IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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最近はペルソナ3のサントラ聞きながら執筆しています。

では本編をどうぞ↓


第124話 開幕、モンド・グロッソ

 

 

遂に迎えた第5回モンド・グロッソ当日、開催地であるイタリアには大勢の観光客が押し寄せていた。

最注目は前回覇者、『闘技場の覇者(マスターオブアリーナ)』と呼ばれるアメリカ代表のハスラー・ワンと、国家代表最年少記録を打ち立てたドイツ代表のヒルデガルト・ワーグナーだろう。

 

他にも強い話題性を持つ者は多い。ロシア代表の更識楯無はもちろん、開催地イタリア代表のアナスタージア・ブロット、そんなアナスタージアとライバル関係にあるスペイン代表のソフィア・ドラゴネッティ等々…。

毎回大きな話題を提供するモンド・グロッソであるが、この第5回は歴代1の話題の多さだ。

 

 

 

 

「誰が優勝すると思う?」(一)

 

「私はイギリス代表のインテグラ様ですわ。」(セ)

 

「あたしは…、楯無会長に500ペリカ。」(鈴)

 

「…井上真改に700…。」(箒)

 

「ヒルデガルトの勝ちに血液100ccだ。」(ラ)

 

「なら私はソフィア・ドラゴネッティの優勝に250ccだな。」(簪)

 

「な、なんで平然と賭けをするのさ…。ボクはやっぱりアンジェさんかな。」(シャ)

 

「鷲津レートだと、10ccで10万、ペリカじゃ釣り合わなくない? 取り合えずハスラー・ワンに…、まずは600cc…。」(南)

 

IS学園の学生寮、専用機組の中では一番大きなテレビのあるシャルとラウラの部屋に集まって彼女達は第5回モンド・グロッソのテレビ中継を見ていた。

 

「皆バラバラなんだな。」

 

「まぁ、そうなるでしょ。ガチガチな鉄板レースじゃないんだから。」

 

「実力伯仲のメンバーが揃っておりますもの…。何が起こるのか、誰にも分かりません。」

 

テレビに映る映像を眺めながら彼女達は話し合う。そうして時間は過ぎていき、遂に仕合開始の時間となると、全員の視線が画面に注がれる。

 

 

 

「いきなりか…。」

 

「えへへ、アンジェお姉ちゃんだー!」

 

ついに始まった第5回モンド・グロッソの開幕仕合はヒルダ対アンジェの組み合わせである。開幕から最年少記録保持者の登場に会場は盛り上がる。

 

開幕のブザーと同時に二人は一緒に動きだす。どちらも機動力に重きを置いた機体であり、その速度に観客達は目で追うのがやっとのようである。

 

「あはは~、すごいすごーい!!」

 

「ほう…、これは…。」

 

この大舞台であってもヒルダは緊張の欠片も見せずに飛び回る。そんな彼女の様子をじっくりと観察していたアンジェがぽそりと小さく呟いた。そしてアンジェはもう一本の刀を左手に取り出すと、ゆったりとした自然体の構えを取る。

ドヒャドヒャという独特な音を響かせながらヒルダは飛ぶ。

満面の笑顔を浮かべながら高速で飛び続ける少女の姿に観客達の頬が自然と緩む。

 

「…そこだッ!!」

 

止まっていたアンジェが急加速して動き出す。

ゼロから一瞬で最高速度まで加速したアンジェのオルレアンはヒルダの操る「ラインの乙女(Frau der Rhein)」を捉えきった。

 

「ふぇ…?!」

 

「分かる動きだ…、読めるぞ。」

 

すれ違い様に繰り出された斬撃、それと同時に鳴るブザーに観客達は呆然とアリーナを見下ろしてしまう。

そこにはシールドエネルギーが底を尽き、地面に落ちたラインの乙女に乗るヒルダの姿と、悠然と刀を構えるアンジェの姿がある。

 

「え…、どうしたの、Frau…、ヒルダ、まだ、ぜんぜん…飛べる、よ…。」

 

突然動かなくなったラインの乙女にヒルダは呆然としたまま話し掛ける。しかしラインの乙女はぴくりとも動かない。そのことにようやく自分が負けた事を認識し始めたヒルダはぽろぽろと泣き始めた。

 

「やだよ…、ね、動いてFrau…。ヒルダ、まだ、飛びたいよ…、Frauがいなきゃ、ヒルダ飛べないのに…。」

 

