IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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お待たせいたしました。
これからは週に1話くらいのペースで投稿になると思います。

では本編をどうぞ↓


第138話 初対面からの

 

 

「随分とあの子を買ってますのね。」

 

「……目が、ね。良い瞳をしていたから、ついね。」

 

アリーナを出ていつものメンバーと合流するとセシリアからの質問が飛ぶ。その質問に南美は小さく笑って答えるとチラリと背後にいるウィレミアを見る。

そこにはセサルの肩に寄りかかって運ばれる彼女の姿があった。

隣にはヴィートと春花が心配そうに寄り添っている。

それを視界の端で見た南美はセシリアたちの方に振り向くとグッと親指を立てる。

 

「here comes new rival!ってヤツだよ、楽しみだね。」

 

ニッと笑う南美に専用機組の皆は同じように笑う。

 

「そうだな。」

 

「そうね。」

 

「そうですわね。」

 

「楽しみだ。」

 

一夏もセシリアも鈴音も簪も、皆南美の後方にいる四人へと目を向ける。

それは同じ専用機を持つ者同士の好奇心、どんな性能の専用機なのか、どんな戦い方をするのか気になって仕方がないというような風だ。

そんな彼らの横をウィレミアを運びながら彼女達がすれ違う時に数人が目を合わせた。

 

「それでは私たちはこれで……。一夏さん、また今度。」

 

「それじゃあまた! じゃねー鈴センパイ!!」

 

「おさらばであります、先輩方。」

 

疲労困憊のウィレミアを連れた3人はそれぞれ言葉を残してアリーナから出ていった。

 

 

 

 

その日の夜のこと、上級生に入学式早々ケンカを吹っ掛けた新入生がいるという噂がそれなりに浸透しつつある時である。

2年生専用機組の面々が学生食堂に集まっていた。

 

「にしても、あの1年生凄かったな。ほぼ初見で南美の動きに食い付けるんだもんな。」

 

「それよりもあの武装でしょ。腕部一体型とか珍しいの使ってるわよね。」

 

「確か……グローバル・アーマメンツ社でしたか? そこがリーディングカンパニーになって開発している系統の装備ですわね。」

 

「見た目の浪漫性能は高いぞ、整備のしやすさは知らないがな。」

 

「でも一夏の言う通り、実力があるのも確かだよね。二次移行(セカンドシフト)した後の南美にちゃんと勝負まで持っていけたんだもん。」

 

「それはビックリしたよ。割と本気で行ったんだけどなぁ……。ちょっとだけ自信がなくなりそう。」

 

「……早く戦ってみたいもんだ。」

 

「えぇ、その機会があれば良いのですが……。」

 

口々に所感を漏らしながら食事を摂る彼らはチラチラと自身らに注がれる視線を感じながら、時折それに応えるように視線を合わせて手を振っている。

 

「この視線、どうにかならないかなぁ……。」

 

「無理だな。」

 

「無理でしょ。」

 

「慣れるしかないですわ。」

 

「その内消えるだろ。」

 

ハァと溜め息を漏らすシャルだったが、一夏らの言葉に“そうだよね……。”と更に深く溜め息を吐くのだった。

 

「もういっそのこと開き直って男装すれば?」

 

「なんでそうなるのさ。ボクは女の子にモテたいとかチヤホヤされたい願望なんかないよ。」

 

「勿体ないわねー。面しr─もとい似合いそうなのに。」

 

「おい、今なんて言い掛けた?」

 

「な、なーんにも? あー、ラーメン美味しー。」

 

鈴音の言葉にシャルはギロリと鋭い目付きを彼女に向ける。そんな殺意混じりの視線に鈴音はアハハと笑って誤魔化しながら視線を切るようにラーメン丼を持ち上げてスープを飲む。

 

「まったくもう……。」

 

シャルがそう小さく溢してその話題は終わり、その後、下らない世間話を交わして今日は解散となった。

 

 

 

そんな時、自室で横になっていたウィレミアは自身の携帯電話の着信音に驚いて飛び起きていた頃である。

 

 

「はーい、どちら様?」

 

「こちらグローバル・アーマメンツ社、ローディーだ。」

 

「お、お祖父ちゃん?!」

 

電話口から聞こえてきた声にウィレミアは横になっていた体勢から直ぐに起き上がり、背筋を伸ばした。

 

「ご、ごめん寝惚けててお祖父ちゃんからの電話って分からなくて……。」

 

「良いよ、私は気にしていない。それよりどうだ、IS学園は。」

 

「うん、凄い充実しそう。強い人もいっぱいいるみたいだし、お祖父ちゃんの所に帰る頃には今よりももっと強くなってるよ。」

 

ウィレミアの言葉に電話の向こうにいる老人は嬉しそうに笑った。そんな彼の笑い声を聞いてウィレミア本人も嬉しそうに頬を緩ませる。

 

