ここから暫く主人公達の霊圧が薄くなります。
では本編をどうぞ↓
12月、日本ではもう冬の時期、好きな人もいれば嫌いな人もいるだろう。しかし、今年の冬は殆どの人々が待ち遠しく思っていた。
なぜなら今年の冬は第5回モンド・グロッソが開催されるのだから。
開催地であるイタリアには続々と各国の国家代表が会場入りし、それに伴ってテレビ局や記者など様々なメディアが入国していた。
「アハハハハハハッ!!」
自身に与えられた部屋でイタリア代表のアナスタージアは高笑いをしていた。というのも、今回の第5回モンド・グロッソでは彼女の宿敵であるスペイン代表のソフィアと再び相まみえることができるからだ。前回の大会で惜しくも敗れたアナスタージアからすれば、今回は雪辱のための大会と言えよう。
「いよいよね…。待ってなさいソフィア…。アハ、アハハハハハハハ!!」
参加者リストを眺めながらアナスタージアは再度笑う。
今年のモンド・グロッソでは出場する各国家代表達は皆同じ宿泊施設に泊まることとなっている。
これは警備の面でも都合がいいというのが主な理由である。
そのためイタリア最高級のホテルには各国家代表達が勢揃いしていた。
「久しぶりだな、真改。」
「……久しぶり、アンジェさん。」
ホテルのロビーではフランス代表のアンジェ・オルレアンと日本代表の井上真改がばったりと出くわしていた。
アンジェに呼び止められた真改は静かに口を開くと、小さく会釈してその場を後にする。そんな彼女の態度にアンジェは首を傾げつつ、まだロビーにいる他国の国家代表の元へと歩み寄る。
「やぁイザベル、ベルンカステルも。元気そうで何よりだ。」
「ふん、相変わらず頭の高い奴だ。この
「一年ぶりね、アンジェ…。変わらないわね、貴女も。」
ロビーのソファで寛いでいるスイス代表のイザベル・ローエングラムと予備人員のベルンカステルに話しかけたアンジェは割と友好的な態度で迎えられた。
「ハハ、そう言う二人も全然変わらないな。」
「ふん、人間がそう簡単に変わるかよ。」
華美なティーセットで優雅に昼下がりのティータイムを堪能しているイザベルはそう対面のソファに腰掛けたアンジェに言い放つ。
そんなイザベルの言葉にアンジェは静かに“そうかもな”とだけ呟いた。
そんな場に、3人の人影が近寄る。
「よう! 久しぶりだな。」
「ご機嫌よう、ローエングラム様、ベルンカステル様、オルレアン様…。」
「ほう、いい茶葉を使っているな。」
スペイン代表のソフィアと候補生のセサル、更にはイギリス代表のインテグラ・ヘルシングの3人である。
イザベルはソフィアを見るなり、やや眉をしかめて睨みつける。しかしソフィアの方はそんな事は何処吹く風かと受け流した、と言うよりも気にしていない。
インテグラはと言うと、マイペースにイザベルの隣のソファに座り、紅茶の匂いを堪能している。
「ホントに貴様らはマイペースだな。既に我の隣に座る者もいるしな。」
ややご機嫌斜めなイザベルがそう言うと、その場にいた全員がある一点に視線を投げかけ、驚いたような反応を浮かべる。
「ほう…楯無か。また腕を上げたようだな。」
「えぇ…。それは皆さんも同じようですが…。」
この場にいた全員に気付かれることなく楯無はイザベルの横のソファに座っており、その事に関心したようにアンジェとソフィア、インテグラの3人は微笑んだ。
一方で予備人員のベルンカステルとセサルはいつの間にか現れた楯無に目を点にしている。
「ふん、我の許可なく隣に腰を降ろすか…。貴様も偉くなったものだ。」
「ふふふ、今のように国家代表の皆さんが集まることもそう多いことではないので、つい…。」
にこやかに笑っている楯無にイザベルはつい小さく笑ってしまう。何事もなく会話している彼女らにまた歩み寄る者達がいた。