「ヒルダ…!」

 

控え室からアリーナに駆けつけたミュカレはぼろ泣きするヒルダを抱き寄せて背中を撫でる。

 

「ミュカレ、みゅかれぇ…。」

 

「うん、うん…。」

 

泣きじゃくるヒルダはラインの乙女を待機状態に戻し、ミュカレに抱きついてワンワンと泣いた。

そんなヒルダを一瞥したアンジェは静かにその場を後にする。

 

 

 

「…今の見えたか…?」

 

「恐ろしく速い二連撃、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。」

 

「ま、簪じゃないけど、確かにアレは普通の人には見切れないでしょ。たぶん客席の人らには一振りにしか見えなかったんじゃない?」

 

テレビの前のメンバーはアンジェの神業に息を吞んだ。

見切れる云々の話ではなく、目の前でそれが迫ってきたときに反応出来るかを想像した彼女達は背筋が寒くなる感覚を味わった。

 

「アレが国家代表の本気か…。」

 

「あの怪物すら優勝できないっていうのが、もう、ね…。」

 

「それはアンジェさんが前回決勝で戦ったハスラーさんが強すぎただけのような…。」

 

戦々恐々としながら八人は画面に流れている先ほどのリプレイを眺めている。

それを見てアンジェの強さを再確認するともに、三年前にこれほどまでに強い彼女を下したハスラー・ワンという存在を思い出し、恐怖した。

 

 

 

「やはり…、国家代表は凄いな。女であることが惜しく思える。」

 

「…そうですね。」

 

控え室で映像を見ていたソフィアは隣に座るセサルに話し掛ける。投げかけられた言葉にセサルは小さく同意した。

 

「これほどの強さ…。もし男ならば(オレ)の英雄殿に…と思って仕方ない。が、やはり性別の壁は大きいな。」

 

「普段の言動的にそうは思えないのですが…?」

 

「いや、これでも己はノーマルだぞ? 女に親愛の情は抱けても愛や性欲の対象には出来ん。」

 

「は、はぁ…。」

 

普段から男女問わずに“愛し合おうじゃないか”などと言っているソフィアがけろりとした顔でそう言うと、セサルは驚いたような顔で返すしか出来なかった。

ソフィアはセサルがそんな反応をしても微塵も自分のペースを崩さず、話を続ける。

 

「やはり…、今まで会ってきた中ではお前の兄が一番だな。あの人にこそ己の英雄殿のなってほしい。“黒い鳥”と呼ばれるあの伝説の傭兵に…。」

 

「兄さん、ですか…。確かに優れた人ですが…、戦うしか能がない、とは本人の談ですよ。今でもカーチスという人に雇われてドンパチやってるらしいですし…。」

 

心ここにあらずのような状態のソフィアにセサルはハァと溜め息を吐いた。

国家代表とは言え恋に夢見る乙女でもある。そんな彼女がこうして時々自分の世界に浸ることにセサルはもう慣れきっていた。これでもソフィアのスパーリング相手を努めてきたセサルである、これくらいのことがスルー出来なくてはやっていけない事など、もうだいぶ前に承知している。

 

「嗚呼、英雄殿…。今すぐ己の逆鱗に殺意を突き立ててくれ…。」

 

「…さて次の仕合は…。」

 

自分の世界に突入したソフィアを置いてセサルはテレビに目を移した。

 

 

 

 

「……貴様か…。」

 

「あは、あはは…。」

 

第二仕合の組み合わせはスイス代表のイザベル・ローエングラムと中国代表の李青蘭の仕合だ。イザベルは眉間に皺を寄せて目の前の青蘭を睨みつけている。一方で青蘭は萎縮した様子で縮こまっている。

 

「ふむ、少しは楽しませろよ?」

 

腕組みをしたままイザベルがそう言い放つと、彼女の背後にいくつもの円形の波紋が広がり、そこから槍や剣や斧といった凶器が顔を覗かせる。

しかし青蘭もイザベルが臨戦態勢に入ると、それまでおどおどしていた彼女の態度は鳴りを潜めて強気な顔つきになった。

 

「行くぞ。」

 

「蜂の巣にしてやるー!!」

 

青蘭の纏う陽蜂の周りに色とりどりの球体が浮かぶ。そしてそのタイミングでイザベルのギルガメッシュの特殊武装が火を噴いた。

様々な角度から大量の凶器が陽蜂に襲いかかる。

 

