ようやく二学期ですよ。
では本編をどうぞ↓
第117話 始まる2学期
「それでは今日から二学期だ。諸君らも変わりないようで何よりだ。」
夏休みも終わり二学期が始まったIS学園であるが、一年一組の面々は変わりなく揃っていた。
そのことを千冬は嬉しそうにこぼした。
もちろん真耶も教室にはおり、いつもの笑顔を浮かべている。
この日は始業式であり、学校自体は午前で終わり、昼からは自由時間となった。
「みんな久しぶりだな。」
「そうだね、LI〇Eとかで話してたからそんなに久しぶりって感じじゃないけど。」
「そうですわね。…それで一夏さん、馴れ初め話を聞かせていただきますわ。」
「うえ、その話って生きてたの?」
セシリアが切り出した話に一夏は思わずうろたえる。
そしてセシリアの話に他の面子も興味を持ったように視線を向けた。その視線に逃げることは不可能と覚った一夏は観念したように息を吐いた。そして鈴音と箒によって強制的にラウラの隣に座らされる。
それから十数分にわたり、一夏とラウラは尋問を受けたという…。
「はぁ…。恋に焦がれる乙女は強いわねぇ。」
尋問も終わり、IS学園の食堂に集った一年一組の面々は口を揃えてそう言う。
その言葉にラウラと一夏はお互い顔を赤くして居心地悪そうに肩を寄せ合っている。
そんな様子を見て周りは更にニヤニヤするのだが、二人はそれに気付いていない。
「まぁいいや、それじゃあ出し物決めちゃいましょうか。」
今日ここに一同が会した理由は近く迫ったIS学園の学園祭での出し物を決定する為である。
「他のクラスとは差をつけたいよね。」
「それはある。」
「なら取る手段は1つしかないよねー。」
ある一人がそう言うと、残りの全員が一斉に一夏の方を見る。
「そうだよねー。」
「うん、仕方ないよねー。」
「コラテラル、コラテラル。」
そう言いつつ、みんなはじりじりと一夏に詰め寄る。その視線に何か嫌な予感を抱いたが時すでに遅く、一夏は逃げる余裕もなく捕まってしまった。
「はい、確保ー!」
「ちょ、何する気だ?!」
「いやー、ちょいと体のサイズを測らせて貰うだけでさぁ。」
「おい、危ない目をしてるぞ!」
「うぇひひ…、だいじょぶだいじょぶ。」
色々と危ない手つきの面々に囲まれた一夏は恐怖を抱く。そしてその恐怖を振り払うように質問するがどれも要領を得ない解答しか返ってこない。
一夏を取り囲んだ面々は一夏の制服をはぎ取って行き、下着姿まで剥いた。
「お、おいぃ…、さすがにこの絵面はダメだろ…。」
パン一まで剥かれた一夏は腕でどうにか体を隠そうと努力しながら、周りの女子達に抗議する。
「まあまあ、落ち着けたまえ。」
「我々の出し物の集客の為に織斑くんにはコスプレをしてもらう。その為の採寸なのだ!」
「オレの意志は無視かよ。」
メジャーを手にした女子の言葉に一夏は大きく抗議する。しかし、そんな言葉に聞く耳を持つはずもなく一夏は他の女子達に取り押さえられ、体のサイズを測られていく。
「ラウラさん、止めないのですか?」
「止めたいのはやまやまだが…クラスの輪を乱す訳にもいくまい。」
「そうですか…。」
セシリアの質問に対してラウラは小さく溜め息を吐きながら返した。
「おけ、やっぱり大きいね。」
「もう…勘弁してくれ…。」
サイズを測られ尽くして疲れ切った一夏はぐったりとうなだれている。
「あ、もう着替えて大丈夫だよ。ありがとうね。」
紙に書き起こしたサイズの一覧を見てご満悦の女性陣から隠れるように一夏は制服を着る。そんな一夏にラウラは歩み寄り肩を叩いた。
「まぁ、なんだ、その、ドンマイ。」
「うん…。」
その後は女性陣による衣装案の会議が始まった。
一夏はそれに関与する気力もなく、部屋で休んだらしい。
そらから学園祭のためにIS学園全体が忙しない雰囲気に包まれ、時間が過ぎていく。
そしてそれから日は過ぎて、IS学園学園祭当日の日である。
この学園祭は機密保持など様々な理由により、各生徒に配られたチケットを所有している者しか来場することは出来ない。そのため、来場者のほとんどは生徒の親類縁者である。時折例外はあるが。
「はいはーい! 二年三組でーす!!」
「一年二組の喫茶店です!」
