IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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徐々にペースを上げていきたい。

では本編をどうぞ↓


2学年編
第137話 新学期


 

 

4月。入学式シーズンが到来したIS学園では今日、新入生達が奔騰の意味でIS学園の生徒になる入学式が行われた。

校長や来賓、生徒会長に新入生代表などの長々とした話からもやっと解放され、IS学園の敷地を自由に歩けるようになった彼女達は思い思いの場所を散策し始める。

 

そんな中、在校生達は普段と変わらない様子で生活している。そして一夏ら、二学年専用機組はと言うと───

 

 

 

「皆浮かれてるなー。」

 

「ま、そりゃそうでしょ。IS学園は若いIS乗りの憧れだもの。」

 

彼らは食堂に集まって談笑していた。他の生徒達もちらほらと見かけるものの多くは自身が所属する部活の勧誘に駆り出されている。

そして食堂に居合わせた数人の新入生たちは彼らを遠巻きに眺めている。ヒソヒソという小さな囁き声からは“アレが噂の……。”といったような言葉が聞こえる。

 

「……なんか、うーん……。」

 

「一夏はともかく、ボクらも視線を集めているような……。」

 

どことなく自分達にも視線が集中している事を感じたメンバーは不思議そうに首を傾げる。

 

「噂にもなるでしょ。去年のキャノンボールファストとか、あたしら色々注目集めたんだから。」

 

「あ~……そっか、そういうことか。」

 

鈴の言葉にシャルは納得したように頷いた。“そうかそうか、なるほど”と小さく呟きシャルが辺りを見渡すと自身を見つめる数人の新入生のグループと目が合った。

彼女達は何かを期待するような眼差しでシャルの事を見つめており、それを察したシャルは微笑みながらひらひらと小さく手を振る。

するとそのグループの少女たちは嬌声を挙げて喜びながら食堂の外に駆けて行った。

 

「…………。」

 

「大人気ねぇ、シャル。」

 

「いわゆる一つの王子様系って感じなのかしら。」

 

「タカラジェンヌってヤツ?」

 

「それとは違うと思うぞ?」

 

「同性にもモテるのね、シャルって。」

 

「……その扱いは不本意だよ。ボクだって女の子なんだ。」

 

ハァと小さく溜め息を吐いたシャルはティーカップの紅茶を飲み干すとテーブルに突っ伏した。

そんなシャルを労るようにセシリアは彼女の背中を擦る。

シャルを労りながら優雅に紅茶を口にするセシリアの姿は淑女然とした雰囲気を感じさせる。

 

「それでも、さすがにこうも遠巻きに眺められると言うのもあまりいい気分ではありませんわね。どうせなら正面から来てほしいものですが……。」

 

ティーカップをテーブルに置いたセシリアは伏し目がちに周囲を見渡す。そんな時、ある一団が彼女たちに声を掛けた。

 

「なら、正面から話し掛けさせてもらいます。」

 

「お久しぶりです、鈴センパイ!」

 

四人いる一団の先頭に立っていたのは鮮やかな赤髪が映えるスペインの代表候補生、セサル=ヴェニデと鈴の後輩にあたる中国の王春花であった。

 

「春、この前も会ったばかりでしょうに。」

 

「え? セサルさん……?」

 

「お久しぶりです、織斑一夏さん。こうしてまた会える時を心待ちにしておりました。」

 

セサルは一夏に微笑みかけると小さく頭を下げる。

礼儀正しく振る舞う彼女と快活に笑う春花の存在は専用機組の警戒を下げるには十分だった。

そして話題は二人の後ろにいる少女に移る。

 

「それで、貴女は?」

 

「はい。フィンランド国家代表候補生のヴィート・ハユハであります。」

 

ヴィートは静かながらも力の籠った声でそう言うとピシッと敬礼した。

洗練された無駄のない彼女の身のこなしにラウラは感心したような目を向ける。そして話題は最後の一人、目付きの悪い少女に移った。

 

「未来のアメリカ代表、ウィレミア=(ロドニー)=(ジャック)=ゴールディングだ。オレはIS学園の頂点に立って本国に戻る。その為の踏み台になってもらうぜ。」

 

ウィレミアの言葉にその場にいた二学年専用機組の空気がピリッと引き締まった。そして彼女から最も遠い場所に座っていた南美が立ち上がる。

 

