IS世界に世紀末を持ち込む少女   作:地雷一等兵

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サブタイトルももう少し捻られれば良いんですがね…。

では本編をどうぞ↓


第113話 女王 対 南美

 

 

 

 

「最強のファイターに挑む最強のルーキーか…。面白いことになったな。」

 

「はい、お二人の戦いがこんなに早く見られるなんて思いませんでしたわ。」

 

社と雛子はいつもの部屋で眼下の路地裏にいる南美とグーヤンを眺める。

二人はいつもの格好であり、どちらも特別気負っているようには感じられない。

光の届きにくい薄暗い路地裏でグーヤンは小さく笑っている。

 

 

「マスク…、貴女怖くはないのかしら?」

 

「怖いとは、何がでしょうか?」

 

グーヤンの質問に南美はとぼけたように返した。それでもグーヤンは顔色一つ変わらない。

 

「貴女、私の仕合を何回か見ていたでしょう。知っているはずよ? 私と仕合った相手がどうなったか…。それでどうして笑っていられるの?」

 

「さぁ、楽しいからでしょうかね。私は今楽しみでしょうがないんですよ。こうして強い人と戦うことが、自分が強くなれることが!!」

 

「ホントにウォーモンガーね。」

 

どこまでも楽しそうにしている南美を見てグーヤンは呆れたように口元を袖で隠した。

それを見て南美がいつもの構えを取る。

 

「それじゃ始めましょうか。」

 

「えぇ…。」

 

グーヤンの合図と同時に南美はバックステップで距離を取る。南美は知っていた。グーヤンと戦った者の多くが開幕の一撃で倒されてしまった居るという事実を。

それが頭に入っていた南美は即座にグーヤンから離れたのだ。

 

「あら、判断が速いのね。それとも知ってたのかしら。」

 

「知ってただけですよ。」

 

妖しく笑うグーヤンに南美は冷や汗を流す。

そのまま笑みを浮かべたままグーヤンはゆっくりと歩き始める。周囲の目をいやでも惹きつける天性の美貌に妖しい笑みを浮かべながら、ゆったりと歩きだすグーヤンはしかし獰猛な獣にも似た何かを感じさせる。

南美は本能的に一歩後ずさった。

 

「あら、逃げないでよ。悲しくなるじゃない。貴女まで今まで捻ってきた有象無象と一緒だなんて思わせないで?」

 

「一撃で終わらせるつもりでよく言いますね。」

 

ゆっくりと歩みを進めるグーヤンの言葉に南美は頬をひきつらせて返す。

グーヤンの一撃はその細腕から繰り出されたとは思えないほど重いことを南美は何回も見てきたのだ。それ故に南美はその一撃を最大限警戒する。

 

「フゥゥゥ…。」

 

しかし何時までも逃げている訳にもいかず、南美は神経を集中させてグーヤンを見る。その構えを見てグーヤンは足を止めた。

 

「シャオッ!」

 

いつもの独特な声とともに南美はグーヤンの目の前から姿を消した。

南美の移動先はグーヤンの真上である。南美は跳躍すると横の壁を蹴って更に高く跳ね上がり、グーヤンの上を取ったのだ。

 

「フゥゥ、シャオッ!!」

 

「甘いのよ!!」

 

南美の繰り出したオーバーヘッドキックをグーヤンは右腕を振り上げて打ち返す。

バチンという激しい音が響くと空中にいる南美の体が一回転する。そして、その状態で自由の効かない南美にグーヤンは追撃を仕掛けた。

 

「砕けなさい!!」

 

グーヤンも跳躍し南美に向かって雑に腕を振り下ろす。南美はとっさに腕を盾代わりにしてそれを防ぐが、グーヤンは強引に力技で地面に叩き付けた。

 

「かぁ!?」

 

叩き付けられた瞬間、ミシリという音が南美の体に小さく響く。

そしてダウンした南美に追撃するとうにグーヤンは足を大きく掲げ振り下ろす。

さすがにその一撃は受けられないと南美はすぐさま体を転がしてその場から離れてグーヤンから距離を離して立ち上がる。

 

「まだ動けるのね。一撃で壊すつもりだったのに…。」

 

「は、ははは…。」

 

立ち上がった南美はグーヤンと向かい合い構えを取る。完全に死角を取った上での奇襲をいとも容易く迎撃され、さらにはカウンターまで貰った南美は雲行きの怪しさをどことなく感じる。

そしてグーヤンの一撃を受けた部分は青あざになっていた。

 

(ホント…想像以上に1発が重い…。)

 

息を整えながらゆっくりとまた距離を詰めてくるグーヤンを南美は観察する。

隙だらけのようでいて全く一分の隙も見せないグーヤンに南美は仕掛ける。

先程のように壁を巧く使って跳躍し、グーヤンに的を絞らせない。

 

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

完全な死角、グーヤンが南美を追って体ごと反転させた時の隙を突いて南美はグーヤンの背後に回ることに成功した。

しかし、この時南美は気付いていなかった。グーヤンが右腕を大きく掲げていることに。

 

