IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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最近体調不良が続いていますが、このペースは保ちたいと思います。

では本編をどうぞ↓


第118話 IS学園の学園祭

 

 

楯無と南美の激闘を見守った一夏は鈴音と別れ、ぼんやりと敷地内をぶらついていた。

 

「ちょっと良いかしら?」

 

その時、ある一人の女性が一夏の腕を掴んで呼び止めた。

茶髪のキレイな美人で、顔に笑顔を張り付けたいかにもという営業職の女性だ。

呼び止められた一夏は振り向いてその女性を一目見ると、見覚えのないその彼女に首を捻った。

 

「あ、すいません。私こういう者です。」

 

そう言って女性が差し出したのは名刺だった。一夏はそれを受け取って、名刺に書かれている文字に目を通す。

 

「IS関連企業“亡国機業《ファントムタスク》”渉外担当、巻紙礼子…さん。」

 

「はい。ぜひ一夏さんに我が社のパーツを使って頂きたいと思いまして。」

 

「あ、いや…、そう言うのは学園側を通してもらわないと…。」

 

女性の申し出に一夏はやんわりと断った。

というのも、白式にはどんな装備も積めないからだ。

なぜかこの白式、追加の装備が積めず、技術主任の琥珀曰く、“白式のコアが他の武装を積むのを嫌がっている”らしい。

そのため一夏はこれまでも、そしてこれからも白式に積まれた大刀1本で勝負していかなくてはならないのだ。

 

しかしそんな事情を他の企業に漏らすなと琥珀から口止めされている一夏は素直にそんな事を目の前の女性に言う訳にもいかず、こうして誤魔化すしかないのである。

 

「そんな事を言わずに、弱小の我が社を救うと思って!!」

 

礼子はすがり付くように一夏にしがみつくと、涙目で見上げる。

 

「す、すいません、人を待たせているので…。」

 

礼子がカバンからパンフレットを取り出そうと手を離した時、一夏はそれらしい理由を述べて、逃げるようにその場から逃げていった。

 

 

 

「まったく…大層なモンを貰っちまったねぇ…。」

 

IS学園の敷地に降りたカセンこと星熊勇儀は手に持ったチケットを見て小さく溜め息を吐いた。

そのチケットは手に一夏から送られた学園祭の入場チケットだ。

一夏に渡され、捨てる気にもなれずについ来てしまったのである。

 

「ふぅ…。」

 

勇儀はチケットを見せて受付を通ると、賑やかなIS学園の中へと入っていった。

 

 

 

「あ、カセンさん!!」

 

「…一夏じゃないか。よく私を見つけられたねぇ…。」

 

礼子から逃げ出した先の人混みの中で、周りよりも幾分背の高い勇儀を見つけた一夏は人を避けながら駆け寄る。

そんな一夏の見た目はもちろん執事服のままであり、それを見た勇儀は小さく笑う。

 

「なんだい、その格好は…。」

 

「あ、いや…、クラスの出し物で、コスプレ喫茶をしてまして…。」

 

「そうなのかい? そりゃぁ、この後接客して貰わなきゃねぇ。」

 

「え…、それは…。」

 

クスクスと笑う勇儀を前にして一夏はどぎまぎとしている。そんな一夏を見て勇儀は一夏の肩にぽんと手を置いた。

 

「そんなに狼狽えるんじゃないよ。」

 

「は、はい…。」

 

「さ、私を見つけたついでさ、案内してくれよ…。」

 

勇儀がそう言うと一夏は顔を上げて案内を始めた。

 

 

 

 

「ラウラ、良いの?」

 

「何がだ、シャル。」

 

休憩の時間になってやっと激務から解放された二人は屋上で休息を取っている。

そんな時にシャルがラウラに尋ねた。しかしラウラはシャルの質問の意図を把握した上で聞き返した。

 

「いや、一夏がああして他の女の人と会うのは良いのかなって。」

 

「私は別に気にしていないさ。むしろ、一夏がああして本気で好きな人と一緒にいれるようならそれでいい。」

 

「…なんて言うか、凄いねラウラ。」

 

「そんなんじゃない。私はあいつの近くに居たくて、しがみついている、どうしようもない女さ。」

 

それだけいってラウラは飲みかけだった缶の飲み物を飲み干して立ち上がった。

そんな彼女の後ろ姿を見たシャルは急いで立ち上がって横に並ぶ。

 

「ラウラ!」

 

「なんだ?」

 

「頑張れ!」

 

そう言って笑い掛けるシャルを見てラウラは小さく笑った。

 

 

 

「ホントに広いねぇ…。」

 

「そうですよね、自分も驚きましたよ。」

 

IS学園のなかを二人で歩いていた一夏と勇儀であるが、そのあまりの広さに勇儀が目を点にしていた。

そんな時の事である。

 

「見つけましたよぉ!!」

 

「うぇ!?」

 

人混みの中から先ほど捲いたはずの礼子が出てきて、一夏の腕を掴んだ。

その顔にはひどく疲れの色が浮かんでいる。

 

「れ、礼子さん?!」

 

「やっと、やっと見つけましたぁ…。大変だったんですよぉ、この人混みで人を探すの…。」

 

礼子の綺麗な茶髪は人混みに居たことで乱れ、いつもはクールな容貌の顔も疲労で陰りが見えている。それだけで礼子がどれだけ苦労したのか分かる。

そんな礼子は一夏の腕にしがみつき、疲れた目で見上げている。

 

「あ~、一夏…、長くなりそうだから、あんたのクラスに行ってるよ。」

 

「え!? あ、はい!」

 