「なるほど、宣戦布告に来たって訳か……。まぁ、国家代表を目指すならそれくらいの気概がなきゃね。」

 

「ああ、そう取ってくれて構わない。」

 

ニィと笑う南美にウィレミアは笑ってそう答えた。そんな彼女に南美は親指で背後を指差すとくるりと背中を向けた。

 

「もしやる気があるなら着いてきて。アリーナの予約は取ってあるから。」

 

「面白ぇ、やってやろうじゃねぇか。」

 

ウィレミアは口角をつり上げ、目を輝かせると嬉々として南美の後ろを着いていく。

そんな二人を周りの専用機組はやれやれと言った具合でアリーナの観客席に向かった。

 

 

 

──IS学園第一アリーナ

 

普段はISの基礎を復習するためにちらほらと生徒の姿が見えるこのアリーナであるが、入学式のあったこの日はそんな生徒たちの姿はなく、たった二人が向き合っていた。

 

「どちらが勝つと思いますか?」

 

「聞くまでもないでしょ、賭けすら成立しないわ。」

 

「南美、しかないわね。」

 

観客席で見ていた専用機組の面々は当然と言わんばかりの顔でそんな会話をしながらアリーナを見下ろしている。

他の観客席にはこの戦闘の事を聞き付けた上級生や新入生達も集まり、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

 

「さて、じゃあ始めようか。」

 

「あぁ、オレと“フィードバック”の力を見せてやらぁ!!」

 

ウィレミアは両腕に武装を呼び出し南美に向かって突っ込んでいく。

右手には腕部一体型のバズーカ、左手は同様な型のブレードを装備している。

 

「このフィードバックが負けるかよ! 行くぞぉおッ!!」

 

「トベッ!! ──ウリャッ!!」

 

南美は一瞬でウィレミアの懐に入り込むと腕を振り上げて彼女の顎をかち上げる。

そして上体の仰け反ったウィレミアに対して南美は大振りのアッパーを打ち込んでその体を宙に浮かせた。

 

「フゥ──シャオッ!ショオォ!」

 

(ち……、でもこれで体勢を──)

 

宙に浮いたウィレミアに対して南美は手を緩めずに追撃を掛ける。そして最後のフィニッシュと言わんばかりに踵落としでアリーナの床に叩きつけた。

これで仕切り直せると思っていたウィレミアであったが、それは誤算だった。

 

「はッ!?」

 

「One More Set!!」

 

叩きつけられたウィレミアの体はバスケットボールがバウンドするように跳ねたのだ。

人の体が跳ねるという、常識から外れたその現象に見ていた者たちは驚愕の顔を浮かべている。

そうして驚愕の視線を集めながら南美は跳ねてきたウィレミアにさらに追撃の手を伸ばす。

 

「フゥゥゥ、シャオッ!!」

 

大振りなバックブローをウィレミアの土手っ腹に鋭く打ち込み壁際まで吹き飛ばした。

それと同時に南美はブースターを吹かしてそれに追随する。吹き飛ばされ、やっと距離が取れたと確信したウィレミアにさらなる一撃を加えに掛かった。

 

「アリーナ端にご招待。さぁ……死ぬがよい!」

 

やや冗談めかしてそう言った南美は壁に叩きつけられたウィレミアの装甲を掴みもう一度壁に向かって投げつける。

 

「舐めんな!」

 

だかその時、大きな発砲音と共にサザンクロスの装甲を何かが掠めていった。ウィレミアが右手に装備しているバズーカからは発砲後を示す熱と煙が出ている。

そしてそのバズーカからガチャンという音が鳴ると南美は即座にウィレミアから距離を離したけど

 

「そこだぁ!!」

 

「ちぃ!?」

 

南美が充分に距離を離しきる前に砲弾が放たれ、サザンクロスの装甲を捉えた。

その衝撃で一瞬、ほんの一瞬だけ動きの止まった南美にウィレミアが迫る。鈍く光を反射する左腕のブレードが襲いかかった。

 

 

 

 

その頃、時を同じくしてアメリカ。ある男とハスラーが彼女御用達のアリーナの賓客室である話をしていた。

 

「ハスラー、君の推薦で彼女を送ったが、本当によかったのか?」

 

「あぁ、これからの、未来のアメリカ代表を考えるなら奴が適任だろう。」

 

男の問いかけに答えながら彼女は眼下で激闘を繰り広げる若いIS乗りの少女たちを見つめている。

その顔はやや柔らかく、少し前までの、それこそ第五回モンド・グロッソの時からは想像がつかないほどだ。

 