「皆揃って楽しそうですね。」
「あ、あはは、アンジェさん、お久しぶりです…。」
「イザベルの機嫌がいい…明日は雨ね。」
「テレビで見た人たちだ!!」
フィンランドのスミカ・ユーティライネン、中国の李青蘭、ドイツのミュカレと代表のヒルデガルト・ワーグナーの四人だ。
まだ猫を被っているスミカはどこか怯えた様子の青蘭の手首を掴んで引っ張っている。一方でヒルダは目をキラキラさせて皆のいるソファの方へと突撃した。
「ようミュカレ、まさかこんな子どもに代表の座を奪われたのか?」
「まぁな…。」
ソフィアが軽く煽るような顔で尋ねるとミュカレは小さく笑って肯定した。そんな態度に疑問を抱いたソフィアは片眉をつり上げる。
保護者がそんな会話をしている時、ヒルダは楯無やアンジェ、イザベルへと次々に突撃を繰り返して甘えた。さすがのイザベルも無垢な子供相手にいつもの態度は出来ず、されるがままに膝を椅子代わりにされていた。
「えへへ、お姉ちゃんのお膝温かい!」
「…そうか…。」
「くく…、あのイザベル・ローエングラムも子ども相手では分が悪いと見える、くく…。」
「黙れ雑種が…!」
幼い少女を膝にのせた微笑ましい光景にアンジェは笑いを噛み殺しながらイザベルをからかう。それが気に食わないのかイザベルは不機嫌さを隠しもせずアンジェを睨みつけた。
しかし膝にヒルダを乗せたまま凄まれても一切怖くなく、アンジェは必死に笑いをこらえている。
「はぁ、貴方の負けね…、イザベル。」
「くそっ!?」
ハァと溜め息を吐いてベルンカステルがそう言い放つとイザベルは悔しそうに舌打ちをした。
その様子にアンジェは必死に奥歯を噛みしめている。その行為がますますイザベルの神経を逆なでしているのだが、しかしアンジェは遠慮する様子はない。
これが彼女達なりの友情表現であり、一種の交流である。
「ふふん、阿呆が。」
「う、アンジェさん怖い…。」
「ミュカレ~! みんないい人!!」
「いやぁ、いい感じでカオスだわ…。」
マイウェイをマイペースでモデルウォークするようなこの国家代表達はどんな時も自分を崩さない。
それが彼女達であり、人外の代名詞たる所以でもある。
そんな事が繰り広げられている一方でその場にいない他の主な代表達はと言うと…。
(勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる勝てる…。私は企業連代表、そう、私は強いんだ…。)
国際企業連盟選抜の代表である巻紙・オータム・礼子は自室に籠り、ぶつぶつと自己暗示に励んでいた。
弱小企業である
「……織斑、千冬…。戦いたかった…。」
同じように自室に籠っているアメリカ代表のハスラー・ワンは椅子に座りながら虚空を見つめ、物思いに耽っている。
彼女が頑なに“ブリュンヒルデ”の名で呼ばれる事を嫌がるのは、初代ブリュンヒルデの織斑千冬に対する憧れと、それゆえの対抗心があるからだ。
第4回モンド・グロッソを制覇した彼女であるが、『あの時の自分はまだ織斑千冬を越えられていない、もし第4回に織斑千冬が出ていたら自分は優勝出来ていない』と言う思いからブリュンヒルデと呼ばれる事を嫌っていた。
第4回から3年経った今、今度こそ織斑千冬を越えるという強い思いが彼女を第5回代表として駆り立てたのだ。
「師匠…、私は勝ちます。」
アンジェと挨拶を交わした後、真改は自室に籠って座禅を組んでいた。
彼女にとってこれは大きな仕合の前に必ず行う儀式のようなものだ。座禅を組んで精神統一を行い、常にベストな状態を保っている。
第5回モンド・グロッソ開催まであと3日……。
国家代表達が一斉に集まるホテルを襲う輩がいるのか甚だ疑問に思ってしまったけど、まぁ、いるんだろうなぁって。
では次回でお会いしましょうノシ