IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

156 / 182

かなり間が開いてしまいました。
大変申し訳ありません。

では本編をどうぞ↓


第135話 色んな人たちの年末年始

 

 

「失礼致しますわ…。」

 

「やぁ、よく来てくれたね。」

 

ウォルターに案内されてセシリアが通された部屋はインテグラの待つ格納庫だった。

格納庫の中は薄暗く、しかしその中央にあるものは確かな存在感を放っている。

深い、血の色を思わせる赤色に輝く装甲をしたISのパッケージ装備。それを見たセシリアはなぜか強く心が惹かれるような感覚に陥った。

 

「あ、あの、インテグラ様。これは…?」

 

「コイツは私が、ヘルシング家が作ったISのパッケージ装備。その名も“アーカード”、我々の切り札の名前を冠する最強の装備だ。」

 

最強の装備、そう言い切るインテグラの言葉にセシリアの手は無意識の内にアーカードへと伸びていた。

そしてセシリアの白い指がアーカードの深紅の装甲に触れるとそれを起きる。ほんの一瞬、目映い光が発生したかと思えば、そのすぐ後にはブルー・ティアーズが起動し、それを身に纏っていたのだ。

 

「ふむ、やはりか…。」

 

アーカードを纏ったセシリアを見たインテグラは納得したように頷く。しかし当のセシリアは起きた出来事を把握しきれずに困惑の表情を浮かべている。

そんな彼女にインテグラはつかつかと歩み寄るとポンとセシリアの体に手を置いた。

 

「私からのクリスマスプレゼントだ、受け取ってくれ。」

 

「え? は、えッ?!」

 

更なる追い討ちにセシリアの混乱具合はますます増加する。

インテグラもさすがにこれはマズイと思ったのかパンッとセシリアの眼前で手を鳴らして落ち着かせる。

 

「落ち着きたまえ。」

 

「すごく落ち着きましたわ。」

 

「それはよかった。」

 

インテグラによって落ち着きを取り戻したセシリアはブルー・ティアーズを解除し、インテグラと目線を合わせる。

 

「な、なぜ私にパッケージ装備を……?」

 

「まぁ、私もそろそろ引退の時期だ。2度もモンド・グロッソに出るという栄誉に与り、またヴァルキリーとして名を連ねることが出来た。」

 

そう口にするインテグラの瞳はどこか遠くを眺めているようにも見えた。

“キング=アーサー”、ブリテンの英雄の名を冠した専用機を与えられ、それを以て国内の強豪を蹴散らし2度も国家代表の座に君臨した彼女。

イギリスのIS乗りにとって一種のカリスマとも言える彼女であるが、その中身は周りとそう大差のない“女性”なのだ。貴族、名門ヘルシング家の生まれだと言っても、その精神性は普通の女性となんら変わりない。

 

「そろそろ普通の貴族令嬢に戻りたいと思えて来てね。なんと言うか……満たされた、と言うべきだろうか。」

 

気恥ずかしそうにそう語る彼女の顔は普段のそれとは違い、乙女の顔をしていた。

第五回モンド・グロッソ、その大舞台の上で演じたイザベル=ローエングラムとの死闘。それが彼女の心を大きく満たしたのだ。今でも容易に脳裏に浮かび上がる彼女とイザベルの試合、それはその試合を観ていた者達にとっては印象深く、人によってはその勝負こそが最も印象深いと言う者もいる。

“満足したからこそ、後進に道を譲ろう”、そう決意した彼女は頷くと真っ直ぐに力強い眼差しでセシリアを見つめる。

 

 

「そして、それを君に渡す理由は、最も適正が高いからだ。BT兵器の適正が高く、さらに射撃の腕前はアーカードにも劣らない。……とも来れば、この兵装を渡すには十分だろう。」

 

「そこまで評価して頂けたことは素直に嬉しいのですが、その・・・・・・、本当に(わたくし)が受け取ってもよろしいのでしょうか?」

 

セシリアは不安さを湛えた顔でインテグラに尋ねる。しかしインテグラは“そんなことか”と口にし、彼女の肩を軽く叩いた。

インテグラの顔は普段通り多少眉間に皺が寄っているものの、その瞳には優しさがある。

 

「自信を持て、セシリア・オルコット。私はお前以外に適任が居ないと確信しているのだぞ。それなのに、お前がそんなでは、まるで私の目が節穴だと言っているみたいではないか。」

 

そう言って彼女はセシリアの肩に手を置いたまま小さく微笑む。凜々しく微笑む彼女の言葉にセシリアは息を吞み、コクリと頷いてみせた。

そしてインテグラの手を取り、力を込めて握る。

 

「お任せ下さいまし! 私が、このセシリア・オルコットが、インテグラ様の後釜を見事に継いでみせますわ!!」

 

元々の性格がチョロい、もとい乗せられやすく火が着きやすいことが幸いしてかセシリアのやる気はぐんぐん上昇しており、その日は聖夜であるというのに、インテグラとの1対1の訓練が行われたという。

 

 

 

 

「はぁ……、いっくん……。」

 

さてイギリスでセシリアが熱い夜を過ごしている一方で、日本国内、夢弦市の如月重工実験棟のとある一室では篠ノ之束が主任室で管を捲いていた。

来客用の上等なソファに腰掛て、藤原秘蔵の酒をちびちびと舐める束を横目に見ながら、オフィスチェアに座る藤原はハァと溜め息を吐く。

 

「篠ノ之~、いつまで引き摺ってんだ~。」

 

束は藤原秘蔵のコニャックをチビチビと呑んでおり、彼はそんな彼女に嫌な顔一つせずに対応している。

呆れているようで、それでいて愛でるように彼女を眺めていた藤原は椅子から立ち上がるとスッと束の横に座った。

そして彼女の手からコニャックの瓶を取ると、小さなグラスに注いで香りを楽しむように口に含んだ。

 

