。
「ぬぅうりゃぁああっ!!」
「南斗虎破龍!!」
振り抜かれる拳に合わせる形で南美は懐に潜り込み手刀で突く。
しかしそれでも簪の操る玉鋼の分厚い装甲の機体は揺るがない。懐に潜ってきた南美を抱き込み、叩きつけるように投げ捨てた。
「ふぅぅ……砕け散れぇい!!」
「喰らわないよ!」
投げ捨てた南美に対して簪は全身の力を込めた両手の掌底を突き込もうと踏み込む。それに対して南美は投げ捨てられた先で片腕を付いて体勢を立て直すと直ぐ様その掌底を迎え撃つ。
突き出される掌底を掻い潜るように南美は低くスライディングで簪の足を払う。
「ぬ──ぅおぉあぁあっ!!」
「っ!?」
スライディングで足を払われバランスを失った簪は咄嗟の判断で肘を足元にいる南美の顔面に向けて落とした。
予想外の一撃に南美は避けることも出来ず腕を顔の前に持ってきて簪の肘をガードする。
「ぬぅうりゃぁああっ!! だっしゃあっ!! このままっ! 決めきるぅうッ!!」
「こっの!?」
専用機のパワーと大きさを活かして強引にマウントを取った簪はそのまま乱雑にパワーアシストを効かせた拳を振り下ろす。
マウントでの攻防には慣れている南美であるがIS装備という状態での殴り合いに、回避は出来ずガードに徹している。そのガードの上から簪は叩き壊すように玉鋼の拳を振り下ろし、シールドエネルギーを削っていく。
「どぉおりゃあっ!!」
「そこッ!!」
上体を起こし大きく振りかぶって拳を振り下ろそうとする簪に対して南美が体を起こして正拳を彼女の胸に突き込んだ。
「無駄ァ!!」
しかし玉鋼の重厚な機体は揺るがず、南美の反撃も気に止めず拳を打つ。
ドンッと重い音を響かせて打ち付けられた拳はアリーナに砂煙を巻き起こし、周囲の視界を一時的に塞いだ。
あまりの衝撃に周囲で飛んでいた者たちは皆二人のいた方向に視線を向ける。徐々に晴れていく視界から、その場の生徒は息を呑んで見守っている。
「フゥゥゥ──シャオッ!!」
「どぉおりゃあっ!!」
晴れた視界の先ではマウント状態から脱した南美が簪の周りを高速で飛び回りながら打撃を繰り出し、それを受けながら簪がブンブンと玉鋼の腕を振り回していた。
南美が簪を翻弄していると言えば聞こえが良いが、その実南美は当たれば敗北必至の一撃を掻い潜りながら、深く踏み込まない打撃を当てているに過ぎない。
状況はまだまだ簪有利と言えるだろう。
「簪の奴、砲撃だけじゃなくてとうとう格闘戦にまで手を出したの?」
「更識家の方なのですから、楯無会長と同じ体術の使い手でもおかしくはありませんでしょう。ただ、動きはどちらかと言えば楯無さんよりも鈴音さんに近いと思えますが……。」
「ああ、それは同感。何て言うか、会長が“柔”だとすれば私や簪は“剛”って感じだもんね。」
セシリアと鈴音は二人の攻防を眺めながらポツリと漏らす。
「ショオォオッ──シャオッ!!」
「じぇえりゃああッ!!」
南美が上空から飛び蹴りを簪の肩に打ち込み、さらにオーバーヘッドキックを放とうとすると、簪はそれを叩き落とすように上段に構えていた腕をチョップのように落とし、南美を撃墜する。
叩き落とされた南美は片腕を付いて着地し直ぐ様起き上がり、簪の追撃に備えた。
「どぉおりゃあっ!!」
「シャオッ!」
上からの勢いをつけた踵落としを放つ簪に南美は手刀を振り上げて反撃する。
簪の踵落としは南美の手刀により勢いを削がれ向きを変える。しかし南美も向きを変えさせることが精一杯だったのか体勢を崩し、そこからの追撃は出来なかった。
「この剛拳、いつまで耐えられるかな!!」
着地した簪は直ぐ様南美に対して連続して正拳を繰り出した。体勢を崩していた南美はカウンターに持っていくことが出来ず、防戦一方になる。