IS学園では様々な場所で大勢の生徒達の言葉が飛び交い、いつもとは違う賑やかさに包まれている。
そんな中でも、一年一組は大きな盛り上がりを見せていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。」
一年一組の開いている喫茶店では執事服を着た一夏が接客を行っていた。校内唯一の男子生徒であり、その容姿も良く、一学期から話題になっていたことが手伝い、一夏目当ての客で周辺はごった返している。
「うわぁ…、凄い人だね…。」
「これは想像以上だな。」
厨房担当のシャルとラウラは押し寄せるように来る来客達に面食らっていた。
それは接客を担当している生徒達も同様である。唯一一夏だけが動揺を表に出さずに接客をしていた。
「シャル、三番テーブルに紅茶とケーキセットのAを二つ。」
「了解、すぐに用意するね。」
一夏からの注文を聞いてシャルとラウラは急いで準備に取りかかる。この忙しさにこの時間帯を担当していたメンバーは疲労の色を隠せていないようである。
そしてこのローテーションの組が休憩に入り、一時ピークも脱した頃、ようやく一夏も休憩に入れた。
「ふぅ…。」
休憩に入れたと言っても、一夏の服装は宣伝のための執事服である。
その格好で敷地を歩いていると、否応にも視線を集めてしまう。
「また目立つ格好ねぇ…。」
「鈴…、お前も大概だぞ?」
執事服の一夏にチャイナドレスの鈴音が話し掛けてきた。
いつもとは違う髪型で、頭の両側にシニョンを着けている。その格好は男で執事服の一夏ほどではないがそれなりに目立っていると言えるだろう。
「仕方ないじゃない。それでも、あんたの所に客持って行かれてだいぶ暇だけど…。」
「それは…、うちのクラスメイトに言ってくれ。」
「分かってるわよ。それより聞いた? 楯無会長のクラスの話。」
「いや、知らないな。」
二人は周りの邪魔にならないように移動しながら話す。その中で出てきた楯無の名前に一夏が反応を示した。
「屋外で屋台風の飲食店らしいけど、なんでも楯無会長に勝つと代金が半額になるとか。」
「うわぁ…。」
などと他愛ない会話をしながら歩いている二人はちょうど話題に上がっていた楯無にクラスの屋台の所を通りかかった。
「…シャオッ!!」
すると、二人にとって非常に聞き慣れた声が耳に入った。
その声を聞いた二人はその声が聞こえてきた方に目を向けると、そこにはやはり南美がおり、楯無と対峙していた。
「だよなぁ…。」
「そうよねぇ…。」
それを見た二人は近くに置いてある“観戦用”と書かれたベンチに腰掛けた。
時は数分ほど遡り、南美が会計を済ませようとしている時のことである。
南美の頼んだものは焼そば1パックだけであり、比較的安い。にも関わらず南美は楯無への挑戦を行う。理由は単純、戦いたいからだ。
「貴女との勝負は春以来ね。」
「えぇ、あの時はチャイムのお陰で不完全燃焼でしたけど。」
「そうね、だから今日は…存分に実力を奮いなさい。」
楯無は手を胸の前で合わせて南美に告げる。すると、南美は好戦的な笑顔を浮かべていつもの構えをとった。
周りで見ていた一般客や、彼女らの実力の底を知らない人々はこれから何が起こるのか分からずにただ好奇心から二人を見ている。しかし、二人の実力を知る者達はこらから起こるであろうことに期待で胸を膨らませた。
「フゥゥウウ……シャオッ!!」
先手を打って動いたのは南美だった。
鋭い動きで突撃し、楯無に肉薄すると、コンパクトな動きで上段からチョップを振り下ろす。が、しかし南美の振り下ろしたチョップは空を切り、楯無は振り下ろした場所から1~2メートルほど離れた場所に立っていた。
(相変わらず…、よく分からない動きをする…。さっきのも捉えた間合いのはずなのに…。)
「さぁ、次はこっちの番ね。」
そう言うと楯無は一瞬で南美の目の前に現れる。そして素早く南美の右手首を掴み、捻って投げた。
南美も手首を捻られたと認識した瞬間、自分から跳んで投げられ、そしてすぐさま起き上がる。だが、その直後に楯無がすでに間合いを詰めており、追撃を加えていく。
「はぁあっ!!」
「ッ…!?」
楯無の放った両手による掌底は南美の体の芯をしっかりと捉え、その衝撃に南美は数歩だけ後ずさる。
