遂に残り3試合となりました。
では本編をどうぞ↓
「ほう、面白い…。」
「これって…。」
個室でモンド・グロッソの中継を眺めていたイザベルは微笑みを浮かべて呟いた。
それに釣られて画面に目を移した白野は驚いたように目を点にする。
「準決勝第一仕合、更識楯無対アンジェ・オルレアン。第二仕合、ソフィア・ドラゴネッティ対ハスラー・ワン…。」
「これはこれは…。どうやら天命はソフィアに傾いているらしいな。」
ハッハッハッと愉快そうに笑うイザベルを白野は訝しげに見つめる。しかし、そんな事を知ってか知らずかイザベルは何も語らない。
「…手合わせ願います。」
「あぁ、望むところだ。」
第一仕合はこの大舞台に立つと言うのに全く緊張した素振りすら見せない楯無と、実に好戦的な瞳をしているアンジェの対戦である。
アンジェは楯無との対戦を心待ちにしていたようで嬉しそうに楯無のことを見つめている。
「……行きます!」
「来い!!」
ブザーとともに二人は動き出す。アンジェよりも先に楯無が仕掛けた。
自慢の高速機動で一気に距離を詰めて機先を制する。
「フンッハァ!!」
「…この感覚…、あぁ、これだ!!」
楯無の攻めを捌きながらアンジェは斬りかかり、声高々に笑う。それが楯無にはいまいち理解することが出来ずに首を傾げた。
そんな楯無の反応も意に介さずアンジェは斬りかかる。
「更識楯無!! いいぞ、もっとだ、もっと来い!!」
「…更識流…。」
楯無は迫ってくるアンジェから距離を取り、構えをとる。そしてその一瞬の隙を突いてアンジェは楯無との距離を急速に詰めて斬りかかる。
その高速で迫ってくるアンジェに楯無は冷静に対処する。
振り回される二振りの必殺の剣をしっかりと避け、その合間に挟まれる打撃に対して的確に反撃を行う。
「酔舞撃!」
牽制の為に放たれたアンジェのローキックを楯無は片手で受け止めて、もう片方の腕と反動を使ってアンジェを斜め上に吹き飛ばす。
そして楯無は右腕を引き絞り、全開のパワーで振り上げる。
「砕覇拳!!」
エネルギーを纏ったその強烈なアッパーは見事にアンジェを捉えて撃墜する。
しかし撃墜されたアンジェはすぐさまに態勢を立て直して楯無に突進した。
「……。」
「そこだぁ!!」
待ち構えている楯無に対してアンジェはそんなことなどお構いなしに突進していく。
「苛烈な攻めとは、正にこの事ね。」
「何か…、こう駆り立てられてるような、そんな感じがします。」
モニターで見ていたスミカはそんな言葉をぽつりと漏らした。
その言葉にヴィートも頷くように息を吞む。彼女達の目には卓越した技術を持ちながらも驕ることなくただひたすらに道を進み続けたアンジェという剣士の姿が映っている。
その一方で、そんな剣士と渡り合う少女の存在に冷や汗をかいた。
「ふ…、やはり人間は素晴らしいな…。」
「あぁ…。弛まぬ努力のみであの領域まで辿り着いた…。一人の人間として尊敬せざるを得ないよ…。」
個室でテレビ越しに二人の戦いを見ていたインテグラは隣に立っていたアーカードの言葉に頷いた。
二人が見ているのは二人の武人。ひたすらに己を磨いた末の力を以て戦う二人の姿。
そんな二人の姿に憧れを抱くとともに、負けたくないという感情をインテグラは抱くのだった。
「英雄とは斯くあるべき…、そうあれかしと
「えぇ…、私もあの二人の姿には憧れを抱いてしまいます。」
会場の特別観客席で見ていたソフィアとセシルは手に汗を握りながら二人の勝負の行方を見守っている。
ソフィアは瞳を輝かせながらアリーナに視線を投げかけていた。まるでショウケースに飾られた玩具を見つめる子供のように。
セサルもまた同じように、しかしソフィアとはまた違った憧れの視線を二人に投げかけていた。
「アンジェお姉ちゃん、すごい…。」
「あぁ…。」
「でも、アンジェさんに着いて行けてる楯無さんも凄いよ…。」
ホテルのロビー、一際大きな画面で見ていた面々はその技術の押収に舌を巻いていた。ヒルダは単純に関心したように目をキラキラと輝かせながらアンジェの姿を追っている。
その一方でミュカレや青蘭はそんなアンジェとの近接戦について行き、互角に渡り合う楯無の技量にも驚いていた。
ヒルダはアンジェの一挙手一投足すべてに反応し、それら全てにリアクションを取っていた。まるで彼女の技術を盗もうとしているかのようだ。
「斬る…!!」
「そんな訳には…行きません…!」
二振りの剣を巧みに扱いながらアンジェは楯無に肉薄する。そして二振りの
剣を捨て相手の得意領域に乗っかって来たアンジェに楯無は驚きの顔を浮かべる。
「はは、驚いているな。けど、私は単なる剣士じゃない。勝つためなら
「ッ!?」
組み付いたアンジェは有無を言わさず、体格差を使って無理矢理投げる。
そして楯無を組み敷いてアンジェは上を取った。
「さぁ、歯を食いしばれ!!」
アンジェは小さく微笑んで拳を握る。そして楯無の顔に向けて勢いよく振り下ろしていく。
顔に向かって振り下ろされる拳を瞬き一つせずに受け止めて片腕を使ってどうにか防ぐ。
「ふんっ!!」
「ツッ!!」
左腕で楯無の右腕を掴んでいたアンジェは右腕を振り下ろした一瞬、楯無が右腕の力を抜いたことを感じとり、即座に右腕の関節を極める。
アンジェは楯無に覆い被さるような体勢になり、足を絡めて下半身の動きを封じる。
「間合いを外すのが得意なんだろうが…、こうなれば関係ないな。」
(……外せ、ない…!)