「どぉおりゃあっ!!」
そして最後の締めに大きく右の拳を振り上げて南美を殴り飛ばす。
「更識の剛拳は無類無敵!!」
簪は大きく足を踏み鳴らし誇示するようにその腕を高々と掲げた。
しかし南美はその簪の言葉を聞いて眉をピクリと動かす。
「なら、遠慮なく本気で行くよ。」
南美はそれまでの地に足をつけた構えからピョンピョンと軽快なステップを踏む構えに変えた。
その普段との違いから簪は踏み込もうとした足を踏み留める。
軽くステップを踏みながらタイミングを計る南美は小さく息を吐くと一気に簪との間合いを詰めた。
「ヒュゥゥウッ──ショオッ!!」
「ッ!?」
低い姿勢から振り上げるように放たれた蹴りは玉鋼の装甲に深々と傷を入れた。
そして更に大きく傷を刻み込もうと逆足の踵落としを同じ場所に振り下ろして装甲を切り裂く。
「ヒョオッ! シャオッ!! フゥゥゥ──ショオッ!!」
上段から下段まで様々な角度、場所から放たれる鋭い蹴りによって玉鋼の装甲はどんどんボロボロになっていき、トドメと言わんばかりに南美は簪を蹴り飛ばすとブーストを使って着いていく。
「南斗水鳥拳奥義!──飛翔白麗ッ!!」
壁に激突して跳ねた玉鋼の体を浮かすように下から跳躍した南美は空中で無防備な状態となった簪に向かって両手の手刀を振り落とした。
その流麗な一撃によって玉鋼のシールドエネルギーはゼロになり、勝敗は決する。
「私の勝ちだね、簪!」
「勝てると思っていたが、底の深さを見切れていなかったか……。しかし次はこうはいかんぞ。」
お互い専用機を解除して健闘を讃えるように握手する。
「……南美が蹴り技主体に切り替えるくらい強いのね、簪の格闘戦って。」
「簪さんがISでの格闘戦をし始めたのはキャノンボールファストの後から……、もともと経験を積んでいたのか、あるいはそれほどの才覚を備えていたのか……。」
「生身の格闘術が出来上がっていたとすればまだ納得がいくわ。けど、それでもISでの格闘は生身のそれとは勝手が違ってくる。そのズレを修正できるセンスが簪にあったってことでしょ。」
側で南美と簪の手合わせを見ていた二人は鋭い目で簪を見ていた。
特に南美と同じく格闘戦を主体としている鈴音は危機感を覚えた顔つきをしている。
「恐ろしきは更識の血かはたまた……。兎に角、また一人強烈なライバルが現れたわね。うかうかしてらんないわ。」
鈴音はふぅと息を吐くと首を回してセシリアに向き直った。
「こうしちゃいられないわね。セシリア!」
「えぇ、勿論ですわ。」
この後、二人も苛烈な訓練を積み、側で見ていた下級生を震えさせたという。
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…中国国家代表候補生の一人で、凰鈴音の一つ下。出自不明の格闘家に弟子入りしており、格闘技の腕前はかなりのものである。
その一方で実家は資産家でやや箱入り娘な面もある。
呂虎龍とは彼が祖父の護衛として来たときに知り合い、一目惚れ。それからは会うたびに求婚している状態である。真っ直ぐで一途な愛が重い系女子。
専用BGM:我が心明鏡止水~されどこの掌は烈火の如く~
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…王春花に与えられた専用機で、凰鈴音の甲龍の姉妹機。
格闘戦を主眼にして開発された機体であり瞬間の出力はかなり高い。
漆塗りのように鮮やかな黒い装甲とマントや翼にも見える深紅の背部スラスターが映える外見をしている。
ではまた次回でお会いしましょうノシ