「ガキの頃しか一緒に居られなかった篠ノ之と()一緒にいるあの()らとじゃ、仕方ねぇだろ。」

 

「それでもやっぱり悔しい……。だって、初恋なんだもん。」

 

束は瞳にうっすらと涙を浮かべると膝を抱えて座り、隣の藤原に寄りかかった。

決して大声では泣こうとしない子供のような彼女の素振りに、藤原は優しく微笑み束の頭に手を乗せる。そして彼女の髪の感触を掌で感じながら彼はゆっくりと頭を撫でてやった。

 

「……すまねぇな、IS開発者の名義を全部お前に押し付けちまってよ。」

 

「いいよ、別に。その事は気にしてないから。」

 

「……そうか。」

 

藤原はそう言うとソファから立ち上がり、部屋に備え付けられている棚へと足を運ぶ。そして棚の戸を開けると中から一目見ただけで上質な物だと分かる桐箱を取り出した。

 

「今日は呑もうぜ? オレの取って置きを開けるからよ。」

 

「うん、いいよ。」

 

笑顔を向けられた束はそれに応えるようにグラスを差し出し、静かに笑うのだった。

 

 

 

さて、日付も場所も変わって新年を迎えたアメリカのとある場所、立派なIS用アリーナのある建物ではというと……───

 

 

闘技場の覇者(マスター・オブ・アリーナ)だかなんだか知らねぇが、今日で後進に道を譲ってもらうぜ! 老害が!」

 

「……。」

 

悪態を吐きながら武装を構える若者に対して、対峙しているハスラーは無言でブレードを取り出す。

挑発に一切乗らない彼女に若者は苛立ったように片眉をつり上げ、睨み付けた。

 

「扱いづらいパーツとかって話だが最新型が敗けるわけねぇだろ! 行くぞおおぉぁあッ!!」

 

若者、アメリカ代表候補生の一人であるウィレミア=R=J=ゴールディングは両手に装備した腕部一体型のブレードを展開してハスラーに向かって突撃する。

それを正面から見ていたハスラーは悠然とパルスライフルを構えて引き金を引く。その弾によってウィレミアの体勢は小さく崩れる。それを見逃さずに彼女は右肩に積んでいる二連ミサイルを放ち、ウィレミアを撃墜してアリーナの床に落とした。

 

「お、おお?!」

 

「……。」

 

驚きで目を見開いて倒れているウィレミアの直ぐ横にハスラーが降り立った。

そして無言のまま冷ややかな視線をウィレミアに向けると躊躇わずにブレードを振り落として試合を終わらせる。

 

「私はいつでも、誰の挑戦であっても受け付ける。故に越えてみせろ。この私を……。」

 

彼女はそれだけを言い残してウィレミアに背を向けて去っていった。

そんな彼女の背中をウィレミアは這いつくばりながら見送るのだった。

 

 

 

「あー……、いっそ殺せ、殺してくれ。」

 

「終わったら酒が呑めるんですから、我慢しましょうよ隊長。」

 

「……ハ、ハハ……。」

 

「おいィ? ウルマス! 死ぬなぁ!! 還ってこい!」

 

年末年始、終始部屋に缶詰めだったフィンランドのスミカは部下のコスティ、ウルマスと一緒に書類の山と格闘していた。彼女の横にはゴミ袋に詰め込まれた大量のエナジードリンクの空き缶がある。

虚ろな瞳をしながら慣れた手付きで書き込みを入れ、判子を押していくスミカの姿は圧巻の一言である。

 

「そもそも、年越しもこんな部屋で書類とにらめっこだぞ?! 常人なら発狂ものだ!」

 

ミシリと音がするほどに力強くペンを握った彼女はボソボソと上司への愚痴を溢す。

 

「お上の連中は気楽でいいや! 面倒なことは下に投げればいいんだから。今ごろ南半球でバカンスしてるんだろうなぁ! チキショーめ!!」

 

「終わったら休暇が取れるんですから、耐えましょうよ。それと文句は仕事を増やした犯罪者にどうぞ。」

 

「お? 良いのか? ()っちゃうぞこの野郎!!」

 

表情筋はあくまで笑顔を示しながらも声色に殺気を孕んでスミカは言う。そんな彼女に彼はハァと溜め息を吐きながら“早く終わらせよう”と手元を動かすのだった。

 

 

 

「阿呆が、まだ(オレ)のバトルフェイズは終了していないぜ!」

 

「な、なんですって?!」

 

「ドロー!モンスターカード! ドロー!モンスターカード! ドロー!モンスターカード!───」

 

「止めて! 私のライフはもうゼロよ!?」

 

「まだまだ引くぜぇ!!」

 

「いやぁあああああッ!?」

 

年も明けて間もないという時期にソフィアとアナスタシアは仲良く遊☆○☆王に勤しんでいた。結果は8枚連続モンスターカードという神引きを見せたソフィアによる見事なオーバーキルである。

 

 

 

Alles(アレス) Gute(グーテ) zum(ツム) neuen(ノイエン) Jahr(ヤー) !(明けましておめでとう!)」

 

ドイツの黒兎隊宿舎ではヒルデガルトとミュカレを迎えて、新年のお祝いをしていた。

クリスマスに余ったシュトレンやノイヤースプレッツェル、ラクレットなどをみんな笑顔で食べている。

成人済みのメンバーはワインやビール等を飲み、そうでないものはノンアルコールで雰囲気を楽しんでいる。

今年も黒兎隊は変わらないようだ。

 

 

 

 





新作を書いて気分を転換しようとしていたらこの体たらくです。
ごめんなさい。

ではまた次回でお会いしましょうノシ


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。