「ハァッ!!」

 

南美の一撃がグーヤンへと届く前に、グーヤンが振り向き様に振り下ろした裏拳は南美の体を芯で捉え、そのまま数メートルも吹き飛ばした。

体の芯に、骨に響くその一撃は南美を吹き飛ばし、壁に激突させる。

硬いものに人体が打ち付けられる音が狭い路地に響き、その様子を眺めていた雛子は激突する瞬間に顔を覆った。

 

 

「マスク…!」

 

「あ、あぁ、マスクさん…。」

 

窓から見ていた社と雛子は恐る恐る壁に激突した南美へと目を向ける。そこには壁に叩きつけられ、力なく座り込んで壁にもたれ掛かる南美がいた。

完全に防ぐことも出来ず、グーヤンの一撃をもらった南美は壁を背にして俯き、その顔色は分からないが、ピクリとも動いていない。

 

 

「…起きなさいな…。まだ生きてるんでしょ?」

 

壁にもたれかかったまま動かなくなった南美に対してグーヤンはその場から動かずに告げる。

すると、さっきまでぴくりとも動かなかった南美の指先が動く。そしてそこから腕、足と動いて行き、南美は立ち上がった。

 

「…ッハァ…ハァ…。」

 

「そうでないとね。」

 

深く、大きく呼吸をして顔を上げた南美の瞳を見てグーヤンは満足そうに微笑む。

 

 

(頭が、痛む…。意識も薄い。…体中が悲鳴を上げまくってる…。)

 

なんとか立ち上がったものの、南美は満身創痍であった。げに恐るべきはたった一撃でここまで南美を追い詰めるグーヤンの膂力だろう。

どう見ても鍛えている風には見えない細身の体でありながら、その実社さえ凌駕しかねない剛力を誇る彼女は、確かに裏ストリートファイトの女王の風格を備える立ち姿で南美を見下ろしている。

 

「ハァ…まだ、動ける…。」

 

「貴女ならそう言ってくれると思ってたわ。」

 

重たく感じる体にムチ打って南美はいつもの構えを取った。

視界は薄くぼやけ、目線は定まらず泳いでいるが、まだ目には力が宿っている。だからこそ、南美の顔を見たグーヤンは笑ったのである。今まで彼女の一撃を貰ってこんな顔をした人間は数えるほどしか居なかったのだ。

 

「やっぱり、貴女はいいわ。退屈しなくてすむもの。雛子と引き分け、社に勝った…。そんな貴女は見てて退屈しなかったわ。」

 

「……。」

 

「だから、全力で貴女を倒すわ…。」

 

グーヤンはそう言って笑うとまたゆっくりと足を進める。

一歩、また一歩と足を進めて近づいて行くグーヤンの姿は気高く、美しく、何より恐ろしく見えた。

南美は足に力を込め、しっかりと眼前のグーヤンに視線を合わせる。

 

「Come on! グーヤン…。」

 

「行くわよ。」

 

気丈に笑って見せる南美をグーヤンは射程に捉えた。

グーヤンは右腕を高々と掲げ、南美を見つめる。

 

「フゥゥゥ…。」

 

南美は息を整えるとグーヤンが動くよりも早く飛び上がり、また壁を使って跳躍する。

左右上下に動き、グーヤンの出方をうかがう。

 

(止めるな、動きを! このくらいの痛みがなんだっていうんだ!!)

 

痛みに顔を歪めながらも南美は動くことを止めない。止まったときこそが自身の最後であると、先程の一合で分かってしまったからだ。

 

 

「ショオォオッ!!」

 

そして暫くしてグーヤンが掲げていた右腕を下げた瞬間に南美は仕掛けた。

壁を蹴り、加速をつけて突撃する。

 

「甘いのよ!」

 

「シャオッ!!」

 

グーヤンは南美の突撃をサマーソルトのように体ごと持ち上げて蹴りを繰り出して迎撃する。

サマーソルトによって腕を蹴りあげられた南美は体勢を崩すことなく、反撃を試みる。蹴りあげられた腕を無理矢理加速させて振り下ろした。

その振り下ろした手刀は空中で身を翻していたグーヤンの肩を捉える。

 

「ぐぅっ!?」

 

「シャオッ!」

 

手刀が左肩に食い込み、苦痛に顔を歪めるグーヤンであったが、南美はそこで手を緩めず、爪先を使って突き刺すような蹴りを左肩の付け根に打ち込み蹴り飛ばす。

 

「くぅ…っ!」

 

「ショオォオッ!!」

 

蹴り飛ばされながらも受け身を取って着地したグーヤンに対して南美は更に追撃する。

しゃがみこんでグーヤンの足元を払い、下に意識を集中させると次は即座に立ち上がってハイキックをグーヤンの側頭部にお見舞いした。

 

「フゥゥゥゥ──シャオッ!!」

 

「調子に乗るんじゃないわよ!!」

 

