IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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前回の予告通り、キャノンボールファストのお話です。

では本編をどうぞ↓


第119話 ドキドキッ!? キャノンボールファスト!!

 

 

 

 

「キャノン・ボール・ファスト…か…。」

 

昼休みの食堂で一夏は呟いた。その言葉に他の専用機持ちは頷いた。

 

「レースとは言え、大舞台、大勢の観客を前に飛べるんですよ。私は楽しみですわ。」

 

「そうだな。私も楽しみだ。」

 

同じテーブルに着いていたセシリアとラウラはこれからのレースに心を弾ませているようだ。しかしその一方でシャルと簪は乗り気ではなさそうである。

 

「ボクは、やっぱり緊張するなぁ…。」

 

「そもそも玉鋼はレース向きじゃないんだ。」

 

簪はフゥと溜め息を吐いてから南美と鈴音、箒の方に目をやった。

 

「三人は良いよな。バランスのいい性能しているし、パッケージで補いやすいし…。」

 

「言っても、そこまで良いもんじゃないわよ? それだけ器用貧乏になりやすいし。」

 

「そもそも、私のはかなりピーキーな所があるから…。」

 

「かと言って私の紅椿は速さ以外に取り柄がない。それに単純な直線での速さは一夏の白式の方が上だ。」

 

「いや、白式の燃費の悪さは知ってるだろ? あの速度を維持してレースはもたねぇよ。」

 

専用機組は口々にお互いの良さなどを言い合う。しかしそれは単に隣の芝が青く見えているだけだと判断し、その話題からは遠ざかった。

 

 

 

 

「さて、一年間で最大のイベントとも言えるキャノン・ボール・ファストが来週に迫っている。諸君、準備を怠るなよ?」

 

朝のホームルームで千冬がクラス全体に告げると、教室はやや浮ついた空気になる。

IS学園で最も大きな行事とも言えるこのキャノン・ボール・ファストは市の競技場を借りて行うISのレースであり、その時の観客動員数は万を軽く超える。

その観客の中には企業の重役などもいるため、知っている生徒たちの多くはこの行事を大きな目標としている者もいるらしい。

 

「うわ~、緊張してきた…。」

 

「ここまで来たら当たって砕けろでしょ。」

 

誰も彼も皆浮ついており、授業中もふわふわとしている。

これは一年生だけで無く、二年も三年も同じのようだ。こうして、IS学園全体が浮ついた空気に包まれて時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 

そして訪れたキャノン・ボール・ファスト当日、会場には大勢の観客達が所狭しと詰め寄せていた。今年は、男性操縦者の一夏が居ることもあってか、例年よりも更に多くの人が来ている。

 

 

「……、ふぅ…。」

 

「なに、緊張してんの?」

 

「あ、いや、大丈夫だ、そういうのじゃない。」

 

選手控え室でベンチに座り込んで神妙な顔をしている一夏に鈴が話し掛ける。

この控え室には他の専用機持ち達もおり、二人の方向に視線を向けた。

 

「ちょっと、楽しみでさ。今までの直接的な戦闘じゃない、別のやり方でみんなと勝負できるのがさ。」

 

純粋に楽しもうとしている彼の本音にその場の全員が盛大に笑う。

 

「上等じゃないの。ま、一位は私のものだけど。」

 

「あら、私ですわ。」

 

「速度なら私も負けてないぞ。」

 

負けず嫌いの専用機組達はみな、好戦的な笑みを浮かべている。

全員が全員、負けることなど微塵も考えていないのである。そうしているなか、徐々にレースは進み、ついに一年専用機組達のレースの時間になった。

 

 

最注目とも言える一学年専用機組のレースに大勢の観客が詰め寄せていた。中には彼らと顔なじみの人々もいる。

 

「「ノーサァアアアアアッ!!」」

 

「「ファリィイイッ!!」」

 

中野TRF-Fの面々が観客席の一角で大声で声援を送っているのだ。

彼らの声が届いたのかは分からないが、呼ばれた二人は彼らの方を向いてガッツポーズを取る。

それを見た彼らはより一層大きな声で声援を送った。

 

「ホントに人気者だな。」

 