「ハッハッ、これでも練習したんだ。簡単には抜けさせないぞ。」
がっちりとホールドしたアンジェは慢心せずにきっちりと肩と肘の関節を締め上げる。楯無はなんとかして返そうと空いている左腕で藻掻くが完全にポジションを取られているため、力ワザでは返せない。
(ふっ…、くッ!!)
「行くぞ!」
きっちりと関節を極めた状態でアンジェは膝を使って楯無に細かく一撃を入れていく。
そして暫くして楯無のシールドエネルギーが四分の一切った時に観客席の一角からどよめきが起こり、それが伝播して会場全体がざわめき始めた。
「お、おい、アレ…!!」
「嘘だろ?!」
「一体何が!?」
ざわざわと俄に騒がしくなる観客席、その視線はアリーナのディスプレイに注がれている。
アリーナのディスプレイに表示されている両者のシールドエネルギーだが、四分の一を切った楯無よりも、攻めているアンジェの方が下回っていた。その不可解な現実に計器の故障だと言う者も当然いたが、しかし画面に映し出されたアンジェの必死に攻め立てる顔が、表示されているエネルギー量が事実である事を告げていた。
(どんなトリックだ…? 楯無の方も減っているから反射ではないだろう、なら、この状態からダメージレースに勝てる何かをしているというのか…!? しかし──)
アンジェは関節を解いて一気に楯無から距離を取った。
そして拡張領域から月光を2本取り出して構えをとる。一方の楯無はゆっくりと立ち上がると両腕を広げてアンジェの方を見た。
「戦況は5分…ですね。」
「あぁ、そうだな。しかし…負けてはやらん。」
闘志の籠った瞳でアンジェは楯無を睨み付ける。そして楯無はそれに応えるように拳を握った。
恐らくこれが最後の一合になるだろうことは想像に難くない。観客達は息を呑んでじっと二人を見守った。
「フランス代表、デュノア社所属…。アンジェ・オルレアン! 斬らせてもらう!」
「ロシア代表、更識楯無。推して参ります!」
二人は名乗り口上を上げ、同時に前に加速して突撃した。
ドンッとぶつかり合い、砂塵が舞い上がり、終了を告げるブザーが鳴る。
観客達は舞い上がる砂塵の中央を見つめ、晴れるのを待つ。そして舞い上がった砂塵が落ち、二人の姿が見えるようになるとごくりと喉を鳴らす者もいた。
楯無の手刀突きがアンジェの左胸を、アンジェの右手の月光が楯無の左肩を捉えている。
「……。」
「……。」
二人はその体勢のままピクリとも動かずに睨みあっていた。しかし、暫くして両者共にISを待機状態に納める。
「ハッハッ…ハッハッハッハッ! 私の勝ちだな、更識楯無よ!」
「…えぇ…、あと僅か、あの僅かな踏み込みの差がこうまで現れるとは…。」
快活に笑い、勝ち誇るアンジェを楯無は己の敗因を冷静に考察すると苦虫を噛み潰したような表情で見つめる。
彼女の敗因は簡単に言えば“恐れ”。
死ぬことすら恐れぬ、更に言えば勝利の為に敗北さえ恐れないアンジェに気圧され、踏み込めずに負けたのだ。
「次はこうは行きませんから。」
「あぁ、楽しみにしている。君のトリックの謎も知りたいからな。」
二人はにこやかに、そして爽やかに言葉を交わしてアリーナを後にした。
第5回モンド・グロッソ、決勝に駒を進めたのはアンジェ・オルレアン。
残り2試合である。
楯無さんはまだ本気を出してないだけだから。
あ、明日から本気出すし…。
では次回でお会いしましょうノシ