南美がよろけて後退するグーヤンへと追撃のために踏み込んで突きを放った瞬間、グーヤンは人が変わったように声を荒らげ、右拳を振り上げる。

乱暴に振り上げられた拳は南美の胸部を捉え、南美の体を捉えたことを感じ取ったグーヤンは反射的に跳び、南美の体を空中に浮かせる。

 

「ハァアアッ!!」

 

「──ッ!!?」

 

宙を舞う南美に対して先に着地したグーヤンは飛び上がり右腕を大きく乱暴に振り下ろした。

宙で受け身を取ろうとしていた南美はそのグーヤンの行動を視界の端に捉えると、受け身を取ることは二の次にしてその振り下ろされる一撃を防ぐことに集中する。

腕を使ってハンマーのような強烈な一撃の衝撃を受け止めるものの、さすがにその勢いまでは殺しきれず、不完全な体勢で地面に叩き付けられる。

 

「ぐぅ!?」

 

「まだよ!!」

 

コンクリートに叩き付けられた南美に対してグーヤンは足を落とす。

しかし南美もそれだけは受けられないと身をよじってかわした。初めのリプレイのような光景であるが、ただ違うのは、空ぶったグーヤンの足がほんのわずかであるが、コンクリートにめり込んでいることである。

そんな体のどこにそこまでの力があるのだろうか。

 

「あら、ホントにしぶといわね。」

 

「く、くぅ…。」

 

グーヤンから距離を取って立ち上がる南美を見てグーヤンは小さく笑う。その一方でグーヤンの渾身の振り下ろしを腕で受け、その衝撃を地面に激突という形で受けた南美は満身創痍以外の何者でもない。

朦朧とする意識の中で南美は、しかし確かな意志でもってグーヤンを睨み付ける。

 

「まだ、です…。私はまだやれます…。」

 

「いいわね。その根性大好き!」

 

キラキラした目でグーヤンは南美を見つめる。そして最大の敬意を払うかのようにゆっくりと南美へと近づいて行く。

南美は痛みで息を乱しながら大きく呼吸して息を整えようとする。

 

(まだ…、まだ諦めない…。)

 

息を整えながら南美は必死に頭をフル回転させて挽回の策を考える。

 

「さて、これで終わりにしましょう。貴女との勝負…。」

 

無情にも策を思いつく暇もなく、グーヤンは南美の目の前にたどり着いた。

そして完全に決める意志表示をするようにその右腕を高々と掲げる。

その時だった。南美が動く。

右腕を掲げ、がら空きになったグーヤンの右の腹部にタックルして押し倒す。押し倒し、グーヤンの上に馬乗りになると薄れていく意識の中でしっかりと拳を握り、グーヤンの頭へと打ち落とした。

 

「ちょっ!?」

 

「────ッ!!」

 

マウントポジションを取った南美はそのままグーヤンの顔にパウンドを落としていく。

グーヤンは腕を使ってガードをするものの、落とされるパウンドの数発は防ぎきれず顔面にもらってしまう。

 

「あぁ、もう!!」

 

「───ッ!」

 

グーヤンが状況を打開するために右手で南美の頭を掴もうと伸ばす。

その瞬間、南美はパウンドを落とす手を止めてグーヤンの右腕を掴んで一瞬で極めて固めると同時に変則的な絞め技へと持っていった。

 

「は、離しなさい!!」

 

じたばたともがくグーヤンであったが、どう暴れようとも南美のロックが緩む気配はない。

右腕を封じられ、なぜか左腕にも力が入らないグーヤンはどうにかして南美の体勢を返そうとするが、腕を使えない状態ではそれも出来なかった。

 

(なんなの!? 寝技が上手すぎる!全然返せない! 左腕にも力が入らないし…、狙ったの!? ──っ息が…このままじゃ…、まずい…!)

 

「ッ!!」

 

頸動脈を絞められ、意識が遠のいていくグーヤンは左手で南美の体を軽く、数回だけ叩く。

すると、南美はグーヤンの首を絞める力を緩めた。

 

「かっ、ハァ……ハァ…。」

 

南美の絞め技から解放され、息苦しさが解消されたグーヤンは胸いっぱいに空気を吸い込んで深呼吸する。

一方の南美はそんなグーヤンから離れると、ばたりと仰向けに倒れてしまった。

 

「まったく…、大した娘ね、ホント…。」

 

グーヤンは倒れた南美に近寄り、口元に手を寄せると微かに呼吸を感じ、安心する。それと同時に、こうなるまで闘いを止めようとしなかったことに呆れと感心の念を抱いた。

 

「気絶したのはマスクだけど、先にタップしたのは私だものね…。」

 

グーヤンはそう言って立ち上がると気を失っている南美を背負って路地裏を後にした。

 

 

 

その後、搬送された病院で目を覚ました南美がヴァネッサによってグーヤン戦の結果を告げられ驚愕したという。

こうして南美は一月も経たずに夢弦裏ストリートファイトの女王に勝利を納めたのだ。

 

 

 

 





北星南美、グーヤンに勝利!?

では次回でお会いしましょうノシ


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