「まぁね。」

 

「人気でトップ、順位でもトップを取るよ、私は。」

 

鈴音と南美は勝ち誇ったようにサムズアップする。そして時間になり、各員が事前に説明されていた位置へと着いた。

八人がそれぞれ一直線に並ぶ様は圧巻の一言であり、特に全員が高速レース用に装備を揃えているいる姿は勇壮の一言である。

 

「…簪ちゃん…、ちょっといい?」

 

「なんだ?」

 

「…あのさ、…そのデンドロビウム、なに?」

 

南美は隣にいる簪に尋ねる。そんな簪の装備は大型の弾倉を両肩に備え、巨大で長大な砲身の大型ライフルを二つ備えている。

その様子はさながら宙に浮く機動要塞という風である。

 

「高速機動戦闘用パッケージ、“踏鞴(たたら)”だ。この前ようやく完成してな、これが初お披露目さ。」

 

「そうなんだ…。なかなかイカす見た目だね。」

 

「だろう? やはり浪漫は大事だ。」

 

そんな話をしていると、スタートのアーチから開始10秒前のブザーが鳴った。

その音に八人全員が気を引き締め、前を見る。

 

そしてアーチの上部に取り付けられた照明の一番上に明かりがともる。上から徐々に赤、赤、赤と灯っていき、最後に一番下の青いランプが灯り、一斉にスタートした。

先行して仕掛けたのはセシリアだった。

セシリアのブルー・ティアーズはいつもと違い、主武装のビットを腰周りに装着し、高出力のブースターとしている。その姿はさながら青いドレスのようだ。

両手にはいつもの大型拳銃を握っており、徹底抗戦の意志も見て取れる。

 

その後ろには“鳳凰”を装備した南美とパッケージを装備した鈴音、そしてスラスターで機動力を増強した箒がいる。そして彼女らに続く形で一夏、シャル、ラウラが一塊になっており、最後尾には簪がいる。

その簪であるが、右手に構えたライフルのスコープを覗いていた。

 

「目標をセンターに合わせて…、スイッチッ!!」

 

「うぉおっ!?」

 

簪は前を飛ぶ一夏に照準を合わせて引き金を引いた。そして銃口から放たれた銃弾はまっすぐに飛んでいく。一夏は反射的に体を反らしてその銃弾の直撃を避ける。しかし銃弾は白式の肩をかすめていった。

簪は舌打ちをし、スコープから目を離して腰だめにライフルを構える。

 

「落ちろ、蚊とんぼ!!」

 

「マジかよ!!」

 

「まぁ、そうなるな。」

 

「だよねっ!」

 

簪は2丁のライフルで狙いを定めずに弾をばら蒔く。

その弾幕に簪の前を飛んでいた一夏、ラウラ、シャルの3人はそれぞれ散開する。

 

「フハハハハハハッ!! 避けたら当たらないだろぉ!?」

 

「無茶苦茶だな。」

 

ハイテンションに弾丸をばら蒔いていく簪に一夏は蛇行しながら悪態をつく。

こうしている間にも、先頭集団とは徐々に差が開いていっているからだ。

 

「兎に角、簪をどうにかしなきゃね…。」

 

「……私は先に行くぞ。」

 

「ちょ、ラウラっ、うわっ!?」

 

ラウラは速度をぐんぐん上げてトップ集団へと迫る。そして最高速度に乗った状態でカーブへと差し掛かった。セシリア、南美、鈴音、箒はカーブに入ると曲がりきるために速度を落としたがラウラは速度を維持したままカーブに突入する。

 

「ラウラちゃん?」

 

「ラウラ…!!」

 

「ふんっ!!」

 

そしてワイヤーブレードをカーブ地点に打ち込むと、そこを軸にして速度を保ったまま曲がりきり、最高速度で直線を突っ切っていく。

 

「嘘っ!?」

 

「そんな使い方してくるのか…。こりゃ1本取られたね~。」

 

ラウラから1歩遅れて曲がりきって直線に入った四人は離されないようにラウラに着いていく。

セシリアが速度を上げてラウラの横に並び、その数メートル後ろに南美、鈴音、箒が並ぶ。そしてまた同じようにカーブに差し掛かるとラウラは同じようにワイヤーブレードを打ち込んだ。