「アイツは強くなりますよ。鼻が効くから……。アイツは自分に無いものを持ってる格上を本能で探せるんです。それこそまだ無名だった私に初対面で絡んできた時のように。」

 

「……君が言うなら、そうなんだろうな。」

 

ハスラーの自信に満ちた声に男は安心したように口角をつり上げた。

そんな男の顔を見て、ハスラーが小さく笑う。

 

「やはり貴方はそうやって不敵に笑っている方が似合ってるよ、マイケル。」

 

「当たり前だ。私は合衆国大統領だぞ。」

 

ハスラーとマイケルはお互い小さく笑い合い、二人の小さな笑い声が賓客室の中に響くのだった。

 

 

 

 

 

「フゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「がっ!? ──まだまだぁ!!」

 

南美の肘打ちを食らって上体を仰け反らせたウィレミアだったが追撃の暇も与えずに体勢を戻してバズーカで反撃を加える。

その砲弾すら避けて見せる南美にウィレミアは両肩の高機動ミサイルで牽制する。

ミサイルの発射を見た南美は直ぐ様ウィレミアから離れてミサイル迎撃の姿勢に移った。ウィレミアはそれを見逃さずバズーカを放つ。

 

「しぶとい!!」

 

「このフィードバックが! 簡単に沈むかよ!」

 

ウィレミアは大声でそう叫ぶと右手をバズーカからブレードに変更して南美に突撃する。

ミサイルと直前に放った砲弾もあってウィレミアはあっさりとクロスレンジまで距離を詰めた。

しかし───

 

「南斗雷震掌!!」

 

接近したウィレミアを待っていたのは強烈なエネルギーの塊だった。

迸るエネルギーの奔流をもろに浴びた彼女の体は宙に浮く。そしてそんなウィレミアを南美は蹴り飛ばし、もう一度壁際に追い詰める。

 

「南斗孤鷲拳奥義───」

 

壁際まで追い詰めた南美は体を低く屈め、右足を大きく振り絞っている。それは彼女の持つ最強の武器が使われることの前触れであった。

 

「──南斗翔鷲屠脚ッ!!」

 

低く屈んだ姿勢から大きく上に振り上げられた脚はウィレミアの体を捉え、その直後に雷が走る。

それによってフィードバックのシールドエネルギーは一瞬でゼロになり、決着を告げるブザーが鳴った。

 

「私の勝ちだ。」

 

エネルギーが空になったフィードバックを纏ったままその場に倒れるウィレミアに南美は告げる。そして彼女に背中を向けたまま歩いてその場から離れていく。

 

「──く生、畜生……。」

 

フィードバックを待機状態に戻したウィレミアはダンッダンッと地面を殴り付け、漏れ出そうになる嗚咽を圧し殺すように唇を噛む。

うっすらと血が滲むことも厭わずに悔しさを噛み殺そうとする彼女を見て、南美は足を止めて振り返る。

 

「ウィレミア=R=J=ゴールディング、君の欲望……、最後まで勝とうと挑む執念に敬意を──!」

 

静かで、それでいてしっかりと力強い言葉で南美はウィレミアの目を見据えて言った。

そしてそれだけ言って南美はまた彼女に背中を向ける。

ウィレミアは南美の言葉を受けとると、試合の疲れやダメージの残る体に鞭打って立ち上がり、彼女の背中に声を掛けて呼び止めた。

 

「絶対、次はオレが勝ってみせる! 待ってやがれ!!」

 

「……楽しみに待っているよ。」

 

南美は振り向くことなく、今度こそアリーナから去っていった。

 

 

 





ウィレミア=(ロドニー)=(ジャック)=ゴールディング
アメリカの国家代表候補生、GA(グローバル・アーマメンツ)社所属。
どんな相手にも普段の自分で接し、格上にも恐れず絡みに行く裏表のない肝の座った少女。
しかし祖父に対しては強い憧れを持っており、彼女が乱暴な言葉を使わない数少ない人物でもある。

専用機“フィードバック”
GA社が開発した次世代を担うSUN-SHINEシリーズをベースに作られたウィレミア専用機。
頑丈さと武装拡張性が取り柄であったSUN-SHINEシリーズの良さをそのままに全体的な性能向上が行われている。


ではまた次回でお会いしましょうノシ



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