勇儀はハァと溜め息を吐いて、一夏と別れ一年一組の方へと向かっていった。

一緒にいた人が離れたことでなんとか勝機を見出した礼子は一夏の腕を掴んだまま空いている腕で鞄からパンフレットを取り出し、一夏を人気のない方へとひっぱていく。

 

 

「どうですか、素晴らしいでしょう?」

 

中庭の辺りまで連れてこられた一夏はベンチに座らされて、礼子にパンフレットの数々を見せられている。そのパンフレットは一夏のスタイルに合わせてか、ブレードや追加装甲などが主だった。

それらを見ていた一夏は装備に興味を示しつつも、装備出来ないもどかしさと、申し訳なさに胃が痛くなっている。

 

「どうですか? 興味出て来たでしょう?」

 

「え、えぇそうなんですけど…。でも、あの…。」

 

情熱的に説明してずずいと近寄る礼子に一夏は目を逸らす。どうにもこういう対応は苦手な一夏は困り果てていた。

そんな一夏に救いの手が差し伸べられる。

 

「おいおいぃ、ちょいと強引すぎないか、亡国機業さん。」

 

「っ!……如月重工の藤原さん…。」

 

突然現れた藤原を見て、一夏の隣に座っていた礼子は驚いたように立ち上がった。

 

「強引な交渉は御法度って、国際IS企業連盟のほうで取り決めしてるじゃない。そっちの気持ちも分かるけどさぁ、流石にこれ以上は見逃せないよ?」

 

「あ、あぁ…、その…。」

 

「いや、ことを大袈裟にするつもりもないよ。君も今年のモンド・グロッソに出るしね。だから、そこで活躍しなよって話さ。」

 

藤原はポリポリと頭を掻いて諭すように礼子に言う。それを聞いた礼子は申し訳なさそうに俯いてしまう。

そんな礼子を見た藤原はハァと溜め息を吐いてから頭を掻く。

 

「どうしたもんか。…そういう所、君の悪い所だよ?」

 

「え、や、その…。」

 

「企業連の方にもなにも言わないから、顔を上げてくれよ。」

 

「はい…。」

 

俯いていた礼子は藤原に言われて顔を上げる。疲れた顔に彼女であるが、先ほどまでと違いどこか自信があった。

 

「そうですよね、私は国際企業連の代表ヴァルキリー、巻紙・オータム・礼子…。もっと自信を持たなきゃ…。」

 

ぶつぶつと小声で呟いて行くうちにそれまで猫背だった礼子の背はピンとまっすぐに伸びていった。

そして完全に背筋の伸びた彼女の顔はそれまでのものとは違い、高潔さがある。

 

「お、完全復活だね。」

 

「はい、今年のモンド・グロッソは絶対勝ちます。」

 

完璧に立ち直った彼女は藤原に微笑むと隣にいる一夏の手を握る。

 

「私が優勝したら、我が社のパーツの導入を前向きに検討してちょうだい。今日は迷惑掛けてごめんなさいね。」

 

それだけ言い残して彼女は中庭から去っていった。

 

「いや~ごめんねぇ、一夏くん。彼女、少しばかりメンタルが不安定なところがあってさぁ。」

 

「い、いえ…。大丈夫です。」

 

藤原の言葉に一夏は首を振る。そして一夏は藤原に礼を述べてからその場を後にして一年一組へと向かうのだった。

 

 

 

「ただいま。」

 

「あ、お帰り織斑くん。」

 

一年一組の教室に戻ってきた一夏はクラスメイトに歓迎されながらまたローテーションに入る。

そのとき、教室に隅に客として座っている勇儀に気がついた。

 

「いらっしゃいませ。」

 

「はは、なかなか様になってるじゃないか。」

 

接客モードになった一夏は店内を回ってから勇儀の場所に行く。すると、堂に入った一夏の接客態度に勇儀は小さく笑う。

そんな彼女の反応に少し恥ずかしくなったのか一夏はすこしばかり顔を赤くしてメニュー表を差し出した。

 

「それではご注文はなんでしょうか?」

 

「そうだねぇ…、流石に酒はないもんねぇ。取り敢えず、う~ん、あんたのお薦めはあるかい?」

 

「そうですね…、こちらのセットメニューなどいかがでしょうか。」

 

「そうさねぇ、それにしようか。うん、そうしよう。」

 

「かしこまりました。」

 

一夏は注文をメモると頭を下げて厨房スペースに向かった。

そして厨房係に注文を伝えるとまたフロアに戻る。

 

「にしても…、似合うねぇ、優男。」

 

「そうですか?」

 

「あぁ、周りの女もほっとかないだろう?」

 

「そんなこと…。」

 

褒めてくる勇儀に一夏は照れたように頭を掻く。そんな一夏の反応を微笑みながら見ている勇儀は背後からのある視線に振り返った。

 

「お嬢ちゃん、確か…前に店に来てた…。」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒです。」

 

物陰に隠れていたラウラは姿を現すと勇儀に向かって頭を下げた。その行動に驚いた勇儀は目を点にする。

しかしラウラはその後、何も言わずに勇儀の前から姿を消した。

 

「なんだったんだい、今のは…。」

 

「さ、さぁ…。」

 

何が起こったのか分からない二人はそのまま首を傾げるしかなかった。

 

 

その後もIS学園祭は盛況であり、各所で楽しむ生徒達の声が聞こえたらしい。

 

 

 

 





こんなオータムさんも可愛い。

さて次の話はキャノンボールファストですね。
お楽しみに。

では次回でお会いしましょうノシ


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