が、同じやられ方を2度するような彼女ではない。

 

「ふっ!」

 

「させませんわ。」

 

カーブを曲がろうとした瞬間、セシリアの放った銃弾がワイヤーブレードを引き切り、ラウラは遠心力の影響からコースの外ギリギリへと吹っ飛んだ。

 

「ラウラさん。私がマークしている限り、さっきのような旋回は出来ませんわよ。」

 

「ふ、そうでないと面白くない。」

 

ビットによる推進力を巧く使い、コース取りやコーナリングをしっかりこなすセシリアと、高い機体制御能力を有するラウラによるトップ争いと、その二人の間に割って入る隙を伺う2位集団によって先頭集団は混戦の様相を呈してきた。

 

その中にまた一人、乱入する。

 

「ズェァアッ!!」

 

「っ!?」

 

高速で飛んできた白式弐型が振り下ろした一撃を鈴音はひらりと身体を捻って回避した。

 

「ちぃ、何であんたまで入ってくるのよ!!」

 

「アレとのドベ争いなんかやってられるか!!」

 

「yeaaaaaah!! レッツパーリィィィィィィィィィ!!!」

 

一夏が忌々しげに背後を一瞥するとそれにつられた先頭集団の面子は後ろを振り向く。

そこには大型のガトリングとランチャーを担いだ簪が満面の笑みを浮かべて向かってきている姿があった。その横には盾を構えながら並走するシャルもいる。

 

「ンムハハハハハハッ!! 熱々のローストチキンにしてやるぜ!」

 

「おい、待てぇい!!」

 

「いいや! 限界だ。撃つね! 今だッ!」

 

簪の放ったランチャーの砲弾と多弾頭ミサイル、そしてガトリングの嵐のような弾幕は目の前にいた面子に襲いかかる。

 

「うぉおぃいっ!?」

 

「洒落にならんな。」

 

「マ~ジか~!」

 

圧倒的物量による制圧射撃によって先頭集団は阿鼻叫喚である。

セシリアと箒、南美、一夏は速度を上げることで逃げ切る選択肢を選び、鈴音とラウラは迎撃を選んだ。

 

「AIC! 展…開ッ!」

 

「あ、これ詰んだかも…。」

 

「ハハハハハッ! 絶好調である!」

 

速度を落として迎撃を選んだ鈴音であったが、そのあまりの物量に選択を間違えたかもしれないと、軽く後悔した。

そしてその後悔は正しく、ラウラのAICの領域外からも弾頭は迫り、迎撃し切れずに直撃をもらう。

そして簪の横にいたシャルにも巻き添えのように大量の弾頭が撃ち込まれた。

 

「まぁ、そうなるか…。」

 

「ミスったわね~。」

 

「なんでボクまで…。不幸だ…。」

 

ミサイル直撃による爆発をもろに受けた三人のシールドエネルギーは一気に減り、完走できないレベルまで減少すると、三人はリタイアを宣言し、回収班によってコースから回収された。

 

 

「おい、鈴とラウラ、シャルが落ちたぞ。」

 

「みたいですわね。」

 

「いやぁ、なんと言うか、あの物量はないわー。」

 

背後から響く爆発音を耳にした残りの集団は落ちた三人のことを思い浮かべながらトップ争いの駆け引きを行う。

 

「てか、シャル…。」

 

「横にいれば当たらないとか思ったのかしら…。」

 

「完璧巻き添え食ったわねぇ、アレ…。」

 

「…簪を落としておきたいな。」

 

四人の共通意識として後ろからバカスカと撃ち込んでくる簪をどうにかしたいというものがあった。

早めに彼女を行動不能にし、以降のレース展開を楽にしたいからだ。

 

「そうねぇ…。」

 

「やるしかないか…。」

 

「そうですわね。」

 

四人は一時休戦し、得物を構えて簪を迎え撃つ体勢になった。

 

 

 

 





次回に続く!

簪ちゃんはフリーダムな可愛い女の子だよ。

では次回でお会いしましょうノシ


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