「うひゃぁあ!?」

 

「ふん、雑種が。」

 

イザベルはその場から動くこともせずに腕を組んだまま逃げ回る陽蜂の様子を見ている。

 

「うぅ~、やられっぱなしじゃないもん!」

 

「下らんな。」

 

逃げ回りながらも陽蜂は抵抗するように周囲に飛ぶ光弾をイザベルに向けて撃ち込んだ。がしかしそれでもイザベルは動こうともしない。

光弾はイザベルへとぶつかり、大量の土煙を巻き上げる。

 

「や、やったの…。」

 

巻き上がる土煙に青蘭は足を止めてイザベルがいた方向を見る。すると土煙の中から大量の剣が飛んできた。突然の不意打ちに足を止めていた青蘭はすべて回避することが出来ず、いくつかが装甲を掠める。

そして土煙が晴れて視界がクリアになると、そこには更に険しい表情のイザベルが佇んでいた。

 

「その程度か…?」

 

「まだまだだもん!!」

 

青蘭は挑発してくるイザベルにムキになったような顔になり頬を膨らませて突撃する。その間も陽蜂の周りを漂う光弾は数を増していく。

 

「だだだだだだだだだだだだー!!」

 

青蘭は手を前に突き出して大量の光弾をイザベルに放つ。イザベルは波紋と繋がっている拡張領域(パス・スロット)から大きな仰々しい装飾の盾を取り出して正面からそれを受け止める。

光弾は盾に当たると大きな音を立てて消滅し、一際眩しい光を放つ。

 

そして陽蜂の攻勢が終わると、ぼろぼろになった盾を投げ捨ててイザベルがまた腕を組む。そして背後に出現した波紋からまた大量の武具を放った。

 

「痛い! 痛い痛い痛い痛い!!」

 

容赦なく武装を射出するイザベルに青蘭は悲鳴にも似た声を上げる。

そして暫くしてから武装の射出を止めると、ボロボロになった青蘭を見て息を漏らした。

 

「駄馬が…、この程度か…。」

 

「ひ、ひぃ…。」

 

鋭い眼光で睨みつけてくるイザベルに青蘭は怯んだように情けない声を上げ竦みあがる。

そんな精神状態の青蘭を見てイザベルは興が冷めたように溜め息を吐いてゆっくりと歩み寄る。一歩、また一歩とイザベルが足を進めるたびに青蘭は下がっていく。

 

「埒が明かんな…。」

 

一向に立ち向かってこない青蘭に業を煮やしたイザベルは空間の中の波紋に手を入れ、一本の剣を取り出した。無造作に剣を握ったままゆっくりとイザベルは近づいて行く。そしてその距離があと僅かまで近寄ると、青蘭は小さく口角を吊り上げた。

 

「お花畑ー!!」

 

青蘭はぐるぐると回転しながらイザベルに突進する。そのときに彼女の周りを漂う光弾が一気に増え、それらが一気に全方位に飛んでいく。

 

「何ッ!?」

 

「アハハハハ!!」

 

高らかにを笑い声上げながら大量の光弾を垂れ流して青蘭は突撃する。

 

「慢心する方が悪…い…!?」

 

「甘いわ!」

 

しかしイザベルは一瞬で切り返して踏み込むと手に持った剣で一刀のもとに青蘭もとい陽蜂を斬り捨てた。

 

「ふん。その程度でこの我をどうにか出来ると思ったか!!」

 

「きゅぅ~。」

 

その一撃ですでにギリギリ状態だった陽蜂のシールドエネルギーはゼロになり、決着を告げるブザーが鳴った。

 

 

 

「やっぱ強いか…。」

 

「はい…。青蘭さんも決して弱くないはずなのに…。」

 

控え室のモニターで仕合を見ていたスミカは険しい表情になる。彼女の言葉に反応して隣に立っていたヴィートも同じように険しい顔つきになった。

 

「銃撃戦で距離を取ればあの武装で、近寄っても近接武器でゴリ押す…。戦いづらいことこの上ないね。」

 

「えぇ…。近寄っても距離を開けても厳しい戦いを強いられそうですね。」

 

苦虫を噛みつぶしたような顔つきでスミカは紙コップを握りつぶすと、そのまま席を立って控え室から出て行った。

 

 

 

 





不意討ちすら効かない金ぴか…。
もうダメかも分からんね。


では次回でお会いしましょうノシ


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