「そうだ、お祖父ちゃん、また昔話を聞かせてよ。あの“赤い鳥”の伝説の話!」

 

「あぁ、いいぞ。……あれは私がまだ若かった時に聞いた話だ。中東に行った時にある噂を耳にした。“赤い鳥”、そう呼ばれた伝説の傭兵の話さ─────」

 

そうして語られ始めた昔話にウィレミアは楽しそうに耳を傾けるのだった。

 

 

 

 

「あ、やっと見つけました! 虎龍さーん!!」

 

「っ!? 春花ちゃん!? な、なんでここにいるアルか?!」

 

月光が射し込むIS学園の中庭で月を眺めていた虎龍に春花が突撃する。

そして驚愕で固まる虎龍に回避する余裕も与えずに彼女は彼の胸元に飛び込んで抱きついた。

 

「お久しぶりです、ずっと、ずっとこうしてまたお会いできる日を待ち望んでおりました! 虎龍さんが日本に帰ってしまったとお祖父様から聞いた時は、胸が張り裂けそうなほど辛く……! でも、でも───」

 

「お、落ち着くアルよ……。も、もしかして今日から入学してくる中国の候補生って……。」

 

「はい! 私です! 嗚呼、こうしてまた会えることが出来るなんて……。」

 

春花は困惑して固まり続ける虎龍の胸板にスリスリと頬擦りをして想い人の温もりを存分に堪能している。

そんな二人の様子を草むらからこっそりと伺う人物がいた。何を隠そう弥子と椛である。

 

「……虎龍先輩にああいう関係の人がいたんですねぇ。」

 

「でもあの子、今年で高校生でしょ?」

 

「「……事案かっ!!」」

 

誰も突っ込むことなくその場の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

「一夏……。」

 

「どうしたんだ?」

 

寮の部屋のなかで胡座(あぐら)を掻く一夏の脚の間にちょこんと座るラウラは背中越しに一夏に話し掛けた。

 

「あのセサルと言う子とはどんな関係なんだ?」

 

「あぁ、別に大したことないよ。ドイツから帰るときにスペインの空港で知り合ったんだ。」

 

「本当にか?」

 

「本当だよ。」

 

ラウラは体の向きを変えて一夏と向き合うとじっと彼の瞳を見つめる。

そんな彼女の頭を一夏は優しく撫でて微笑んだ。

するとラウラはぎゅっと一夏の背中に腕を回してしがみついた。

 

「心配しなくて大丈夫だよ、オレが一番好きなのはラウラと勇儀さんだから。」

 

「うん……。」

 

一夏に抱き締められながらラウラは顔を彼の胸に埋め、安心したのかうとうととし始める。

 

「今日はこのまま寝るか?」

 

「うん、ぎゅってしてくれ……。」

 

「分かった。」

 

一夏はラウラを抱き締めて持ち上げるとそのまま同じ布団の中に入り二人は安らかに寝息を立て始めるのだった。

 

 

 

 

「今年の新入生も、灰汁が強いというか、個性的というか……。」

 

「わ、私も頑張りますから!!」

 

職員室では新入生の資料を見比べながら眉間に皺を寄せる千冬とそんな彼女をどうにかして励まそうとする真耶の姿がある。

 

「3年に2人、2年に8人、1年に4人……。あまりにも多すぎるな。正直に言って面倒くさい。」

 

「そ、そんなこと言わないで下さいよぉ!」

 

疲れた目で職務放棄しそうになる千冬に対して真耶はすがるように宥める。

専用機組への抑止力としても存在している彼女に職務を放棄されると色々と他の教員が困るのだ。

あまりにも必死に説得を試みる真耶の姿勢に千冬はハァと溜め息を吐き、資料とのにらめっこに戻った。

 

IS学園は今日も平和である。

 

 

 

 





ややオムニバス風になりましたがこれから2年生編が本格的に動いていくと思います。

ではまた次回でお会いしましょうノシ



ヴィート・ハユハ
…フィンランド国家代表候補生兼テロ活動対策室に所属する少女。フィンランド国家代表のスミカ・ユーティライネンの部下にあたる。
色白で真っ白な髪の毛が特徴。父親が猟師をしており、ヴィート本人も幼少から猟銃を握って育った。主な獲物はケワタガモ。
最初の頃は年相応な少女の話し方だったが配属された部隊の影響で軍人のような固い話し方をするようになった。

トゥオネラの白鳥(トゥオネラン=ヨウツェン)
…ヴィート・ハユハに与えられた専用機。フィンランドの雪景色に紛れ込むような真っ白な装甲が特徴的。
専用のスナイパーキャノンを構えるときに脚の装甲を展開して盾代わりにする。
狙撃に特化した支援機であり、スミカの専用機“コーラルスター”と共同することを前提に設計されている。



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