しかし南美はすぐさま体勢を立て直して反撃を行う。
「ショオッ! シャオッ!!」
低い体勢から鋭く素早く繰り出された連続の蹴りは空気を切り裂いて音を立てて楯無に迫る。
しかし楯無は苦も無くそれをよけた。しかし南美は手を足を緩めずに攻勢を続ける。
「フゥゥ、シャオッ!シィヤオ!! シャオッ!!」
「フッ…、ハァ!」
楯無は3発目に繰り出されたハイキックを片手で受け止めると、空いているもう片方の腕で南美を突き飛ばす。
「激流を制するは静水…。」
楯無はゆっくりと構えに戻り、南美を見つめる。
それを見ながら南美は立ち上がった。
そんな二人の攻防に、知らずに見ていた観客は目を点にしている。
「…ほんと、これだけでも金が取れるレベルでしょ。」
「全くだ…。…だからあんな所におひねり箱なんてのが置いてあるのか…。」
観戦用のベンチに座って見ていた鈴音と一夏はこのクラスの商魂たくましさに小さく溜め息を吐いた。
「ショオ!!」
限界まで近づいてから繰り出した手刀の振り上げもまた空を切り、楯無は南美から離れた場所に居る。そしてまた接近するが、さすがに何度も同じ手が通用する南美ではなく今度は距離を詰めてきた楯無を掴んで投げた。
「…さすがに…、二度はない、のね。」
「当たり前です。」
「そうね、春の時からだいぶ強い…。少しだけ本気になろうかしら。」
「ふふ、楽しみです。」
二人はお互い距離を保ち、笑っている。
しばし場に静寂が訪れ、次に動いたのはやはり南美だった。
「シャオッッ!!」
ブンという大きな音を立てて迫る南美のハイキック、しかし楯無は一歩踏み込んでそれを片手で受け止めて、逆の手で南美の鳩尾を狙う。それを南美は読み切り、突き出された楯無の腕を掴んで後ろに倒れ込みながら足を絡ませて三角絞めに移行した。
「おお!?」
「これは…決まった…!?」
一夏と鈴音は驚いたように歓声を上げる。
他の観客達も概ね似た予想だ。
南美は足で楯無の首を絞め、腕を使って右腕の肘関節を極めている。
「南美の寝技はかなりのもんよ、今まで受けてきた私が保証するわ。」
「確かに、寝技に持ってって返されてる所あんま見なかったな。」
「そう、抜けだそうとしても、別の体勢で寝技に入るのよ。アレはホントに辛かったわ…。」
どこか遠い目をしている鈴音を見て一夏は南美達の方に視線を戻した。
そこでは相変わらず、三角絞めの体勢を取った二人が居る。
(これなら…、落とせる…。)
「……、…まだ……。」
ぎちぎちと絞めつけている南美の脚をどうにかして外そうと楯無は空いている手で南美の脚を掴む。
単純な力だけで外されるような絞め方はしていない為、楯無が掴んだくらいじゃ小揺るぎもしない。
「外させ…ません…。」
「ふふ…、甘いわね…。」
首をきつく絞められているにも関わらず、楯無は余裕そうな顔を浮かべている。
そして、楯無が南美の脚に触れると途端に南美の脚のロックが緩み、その瞬間に楯無は立ち上がって腕のロックも外して距離を取る。
南美も外された瞬間に立ち上がった。
「流石の寝技ね。でも、まだまだよ。」
(なにが…? あの一瞬だけ力が抜けたような…。てか、関節・寝技だとカウント取ってくれないのね…。ダウンさせてのカウントが蓄積10秒ってことか。)
色々と疑問に思う南美であるが、その中で今回の仕合のルールを把握する。
「あれ、この仕合ってテンカウント方式って書いてなかったか?」
「あぁ、それね。さっき細かいの見たら寝技とか間接技でダウンしてる時はカウント取らないっぽいわ。んで、ダウンのカウントは蓄積するみたい。カウントが合計10になると負けってことね。」
「マジか。」
ベンチで座って観戦している一夏と鈴音は細かいルールの書かれている紙に目を通すと、二人して軽くうなって視線を南美に戻した。
南美と楯無の両者はどちらもまだまだ余裕がある表情であり、これからの激闘を観客たちに予感させる。
観客達はこれから始まるであろう更なる激しい仕合に期待を膨らませ、視線を二人に集める。
その後南美と楯無の死闘は制限時間まで続き、観客投票の結果、楯無の判定勝ちとなったらしい。
JKに勝てば飲食代が半額だって?やるしかないじゃないか。
では次回でお会いしましょうノシ